魔王ハウラスとの激闘
『タリス、マイノトルは一緒に魔王を押さえてくれ。後ろの四天将は四人で各個撃破だ!』
戦いの流れが変わったのは、ここからだった。
今この段階になっても動く気配も無い四天将を先に倒す。普通ならば安全を優先して正しい選択かもしれない。
しかしその選択がハウラスの怒りを買ってしまったようだ。
ハウラスはレビルスと子供二人を相手にしつつも、魔法によって残り四人まで対象とした攻撃を加え始めた。今までのようなただ暴れる獣の戦いではなく、剣と魔法を織り交ぜた的確な攻撃によって、レビルス達は防戦一方へと追いやられる。
その攻撃は、盾役の二人がカバーに入ったとしても防ぎ切れない、苛烈なものとなっていた。
そう、剣で正面から攻撃しつつ、背後からも魔法攻撃が飛んで来るのだ。
だからといって二人で前後に別れて守ろうとも、今度は左右や上からあるいは意表を付いて下からと、子供達に休む暇を与えてはくれない。
レビルスもせめて剣撃ぐらいは防がなければと前に出ている為、子供達の面倒までは見られないようだった。
ちなみに剣は魔法で作り出した魔力の塊だな。魔法剣と呼んでもいいだろう。
それもあって、今までの獣っぽさが一切無くなり、歴戦の戦士のような雰囲気になっていた。
「押されてるね。ねえ、助けないの?」
「例えここで負けたとしても、助けに入る事はない。今回の戦いは勇者が負けたという結果が残るだけだ」
レビルスには悪いが、次の勇者が表れるのを待つしかない。
まあその場合、子供達にも被害が出るのだが、こればかりはどうしようもないだろう。
戦いなのだがら、必ずしも勇者が勝つなどという筋書きはないのだ。
出来ればやられる前に逃げて欲しいところだけれどね。
「ふーん。私なら勝てると思ったんだけどな」
「その場合はフォラウが次の魔王になって、いずれ勇者に殺される運命だがな。これは決められたシステムだ。だからお勧めはしないぞ」
「えー、そうなんだ」
フォラウは嫌そうにレビルス達を見守る。
どうやら子供達に感情移入し過ぎて、今すぐにでも助けたいって考えているようだな。
まあわからなくもない。
『くっ、一度立て直す。撤退!』
『『『了解!』』』
このままではヤバイと判断したのか、レビルスが逃げる事にしたようだ。
まだ被害は出ていないが、少しでも集中を切らせば誰が犠牲になるだろう。いい判断だ。
レビルスと盾二人の子供ががんばって、ハウラスの攻撃から皆を守りながら引いていく。もちろん被弾無しとはいかず、レビルスも攻撃を何度も受けながら少しずつ下がって行く。
幸いな事にハウラスはその場から動かなかった為、ある程度離れる事さえ出来れば、逃げる事自体は出来たようだ。
今まで順調だったのが嘘だったかのように、全員が等しく傷だらけで、中には重症の子もいた。
ハウラスからの攻撃範囲から脱した子供達が、次々と倒れ込んでヒーラーの子に治療されていた。
そこに周囲の異形討伐を担当していた子供達が集まり、慌てて救助作業を開始する。レビルス達の様子に、子供達は泣きそうになりながら治療していた。
おそらくなんだかんだあっても、勝って帰れるって考えていたのだろうな。
それなのに、レビルス達がボロボロになっている様子を見て、怖気付いたり急に怖くなったりしたのだろう。
『大丈夫だ、魔王は追って来ていない。一度キャンプを張って休憩しよう』
『うん』
最低限の治療を終え、レビルス達は離れた場所にキャンプを張り、今日はもう休む事にしたようだ。
勇者パーティが休憩に入ったので、こちらも同様自由時間となった。
まあ自由とはいっても、予定が無い者はアンデットを育てるのだがね。僕も次の千体を育てる為に、モンスターを召喚しまくってどんどん戦わせて行った。
リーダーとなる最上位アンデットを百体鍛え上げた後なので、細かな指示は必要としない。ただそれぞれに見合う敵を用意するだけでいいので、育てるとはいってもかなり楽になっている。
それはレイシア達も同じで、かなり慣れてきたのか育てる速度も上がってきていた。
フォラウなどは既に同時操作を覚え、複数のアンデットを同時に使ってダンジョン攻略をしている。
ビゼルと同じ方法だな。
そしてそのビゼルはフォラウと一緒に、アンデットを連れてダンジョンを巡っていた。おそらく一度育て終わったので、飽きたのだろう。ちまちました作業は得意ではないからな。
後はフォラウにダンジョン攻略の仕方など教えながら、一緒に遊んでいるのだろうな。
アンデットはまだまだいるのだが、別にこれ以上育てるよう強要はしなくてもいいか。元々ビゼル達にとっては暇潰しのお遊びだったのだから。
ビゼル達がチームを組ませ、ダンジョン攻略をしているのを見て、僕もチームを組ませて大物と戦わせる事にしてみた。
どちらにしても、警備ばかりが仕事ではない。状況によってはチームを組んで、ボスのような相手と戦う事もあるだろう。
いやないか? フォーレグス王国には、もうそれほど危険なモンスターは存在していないので、国内の羽目を外した大型種くらいしか機会はないかもしれない。
でも、何かをチーム単位でこなすっていうミッションならありえるかもしれないな。
そう考えると連携訓練とでも思って、試してみるのも悪くはない。
先に鍛えた百体のエリートのアンデット達にしても、こういう作戦で指揮する経験になるかもしれない。
今の状態はただ、レベルを上げただけに過ぎないからな。いろいろな経験を積ませて行こう。
手始めに動きが鈍く硬いけれど、あまり攻撃力の無い中ボス的なモンスターを召喚する。まあトレントなのだが、こいつなら複数で囲って戦えて、そこそこ固いので長持ちするのではないだろうか。
まあ攻撃力が弱めとはいってみたが、低位アンデットにしてみればかなりの難敵だ。エリート達がどう攻略するかも見てみようと考えている。
アンデット達も、今までとは違うモンスターが現れ、ちょっと動揺しているようだ。
ボスというか巨大な敵は今まで戦って来なかったので、いきなり実践で戦わせなくてよかったかもしれないな。
出来れば一体の犠牲も無く、無事に戦い抜いて欲しいものだ。
そんな事を考えつつ見ていると、少しずつ工夫するようになって来たかな?
上級アンデットのエリート達が隣のチームと手を組み、それぞれ入れ替わりサポートしながら戦うようになった。
エリートにもそれぞれ特性というものがある。
接近戦が得意な者や魔法が得意な者、回復や補助がメインな者。全員が全員、同じように戦う訳ではない。
それに人格を得たという事は、戦いがあまり得意ではない者も中にはいるのだ。そういう者はサポートの方が得意なので、正面からトレントと殴り合わせるのは苦手なのだろう。まあ本人は後ろで指揮をしているのだがね。
それでもやはり自分が得意ではないので、どうしてもサポート的な動きになってしまう。今鍛えている低級アンデット自体に知性があれば、また別なのだろうな。
まあそういう特性などがあるので、それを生かしたローテーションを組んで攻撃して行くよう動いていた。
あー、でもこれは新たなアンデットを育てているというよりは、エリートの技術というか戦略? 戦術や指揮みたいなものを鍛えているのであって、経験稼ぎではないな。
どう見ても確実に効率が落ちているだろうし。
知性があれば、例え経験稼ぎが少々遅れたとしても得るものがあるのだが、まだまだ後が支えている今だと悪手になるのだろうな。
後々チーム毎に鍛えるとして、次からはまた元に戻して効率よく鍛えて行こう。
方針を固めると、トレントを倒した者から順に元の一対一形式の召喚へと移行して行った。
それでもエリート達には刺激になったようで、こうして作業的に低級アンデット達を操作しながらも、今後の対策を考えるようになった。
よかった。まったくの無駄になった訳ではなかったようだ。
今は自分達の技術向上は後回しになるかもしれないが、それでもイメージトレーニング的なものは出来る。
後々同じようにトレントみたいな中ボス、いやボスと戦わせても、今回よりもっと上手く動けるようになっている事だろう。
普段から自分なりの戦術を考えておくのも、成長に繋がるからな。
機械の様にただ命令に従っているよりはずっといい。それが知性というものだろう。
その後は翌日になり、レビルス達が起き出して来るまでアンデット達を鍛えていた。レイシアとフォラウは寝ていたけれど。
そしてどうやら朝一で会議を開き、今後の予定を決めるみたいだな。
議題はこのままもう一度ハウラスを倒しに向かうか、一度戻って鍛え直すか。あるいは何かしら情報を探る、強行偵察をするかなどらしい。情報は大事だな。
「レビルス達は会議で今後の方針を決めるらしい。動きがあるまでもう少し時間があるぞ。一応昨日のテーブルで、レビルス達が見られるようにしておくので、見たい者は移動してくれ」
『了解しました』『はーい』
みんなに今現在の状況を知らせると、それぞれから返事が来た。
この様子だと、みんなアンデットを育てているようだな。動きがあれば、もう一度みんなに知らせよう。
『やはり、圧倒的に技術が足りていなかったな』
『はい、魔王はさすがに強かったですね』
こちらがアンデット達にモンスターを召喚していると、反省会というよりはまず感じたままの感想を言い合っていた。
しばらくは誰もが強かった、自分達では歯が立たないなど、ちょっと諦めモードといった落ち込んだ言葉ばかり口にしていた。
『だが、防御に専念すれば、しばらくは耐えられる程度だった。決して俺達が勝てない相手ではない』
『いや、それはアーゲルトだからだ。俺達じゃあまず持たないよ』
『ええそうね。でも初めはタリス、マイノトルでも押さえられていたじゃない。なんだか突然、強くなったように思ったわ』
『確かに急に暴れだしたように感じたな』
『あれじゃねぇ。魔王の後ろにいた人型の四天将を倒そうとしたら、暴れだしたんじゃねぇか?』
『暴れたというか、獣っぽさが抜けて、人間っぽくなったような?』
『ああ、確かにそれまで殴りかかって来ていたけど、急に剣を持って戦士みたいに攻撃して来たよな。いや、魔法も使っていたから魔法戦士?』
『そうだな。確かに危険分子を排除しようとしたら、急に人が変わったかのように的確な攻撃をして来るようになったな。なら一度、四天将には手を出さず、魔王だけに集中してみるか? 挟撃して来るようならタリスとマイノトルでそれぞれの四天将を押さえてほしい』
『無茶っぽいが、それしかないか?』
『任せろ! 少しの間なら、堪えてやるぜ!』
『じゃあ、魔王を先に倒し、四天将は後回しだ。無理そうなら一度撤退して、鍛え直そう』
『『『了解!』』』
どうやら強行偵察って感じで、次の作戦を決めたようだ。それぞれ準備を進めている。
「あー、再度強行偵察する事になったようだ。そろそろ集まった方がいいぞ」
『は~い』
みんなに状況を知らせ、僕も切りを付けて拠点へと戻る。
戻って来ると、そこにいたのは半数といったところか。仕事をしている者もいるので、全員がそろう事はないと思うが、前回いなかった者もいるようだ。交代で参加しているのかな?
まあただ、レビルス達を見守っているだけなので、重要な集まりではないのだがね。
ポツポツと集まって来る眷属達に、お茶とデザートを用意しつつ様子を窺う。
勇者パーティは予定通りいかなくて手間取ってしまったようだが、周囲に残った異形討伐を任された子供達は目標を達成できた。
そこで魔王との戦闘で子供達をどうするかも話し合われている。
さすがに異形相手に複数人で戦っていた子供達には荷が重いと判断され、帰還してもいいのではないかと言われていた。
まあ確かに、手伝える事とかもないだろうな。
あるとすれば、勇者達が帰って来なかった場合、勇者が負けたと知らせる役目か? 勝ち目がないのならレビルスも撤退した方がいいのだが一度は逃げられたのだ、上手く戦えば何とか倒せるだろう。
それよりろくに戦えない子供が参戦して、足を引っ張られる方が問題だ。という話になり、いざという時の連絡係に数人残して他の子供達は帰還する事になった。
まあ順当なところだろうな。
「再戦、始まるようね」
「だな。ろくに動いてもいない者に、手を出すから余計なリスクを背負い込む。ハウラスだけに集中しておけば、今頃は倒して凱旋していたかもしれないな」
「そうね」
レビルス達は再び進軍を開始、真っ直ぐハウラスだけを目指して戦闘を開始していた。
見学組もたぶん全員席に付き、のんびりとレビルス達の動きを見ている。
おそらく次こそ、余計な事などしないでまともに戦えるだろう。ただしその勝敗だけはまだどうなるか不明だ。
神の力を使えば、かなりの確率でどうなるかわかるのだが、それは確定した未来ではない。
つまり負ける未来もあるし、無事に倒せる未来もあるのだ。がんばって欲しいところだな。
レビルス達はハウラスをその視界に納めると、早速周りを囲うように展開した。まずは正面にレビルスが立ち、盾役の二人が左右へと向かう。
この時点ではハウラスも、ブレンダが襲われそうになった時のように、狂ったように襲っては来なかった。
しかしその手に魔力剣を生み出し、最初の獣のような戦闘スタイルではないみたいだ。ひょっとして知性が戻って来たのか?
そう考えハウラスの目を見てみたけれど、どうやら知性が戻った訳でも、知性が宿った訳でもなさそうだ。単純に新たな戦闘スタイルを獲得したといった方がいいかもしれないな。
他の四人が周囲に展開する少し前、ハウラスからの攻撃で戦闘は開始される。
もちろん今回はブレンダ達生き残りの四天将へは手出ししていない。なので、レビルス達は何とかハウラスと打ち合えているようだった。
ハウラスが振るう魔力剣をレビルスが受け流し、その他の者に撃ち出される魔法を二人の盾役が受けている。
『くっ、こいつ後ろにも目があるのか!』
背後に回って魔法攻撃しようとしていた子供が、逆に魔法で狙われて慌てて盾役の子がカバーに入る。
そして盾役の子が移動してしまった為、そこに開いた穴に打ち込まれた魔法が、ヒーラーの子へと向かって行った。
『間に合え!』
とっさに移動して、レビルスがカバーする。
ハウラスが放つ魔法攻撃は、威力もそうだがその速度もなかなかに速く、後衛の者には避けにくいのが厄介だ。万が一を考えて、レビルス達盾役がきっちりと防ぐ作戦みたいだな。
『散らばるな。俺達の背後から攻撃しろ!』
どうやら囲うと、自分達が不利になると判断して、作戦を変更するようだ。賢明だな。
せっかく盾役がいるのに、カバーしてもらえない位置に移動するのは、下策だろう。まあさすがに人型の相手なのに、死角である背後まで見えているように攻撃して来るとは考えていなかったのだろうがね。
これは野生の感なのだろうか? 人間だった時には見られなかった行動だ。
それとも修行して身に付けていたのかな?
わからないが、厄介さは伝わって来た。
配置を改め再度戦いに集中すると、一応戦いそのものは安定したものになる。
しかしスリートップで防御して、レビルスと後ろの四人で攻撃を仕掛けても、今のところ有効打を与えられていない。その代わりといってはなんだが、ギリギリ防衛には成功しているかな。
「あっ、危ない、そこはもっと素早く懐に潜り込んで。いやもっと積極的に!」
「駄目駄目、そんなんじゃ、ハウラス相手に通じないよう~」
徐々に見ているこちらもハラハラして、思わず口出ししたくなって来るようだな。
当然ながらこちらの会話は向こうには聞こえていないので、ここでいろいろ言ったところで意味はない。落ち着かせる為にモルモに頼んで、デザートを出してもらう。
それで女性陣は大人しくなったが、男性陣は戦いが気になってデザートどころではない様子だった。
「例え負けても、手出しはしないからな?」
「「「はい」」」
一応釘をさしておくが、それはみんなわかっていたようだな。それなら結構。
僕も再び闘いに目を向ける。
盾役の子供二人は完全に防御オンリーになり、レビルスが何とか食らい付いている感じかな。それをサポートしつつ攻撃に参加している四人だが、あまり効果が出ているとは言いがたい。
かなり厳しそうな戦いが続いている。
前の獣のようなハウラスなら、ほぼ勝ちは確定していたと言ってもいいのだろう。しかし現状、魔力剣を手にしたハウラスはもう、レビルスが相手に出来るようなレベルではなくなっているようだ。
かといって、レビルスはダンジョンでの修行で人間の限界レベルまで強くなってしまっていた。
つまりこれ以上強くはなれないのだ。
まあ技術面は強く慣れるけれどね。そっちはレベルと違って最短ルートが無い、時間による研鑚が必要になってくる。一朝一夕には手に入らないものなのだ。
こうなって来ると、レビルス達に勝ち目がは無いだろうな。
後は装備か?
それこそ今のレビルス達ではどうにもならないだろう。職人ではないからな。
しかもただの装備を作るだけでは意味が無い。ギミックとまでいかないが、特殊効果が付いた魔法剣の類が必要になってくる。
並みの鍛冶士などでは頼んでも意味がないだろう。
まあ僕達なら何かしら作れると思うが、そこまで人類の味方をする必要を感じない。だってハウラスは、あの場から動かないのだからな。
手出ししないのであれば、異形を増やすくらいの厄介さだ。
その状況ならフォーレグス王国で困る者はいないだろう。
しばらくにっちもさっちもいかない攻防戦が続く。
見学しているみんなも、段々打つ手が無くなっていく様子を見て、半分諦めムードになっていた。
だからなのかお茶を飲み、デザートを食べ周りの者と雑談をして寛いでいる者もいる。そして思い出したかのように横目で状況を確認する。
フォラウなんて自分があの場にいれば、余裕なのにって言っていた。
まあここに集まった者は、誰でも余裕で倒せるだろう。でもそれをすれば次の魔王は僕の眷属達だ。それは許容できない。
自分達で生み出した魔王は、自分達で始末してもらわなければな。
ああいや、生み出したのは僕か?
ハウラスが人間だった頃、確かに鍛えたのだからな。そう考えると責任の一端はあるのかもしれないが、まあシステムとはいえ魔王化したのは人間達の責任だと考えられる。
だから責任の一端はあれど、それを背負う事はしない。
次の勇者であるレビルスを鍛え、世界中の被害を少しだけ防いだりしたのだから、十分人類の味方はしたよな。
うん、僕は十分責任を果たした。後は人間達で勝手にしてもらおう。
『アーゲルト、どうする?』
『俺達は魔王に勝てるのか?』
レビルス達も、疲れ知らずなハウラスを相手して弱気になって来ていた。これはいよいよって感じだな。
『いやまだだ、まだ諦めるには早い!』
どうやらある程度、捨て身の攻撃をする事にしたようだな。確かにこのままではどの道近い将来、疲労で動けなくなる。
ならばある程度捨て身になって、短期決戦というのも納得出来る。
パーティの子供達もレビルスの気迫を感じたのか、攻撃を激しくしていった。
まあそのおかげで被弾が増え、ヒーラーの子が忙しくなったので、ヒーラーの子は攻撃に参加できなくなっていたのだがな。
結果的には一人分の攻撃が減った事を考えても、全体では攻撃力が増加といった感じだろう。
これで少しは食らい付けるといいのだが、果たして有効打は入れられるのだろうか?
さっきまでとは違い、少しならダメージを与えているように見受けられる。
しかしレビルス自身もダメージを食らっているので、押されているのはレビルスといっていいだろうな。何といっても、ハウラスは魔王化した事によって、疲れ知らずなのだ。
長引けば当然、ハウラスが有利になって行くだろう。だから短期決戦なのだろうがな。
だがダメージを蓄積できてはいても、有効打が決まらなければ持久戦になる。
それでは徐々にレビルス達が押され、やがてはやられるのだろう。さあどうする?
『マイノトル剣を貸せ! お前は防御に専念だ』
『わかった!』
ふむ。どうやら手数を増やす作戦に出たようだ。
確かに盾役の二人が攻撃をしても、そこまでたいした効果は得られていない。ならばその武器を借りて二刀流になれば、手数は増えるだろうし戦力はそこまで低下しないだろうな。
でもレビルスは利き手でない武器を扱い切れるのか?
「なあレイシア。レビルスに二刀流は教えたのか?」
「いえ教えていないわね。独学で訓練したのか、見よう見真似じゃないかな?」
「こんな土壇場で、そんな付け焼刃が通用するのかね」
「何かしら、状況を変える必要があったのだわ。そう考えると、あながち間違いではないのだわ」
なるほど。ビゼルからすれば、これも有りといったところなのか。
じゃあ上手く切り抜けてもらいたいところだな。
おーおー、付け焼刃かと思っていたら、結構様になっているではないか。
かなり筋力に頼った力推しなのだが、ぱっと見連続攻撃にちゃんとなっているようだ。おかげ後ろにいる子供への魔法攻撃が、まばらになっている。
盾役の二人への攻撃もかなり減って、武器を失った子だけが全力防御で防ぎ切れるようになった。あいた一人は当然攻撃に参加だろうな。
この結果によってパワーバランスはすっかり変わり、勇者パーティ全体にわずかながら余裕が見え始めた。
とはいえ、まともにダメージを与えられているのは、やはりというかレビルスだけなのだがね。
まず盾役をしていた子供の攻撃は、元々そこまで攻撃に重点を置いていなかったのか、かすり傷程度のダメージしか与えられていなくてハウラスもほぼ無視状態だ。
武器が悪いとかそういう話しではなく、攻撃に力が入っていないようだな。これは技術が足りていないのだろう。
そもそも武器自体はみんな同じフォーレグス王国の新素材で、成長する武器なのだ。見劣りするものではない。
あーいや、成長する武器だから見劣りしているのかもしれないな。
つまり守ってばかりだと盾は成長して行くだろうが、武器は補助的な扱いになっているのかもしれない。
それだけメインアタッカーとの差が広がり、雑魚なら倒せるがボスには効きにくくなっているのだろう。単純に役割通り行動し過ぎた弊害なのだろうね。
次にアタッカーの攻撃だが、これはさすがに無防備に当たれば痛いのか、回避や受け流しで捌かれている。
レビルスと連携して当てられればそれなりのダメージを与えられるのだろうが、ハウラスの方が一枚上手なのだろう。安易に連携させてもらえていないようだった。
先程から連携しようとする度に、タイミングをずらされている。おかげでハウラスは致命傷を受けずに済んでいた。
まあ多少の無理はしているようで、細かいダメージを受けているが、持久戦に持ち込めるのなら有効な戦い方だろう。
ちなみに今のままレビルスが戦い続けられるのなら、勇者パーティにも持久戦が続けられると思う。
先程までと状況が違うからな。
次に魔法アタッカーだが、こちらはハウラスの魔法攻撃と相殺されており、めったにダメージになっていない。
完全に完封されている状態だ。
かといって手を止めれば魔法攻撃で自分達がやられる。そんな状況なので、無駄とわかっていても魔法攻撃を続けるしかない状況のようだ。続けばいずれ魔力が尽きるだろう。
ハウラスが範囲魔法攻撃をして来たらやばいのではないかと考えていたのだが、今のところ使って来る様子はない。使えないのか?
手加減する理由は無いので、何か考えがあるのかと思うが、そんな知能があるとも思えないのでよくわからない。
まあダメージに繋がっていないという事だけわかれば、状況としてわかりやすい。何とかここをクリアしてダメージに繋げて欲しいところだな。
『マイノトル信じてますよ!』
しばらく膠着状態が続くと、ヒーラーの子が何か始めたようだ。
どうやら何かしらの奇跡の力を使い、パーティの底上げをするバフを使ったみたいだな。その代わり自分は祈り続けなければいけなくなり、その場に釘付けとなるようだ。
賭けに出るにはそれなりの効果でなければ意味がない。さてさてこれがいい結果に結び付くかどうか、見ものだぞ。
一つ言える事はヒーラーが回復を放棄したに等しくなった為、彼らは下手にダメージを負う事ができなくなった。魔王相手にこのハンデはかなりきついだろう。
しかしダラダラとやっていては、どの道継続戦闘力で負ける。
少なくともそのまま戦うよりはいい判断だったと言えなくもない。
レビルスは底上げの奇跡を上手く活用できていそうだな。他のメンバーは、そこそこだがまだ生かし切るには足りない。
しかしレビルスが押しているおかげで、ハウラスからの魔法攻撃は散発的なものとなり、魔法攻撃を当てる事が可能になったのだが、致命傷には至っていないようだな。
それは本人も理解しているようだ。しかしそこからハウラスを妨害しつつダメージを与える魔法、氷系統の魔法を使いだした。
これにより少し動きが鈍くなったように見える。
そこから少し流れが変わっていった。
全員が全員、ほぼ捨て身の攻撃を繰り出し、ハウラスを圧倒していく。しかしそのどれもがいずれも致命傷にはなっていない。
それでもダメージ自体はかなりでかく、いくら魔王化したハウラスでも動きを鈍くして行った。
そうなって来ると、レビルスの攻撃も今までのような捨て身のものから、致命傷を与えるような力のこもったものに変わる。
たまに大振り過ぎるだろうという攻撃も、アタッカーとの連携が上手くいきハウラスに対処させないまま当て、レビルス達の勝利は近いのだと思わされる。
だが腐っても魔王。それが隙となって悲劇を呼んでしまった。
アタッカーの一人と連携後、大振りの大ダメージが決まった事で油断した隙を突き、左手にレイピアのような魔力剣を生み出したハウラスの攻撃が、姿勢を崩していたアタッカーの子に突き刺さったのだ。
『アラギ!』
助けようと放ったレビルスの攻撃が決まり、ハウラスの左手を切断する。
しかしレビルスがアタッカーの子を見た時にはもう、手遅れである事が理解できてしまった。隙を突かれ放たれた攻撃は、アラギと呼ばれた子供の心臓を打ち抜かれていたのだ。
致命の一撃。
それはもう死亡が確定したダメージで、いかなる回復魔法でも手遅れである事を理解させられた。




