成長の確認
ここ最近の依頼には、大物が多数含まれるようになって来ていた。
これソロでは無理では? って依頼も中には含まれていたのだけれど、ドラゴンさえ単独で倒したレイシアならば、できるだろうってギルドの判断だったようだ。
事実、今のところほとんどの依頼を断ることもなく受けていて、一度も失敗したことが無いということで、ギルド側はレイシアを特別視しているように思える。
さていろいろと依頼をこなしているけれど、今日の僕らはのんびりとしていて、久しぶりにステータスの更新をすることにした。
《名前 バグ 種族 シャドウストーカー-シャドウエレメンタル 年齢 0-2 職業 魔導師-魔導王
LV 67-75 HP 3826-4691 MP 7901-9006
力 212-219 耐久力 545-583 敏捷 570-589
器用度 220-227 知力 798-914 精神 1521-1926
属性 火 水 土 風 闇 生命 無
スキル 捕食 腐敗 肉体変化 分裂 無詠唱 自動回復 状態耐性 生命吸収 憑依 影渡り 調査 眷属作製 合成魔法 魔生物創造 鍛冶 木工 裁縫 細工》
名前 レイシア 種族 ヒューマン 職業 召喚術師-魂術師
LV 31-46 HP 155-269 MP 301-581
力 20-31 耐久力 18-27 敏捷 36-52
器用度 50-63 知力 61-97 精神 64-86
属性 火 水 土 風 光 闇 生命
スキル 錬金術 簡略詠唱-無詠唱 指揮官 召喚武器 調理 上位変換(無生物) 進化 部隊召喚 拠点魔法陣 意思疎通(動物) 意思疎通(植物) 食材召喚 亜空間
一杯冒険をしてLVも結構上がった影響か、能力も増えているのだけれどスキルなんかがバンバン増えていた。
ゲームのようにスキルを覚えましたとか、出て来ないので見るまで知らなかったよ。
そして僕もレイシアもいつの間にか転職していた。
この世界は自動転職システムでしたか・・・・・・はあ。
とりあえず気持ちを落ち着かせて、いつの間にか進化していますが! 種族が変わっているのはもしかして、レイシアの進化ってスキルの影響ですか! またやられたのか!
あんなに警戒していたのに、いつの間にやられたのか。これでレイシアが進化のスキルを持っていなければ、自動でLVが上がれば進化するのだなって思えたのに。これはちょっと悩むぞ・・・・・・
まあそれでも、混ぜられての進化じゃないだけ、まだましなのかもしれないな。
そういう風にでも思っていないと、世の中の全てが怖過ぎる。
「私、いつの間にか職業が変わっているわ。魂術師って何かしら?」
「うーん、これはわからないな。交霊術師とか言うなら、まだ幽霊を召喚するとか会話するとかそういうのだと思うけれど」
「そのうちにわかるかな」
「そうだな、わからない事だらけだけれどいずれわかるかもな」
ほんとに世の中、謎が多過ぎる。
ネットで攻略サイトでも調べたい気分だよ。そう考えると、どっぷりとネットの攻略サイトなどに依存していたことがわかるな。攻略が見られないといろいろと不安になるよ。
「スキルも一杯増えているわね。進化とか」
そう言って僕がいるかもしれない影の方を見て来た!
慌てて別の影の中へと逃げ込んだよ。種族が変わったばかりで、さらに次とか忙し過ぎる。
僕はどちらかといえば、マイペースでのんびりするタイプなのだ。そんなにトップを独走とかしたくないよ。
「召喚、ウルフ」
なんとなく僕で試すのをためらったのか、今までよく呼んでいた狼を出しやがった。
「おいおいやめてやれよ・・・・・・実験に使うなんて可哀想だろう」
お座りしている二匹の狼は、とても純粋なきらきらした瞳をレイシアに向けている。お前はこの綺麗な瞳を見て、罪悪感とか湧かないのか?
「でも、もっと強くかっこよくなりたいって言っているよ」
・・・・・・動物の言葉がわかるようになったのだったな。
自分にはさっぱりわからないのだけれど、これほんとなのかな? ほんとなら本人が進化を望んでいるのなら、止める理由が無いのだけれど・・・・・・
「ほんとに、そいつらが望んでいるのだな? それならいいけれど・・・・・・」
「うん、早くやってみてって言っている」
ワフ。
狼が答えるように鳴いた。
どっちの意味で鳴いたのかわからないけれど、まあ様子を見ていよう。
「進化!」
狼が二匹同時に少し輝くと、一回り大きく銀の毛の狼になったようだった。
「これって、前に見たシルバーウルフって奴じゃないか?」
もっと極端に進化するものだと思っていたのだけれど、案外地味な変化だったな。ちょっとだけ安心できた。
「後、気になるのは亜空間ってなんだろう?」
「それは、多分別の世界というか、別の場所というか本来はいけないところだな」
「ふーん。亜空間!」
よくわからないって感じで、とりあえず使ってみたレイシアの前に、丸い闇の空間が現れた。
これって、四次元ポケットみたいな奴か?
それならばとりあえず工房部分にあった、ゴミの木片を取り出してその闇の球体に投げ込んだ。
「あ! これ前にバグがやっていた、ドラゴンを入れたり出したりしていたやつだ!」
「正確には少し違うのだけれどな。まあ機能としては同じやつっぽいな」
レイシアは僕の投げ込んだ木片をそこらへんに捨てると、バックパックに入っていた荷物を、どんどんその亜空間の中にしまっていった。なんか、レイシアもどんどん人間離れしていっているな~
魔法のある世界っていうのは、こんなものなのか?
後は部隊の召喚は、一杯出て来そうなのでここでは使うのをやめて、食材召喚は見たままだから検証は必要なし、残りは拠点魔法陣だな。
僕の方は、レイシアが寝たら自分で検証しておこう。
ちなみに、僕のステータスはまだレイシアに見せていない。見せたら魔王とか言われそうだな~
まあ何故なのかわからないのだけれど、今まで一度も見せて欲しいとは言われたことがない。
こんなところもよくわからないところだな。興味がない訳ではないと思うのだけれど・・・・・・
「拠点魔法陣!」
いろいろ考えていたら、レイシアがスキルを発動させていた。部屋一杯に展開された魔法陣から、温かな力が溢れて来る。なんかこう満たされるって感じがするな。
僕シャドウなので、成仏しかかっているのか? ちょっと心配になって手とか見てみたけれど大丈夫そうだった。
まだ出たままの狼達も、気持ちよさそうにしていた。
「なんかお腹も一杯になるって、この子達が言っているよ」
ってことはこの魔法陣の中にいれば、家のようにくつろげるとかそういうのかな?
野営用の魔法陣かもしれないな。
まあ便利なスキルも結構増えて、これからの冒険も楽しくできそうだ。
やや興奮気味なレイシアがようやく眠った頃、拠点の工房部分で自分のスキルの検証を始めることにした。
まずは合成魔法って、何を合成するのだ?
普通に考えるなら属性辺りか。
魔法についての知識はそんなに無いので、どうなれば合成されたって状態なのか理解できないな。これは後回しにしよう。
鍛冶とかはよくゲームで出てくる戦闘じゃない一般スキルって呼ばれているやつだな。単純に、生産の加工ができるってスキルだ。
この間、剣とかいろいろ捏ねたりして作ったので該当する生産のスキルが一杯追加されたのだと思う。そういえば、日本刀の鞘を作っていなかったな。
レイシアは日本刀を、そこら辺の剣の鞘に入れている。
サイズも合っていないので抜刀術とかは使えない。武芸者ではないので必要ないだろうけれど、先にこっちを作るかね。
部屋に戻って日本刀を拝借して来ると、採寸して生産。刃を滑らす部分を金属で作り、後は軽量化の為に木製にしてみた。これで他の武器とかを受けると壊れちゃうけれど、まあレイシアは接近戦をしないからいいよね?
欲を言えば、受け流しようの盾みたいな物にしたいところだけれど、まあこれは僕の趣味の生産だしな。
できた鞘に日本刀を納めて、見よう見まねで抜刀してみた。
うん、いい感じ! ただし人間でできるかは、やっぱりわからなかった。今度レイシアに教えてみよう。
じゃあ生産も終わったからこれは一旦レイシアに返却。
お待ちかね! 魔生物創造! 名前からすると、ゴーレムとかを作るって感じかな?
でも創造なので、イメージ次第では、もっといろいろと作れそうな予感がする。うんそうだな、まずは生産をサポートしてくれる、妖精をイメージした魔法生物を創ってみるか。
鉱石などの素材を集めて来る魔法生物。粉砕機を使って岩を砕いて集めに行くって感じがいいかもな。やっぱりイメージがゴーレムになるな。まあ最初の一体目なので、実験的にゴーレムでもいいかな~
「魔生物作製!」
スキルが発動する手ごたえがあり、工房内にあるゴミの木片や、捏ね回したインゴットなどが集まって、消費された・・・・・・
あー、創造するのにも素材がいるっていうのは常識だったな。
なので、ゴーレムのような石っぽい部分はほぼ無くなり、沢山あった木でできた人形っぽいものになってしまった。でも、なんかゲームとかでこんなの見たことがあるぞ。
「あ、そうだパペットとか言う名前だったか」
思わず出た言葉に反応して、粉砕機を持ったパペットが手を上げて反応する。
おお、反応を返すぞ。せっかく創ったのでちょっと試しに動いてもらうかな。
「早速鉱石を集めに行くことはできるか?」
パペットはコクンって頷くと、胸の部分を指差した。こいつ、何気に水晶まで使ってやがる。ってことは転送機能付き?
「じゃあ、仕事を見学させてくれ」
そう言うと、パペットは僕に触れて空間を渡った。
出た場所は、前にドラゴンを倒した場所。
おそらくだけど、僕が行ったことのあるところが、採掘箇所に登録されるとか、そういうゲーム的なやつかもしれない。
そうなると、いろいろと見て回らないといけないな。そんな事を考えている間に、パペットはおもむろに粉砕機を動かし豪快に岩を砕いていった。
おおー、結構振動がありそうだけれど、木の体っぽいのにちゃんと押さえ込んで、岩を砕いていけている。
ロボットのようにネジが緩んで手が外れないのかとか思わず心配になるけれど、まあ任せて大丈夫かな? ある程度掘削し終わると、採掘した岩の選別を始めた。
ただの岩や土だと思われる物と金属の山と、出て来た少量の宝石の原石。
どうするのかなって思っていると、それをおそらくは工房へと送り込んで行く。特に何かを指示した訳ではないのに、ちゃんと作業してくれていた。
これはいい! このパペットは気に入ったぞ!
じゃあついでに、伐採も見せてもらおうかな。
本当はそれぞれに分けて、何体か専門家とか作りたかったのだけれど、この子一体で素材を使いまくってしまったので、多分同じものは創れない。だから申し訳ないけれど、この子にいろいろな素材を集めてもらおう。
そんな訳で、チェーンソーを取り出しパペットに渡した。
「次は伐採もできるかどうか、試してくれるかな?」
特に文句もなく受け取った後、また僕を連れて今度は森へと飛んだ。やっぱり知っている森だな。
パペットは、僕のことは気にしないでがんがん伐採していた。
でもこれって、森とかなくならないか?
そう思っていたけれど、森の中に入って行って、苗木みたいなものを持って来て植えたりもしていた。
うん、環境にも優しいな!
それじゃあ、しばらくは素材集めを任せることにしよう。
拠点に帰ると資材がどんどんと送り付けられて来ていたので、工房の横に資材置き場を造ることにした。この勢いだと、加工場が素材で埋まってしまう・・・・・・
場所が完成してパペットに知らせると、次の資材はそちらに送られて来るようになった。中々に優秀だな!
うーんそうすると、鉱石をインゴットにするやつが欲しくなるな。
鉄だと手が溶けるし、木だと燃えるしどうするか・・・・・・
やっぱり僕と同じで、不定形モンスターみたいなのにして、同じように手で捏ねてもらうのがいいかな? イメージは魔人、とりあえずこんな感じで創造開始してみよう。
「魔生物作製!」
やはり工房内の素材などを消費して、モンスターが創造された。
魔人のイメージだったのだけれど、体は岩じゃないか? こっちこそストーンゴーレムって外見だった。
まあとりあえず創造したのだから、仕事風景を見せてもらって、駄目なら違う仕事を与えてみるかな・・・・・・
「じゃあ、鉱石をインゴットへと加工していってくれるか?」
頷いたゴーレムは胸のところをおもむろに開いて、そこに鉱石をどんどんと詰めていった。
ほー、体内に取り込んで溶かす感じだな。体内には見えない手があるのかなにやら捏ねられていて、インゴットの形に整えられていった。見た目は違ったものだったけれど仕事は問題ない、満足できる魔法生物が誕生したな。
資材置き場が一杯になるまで、とりあえず集めてもらうことにしよう。
「バグ、おはよう」
「おーすぅ」
僕は鞘に入った日本刀をレイシアに渡す。
「これ、作ったの?」
「ああ、この鞘で刃の部分を滑らせながら抜きざまに斬ると、居合い斬りって技ができるのだ。本来刀と鞘はセットなのだよ」
「へ~。その技っていうの、どういうのか見せてくれる?」
「ああ、近くの森にでも行って、試してみよう」
僕らはギルドには寄らないで、まず町外れへと向かった。
まあそこでは、パペットが伐採していたりしたのだけどね・・・・・・
「モンスター?」
そう言って警戒するレイシアにあれも創ったと説明して、とりあえずは居合い斬りを見せることにする。
抜いた瞬間また直ぐ鞘の中へと納めた日本刀は、近くにあった岩を横に両断していた。
「凄いね」
レイシアでは重くて動かせないけれど、僕なら問題なく押せるので、実際に斬れているのが証明できた。
職業が違うのでレイシアは接近戦闘をしないし、剣術を覚えたりすることもないのだけれど、まあ趣味というか遊びでどんな感じか技を伝授した。
とはいっても僕のは技というよりは、身体能力なので本当の武芸者みたいな切れのあるものではなかったけれどね。
ひとしきり居合いを試してお昼近くになる頃、レイシアもそろそろ飽きて来て自分には向いていないかなって結論を出すと、パペットに目を向けた。
やっぱり魔法使いなら、ああいう魔法生物とかに興味が行くよね。そんな事を考えていると・・・・・・
「召喚、パペット」
木を伐っていたパペットが、目の前に現れる・・・・・・
フフッ。
笑ったレイシアにやっと理解が追い付いた。
「僕のパペットが取られた!!」
そう僕が創った魔法生物を、レイシアに支配されてしまったのだ・・・・・・
しばらくの間、呆然としていた。
そしてまあ、素材は一杯集まっているから、一体持っていかれてもまた創ればいいかと思うことにした。
そう考えるとこのパペットは、レイシアの護衛として接近戦ができるアタッカーとして扱ってやればいいかと考える。
こいつ用の日本刀でも作って、こっちに居合いを教えたらどうかな?
戦力としては自分で判断して動けるので、中々にいい戦力になるかもしれないな。
そしておそらくレイシアの使う召喚は、世界のどこかに実在しているものを呼び出す魔法で合っていたと考えられる。
ダガーとかバリスタとか、呼び出したやつは、勝手に使っちゃっていたのだろうね・・・・・・
この世界に指紋とか中古とか無くてよかったかもしれないな。不都合が起きていないことを願っておこう・・・・・・
「あ、後もう一つ、相談があったな」
ふと、金属の種類についての知識は無いのだけれど、複数の素材が欲しかったのを思い出したので、今後の活動予定も含めて相談することにした。
「何?」
「どこかに珍しい鉱石とか、宝石が取れるところがあったら、行ってみたい」
「わかった、ギルドでちょっと聞いてみるわ」
「じゃあその間に、ちょっとこのパペット用の武器を作りに行って来るよ」
「うん、こっちも情報を集めて来るよ」
そうして拠点へと向かった。
工房でインゴットを作っていたゴーレムに刀作りのやり方を教え、その間に刀を磨いたり削ったりできる道具を作製していく。
道具ができた後は、パペットを三体ほど創造しておいた。
一体は鉱石、もう一体は伐採、残りは水晶を取りに行かせる。専門収取パペットだな。
後はゴーレムが鉄の加工を担当しているから、木工作品を作る魔法生物とかも欲しいな。
ゴーレムと共同して、いろいろな物が作れると思う。
一段落したら、今度は裁縫系に手を出していきたいものだ。
「魔生物作製!」
イメージは手先の器用なドワーフって感じ。まあ見た目は、わりとドワーフっぽいかもしれないな。全体的には丸々としたパペットだった。
この子には、日本刀の鞘の部分を作ってもらう。
後は適当に作った家具を、もっと専門技術を使ったちゃんとしたやつに作り変えてもらうのもいいな。
それぞれ仕事がなくなったらのんびりしているように指示を出して、出来上がった日本刀を持ってレイシアと合流することにした。
「聞いた話だと、ここからは結構離れているのですって」
合流した後で、宿屋に向かいながらそれぞれの成果を報告し合う。
「なら、ちょっと僕だけで行って来ようかな」
そんな事を言うと・・・・・・
「そっちの方には温泉っていうのがあってね、ちょっと私も興味があるよ~」
ほうほう、やっぱり女の子はお風呂好きですか。お互いの趣味を兼ねて、行ってみるっていうのもありだな。
「じゃあ行ってみるとして、この町には帰って来るのか?」
「うーん、どうしようか。別にこの町にいたいって理由もないんだけど。領主さんからの依頼の結果を受けたら、移動しちゃってもいいかもしれないわね」
「あー、それ忘れていたよ」
まだ追加報酬の話があったのだった。別にお金に困っていないから、どうでもいい気もするけどね。
「じゃあ、いろいろと切りが付いたら移動ってことだな」
「ええ、のんびりして次へ行きましょう」
そんな感じの予定を立てて、今日のところは休むことになった。
翌日僕らは町外れに行って、パペットに居合いを教えて訓練の後は町で露店巡りをして過ごした。




