呼び名
第八章 呼び名
ギルドで依頼をこなしながら生活していたら。レイシアに呼び名ができていた。孤高の乙女。
実際の話、レイシアはなんとも思っていないようで、孤高の乙女よ~って話しかけられても、自分のことじゃないと判断して通り過ぎて行った。
まあ、それで余計に孤高だ! とか騒がれていたけれど。
まあそんなこんなで、ミュンセルンに来てから、そろそろ一ヶ月程経つ。
その間にミシンが完成して、クッション、ソファー、山賊から奪ったベッドは捨てて自作ベッドが完成した。
まだ拠点にレイシアを呼んだことはないけれど、それなりに楽しんで毎日を過ごしている。
そしてずっと忙しくて忘れていた日本刀もどきを、山賊のベッドを捨てる時になってやっと見付けた・・・・・・
なまくら判定をして除けて置いたら、いつの間にかベッドの下に紛れ込んでいたみたいなのだ。ってことで僕は剣を取り出して、レイシアに渡した。
試しに斬ってみたのだけれど、力任せに斬れているのか刀の切れ味なのか、判断がつかなかったのだ。
鉄を素手で捏ねるだけの力が出せるので、最近人に触るのが怖い思う。
そんな訳で、レイシアに使ってもらうことにした。
「これ、適当に作ってみた剣なのだが、ちゃんと剣としての価値がありそうな出来なのかどうか、判断してもらえないか?」
「うん、わかった」
そう言って、レイシアは町の直ぐ外で適当な木を見付けて、斬り付けていた。さっくりと斬れたよ・・・・・・僕だけじゃなかったな・・・・・・
「えっと、どんな感触?」
「なんていうのか、柔らかいなって感じ?」
「一応この剣は押して斬るんじゃなくて滑らすように斬ると、切れ味がよくなるって聞いた気がするのだけれど」
「なるほど、ちょっとやってみるね」
今度は、撫でるような感じで剣を振るっていた。木が斜めに斬り込みが入って、そのまま滑るように倒れていったよ。それなりの太さがあった気がするのだけれど・・・・・・漫画とアニメ、CG合成された映像でも見せられている気分だな~
「この剣凄いね!」
今度は木に剣を押し付けていて、それだとあまり斬れない感じだった。押し斬るのではなく撫で斬る感じだね。
レイシアは剣のことを気に入ったのか、あちこちに斬り付けていた。納得する頃には、倒れた木はバラバラになって足元に散らばっていて、ちょっと怖かったよ。
まあこの剣じゃあ僕は死なないだろうから、最悪取られたとしても気にしなくていいな。それならレイシアが気に入ったようだし、あげてしまおう。僕には必要ない武器だろうしね。
日本刀といえば居合い斬り、今度は鞘でも作ってみるかな~。ふと自分は問題ないけれど、他の人間ならスパスパ斬れるのだったなって思うと、これが悪用されると怖いなって思う。
刀身に魔法をかけて、レイシア以外が扱うと、重くて持てないように変えてしまおう。確か魔法武器って消耗しにくかったはずだし、これで壊れにくくなるだろう。
そんな感じでほのぼの冒険者ライフを送っていたある日、ギルドに顔を出すと名指しの依頼があるとのことだった。
依頼人はこの町の領主で、最近の評判を聞いて指名したとかそんな事を言っていた。変な依頼じゃなければいいのだけれどな。そう思いながらも、僕達は領主の家に向かった。
「あなたが孤高の乙女レイシアさんですか、始めまして私はこの町の領主デュッセマーニといいます。以後お見知りおきを」
そう言って、貴族の礼をして来た。
「レイシアです、よろしくお願いします」
「では早速ですが、依頼の内容を説明します。この町の東に馬で四日ほど行った所に村があるのですが、その村とここ最近連絡が取れなくなっているようなのです。依頼というのはその原因の判明と、できるのならその原因の排除をお願いしたい。
一応情報を持ち帰ってくれるだけでも、依頼料はお支払いしましょう。原因の排除までできましたら、危険度が判断でき次第それに応じた危険報酬を用意します。どうでしょうか?」
「わかりました」
「何か質問などありますか?」
「いえ、特には」
「そうですか。では依頼の方、よろしくお願いします」
「はい、了解しました」
今回の依頼は調査依頼だった。名指しの依頼っていう割には、そんなに固執もしていなくて、ほんとにちょっと見てみるかくらいの興味しかなかったって感じだね。まあ、変に執着されるよりはいいかもしれない。
僕らは、途中の野宿用の保存食などを買いに、まずギルドに向かった。
「こんなものもあるのね。これとか便利そうだわ」
手に取ったのはお湯に混ぜると溶け出す、固形スープの元って感じのものだった。ちょっと嫌な予感がするよ・・・・・・
「そういえば、まだ料理を作っていなかったわね」
僕はとうとう来たか! って思ったけれど、スープの元があるならそんなに変なのは出て来ないか? どっちだ? 微妙な感じだった。
とりあえず森とかに入って、そこらのキノコとか拾わないように見張ろうと思う。
いろいろなスープの元を手に取ったり野菜などを見ていたり、しばらく買い物をして早速依頼に出かけた。
その道中。
「ねえバグ。調理のスキルわかったよ」
うん? まだ料理していないのに、どこの段階でスキルを使ったのだ? 食材選びとか?
「どんなスキルだったのだ?」
「食材の加工方法みたいなのがわかるものみたい」
ふむ。例えば、フグの毒抜きみたいに危険な部分がわかって、調理師免許が無くても取り扱えるみたいな感じかな? サバイバルする冒険者には、結構よさそうな能力だな。
問題は小説とかアニメでありがちな、食べられる食材で毒料理を作っちゃうヒロインかどうかだ。食材よりそっちを知りたいです!
移動途中で野兎を発見したので食料確保の為に狼を召喚、捕獲したレイシアは調理スキルを生かして捌いて、固形スープと乾燥野菜と思われるインスタント野菜を入れたスープの中に、肉を入れた。
僕はそれを手品師のネタがどこか探すような目で、凝視していた。余分な物は入れさせない!
まあ結果で言えば、味はスープの元で決まっていたので、普通に美味しいスープだった。
まだ安心はできないけれど、レイシアが殺人シェフではないとわかり、ちょっとは安心できたよ。
ちなみに僕は体を霧から固定化して、人間だった頃の状態になれば、料理も味わえた。
ただ内臓は無いので、体内に入った食べ物は普通に分解吸収だけれどね。
その後の料理もスープの元を使わなくても、普通に食べられるものが出て来た。まあそれらもギルドで買った簡単味付け素材を使ったもので、レイシアのオリジナル料理とは言えないものばかりだったが・・・・・・塩分足りないとかコショウが欲しいとかはあるけれど、調味料は日本のように簡単に手に入らないらしいので、贅沢は言えない。
だから味は普通。野宿で食べていると考えれば、満足できる料理を食べることができた。安心して食べられるとわかってしまえば、女の子の手料理っていいなと思える余裕も生まれた。
こんな風に、二人で過ごして行くのも結構いいものだね~
そろそろ村が見えて来るって距離まで近付くと、ユニコーンが命令を受けていないのに、その場で立ち止まった。僕らは警戒を強め辺りを見回す。
何者かが襲って来る訳ではないみたいなので、何者かのテリトリーがあるものと判断できた。
「どうする?」
レイシアが困ったようにそう聞いて来る。ユニコーンLVのモンスターが恐れるって事は、相手が結構強いと判断できる。
「とりあえず、ユニコーンは帰して、もっと上級の奴を呼んで先に進むか。僕が単独で行って様子を見て来るかだな」
安全策としては単独進行なのだが、問題はレイシアの経験にならないところと、報告する時に又聞きの情報になってしまうところかな。
ここはどっちを選ぶのかはレイシアに任せよう。しばらくレイシアの反応を待ってみると。
「じゃあ一緒に行く。送還、ユニコーン」
「問題は、相手がどのLVの敵かって所だろうな。情報だけでも先に行って、手に入れて来ようか?」
僕が行ってステータスを見てくれば、先に作戦みたいなものも練れるし、属性などの相性がわかれば対応する下僕も呼べる。まあようするにズルをするか、自分の実力で依頼をこなすかって判断だね。
「臨機応変に対応する」
冒険者学校で教えてもらったことだな。
さてそうなると、呼べる召喚の中で一番強そうなやつを連れて行きたいところだな。神とか魔王召喚とかできれば無敵なのだけれど、まず無理だろうし。どのLVのモンスターを使役できるのだろう?
それと僕の知識とこの世界の知識だと、いるかいないか名前が違うとかで、中々ちょうどよさそうなところがわからないのだ。意外なところだと、この世界に天使はいない。神は実在しているようなにのね。
「神の眷族とかいわれているようなのって何かいない? 麒麟とかフェニックスとか」
「じゃあ、召喚、オーリデッヒ」
む、何か個人名かな? って感じの名前を言い出した、ちょっと期待したけれど特に変化はなさそうだ。
個人名や知らないモンスター、名前が違う奴なんかだとどれくらいのランクのモンスターのことを言っているのか、わからないので判断に困るよな。
「そのオーリデッヒっていうのは、どんなモンスターなのだ?」
「神様が最初に作ったと言われている、ドラゴンなの」
それって、エルダードラゴンじゃん。それは多分レイシアでは呼べないな。
「それは大物過ぎる、他に何かいない?」
「召喚、ペガサス」
今度は、純白の羽を持った馬が出て来たけれど、これはユニコーンとそこまで変わらない気がする。白馬だったからか、レイシアは喜んでいたけれど。
「今度はLVが低い。却下で」
「そう・・・・・・送還、ペガサス・・・・・・。召喚、クインリー」
次になにやら言って出て来たのは、真っ白なコブラに、羽が生えたような生き物。
見た目は蛇なのでそんなに強くなさそうなのだけど、こいつは根が生えているので、強さがわからないな。当たりなのか、外れなのか? ステータスを確認して見てみることにする。
LV52で、種族はそのままクインリーって出ていた。LVは僕よりは低いのだけれど、十分な強さがあるんじゃないかな? 後は攻撃方法が不明だな。毒のブレスを持っていたのでそれだけはわかったけれど、魔法とかも使ってくれると任せられるけれど・・・・・・
「えっと、こいつは攻撃魔法とか使えるのかな?」
「土と、風系の魔法で、攻撃特化の魔法ならあるみたい」
ふむ、それだけわかれば何とかいけそうかな? 後は現地で、敵を見て支援すればいけそうかも。
「念の為、こいつをもう一体呼んだりできそう?」
「どうかな? やってみるね。召喚、クインリー」
出て来なかった。ってことは、こいつがレイシアの呼べる限界か、余裕があまり無いくらいの下僕かもしれないな。
むー、いちいちこうやって考えるのは面倒だな、どこかにモンスター図鑑とか無いものか・・・・・・
「じゃあ、今回はこれで行ってみよう」
「うん」
村に向かって進み出す。外から見た村は廃村って感じで、地面には冒険者や兵隊などの遺体などが、そのままの形で放置されている。
村の中心の方から、嫌な気配も漂って来るな。
クインリーを先行させて、少しずつ村へと近付いて行く。
後少しで村の入り口ってところで、どうやら敵に気付かれたらしく、複数の殺気混じりの気配が、結構な速度でこちらにやって来る。
「あれって、山賊の親玉が変身していた異形!」
「強敵が五体来ているわ!」
僕らはそれを見て、全力で戦おうと決めた。あれは出し惜しみできる敵じゃない。
「ファイアストーム、アイスストーム、アシッドクラウド」
魔法攻撃を連発で叩き込んだ。
「凍て付く刃を、アイスソード」
それでも抜けて来る異形に、レイシアが信じられないって感じで魔法を複数拡大してぶつけて行く。クインリーも接近しながら魔法を叩き込んでいるようだ。
先頭でやって来た異形に、クインリーが毒のブレスを吹きかけている。毒や酸、炎と氷によって体中を傷だらけにした異形達も、かなり消耗していて動きが大分鈍っていた。
でもまだ一体も倒れていないので油断ができないな。こちらの前衛が、クインリー一体なのも、ちょっと厄介かもしれない。
数を減らすべく、クインリーがブレスを浴びせた固体を体で締め上げる。骨が砕ける音と共に異形が崩れていった。でも、他の四体がこちらに抜けて来る。
もう少し削った方がよさそうかな。できればあまり経験値を減らしたくは無いのだけれど、こいつらは別格って感じだしね。
「アースボム」
一体の頭と、両隣の足を魔法で爆発させる。
「頭無くなったのに、動くのかよ!」
思わず叫んだのも仕方ないと思う。
まともな生物なら、頭が無ければ動けないのだから・・・・・・。倒れて動かなくなると思っていたのだけれど、そのまま歩いて来るのがわかる。
さすがに目が無くなったって感じで、手探りで歩いているみたいだけれど、まあ動きを鈍らせられたので支援にはなったかな。
「凍て付く刃を、アイスソード」
損傷を受けていない異形にレイシアは攻撃を仕掛けていった。
クインリーは、足をやられて動きの鈍った近場の方へと突撃を仕掛けて、締め上げつつもレイシアが狙っている異形に魔法を叩き込んでいる。
僕が足を狙っていたのを見ていたのか足を重点的に攻撃していたので、こちらもどうにか動きを制限させることができているようだった。
「後ろの、回復しているぞ」
そんな中、クインリーに締め落とされたはずの異形が動き出そうとしているのを発見した。
まだぎこちなく這いずっている感じだけど、動いている。
これは確実に止めを刺さなければやばそうだな。単純に動きを鈍らせただけでは、せっかく与えたダメージの蓄積が回復され、戦線に復帰されてしまう。生命力旺盛だな~
ちなみにここからは危険が無い限りは、レイシアに任せようかなって思っている。足止めして動きさえ鈍れば、何とかできるはずだからね。
レイシアは、クインリーが締め落として動かなくなった異形に近付いて行って、持って来ていた日本刀で止めを刺していった。
日本刀役に立つな! 多分斬り合いとかには向かないけれど、異形の硬い皮膚を難なく斬り刻んでいたよ。
こうして五体の異形を討伐することに成功した僕らは、村を調べて行くことにした。
調査スキルによれば、もう隠れている敵はいないみたいだけれど、原因とかそういう物を、何かしら見付けられないかと調べまわったのだった。原因の特定も依頼の内だしね。バイオハザードとかだったら嫌だな・・・・・・
結局探し回って見付かったのは、村長の家と思われるところで木片に愚痴のようなものが書いていた日記くらいだった。
内容は、最近村で悪さする若者が増えて困るとか最近の冒険者とか余所者は礼儀しらずが多いとか、そういうとりとめのないもので、他に記録らしい物は発見できなかった。
そういえば、こういう世界の識字率は低いのだったな。もうここにいても情報は手に入りそうにないので、僕らは帰還することにした。
「無事に戻ったか。それで、どんな感じだった?」
町に戻ると、僕らは直ぐに領主の家に向かった。
突然の訪問だったけれど、そこまで待たされることもなく応接室に通され、早速報告をすることになった。
わかる範囲の調査結果を伝えた僕らは、追加報酬が発生した場合ギルドの方から連絡が行くようになると説明を受ける。
「依頼の達成ご苦労だった。また何かあれば指名させてもらうので、その時はよろしく頼むぞ」
僕らはその足でギルドへと向かい、今回の依頼である情報提供料を受け取った。
指名の依頼なので、追加の報酬が無くても結構わりのいい仕事だったみたいだな。
まあソロになってから、お金には困らなくなったのだけれどね~




