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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
終章  神が暮らす星
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スケルトンの成長

 今回のアンデット騒ぎで生き残った人間達も、ある程度の集団を作ってまとまる要因になったようだ。

 そこで新たな集団生活が始まり、秩序が生まれ始めている。

 生き残っている国はそのまま復興作業に、国が無い集団は国の雛形が出来つつあるようだ。

 こうしてみると、今回の魔王出現はかなりの被害をもたらしたといってもいいだろうな。

 世界全体で、人間の総人口が一気に激減してしまったのだから。史上最悪の魔王と呼ばれる未来は確定しているようなものだ。

 そのハウラスは悪霊群がいた場所に留まっている。

 いやこれはブレンダのいる場所にと言った方がいいのかな? そう考えると、密かに好きだったのかもしれないな。

 だからブレンダが倒された時に暴走したとか?

 もう知性も残っていないので、確かめる術は無いだろう。

 大人しくしているのなら、後はレビルス達が鍛え終わるのを待って討伐されるのを待つだけだ。


 トールティの様子を窺うと、どうやら無事支配下に置かれたアンデット達を、順調に鍛え上げているところだった。

 何故かその場にフォラウも一緒にいて、アンデットが経験集めをしているのを見ているようだ。

 ひょっとして手伝いたいのか?

 転移で移動して、聞いてみるとするかな。

 「フォラウ。こんなところでどうした?」

 「あ、父様。私もスケルトンを育てたいなって」

 どうやらペット感覚のようだ。対象が可愛くはないが、まあアンデットはこれでもかってくらい多いので、暇潰しに任せてみてもいいのかな?

 知性が宿ったら従者になるかもしれないしな。護衛は必要ないが、そういうのもいていいかもしれないな。

 「そうだな。やりたいのならやってみるといい」

 「ありがとう父様! トールティお兄ちゃん、私にもやらせて!」

 トールティが確認の為かこちらを窺って来たので頷いておいた。上手くすれば使役系のスキルとか、覚えるかもしれないしな。やらせてみても損はないだろう。


 一緒に付いて来たビフィーヌと、何処から嗅ぎ付けて来たのかイベント事に参加しようとレイシア達が転移して来た。

 まあ別に断る事もないので、せっかくだからみんなでそれぞれアンデットを育ててみる事にしよう。

 「それで何体くらい育てるの? 百体とかそんな感じ?」

 「それって自分の部下にするのか? まあそれはそれで別に構わないが、知性を得たやつが思い通りに動くとは限らないぞ」

 知性が宿るとは自分の意思があるという事だ。何かしら契約で縛っていないのなら、自由意志があるだろう。

 下手をすると反乱されるかもしれないのが心配なところだろうな。制圧するだけだが。

 手始めに、まず先に少数のエリート部下が欲しいところだろう。その後まだ育てるのならそのエリートを含め育て上げ、そのエリートの配下として登用すればいい気がする。

 まあ逆らったらトールティに何とかしてもらえばいいかもな。危険思想が無いのなら、普通に住民にしてもいいし。

 そこはどんな人格になるか次第だ。

 危なそうならそれこそトールティの元、強制的に支配してもらうだけだ。せっかく育てて排除は勿体無いからな。


 「初めだからまず少数で行こう。一体から十体くらいがいいのではないか?」

 「そうね。じゃあ私は十体くらい育ててみようかな」

 ふむ、レイシアは手馴れていそうだから問題ないだろうな。

 「わらわも十体でいいわ」

 ビゼルも特に問題は起こらないだろう。というか、ビゼルの場合は十体とも人格に問題があったとしても、余裕で支配できるだろう。魔王だしな。

 「えっと、じゃあ私も十体にしようかな」

 フォラウはビゼルの真似をして、十体にするようだ。別に一体でもいいのだがな。

 まあ本人もいろいろ試したい事があるだろうし、がんばってみるといい。

 「では皆さん十体ずつでしょうかね」

 ビフィーヌがそう言うので、みんな同じ条件で育ててみる事にしようかね。だからといって競争とかそういうものでもないのだが、何となく比較されそうで後が怖いな。

 「わかった、だがこれは暇潰しなだけで、競争ではない事を覚えておくように。後で比較して騒ぐなよ?」

 「「「はーい」」」

 一応釘をさしておいたので、これで大丈夫だろう。


 さてと、トールティばかりに任せっぱなしには出来ないだろう。さすがに数が多くて彼だけでは時間がかかり過ぎるしな。

 いや別に急いでいる訳ではないのだが、仕事の負担は出来る限り減らしておきたい。

 まあそんな訳で、僕はまとめて百体くらい育ててみるかな。一応みんなに文句を言われないように、こっそりと育てよう。

 トールティがアンデットを支配できるように、僕もこいつらを支配して命令する事が出来る。

 そしてスケルトンにも倒せる強さのモンスターを召喚し、ぶつけて倒すよう命令していった。こうすれば別にダンジョンでなくても鍛える事は可能なのだ。

 百体のスケルトンそれぞれの前に、弱めのモンスターを召喚しては倒させる。倒したらまた召喚と繰り返して進化可能なレベルまで経験を稼がせていった。


 何匹かのモンスターを倒すと、ポツポツとレベルが上がる者が出て来たので、能力の上昇具合から今後の成長先を決めていく。

 力が高いやつには斧やハンマーなどの武器を持たせ、耐久力があるやつは盾と片手剣を、敏捷が高いやつには短剣を両手に持たせたり小さな盾を持たせたりした。他にも器用なやつには弓、知力や精神が高い者には杖を持たせる。

 まあさすがに知力があっても知恵がないので魔法自体使ったりはしないようだが、いずれ魔法が使えるようになれば杖で敵をさばいたりするようになるはずだ。自衛手段だな。

 まあとにかく上昇した能力に合わせた装備を与え、更に経験を稼がせていく。

 細かく指示を出していき、モンスターも徐々に強くしていく事で、面白いほど経験が稼げる。

 でもってあっという間にレベルが三十を超えたのだが、ここで進化先がいろいろと増えているのがわかった。まあそれぞれ与えられた武器に特化した種族だな。狙っていたものなのでそこは特に驚くような事もない。

 ただ、普通に進化させるというのも味気ないかなって考えてしまったのだ。

 曲がりなりにも神となった僕が自ら鍛え上げたのに、進化先がただのスケルトンウォーリアなどとかでは、意外性がないと思わないか?

 もっと変わった進化というか、特殊な進化をしてもらいたくなったのだ。進化する本人は嫌かもしれないがな。

 だが、まだ知性の兆しが見られていないから別にいいじゃないか。何に進化したいのか決めようにも、本人の意思が無いしな。それならば上位者として僕が選ぼう。


 まずは実験として一体のスケルトンに対し、魔力を浸透させていく。本当は神気でも浴びせて、ゴッドスケルトン的な進化先が出て来ないか見てみたいのだが、それはアンデットにとって致命的な弱点だから止めた。

 そこで時点として魔力を浸透させて見る事にしたのだ。

 これで多少でも聖属性への耐性を得てもらえれば、新たな進化への道が開けそうな気がする。

 そして思っていた通り、まあ聖属性じゃなくて魔法への耐性を獲得したようだ。それでも弱点だから他の属性より抵抗が低いようだが、ある程度持ち応える事が出来るようになったみたいだ。

 では続けて神気を薄めて浴びさせていこう。

 すると、徐々にダメージを受けて、骨が崩れそうになる。しかし、一気に崩れないのでまだ回復すれば耐えられるだろう。

 神気と同時に魔力を注入して、自己再生能力を活性化させて崩壊を止める事にした。

 これは何となく強いスケルトンが誕生する予感がする。

 反抗しない事を願おう。


 一体目が崩れる事無く神気を受け入れ始めた為、他のスケルトン達にも同じ処置をしていく。

 ここは一番大事なところなので、じっくりと進めていたら何日か経過していた。

 しかしそのおかげで、一回目の進化先は全て特殊なスケルトンへの進化に変わったので、達成感を感じる。それぞれ専門の武器を持ったゴッドスケルトンへと進化したのだ。

 嬉しい誤算は、持っていた適当な武器も神気を浴びて、スケルトンと一緒に変化した事だろう。

 つまりこいつらは、武器もセットのモンスターになったのだ。

 でも自我はまだ目覚めていないようだな。それはこれからに期待といったところだろう。

 とりあえず次の進化を目指し、新たにモンスターを召喚してぶつけていく事にした。


 さてみんなはどうだろうか?

 レイシアとフォラウは慣れていないので、選んだ十体の中の一体ずつをモンスターと戦わせて鍛えている様子だな。

 ビゼルは一度に十体のスケルトンを操作して、ダンジョン攻略させているみたいだ。こっちは支配する事に慣れているようで、上手くチーム戦をして育てている。

 ただ、スケルトンがあまりにも弱過ぎて、ちょっと困っているようだった。慎重に動かさなければ、スケルトンが倒されてしまう。だからといってチマチマやっていたのでは、なかなか成長してくれない。

 そんなジレンマを抱えて苦悩しているようだった。

 ビフィーヌは、さすがに僕の側にいて経験値になるモンスターがいない為、みんなと一緒にダンジョンへ行っていた。

 そこで五体ずつの二チームに別けて操作し、ダンジョン内を歩き回っている。

 ビゼルと違ってこつこつと経験を稼いでいるので、案外早く育つかもしれないな。まあ後はどれだけの時間潜っているかってところだろう。

 テッシーや他の眷属は、特に参加していないのでレイシア達を見守っていたり、レビルス達の状況確認などをしているようだ。これは助かるな。

 ついでに見ておくか。

 レビルス達勇者パーティは順調にダンジョンを攻略中で、後一ヶ月もしたら出て来そうな感じだな。

 そして魔王周辺にいる異形達はその数を大幅に減らし、このまま倒して行けば終わりが見えて来そうといった雰囲気だろう。まあそれでも結構な数が残っているようだが、それも勇者が参加すれば解決しそうだった。

 何処も順調のようで何よりだ。


 それではスケルトン達を鍛えて行こう。

 もう一回目の進化でベテラン冒険者みたいに強くなっているけれど、まだまだこれから強くなりそうだ。

 後特殊進化をしたけれど、この先もいろいろと進化先があって楽しいのだ。まあ普通にアチャーとかナイトとかそういった職業が付く感じだけれどね。

 ちなみに特殊なのはゴッドスケルトンという種族で、魔法には全属性に適正があり弱点が消えた。逆に聖属性には適正が出来た為、アンデットなのに神官になる事も出来るみたい。

 魔法に適正がありそうな精神が高いスケルトンが、ゴッドスケルトンヒーラーに進化していた。

 これで知性が芽生えてくれれば後は楽に経験値稼ぎが出来るのだが、まだその兆しが無い為こちらで操作してやらなければいけない。いや、信仰に目覚めたのなら知性があるのか? 見た感じ、それらしいものが見られないのだが・・・・・・

 もう少し様子を見たほうがいいかもしれないな。

 こちらで指示しないと自発的に動いてくれないおかげで、レイシアとフォラウが苦労しているようだな。まあじっくりとやればいいけれどね。

 一応レイシアは召喚したり指示を出したりといった事にある程度慣れているのだが、スケルトンと違って指示すれば勝手に動いてくれていたからな。でもこのスケルトン達はまだ知性が宿っていないから、細かい指示を与えないと単調な動きしかしてくれないのだ。それでは死にやすく、敵を倒しにくいだろう。

 現時点では機械的に動いているだけなので、これでは物量で攻めるのでもなければなかなか相手を倒せない。

 そうなると相手に合わせ細かい指示を毎回出さなければいけないので、不慣れな者には難しい作業になるだろうな。

 フォラウにとってはその不便さが楽しいようだがな。


 レビルス達がダンジョンから出て来るまでの一ヶ月、僕達はアンデットを育てながら過ごしていた。

 その間十分な時間があったので、レイシアとフォラウ以外のみんなは大体アンデットを育て終わっていた。あ、トールティの場合は第一陣が終わったので、次のアンデットを育て始めたところだ。

 そして肝心の知性はというと、僕が育てた百体は全員知性を得て、自我を芽生えさせる事に成功した。トールティもそうなのだが、第一陣で知性が芽生えた者が部下のスケルトンを育てる事によって、一気に成育数を加速させていた。

 僕の育てたスケルトンも、今現在アンデット達をそれぞれ十体率いて育てている最中だ。

 これで僕が千体、トールティは一万体を一気に鍛え上げる事が出来る。

 ちなみに最後まで知性が芽生えなかったアンデットももちろん存在している。そんな者達は、トールティが引き取って警備員としてあちこちに派遣されて行く予定になっていた。

 ビゼル達が手放せばの話だがね。

 どうやら自分で育てた事で愛着が湧き、知性が芽生えなくても引き取りたいと考えているようなのだ。まあそれならそれでいいが、そこは本人達次第だろうな。

 育てているスケルトンはまだまだ一杯いるのだ。わざわざビゼル達から取り上げる必要もないだろう。

 何ならまだ接触していないアンデットも世界各地にはいるのだし、集めて来ても構わないのだ。補充ならいくらでも出来るので、本人達が欲しいと言うのなら好きにさせておこう。


 さてさて一方のレビルスの方はというと、ちょうどダンジョンから出て来たところだ。

 これからどう行動するのか気になるところだが、一度近くの町に寄って休憩し、難民の子供達と合流して魔王討伐の計画を立てようと話しているようだな。

 そういえば、最初にレビルスに付いて行ったパーティのメンバーは八人いたのだが、今現在は六人しかいない。

 それでも将来四天将になるには人数が多いのだが、減った二人はひょっとして死んだのか?

 多目的シートでそこら辺りの情報を確認してみると、どうやら相性が悪いという事で、難民の子供達と合流して活動しているようだった。

 新しくできた一チームの中にその二人がいるみたいだな。

 なるほど、即戦力で戦えるはずだ。ではこのままがんばって行ってもらおう。

 眷族に指示を出し、魔王討伐関係者に一度集まるよう伝言を頼む。

 まあそういう裏方の部分は干渉するが、実際の戦いには手を出さないのだがな。何とか自力で解決してもらいたいところだ。


 レビルスがこちらに帰って来る前に、休憩している町の方に難民の子供達を送り付けると、彼らは驚きつつも魔王討伐の作戦会議を始めた。

 まずは現状報告として、周囲に集まっている異形の状況を報告している。

 今ハウラス達魔王がいる場所は、かつて魔王城があった場所の東にある荒地。当時魔王軍と人類軍が衝突した事で、草も生えないような場所に変わってしまった、微妙に瘴気の霧が発生している場所だった。

 そこにちょっと前に現れた闇の渦があった場所にハウラスと四天将がいて、半径五キロくらい空けて異形達が集まっている。

 その異形達も、今では数千体といったところかな? これでもかなり少なくなった方なのだ。何万体もいないだけ終わりは見えているだろう。

 そんな状況を、子供達はレビルス達に報告していた。


 次に状況を把握したレビルスが、簡単な地理を紙に書き込んで簡易地図を作っているようだ。そこに報告で得た情報を書き込み、そして改めて作戦を考えて行く。

 まずは異形を更に倒して数を減らすと宣言。レビルスの計画では百体くらいまでは減らしたいらしいな。

 それくらいになれば、背後を気にせず戦えるのだそうだ。

 そしてそれくらいまで減らしたら、レビルス達メインパーティでハウラスに戦いを挑む。

 魔王の強さでどう戦うかが変わって来るが、基本はレビルスが魔王を引き付けている間に皆が四天将を排除する。

 実力差次第では、レビルスが魔王と他の四天将を一人とか二人押さえ、他のメンバーの総攻撃で各個撃破していく作戦のようだ。

 複数パターンの作戦を考えているあたり、自分の力を過信し過ぎたりはしていないようだな。

 結局最後は臨機応変に行こうと締めくくり、彼らは移動を開始した。

 臨機応変。大事だよな。

 とりあえずお手並み拝見といこうか。


 魔王のいる場所までかなり離れているので、今回は転移で彼らを送り込む。

 本来なら馬車などに乗って移動するのだろうが、そんな事をしていたら何ヶ月かかるかわかったものではない。後移動中こっちが暇過ぎるので、とっとと現場へと送り込んでやった。

 面倒事はさっさと終わらせてもらいたいものだしね。

 そしてまずは周囲の異形を倒すべく、煙幕作戦が開始される。

 これ自体は慣れたもので、そこに勇者パーティが参加している事もあり、サクサクと倒されていく。

 前は煙幕を準備したら後は見ているだけか、魔法などの遠距離攻撃を仕掛けるだけだった子供達も、今では立派な戦力として戦闘に参加していた。

 まあ相変わらずの数の暴力だけれどね。

 そんな感じで数日戦い続けていくと、レビルスが計画していたように、異形の数が大体百辺りまで減ってきたようだ。

 『よし、そろそろ大元を倒すぞ! 俺に続け!』

 『『『おー!』』』

 いよいよラストバトルが開始されそうだ。


 「バグ。お茶の準備が出来たみたいよ。またみんなに見られるようにしてね」

 「ああ、わかった」

 レビルス達の活躍を見ようと、拠点ではお茶にデザートを用意して観戦できる準備を整える。なんやかんやで眷属やマジカルドール達もアンデット達を育てるのに参加するようになったのだが、作業を一時中断して集まって来た。

 観戦者がちょっと多いので口の字にテーブルを並べ、口の中にレビルス達の勇士が見られるよう立体映像を映し出す。

 これで後は戦いが始まるのを待つばかりになった。

 「鉄板焼き入りますー」

 おや、レビルス達がハウラスのいる方へと移動し始めたのをのんびりと見ていたら、どうやらお昼になっていたようだ。

 モルモとどうやら手伝っていた他の料理担当マジカルドールが、鉄板で焼かれたステーキを持ってやって来たようだ。そういえばレビルス達はご飯抜きなのだな。ご苦労様だ。


 僕達が食事を終える頃、レビルス達がハウラスの元に辿り着き、ハウラスと四天将が子供達を確認。襲い掛かろうとしていた。タイミングばっちりだったな。

 『魔王は抑える、お前達は取り巻きを倒してくれ!』

 『『『わかりました!』』』

 レビルスの指示で子供達は別れ、まずは四天将の生き残りのランドルから仕留めるようだな。シリウスは二人で抑え、残りの四人でランドルを総攻撃していた。

 レベルを見ると、レビルスは防御に徹していればかなりの時間持ち応えられそうな感じで、パーティの子供達はお互いにカバーし合えばそこそこ戦えるといった感じだろうか。

 まあそれも魔王達が理知的に行動しないからだろう。知性を完全に失い、獣のように攻撃を仕掛けている。

 それをレビルスと、シリウス担当の二人が上手く受け流していく。

 一方ランドルに攻撃を仕掛ける子供達は、入れ替わり立ち代り、周囲を囲いつつチクチクとダメージを与えている感じか。

 この調子なら時間がかかりそうだな。盾役のレビルスはともかく、シリウスを担当している二人が心配になる。

 これは厳しいか? そう考えていると、四人の子供達は相手の機動力を奪うように足に攻撃を集中させ始めた。

 攻撃力が足りていないと判断し、相手の弱体化を考えたか。通用するようなら何とか倒せるだろう。がんばれ。


 「何だかじれったいね。戦いに参加したくなっちゃうよ」

 「そうだな。だがこれは彼ら人間達の戦いだ。自分達の事は自分達で決着をつけないといけない」

 「わかっているんだけど、なんかムズムズするの」

 フォラウがチクチクとダメージを与える四人を見て、ウズウズしているようだ。

 まあわからなくはないのだが、フォラウを魔王システムの犠牲にするのは嫌だからな。ああ、昔のレイシアが味わった苦痛も、こんな感じだったのかもしれないな。今更だが理解できた。

 「どちらにしろ、人間ならあれくらいのダメージが限界だろう。あれでも人間にしては最上位の攻撃なのだぞ」

 「そうなんだ。人間って弱いんだね」

 「まあな。だが限界を超えればもう少し強くはなるがな。果たしてそれは人間と呼べるのかどうか。強くなった人間はもう別の種族なのだろうな」

 「じゃあ人間は弱いままなの?」

 「まあな。だからこそ知恵を絞って補うのが人間達だ。数で押すのか装備を充実させるのか。相手の弱点を調べつくして、そこを攻撃するのか。まあやれる事はいろいろある。人間はそうやって危機を乗り越えていくのだ」

 まあ最終手段は神頼みだけれどな。

 それか他力本願で、異世界から勇者を召喚するっていうのもあるか。これは迷惑だから止めてほしいな。


 しばらく見ていると、四方八方からの攻撃に晒され、ランドルの手足はずたずたにされた。昔なら盾を使いこなし、的確に受け流した攻撃も、知性を失い獣に成り果てたランドルには回避きれなかったようだな。

 それでも暴れる手足に当たれば、子供達にとっては致命傷になりそうなほど攻撃力は高い。実際にランドルの周りは誤爆した攻撃によって、ずたずたにされた地面がそれを証明している。

 まあそれも今では動きも鈍り、当たる事はないだろう。油断と余所見をしなければだがな。

 それでもたまに攻撃がかする事はある。それをヒーラーがちゃんと回復してサポートしているので、安定して攻撃し続ける事が出来ていた。

 後、武具の存在もかなり大きいだろうな。

 見ていると人間のレベルだけ上げた状態では、殆どダメージにならない気がする。魔法でも少し威力は足りていないだろう。

 威力を増幅して最低限ってところか。

 しかしだからと強い装備を渡したら、装備の力だけでゴリ押しするようになりそうだ。それでは人間の力で立ち向かって倒した事にはならないだろう。

 後、自分の力と勘違いして、驕り落ちぶれる可能性も高くなるしな。

 やはり相応しい装備を手に入れるというのが一番いいのだろう。


 そういえば今代の勇者は聖剣を持っていないが、それはシステム的にいいのだろうか? 一応聖剣に匹敵する武器を与えてはいるのだが、あれが無いから倒せないとかないよな?

 むー、大丈夫そうだな。

 誰も聖剣の話をしていなかったけれど、今どこにあるのだろう?

 勇者といえば聖剣だと思ったのだが、その割には教会などに置いてなかったし、どこにあるみたいな情報も伝わっていなかったようだ。

 ハウラスめ、どこかに隠したな。

 そんなに勇者に勝たせたくなかったのか? 魔王システムなんてものを知ったのなら、それもありえない訳ではないが。

 ある意味聖剣なんて物に頼らなくても、システム自体は変わる事無く続いてくのだぞ。

 遠まわしな人類殲滅計画だったりしてな。

 いや、この考え方は僕ならではだな。ハウラスには似合わない。

 そう考えると、どこかで情報が断絶して忘れ去られただけかもしれないか。


 今更必要性を感じないが、気になったので聖剣の所在地を確認してみる。

 するとどうやらハウラスの生まれ故郷の近く。森の中に出来た泉の底に突き立てられていた。

 普通こういう情報って、直ぐ調べられるものじゃないのか?

 聖剣を使った最後の勇者の故郷って行ったら、真っ先に調べられるような場所だと考えられるのだが、いや魔王討伐以降に立ち寄った場所が先かな?

 とにかく、勇者関連の場所は軒並み調べられていてもおかしくはないはず。なのにここは何故見逃されていたのだろうか?

 うーん。過去を調べてみると、単純に語り継ぐべき人物が、聖剣の話をしないで死んだのが原因かな。

 それによって泉は見付かっても、そこの底までは調べられなくて素通りしていたようだ。

 単純ミスというか、妙な運命とでも言えばいいのか。

 終わったらこの情報は聖サフィアリア国の教皇にでも伝えておくかね。

 そうすれば次の勇者からは聖剣を使って戦うようになるだろう。

 今回はもう間に合わないだろうからね。


 「あ、やっと取り巻きの一体が倒れたわ」

 僕が聖剣の行方を調べている間に、ランドルがボコボコにされ倒されていた。まあ手足を狙われ、ボロボロにされていたのだから後は時間の問題だったよな。

 そして盾役二人で引き付けていたシリウスに、攻撃が集中していく。

 こちらも獣のように動きが素早く、ランドルより的確に攻撃を仕掛けて来るので、まずは機動力を奪うよう手足を狙われている。

 それに対しシリウスは多少知能があるのか、片手を犠牲にして凌いでいた。

 元は二刀流が得意だったからか、妙に受け流すのが上手い。武器を持っていたのなら、かなり苦戦していたのではないだろうか?

 だが今のシリウスは素手で、拳を叩き付けて来る戦闘スタイルになっている。

 六人で囲んで攻撃しているのに、致命傷が与えられないところはさすがだ。おそらく体が戦い方を覚えているのだろう。


 そう思っていたのだが、どうやら少し違っていたようだ。

 「ねえ、この敵なんだか少しずつ動きがよくなっていってない?」

 フォラウから見てもそうらしい。

 どうやらシリウスは子供達の動きを学習して、徐々に動きがよくなって来ているようだった。

 なら初めから前の実力で戦えば、強いままだった気もするのだが、別に理性が戻ったとかそういう理由ではないみたいだな。痛い思いをして、それを避けようと動いているだけか?

 とにかく先程までと違い、獣じみた攻撃から油断しない戦士のような戦い方に変わっていっている。

 これは早めに倒さなければ、かなりまずい状況ではないだろうか?

 今ならまだ数の暴力でなんとでもなる。せめて今のうちに足を潰し、機動力を削っておかないと勝ち目が無くなるだろう。

 『少しの間、魔王を押さえろ。そいつの足は俺が潰す!』

 『はい』

 『すみません、お願いします!』

 苦戦しているのを見てレビルスが新たな指示を出し、人員の配置を入れ替えて対処する。

 どうやら短時間ならば、子供達にもハウラスを抑えられると判断したようだな。そしてその短時間でシリウスの足を宣言通り潰したレビルスは、再びハウラスへと向かって行った。

 戻って来たレビルスと入れ替わるように、盾役の二人がまたシリウスの元へと向かう。

 機動力を潰したのはいいがシリウスの攻撃もまた、油断できないほど激しく重かったからだ。

 二人がそれぞれ右手と左手の攻撃を受け流し、その隙をついて残りの四人が攻撃を加える。ランドルより防御力が低かったのか、次第に動きが鈍くなって行った。

 徹底的に数の暴力で仕留める作戦で、脱落者を出さずにシリウスを仕留める事に成功したのは必然だったのだろう。



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