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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
終章  神が暮らす星
237/240

魔王ハウラスの最後

 「バグなら助けられるよね!」

 「ああ」

 確かに今直ぐあの場に向かえば、まだ助ける事は出来るだろう。

 しかしこれも魔王システムの一環だと考えれば、下手に手出しは出来ない。四天将を選定する儀式と考えるべきだろうな。

 そう考えると、後一人は脱落するって事だろうか?

 それはそれで嫌なシステムだ。

 「我が主よ。数にこだわる必要はない。従者が弱いのなら、数で補うのは当然。レビルスとやらが未熟だっただけの事だ」

 そういえばホーラックスは魔王システムを引き継いでいたのだったな。

 なるほど、別に四天将とはいっているが数を増やすのも有りなのか。

 そう考えると、あの子供を助けても特に問題ではないのだろうが、だがやはり一度脱落した者を戦わせるのはどうかな。ゲームじゃあるまいし、ゾンビアタックなど認める気にはならないな。

 神の奇跡で蘇生した者が、安易に死にまくるというのも神が舐められている気がするしな。後ごり押し過ぎる。


 「なら彼はこの戦闘から脱落という事で、こちらに呼び出してから蘇生させるか」

 元々こちらの都合で戦わせていたところもある。今までがんばって来たのに、助けないで見捨てるというのも後味が悪いし、レイシア達の受けも悪いからな。

 難民達を集めていた元ブロアド国に転移すると、アタッカーをしていたアラギの遺体を引き寄せる。

 「アラギ兄ちゃん!」

 「アラギ!」

 突然現れた僕に驚く子供達を無視して呼び出したのだが、アラギを見た彼の知り合いの子供達は慌てて遺体に駆け寄って来た。どうやらそれなりに慕われていたようだな。

 そして彼が死んでいる事を理解し、その場で崩れ落ちる子供達と、戦っていればこういう事もあるのだと理解する子供達が呆然としていた。

 まあ何と戦うにしろ、負ければ死が待っているのは当然の事だ。

 ここにいる難民の子供達はいずれも冒険者になるべく訓練を受けている者達だ。ならばこのまま戦い続ければ、こういう事も起こりうると肌で感じられた事だろう。

 それを知るいい機会になったと思えば、遺体を見せたのもいい経験ではないかな。子供には衝撃が強過ぎたと思うが。

 地球でこれをやったら確実にトラウマものだ。だがこちらの子供達はショックを受けつつも、何とか受け入れようとしているようだった。

 まあそこは死が近場にある異世界。今後の自分達が生きて行く上で、こうはならないようよく考えて行動して欲しいものだ。


 「お前達、少し離れていろ」

 縋り付いている者達が一瞬嫌がったり、こちらを睨んで来たりしたけれど、少しすると大人しく離れてくれた。

 おそらく僕に怒っても仕方がないと考えたのだろう。あるいは僕が神である事を思い出したとか?

 まあとにかくあまり長い事、このままにしておくのは得策ではない。

 魂が転生してしまわないうちに、蘇生してしまおう。

 中二病ではないので呪文などは唱えないが、ちょっと大げさな身振りで手を振って蘇生する。これくらいの演出はした方が神として見栄えがいいだろう。

 まあこんな事で信仰心が芽生えるとも思えないが、奇跡の力を使っていますよアピールくらいはしておいた方がいい。

 そして子供には過剰演出も必要な時がある。誰が何をしているのか、理解しやすいからな。


 「うぅ、あれ・・・・・・僕は死んだんじゃ?」

 「アラギ兄ちゃん!」

 「ううぅよかったよ~」

 周りで心配していた子供達がアラギに抱き付いて行く。これを見ると、相当好かれていたのだなって感じる。後蘇生させてよかったとも。

 あまり神が軽々しく使う力でもないのだろうが、まあ彼らは半分身内ともいえるしな。それに信仰集めの時にも散々使った奇跡の力なので、知り合いの子供を助けるくらいはしても罰は当たらないだろう。

 神の気まぐれというやつだな。

 「アラギよ。他の者はまだ戦っているが、お前の戦いは終わった。後はここでのんびりするといい」

 「バグ様。・・・・・・わかりました。助けていただいてありがとうございました」

 「ありがとうございました!」

 その場の子供達にお礼を言われ、僕は拠点へと戻る事にした。

 一瞬、アラギはパーティの元に戻りたそうにしていたのだが、どうやら僕に送るつもりがない事を理解し我慢したみたいだ。なかなか頭のいい子だ。

 だがこれでいずれやって来る四天将の運命からは脱落できるのだ。そこは運がよかったのだと考えられる。

 後、ゾンビアタックはさせんぞ。


 「ただいま。蘇生させて子供達のところに置いて来た」

 「バグありがとう。もうこれ以上犠牲者が出ないといいね」

 「そうだな。だがどうだろうな。動揺して冷静に対処できていないようだが」

 レビルス達は仲間がやられたショックで、攻撃が大振りになっている。

 仲間同士の連携なども上手くいかなくなって、逆にハウラスは余裕を持って攻撃を捌いき、ダメージを受けなくなっていた。

 おいおい、お前達。覚悟が足りな過ぎるぞ。誰一人犠牲者が出ないとでも考えていたのか?

 早く立て直して攻撃を再開させなければ、更なる被害が出てもおかしくはないだろうが。

 僕はそう考えるのだが、当然レビルス達に僕の考えは伝わる訳もなく、ハウラスに押され始めた。


 『くそっ、アラギの仇!』

 ただでさえアタッカーが一人かけて、攻撃力が落ちているのに、更に連携や戦略がボロボロになってしまっている。たった一人、それだけで勇者パーティはガタガタになってしまったようだ。

 そしてハウラスは更に彼らを追い込んでいく。

 レビルスの必殺の一撃っぽい攻撃が繰り出された瞬間。にやりと笑って何十発もの魔法を束ねた攻撃を、ヒーラーの子に向けて放ったのだ。

 『この!』

 盾担当の子がそれを受け止めるが、攻撃の激しさで吹き飛ばされてしまう。

 そこに止めの魔法を叩き付けようとするのをレビルスははっきりと見たようだ。

 当然その攻撃を止めようとカバーに入ろうとする為、レビルスの直前の攻撃をキャンセルせざるを得ない。すると今度はもう一人の盾役、今は攻撃に参加している子の後ろにいた魔法使いに向けて、攻撃を集中させる。

 狙われた方の盾役の子は慌てて盾を構え、魔法攻撃を受け止めた衝撃で吹き飛ばされた。そこに再び叩き込まれる魔法を、レビルスが必死に駆け付けると受け流すといった状況が続いた。

 あきらかにレビルスの持久力が尽きるのを狙った揺さぶりであろう。ついでに盾の子達の疲労も誘っているかな。

 しかし彼らにはその作戦に乗るしか手が無かった。


 いや一応ヒーラーの子と魔法使いの子が合流して、レビルスが走り回らないでいいようにしようとしているのだが、ハウラスがそれを阻止するようにそれぞれの移動先に攻撃して来る。

 おかげでレビルスは右に左に走らされ、あきらかに疲れが見え始めていた。

 これはまた完全に流れが変わってしまったな。

 もう今では唯一ともいえるハウラスのダメージさえも与えられていない。それなのにレビルス達は少しのミスが、致命傷に繋がりかねない綱渡り状態だ。

 一応もう一人、ヒーラーの子の側で弓を撃っている子もいるのだが、まあたった一人で攻撃を仕掛けても簡単に避けられて意味がなくなっている。殆ど空気だな。

 これはもう勝負あっただろう。

 そんな事を考えていると、レビルスが一瞬だけハウラスの背後を確認したみたいだな。そっちにはブレンダとフェザリオに似た肉の塊が・・・・・・

 まさか! ハウラスが仲間を盾にして攻撃して来るなら、こちらもとか言わないよな?

 それで前に暴走したハウラスと戦って、ボロボロにされただろうが・・・・・・


 「あっ、魔王がまた暴走するよ!」

 フォラウが思わず声をあげる。

 しかしどうやらハウラスに暴走の兆しはないようだ。

 確かにレビルスは生き残りの四天将に対して攻撃を仕掛けようとし、ハウラスもそれを防いでいたのだが、暴走してはいない。普通に冷静な判断をして、レビルスの剣撃を撃ち落したな。

 うーん、ひょっとして攻撃対象がフェザリオだったからか? そうするとこれって、ブレンダだったらブチ切れていたのだろうな。

 という事はやはり、ハウラスはブレンダの事が好きだったのではないだろうか?

 一応ハウラスに守ってもらっているが、フェザリオは扱いがだいぶ軽いな。いや、本能的に守ってもらえるだけ、大事にされてはいるのかな。

 「あれ? 前は暴走したのに、今回は暴走しないね」

 フォラウが不思議そうにしている。この子の初恋は確かまだだったな。これは恋愛に苦労するかもしれない。どちらが苦労するかは不明だが、結婚はだいぶ先になりそうだ。

 ちょっとホッとする。


 状況はお互いに仲間を背に庇いながらの一騎打ちみたいになっていた。

 その間子供達は盾役二人を前に出し、遠距離からの攻撃を仕掛けて行くのだが、まだレビルスとは連携が取れていないかな。そういう意味でも一騎打ちといっていい状態だろう。

 ただお互いにやっている事は勇者のやる事とは程遠い。一応どちらも勇者だったのにな。

 お互いに仲間を倒そうと攻撃を仕掛けていき、それをお互いに防ごうと動いている。

 手数の多さでややハウラスがリードといったところか。

 レビルスも二刀流でがんばっているのだが、それを見たハウラスも二刀流で相手をして来たので、手数の有利は無しになった。ハウラスは魔法も使ってくるしね。

 というか、どちらもあまり二刀流が得意ではないのだな。筋力で無理やり二刀流を使っている感じがするぞ。

 しっかりとした技術として身に付けていれば、少しは有利に進めたのかもしれないな。

 まあその場合でも本来は利き手と逆の方は受け流しがメインになるので、あまり攻撃方面で有利になるとは思えないがね。


 「何だか勇者っぽくないね。もっとこうかっこいい戦い方するんだと思っていたよ」

 「見苦しい戦いだわ」

 レイシアとビゼルは厳しいな。まあ何となく言いたい事はわかるのだが。

 しかし勇者らしくっていうのは物語だからこそなのではないだろうか。

 実際の闘いなんて今戦っているレビルス達みたいになんでも有りで、命をやり取りするのだからどんな卑怯な手でも使ってでも勝とうとするものなのかもね。強敵に勝てば、それこそ強者のようにはやし立てられるものなのだろう。

 確かにお上品に戦って、魔王なんか倒せるものかと言いたい。あれは物語の中だけの出来事なのだな。


 しかし、お互いの仲間を攻撃するなど、確かに勇者のやる戦い方ではないな。

 生き残ったメンバーからも、あまり好意的な迎えられ方はしないだろう。下手すると後々それを理由に難癖付けられるかもしれない。まあそれもメンバーが信頼できないような人物の場合だけれどね。

 この子達はおそらく大丈夫だろう。ハウラスに一人やられているのを見ているし、やり返せって感じなのではないかな。

 実際こっちで子供の命は助けているけれどね。

 後で合流したら驚くだろうなー


 『仕方ない、最終手段で行くぞ』

 『どうしてもやるの?』

 『ああ、魔王を倒す為だ! 行くぞ!』

 お、どうやら何か手があるようだ。お手並み拝見だな。

 レイシア達も、ここからどう行動するのか期待しているようだ。期待を裏切ってくれるなよ。

 何をするのかとみんなで注目していると、何故かメンバーの子供達がレビルスから距離を取り始めた。

 それにともない、レビルスはハウラスが仲間の方に行かないよう、立ち位置を調整する。

 『いつでも行けるぞ』

 そして仲間の合図で、レビルスが言う作戦が開始されたようだ。

 どんな作戦かと見ていると、素早く散った子供達がそれぞれに今出来る攻撃をある対象に集中させたのだ。その対象はブレンダだった。

 「こいつら」

 「まさか!」

 驚く僕達の見ている先、ハウラスが反応してブレンダを庇ったのだが、その行動を予測していたレビルスが、ハウラスの背後へと移動し串刺しにしているのが見えた。

 「こいつ絶対勇者じゃないだろう。どう見ても外道じゃないか?」

 「さすがにちょっと酷いよね。これは」

 それでもハウラスは暴れまわるようにして攻撃を続けるのだが、さすがにダメージがでかかったのか、最初に暴走した時のような強さは感じられなかった。

 作戦内容とかはちょっとどうかと思うが、勝負自体はレビルス達の勝利といっていいだろうな。勇者の行いではないが。


 その後ハウラスの暴れっぷりはすさまじく、さすがに手負いが相手であろうと無傷ではすまなかった。

 レビルスと盾役の子が集まり、みんなを守りながら止めを刺していく。

 さすがにこの状況で回復無しでは戦えないのか、ヒーラーの子は本来の仕事に戻り、堅実な戦いを仕掛けていく。

 まあこの段階での持久戦なら、確実にレビルス達に分があるだろうな。

 そしてレビルスが大半の攻撃を防ぎ、隙を突いては攻撃し仲間達も攻撃を加えて行くと、ハウラスの体力も尽きて行ったようだ。

 レビルスには特に思うところはないようであっさりと止めを刺すと、僕が設定していた力が解除され、ブレンダとフェザリオの形をしていた異形の塊が崩れ去る。

 『これは、どういう事だ?』

 『結局最後まで動きませんでしたね。あれ』

 『これ見てください。内臓とか無いですよ。これではゴーレム、いえフレッシュゴーレムの一種なんじゃないですか?』

 『魔王が配置したにしては、動かなかったのが気になるな』

 あー、どうやら混乱させてしまったみたいだな。

 確かに魔王の為に置いてあったなんて、どう推理しても辿り着かない答えだろう。そう考えると別の敵の存在を疑っても、おかしくはない。

 まあいいか。どれだけ調べても、正解には辿り着かないだろうしね。

 それより魔王が倒れた今、今回の魔王騒動は終結だ。

 しばらくは世界全体での復興作業が続く事だろう。まあフォーレグス王国には関係がないけれどね。


 見るとレビルスも勇者としての使命を終え、報告の為に聖サフィアリア国へと帰るようだ。

 子供達は元ブロアド国にいる仲間達と合流したそうだったが、レビルスと一緒に勇者パーティとして付いて行く方針のようだな。そんな感じで今後の事をいろいろと話し合っているようだ。

 レビルスが言うには勇者パーティとして凱旋し、美味しいものでも食べようって話だがはっきりいって美味しいものが食べたいのなら、こっちに帰って来た方が美味しいものが食べられるだろう。その代わり名誉はないけれどね。

 それに今は難民が多いので、食糧事情が厳しいだろう。

 いや、さすがに勇者の凱旋だ。祝賀会くらいは贅沢に美味しい料理を振舞ったりするのかもしれないな。

 そう考えるとレビルスの話も、あながち嘘ではなさそうだな。

 しかし、転移を使わないで聖サフィアリア国まで移動しようとするのなら、一体何ヶ月かかるのだろうかね。

 そう考えると到着する頃には食糧事情も変わっていて、美味しいものがたらふく食べられるようになっているかもしれないな。彼の国がどれだけがんばるかによるのだけれどね。

 まあもう魔王関係者は残っていないのだ。のんびりとした旅気分でも味わうといいさ。


 魔王討伐が終わり、人間達が復興に力を入れるのは、レビルス達が凱旋を果たし世界中に情報が知れ渡った後だろう。

 そう考えると、一年以上復興が送れそうだなって考えていたのだが、どうやらサフィーリア神達がそれぞれの信徒に神託を下して既に知らせていたようだ。

 まあそうだよな。

 勇者の選定などや神託などを授けていたので、今後いろいろと指示など出したりするのだろう。

 復興自体、さっさと進めたいだろうしな。

 それに通信手段もない世界では、人間全体を上げて復興するのにはかなり時間がかかる。神が直接神託を下し、復興を始めよと言ってやるのがもっとも手っ取り早いのだろう。

 まあ人がいない場所では、アンデットが徘徊しているだろうがな。

 そう考えると、こっちもなるべく多くのアンデットを育ててやった方がいいのか?

 いや、そんなに戦力を増強しても仕方ないな。別に全世界相手に戦争する訳でもないのだし。

 今現在でも十分過ぎるほどの戦力を保有しているから、これ以上増えてもあまり違いはないだろう。


 神託が下された後、フォーレグス王国以外ではそれぞれ生き残った人間達による、復興作業が進んでいた。

 まずは人の集まっているところに家や畑などを作る作業だろうな。

 国として残っているところは、国内の再建や被害状況など、情報をメインに集めだしている。まず自分達の生活をって事だな。

 その為殆ど国外や、集落の外や町の外などには手を出していない状態だった。

 例外は戦闘能力のある冒険者達だろうか。周辺のアンデットを倒して回る作業を行っているらしい。

 野生動物などを狩って、肉などの食料を手に入れたいところだろうが、今は肝心の動物が見付けられない。まあその代わり山菜などの植物系の食材を探す依頼などがあるみたいだな。

 ちなみに動物は、アンデットから逃げて巣の奥で隠れていたり、弱い者は集まって外敵を倒したりしているようだ。

 だから姿は見えないが絶滅してしまった訳ではない。

 一時的に住処を追われているだけなので、アンデットを排除すればまた戻って来るだろう。

 まあそのアンデットを駆逐する方が大変だろうがな。

 何故かといえば、アンデットには動物型のやつも存在していて、世界中の何処にでも溢れている状態だからだ。スケルトンは見分けやすいがゾンビの場合、森などの障害物の多い場所では探すのも大変だ。

 ねずみやリスなど、上から落ちて来る事もあるしな。


 それよりもっと最悪なものでいえば、モンスターのアンデットだろうか。

 そうドラゴンゾンビやドラゴンスケルトンなども、存在しているみたいだ。

 早々全てのアンデットを駆逐できるとは思わない方がいいだろう。

 まあしかし、人里近くにいるアンデットなどは、低級のものばかりだからそこまで復興に影響はしない。

 もし上級のアンデットが出て来たのならば、レビルス達が呼ばれて討伐されたり、普通に上級冒険者が対処するだろうな。

 軍隊が残っていれば、軍で対処するのだろうが、再建しても直ぐ向かえるほど強くはない。

 おそらく軍隊の新規設立からやり直しになるので、ほぼ全員が訓練から鍛え直しになるのではないかな。その状態じゃあとても討伐には参加させられないだろう。

 やはり今は人の住む場所などの内側にしか、手を伸ばせない状態だろうな。


 改めて確認してみたところサフィーリア神達も、それぞれの神殿に神託を下して人間を導いているようだ。

 そういえば、僕も国外にごくわずかながらフォーレグス教の信者がいたな。異形は排除したが、アンデットの被害は受けていないだろうか?

 神の目で確認してみると、何処よりも復興が進んでいるようだった。

 影武者のクストルフと、僕の分身体が上手く立ち回ってくれているようだな。国内で品種改良された野菜など、農業を中心に十分自活して行けるまでに改善されていた。

 自警団もちゃんと出来ていて、僕達が手を出さなくても生活して行くだけなら何も問題はなさそうだな。

 問題が出て来るとするならば、外からやって来た人間がいちゃもんを付けて来た時だな。それまでは平和に過ごして行けるだろう。少し安心した。


 おや? 世界各地の様子を見ていると、身近なところで不穏なものが見えた。

 フォーレグス王国と同盟国を包む結界の側で、難民と思しき人々がこちらの様子を窺っているのだ。とはいっても人々が集まっている場所は大体限られている。

 フォーレグス王国との境界と、ドラグマイア国で境界まで発展している部分だ。つまり彼らが見ているのは、平和な暮らしをしている人々かな?

 これはおそらく自分達が苦しんでいる中で、平和そうに暮らしている人々や友好種を見て、嫉妬しているという事か。

 結界によって入って来られないから安全なのだが、そこには警備の為のアンデット達が立ち並び、国内に踏み込まないよう威圧しているのがわかる。

 しかしこれはちょっとまずい展開だな。魔王が倒れた今、異形に変わる者はもういないだろうが、言いがかりを付けてくる可能性がある。大体は結界に阻まれるので無視すれば平気なのだが、よからぬ事を考える連中が出て来たら面倒だ。

 結界を透明の状態から壁のような不透明なものに変える事で、一時的に中を窺えなくした。一時凌ぎでしかないだろうが、これ以上の不安材料は減らせるだろう。


 しばらく様子を見ていると、さすがに結界内を覗けないからか、立ち去る者もいるようだな。しかし、大半の者はそのまま結界近くに居付いている。

 ひょっとして物乞いみたいに、おこぼれでも狙っているのだろうか?

 そのまま待っていたとしても、ひもじい思いをするだけで、何も得るものはないと思うのだがな。

 そもそもこんな状況になる前は、友好種を見下している者達ばかりではないか。何故そんな人間が助けてもらえると考えるのだろう。

 都合が良過ぎると諦めるのが利口じゃないか? ああ、だから立ち去った者が少しいるが、大半の者はそんな事もわからないということかな。つくづく自分達に都合がいいように考えるやつらだ。

 どうせ助けても、時期に手のひらを返して侮辱して来るのだろう。

 僕は勇者ではないので、手助けはしないぞ。


 一通り見てみたが、国外の事は他の神々に任せておけば、おおむね問題なさそうだった。

 本当なら僕も信者獲得に乗り出せばいいところなのだが、どうにも人間の信者は好きになれない。あくまで一時的な信者って感じだろうな。

 何かあった時は頼られるのだろうが、平和な時は無視されるかあるいは疎まれる気がする。友好種達と同じだな。

 僕は元人間とはいえ、もう中身もモンスター側なので、何が何でも人間に味方したいとは思えない。だからなのか変わらず一緒に過ごす事が出来る友好種の仲間の方が大事だ。

 まあ彼らからすれば、僕の存在などあまり知らないのかもしれないがな。

 実際フォーレグス王国で最も信仰されている存在はホーラックスだ。次にビゼルかな。僕の存在なんて、ほんの一握りの者しか覚えていないだろう。

 だとしてもコロコロと信仰を変えたり、都合のいい時だけ頼ろうとする人間よりは、よっぽど信頼できる存在達だ。ああ、聖職者ならさすがにコロコロ信仰を変えたりはしなかったか。

 だが都合により祈る神を変える人間は多い。

 戦争なら戦いの神に祈り、結婚では愛の神に祈るなどだな。

 聖職者はさすがに祈る神を換えたりはしなくて、でも他の神にはそれなりの敬意を払っているところは見た事がある。

 そう考えると、聖職者まで行かなければ正式な信者ではないのかもしれないな。

 そりゃあ僕の神格が上がるのは、かなり大変だったはずだ。だって、僕に祈る人はいても信仰を変えた者などごく一部しかいないのだからな。

 やはり別世界で一から神として信仰された方が、効率はよさそうだ。

 信仰を集めるのなら、そっちの方が手間がかからなくていい。という訳でこの世界の人間から信仰されようとは考えなくていいだろうな。



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