生産活動
ドラゴン退治で懐が潤っているので、数日をのんびりと過ごすことにしたレイシアは、町でデザート巡りをしていた。なのでその間、道具を作る為の道具作製を、することにした。ややこしい。
まずは取って来た鉱石を魔法の炎で溶かして金属の固まり、インゴットってやつに加工する。
拠点の横に、ドラゴンを置いていてできた場所をレンガなどで補強して、工房部分は既に作り上げてある。
今はそこで作業を開始していた。ちなみに溶けた金属をインゴットにする作業を素手でおこなっている。金属が溶ける温度でも、熱くなかったのだ・・・・・・
つくづく人間じゃないなって思いつつ、人間であったなら勇者よ魔王を倒せとか言われて、ひたすら戦闘だったかもと考え、モンスターでよかったと思ったりもする。
まあ、そんなもしもの話はいいとして、溶かした何かの金属を延べ棒へとどんどん変えて行く。これが鉄か何かはよくわからない。だって、工業系の知識がないのだから・・・・・・
今やっている作業もあっているのか、間違っているのかはっきりいってよくわからない。
ゲームの生産の真似事みたいなものだ。粘土遊びのように採って来た鉱石が無くなるまでインゴットを作った後。
ふと日本刀ってやつは何度も何度も鉄を重ねて練って強靭な刃にするので、西洋のものよりも丈夫で鋭いって話を思い出した。鎧なんかも貫けるそうだな。
素手で簡単に捏ねる事ができるのならば、おそらく普通よりも早く作ることができるのだろうな~。ちょっと試しに捏ねてみよう。好奇心が刺激されたので、ちょっとやってみたくなった。削ったり研いだりする道具もないのに、面白半分に日本刀もどきを作製する。
足りない道具は魔力で補う! かなり強引なやり方で作り上げた刀は、まあ見栄えだけ見れば日本刀っぽかった。柄の部分や、刀の根元の丸いやつなど、適当にくっ付けてとりあえず完成させる。
ふむ、なんとなく興味本位で作っただけなので一応形になった刀を見て満足できた・・・・・・多分なまくらなので、元の作業に戻るか・・・・・・
造る魔法具は粉砕機とチェーンソー。内部構造がわからないので、ほぼ全てを魔力で補って作り上げる。
粉砕機は、岩を砕く為にピストン運動を繰り返せばいいし、チェーンソーは刃が回転してくれれば問題ない。どうして動くのかはオーパーツみたいな物でいいのだ。
そうして粉砕機を作り終えた後は、チェーンソーの刃の部分をせっせと作っていて、パーツが小さいので隣のテーブルに置いていたら、テーブル燃えたよ・・・・・・
粘土感覚で作っていたから忘れていたけれど、熱々の金属を木の上に置いたらそれは燃えるよね・・・・・・うっかりしていたよ。そしてもう一つうっかりしていたことを発見・・・・・・
「ここ空気ないじゃん!!」
思わず叫んじゃったよ。テーブルがしばらく燃えたと思ったら、直ぐ炎が消えたのであれって思ったことで気付けた。火は酸素が無くなれば燃え続けることができないのだ。
「モンスター男子のドジっ子属性って、どんなマニアックなジャンルだよ!」
それからしばらく僕は暴走気味に、独り言を叫び続けるのだった・・・・・・
どれくらいテンパッテいたのか、とりあえず環境を改善しよう・・・・・・
レイシアを拠点に連れて来なくてよかったな。それとか水晶の転移機能で飛んで来ていたら、この部屋でミイラになっていたな。
まずは改善する為に素材を集めようと、以前の蛇が一杯の洞窟に影渡りで移動すると、水晶を集めてる僕を見詰める複数の視線を感じた。蛇達がこっちを見ていたので、睨み付けてやると蛇達は慌てて逃げて行く。
まあ襲って来ないのなら問題はないと、再び水晶をできるだけ多く確保して終える頃、頭が二つある蛇に遭遇した。
あー、これがツインヘッドスネークってやつか。
睨み付けても逃げやしない。それどころか襲い掛かって来たので、返り討ちにして革と牙を頂くことにした。蛇も結構素材としては使うのだよね。
このランクの敵だと、戦闘シーンも割愛です。
帰りに森の中で木の苗木をいくつか拾い、鉢植えみたいな物の中へと移し変える。鉢植えは、その場で土を捏ねて形を作り魔力で固めて作った。その状態で必殺スキル、眷属作製!
君達は、これから部屋の空気の正常化がお仕事です。栄養は水晶を利用して、この森から水分と養分を吸い上げて補いますってところでいいかな。
影渡りで部屋に戻り、工房部分と居住部分に、照明の為の水晶を配置。
この水晶で、光合成に必要な光を取り込むことにする。水晶の光は外とリンクさせて、朝と夜を作る。夕方とかは、面倒だからいらないや。
これで植木鉢を部屋の中に入れれば、生活環境が整うだろう。
水と食料は、また今度考えよう。
あ、僕はいらないけどトイレも必要かも。まあ、それもおいおいだな~
チェーンソーを仕上げて、とりあえず戻ることにしよう。
環境を整えようとしていたのに、逆にテーブルを失って必要なものがソファーとテーブルになっちゃったよ・・・・・・
まあチェーンソーを造ったので、テーブルは自作できるかな。
前日に続き、レイシアは町へと遊びに行くようなので、道具作りに出かけることにした。
まずは無くしたテーブルを造る為に、森で木を伐採する。
元いた世界のチェーンソーのように、ガソリンなのか灯油なのかで動いている訳ではないので、とても静かに刃の部分が回転し出した。ただし、持っているとブルブル震えるような振動はある。
まあ、こっちは人間以上の力があるので、どれだけ揺れても問題にはならないけれどね。
人が使ったら、持っていられる位の振動なのかな? 機会があれば聞いてみよう。それでは伐採開始!
ガッ、ガーー
一秒で伐り倒せた・・・・・・
チェーンソー怖!
これでモンスターと戦ったら、凶悪なことになりそうで嫌だな・・・・・・これは僕の魔力でしか動かないように設定しよう。多分粉砕機もそうだな、後で調節しておこう。
さてさて、まずは作業場で使う長机から挑戦して作って行こうかな。
設計図も無いので、全て適当に作る。長さこれくらいー足はこれくらいにして高さの調節。
一本分の幅だと小さいので、板を二枚並べた幅に固定して、魔力で接着~。釘なんて便利な物が無いので、パーツを作って魔力で接着していった。
表面を磨くのにサンドペーパーが欲しいな、何か変わりになりそうなざらざらな素材があれば、やすりの代わりにできるのだけれどな・・・・・・
まあ今は無いので、風魔法で切断面をスパッとやって、凹凸を無くそう。そんな感じで、手作り感の半端ないテーブルを、二つ作成した。
一つは作業台。もう一つは生活空間に置くテーブル。
ソファーに座って使えるように、少し低めのやつ。
後はソファーの骨組み、布は作り方がわからないから、そのうちレイシアにでも買ってもらって、中にクッションになりそうな羽でも集めて詰めれば完成かな。そんな感じで、余った木材も持って拠点へと帰ることにした。
さて、次は何が必要かな?
あ、昨日思い付いた、水とトイレ辺りがいいな。
水は簡単、川底に水晶を埋め込みそこの水を取り入れる方と、拠点内の水場へと排出する方を設置。
トイレも、穴を開けて座るところを作り、スイッチで水が流れて押し出してもらえば完成だ。
そういえば、この世界ってトイレットペーパーが無いけれど、どうしているのだ? 水で洗うのかな?
とりあえず、トイレの中に、温水が流れる部分を作っておこう、これしかわからないや。
さすがにトイレの事を、女の子には聞けないな・・・・・・こっちが恥ずかしい。
さて、結構な時間作業していたけれど、レイシアはまだ町でショッピングしているな。もう少し小物的な道具を作ってみようか。
金槌、ナイフ、鋏み。後は思い付かない・・・・・・
次々と小物の作製をしていると、レイシアが宿屋に帰って来たし、今日はここまでにしておこう。
リアル箱庭、結構楽しいぞ!
翌日ギルドに行くと、ドラゴンの査定が終わったと言われた。
そういえば、この世界の金銭感覚をまるで知らないのだけれど、レイシアはちょっと受付では危険過ぎてお渡しできませんって言われたお金を、応接室に移動して手に入れたようだ。
「バグ。宿屋とかにお金を預けるのは怖いから、預かっていてくれない?」
ギルドを出た後、レイシアにそう頼まれるくらいの金額だったらしい。
まあ問題ないので預かることにして、その代わりのささやかにお駄賃を貰うことにする。もういっそベッドも自作したいので、ベッド用の布、ソファー用の布、クッション用の布を、購入してもらった。
何に使うのか不思議そうにしていたけれど、まあ機会があれば教えるって事で今回は納得してもらった。
今日は、いろいろギルドでのお金の受け渡しや買い物などして、時間が中途半端になってしまったので、そのままのんびりと過ごす。
せっかくなので道具として針を作り、買ってもらった布を使って早速クッションを手始めに作ってみる。
裁縫なんか、小学生の時に少しかじった程度なので、上手くできないな!
そこで今日は作業を中止して、今度ミシンを作製することにした。
しばらくは、働かなくてもいい程のお金が手に入ったので、依頼はきついものでなく簡単なものをやることにして、のんびりとした生活を楽しむ。
しばらくしたら、またがんがん冒険に行こうってレイシアと話し合った。
次の日ギルドに行くと、男性冒険者が声をかけて来る。
「やあ、君は今一人だよね? 僕らのパーティーに入らないかい」
爽やかに話しかけて来るその男に、僕達は多分同じことを思い浮かべたはずだ。
一年一緒に冒険をしたパーティーのリーダーの、セルドイアと同じ話し方。本人ではないので、結末も同じだとは思えないけれど、それでももうあんな思いは嫌だろうな~
そう思っていると、レイシアはお断りの返事をした。
「私はこのままで、問題が無いのでお断りさせてもらいます」
「今は一人でもこなせる依頼をしているのかもしれないけれど、いずれパーティーを組まないとできない依頼なんかも出て来ると思うよ。ここらでどうだい? 僕らと組んでみないか?」
お断りして進もうとしたら、さらにそう言って来た。
「だからお断りしますと言いました」
「もう少し、考えてくれないかな?」
「いい加減にしてくれませんか」
しつこい誘いに、レイシアは睨み付けるようにそう言った。
ギルドにいた周りの人達が、決闘か? やれやれって感じで野次を飛ばしている。
何なのだこれは、冒険者って言うよりならず者って感じだな。
そういえばゲームや小説などの世界では、冒険者は金さえ払えばなんでもやる、ならず者ってイメージの作品が多かったか。
「おーい、そこの兄ちゃん、その辺でやめておいた方がいいぞー。その嬢ちゃんに下手に絡むと命が無いぞ~」
そんな緊迫した空気の中、酔っ払った感じの男がそんな声をかけて来た。ギルドの中の何人かはその言葉に賛同して、うんうんと頷き、それに対して大半の人は、何で命が無くなるのだって感じで疑問の視線を向けた。
男は、注目が集まって気分がよくなったのか、ニヤニヤしながら話し出す。
「だってその嬢ちゃんは、一人でドラゴンを倒して来たんだぞ、俺ならそんな相手に、下手にちょっかいださねえよ~」
その言葉での反応は、半々ってところだった。
半分はぎょっとした様子で野次るのをやめこそこそと引っ込み、残りの半分は酔っ払いが女の子を助けようとでっち上げた、作り話だと判断したのだろう。
目の前の男は、もしもを恐れて離れて行った方だった。
レイシアは、一応その酔っ払いの男に軽く頭を下げることで礼をした。
「災難だったわね。まあ、女の子が一人で冒険者をしていると、こういうことも珍しくないかもしれないね」
「そうですね」
受付に行くと、マリエがそう話しかけて来た。
「今日はどうする?」
そして話題を変えるようにそう、明るい声を出す。
「そろそろ別の町に行ってみることにします」
レイシアの判断は早かった。さすがにドラゴンで目立ち過ぎたこともあるのかもしれない。
別の町へ行って、またコツコツと依頼を受けていけばいいのかもしれないな~
「そうか~。ちょっと残念だけど、仕方ないのかな? じゃあ、片道切符の商隊護衛辺りの依頼でも受ける?」
「そうね、じゃあそれをお願いします」
「えっと今あるのは、ここから南へ歩いて二週間かかる商隊護衛が明日の朝あるわね。一人だと先方が不安になると思うから、他の冒険者も護衛に付くと思うけれど」
「じゃあ、それでお願いします」
「わかったわ、サインお願いね」
せっかく町に慣れてきて、いろいろ楽しくなりかけていたようだけれど、早々に違う町へと向かうことになった。
朝になり集合場所の商会前に行くと、荷馬車にほとんどの商品を詰め込み終わっている馬車が三台並んでいた。その馬車の間を、一人の男が忙しそう行き来して声を張り上げて、いろいろと指示を出している。
「すみません、護衛の依頼を受けたレイシアと言います」
その男の人が依頼人だと判断して、レイシアは声をかけた。
「ああ、あなたが一人で活動しているっていう冒険者の方ですか、ずいぶんと若いですね」
どうやら、思っていたよりも若くて、大丈夫かって思ったようだ。
「他の冒険者の方も雇われるという話でしたが、私の方が先でしたか?」
「ええ、まだ来ていませんよ。もう少し荷物の詰め込みに時間がかかるので、待っていてください」
そう言うと、さっさと歩き去っていった。まあ、一時的な雇い主だから、そんなに仲良くすることも無いな。そう思いつつも待っていると、荷物の詰め込みが終わり、さらに時間が過ぎて、別パーティーの冒険者とやらがやって来た。
「すみません、遅くなりました」
「挨拶は後だ、出発時間は過ぎているんでな」
「はあ、わかりました」
なんかやる気の無さそうなパーティーだな・・・・・・やっと冒険者が揃って商隊は町を出発した。
「召喚、ユニコーン。召喚、ウルフ」
レイシアは商隊が出発すると同時に、ユニコーンを召喚して先頭付近を進む。そして狼に隊列の右真ん中、右後方を警戒させた。
いきなりユニコーンを出したのは、おそらく実力を教える為っていうのもあると思う。
そして、歩くのが面倒だったのだろう。
ユニコーンを見た依頼人は、ちょっと見直したような顔をしていた。
まあ、最初にこいつ役に立たないかなって態度をしてしまったしな。それに加えて、本来頼りにしようとしていたパーティーはどうもやる気が感じられない。依頼人にとっては完全に当てが外れて、内心ではどうにかレイシアの機嫌を取りたいって感じじゃないだろうか。
下手をすれば人数のいるあちらのパーティーより、余程レイシアの方が役に立つかもしれないのだ。それなのに、嫌な態度を取ってしまったのは、安全な移動をしたい商人にとっては致命的だった。
まあ、僕らは商人の内心なんて気にしないで、依頼だけちゃんとしたらいいけれどね。向こうもそれでいいだろう。
野営などレイシアが眠る時には、護衛の召喚ゴーレムが彼女の側に立って、どちらかといえば商隊を警戒していた。
そして最初の二日は、何事も無く過ぎて行く。
三日目の昼頃、商隊は山賊の襲撃を受けた。
「召喚、フェンリル。召喚、ゴーレム」
襲撃がわかった瞬間、レイシアが下僕を呼び出してそれぞれに行動を開始させた。
ゴーレムは三体、それぞれの荷馬車を護衛する。
狼はフェンリルを中心に、山賊を狩り出した。
パーティーで参加中の冒険者は、後方の三台目の荷馬車の後ろで、固まったまま特に何もしていない様子。
何をやっているのだろうな?
狼達は言葉通り、ほんとに山賊という人間を楽しむかのように狩って行った。
「凍て付く刃を、アイスソード」
森に隠れていた弓を持った山賊には、レイシアが直接魔法を叩き込んだりもした。止めは狼が刺している。
僕はその間、調査スキルを使い見落としが無いか確認していると、ハイディングレベルの高そうな奴を一人発見、無詠唱魔法をぶち込んでこれを撃破する。
レイシアは、その魔力の流れに気が付いてハッとした顔をして、ちょっと嬉しげに微笑んだ。
戦闘時間は、大体二十分くらいで終わっかな。
山賊は荷馬車に火矢を撃ち込んで来たけれど、馬車に当たった矢は一本もない完璧な護衛だったと言っておこう。護衛に付いたゴーレムが見事役割を果たした結果だ。ひとえにゴーレムを配置したレイシアのナイス判断っていってもいいだろうね。
「送還、ゴーレム。送還、フェンリル」
そう言ってレイシアは、戦闘を締めくくった。
結局パーティーで参加の冒険者は、見ているだけで終わった。なんなのだろうね~
それ以降依頼主の態度が、あきらかに変わる。
食事時など、こちらで一緒に食べませんかとか。これから向かう町で活動する予定ですかとか。打って変わって腰の低い態度で話しかけて来るようになった。
レイシアは、それを適当に流して対応する。まあ、最初の態度が悪かったから、仕事以上の関係は築きにくいよね。
無事に町まで着いた頃には、依頼主はベタ褒めになっていた。
「いやー、レイシアさんに護衛を頼んで、ほんとによかったですよ。またぜひ次の機会にも、護衛をお願いします」
そんな事を言っていた、それに対してレイシアは・・・・・・
「お疲れ様でした」
そう言っただけだった。
まあ終わった依頼はどうでもいい。
早速ギルドで報告をして活動拠点を築こう! 僕らは新たな町ミュンセルンで、冒険者としての活動を始める。




