他国の事、自国の事
一応支援は断ったとはいえ、その後の国の行く末くらいはチェックしておこう。
どうやら国民や難民と協力して、畑を広げたりはしているようだ。今更かとは思うが、こういう事態を予測していなかったのだから仕方がないのだろう。
どうして他国が何の見返りもなく、ずっと支援し続けてくれると考えたのだろうか。
支援されて持ち直したのなら、その余力で自給自足出来るようがんばったらいいのに。更に宗教国家なのだから、救済用の食料が必要な事くらいわかりそうなものなのだから、増やしておかなければいけないだろうに。
なんでも神が恵んでくれるとか、都合のいいように考えていたのかね? 努力もせずに縋り付くだけなら、神も迷惑じゃないのか?
そもそもそれでは神の方が人間の為に必死に働いて、人間がぐうたらして神に祈るだけ・・・・・・これってどうよって状況だな。やっぱり人間は駄目だな。
モンスターの世界は弱肉強食で、一見厳しい世界なのだが、人間のように複雑ではない。
そこまで知能が高くないから発展はしないが、現状それなりに満足しているのなら、そこまで酷い争いは起こさないのだろう。そう考えると人間よりモンスターの方が理性的で、平和な種である。
まあフォーレグス王国は力で秩序を保っているのかもしれないがね。違反するようならそれこそ、力付くで押さえ込むからな。今では暴れるやつがいない、平和な国になったものだ。
『父様。飽きたよー』
「ああ、もう僕達が見ている必要もなさそうだな」
『みんな強くなったよね』
レビルス達を除いて、難民の子供達による異形討伐は順調に進んでいた。
一ヶ月も経てば、もう僕達がわざわざ手助けする必要もないくらいそれぞれが連携して死角をなくし、少々厄介そうな異形が出ても負けないほど強くなっていた。
まあ単純に数の暴力なのだが。
厄介な異形を見付けた場合、全員で襲い掛かって仕留めるようになって、そのおかげで危険がほとんどなくなっていた。
ああ、怪我くらいはするのだが回復できる子供もちゃんといるので、多少の負傷も気にする必要はない。
例え重傷を負ったとしても、僕達が駆け付ければ何とかなるだろうけれどね。そういう安心感もあるからか、子供達の闘いは思いっきりがいいようだ。
「次からは、子供達だけで任せてもよさそうだな」
『そうだよね。私も見ているだけなのはつまらないよ』
とはいえ、まったく見ていないというのもそれはそれで気になって仕方がないか。
そういえば、各国を監視していたマジカルドールがいたな。今はもうあちこちの国がなくなっているので、監視の意味がなくなっていたよな。それならこちらに回してもいいかもしれない。
よし、そうしよう。
鳥や蝙蝠とモグラ型のマジカルドールに指示を出し、子供達の情報を送ってもらう事にした。
とはいっても全員を導入した訳じゃない。
国自体は無くなってしまったようだが、そこに人がひっそりと残っている場合があったので、彼らはそれを監視していたようだ。
なので必要最低限の者はそのまま監視を続行してもらい、余剰人員で子供達を見ていてもらう事にした。実際二・三人いれば事足りるしね。
さて子供達の方はこれで大丈夫だろうが、僕達はこれからどうしようか。
勇者と魔王の戦いに関しては、もうそれぞれにがんばってもらうだけの状態だろう。
僕がしなきゃいけない事や特に手伝う事もないように思う。
そうなると、レイシアとビゼルやフォラウ達を連れて、自国でも見て廻るかな。
他国の事はもう、気にする必要が無いだろう。
そういえば、自国内を直接見て廻るのは、随分と久しぶりかもしれない。
以前は調査のスキルで、今は神の目でその場にいながらにして見る事が出来るので、わざわざ出向かないからな。
そう考えると、ちょうどいい機会だったのかもしれない。
そして改めて見ていると、フォーレグス王国とドラグマイア国だけ、この世界ではありえないほど発展しているような気がするな。町と町の間に隙間がほとんど無く、昔の地球のように田畑や家で埋め尽くされている。
とはいっても町と町の間は殆ど田畑で、そこに集落みたいなものを築いているのはゴブリンや、コボルト達だったりする。
雰囲気だけなら田舎の農村って感じだろうか。
ちなみに同盟国のワレスホルト国は、ここまで発展はしていない。
理由は単純で、同盟を結んではいてもそこまで深く付き合っている訳ではないのだ。
ドラグマイア国とはお互いに好き勝手に行き来するくらい、近しい付き合いをしている。代々女性が王位を継ぐのだが、まだまだ現役だろうという歳で次代に王座を受け渡し、その後をフォーレグス王国でのんびりと過ごす者もけっこう多い。
考えてみると、かなり親しい間柄だよな。
「フォーレグス王国って、凄~く発展しているんだって思っていたけど、のどかな場所もあるんだね」
元は街道だった道を、みんなでゾロゾロと歩いて行く。
特にフォーレグス王国に来たばかりのフォラウは、何にでも興味を示してはしゃいでいるようだ。
「確かにだいぶ変わったな。直接見てはいなかったが、実際に見ると違いがよくわかる」
転生して大根。いや世界樹に進化したので、周囲にある田畑の具合がよく理解できる。肥料がいいのか、土も栄養豊富で日当たりもよく、野菜達がのびのびと成長しているようだ。
これ僕が食べると、共食いになるのか?
精霊になったので、正確には同族ではないのかもしれないが。それに普段は食事も必要無いしね。
半神半霊になったせいか人間の頃と同じで、普通に食事自体する事も可能だ。なので家族で食事をする事もできるのだが、あらためて気にすると共食いはさすがに気になるよな。
僕が直接収穫しなければ、そこまで気にしなくてもいいのかな?
これで悲鳴とか、殺されるーって感情が伝わって来たのなら、さすがに野菜など食べられなくなりそうだ。
それにしても、この世界には農薬とか無いのに、虫や病気などにやられたりしないのかな?
いや確かあったはずだぞ。マグレイア王国でだったか? ビニールハウスを作って、野菜などを栽培していたのではなかったか?
虫型モンスターも確かにいたし、野菜を荒らす虫などは確実にいるはずだよな。
だがこれらの田畑には、農薬のようなものが撒かれた痕跡が見当たらない。害虫を食べる鳥みたいな家畜でも、飼っているのかな?
いや、どうも違うようだな。
コボルト達が直接巡回して、害虫を発見したら潰して回っているようだ。あいつら、結構優秀だったのだな。
ゴブリン達は、鳥の被害から野菜を守っているようだ。
農作業は結構な重労働だが、文句も言わないで愚直に働いている。ありがたい事だ。
聖サフィアリア国への支援を止めたので、これからはそこまで田畑を広げなくてもいいと思うのだが、これらは国内向けの野菜などなのだろうか?
まあ多過ぎたのなら、何かしら加工してゴブリン達に振る舞ってやるとしよう。
「父様の国って、いろんな種類のモンスターが仲良く暮らしているんだね」
「ああ、共存できそうなやつを連れて来て、衣食住を整えてやったら普通に暮らして行けるようになったのだ。初めは地球にもいるような、人間に敵対するモンスターだったぞ。今じゃあ面影も無いがな」
「へぇ~」
今ではすっかり人間の言葉を話し、衣服も着ているので野性味は無くなってしまっている。ぱっと見はどこにでもいそうな農民だよな。
ちなみに現在地球にいるモンスターは、人間の敵という位置付けなので危険な魔物だ。
フォラウもこちらに来た直後は驚いていたか。
そりゃあ街中を文化的な服を着て、多数のモンスターが歩いていたら、驚いても仕方ないだろうな。
野生のモンスターと違い過ぎて、始めて見るフォラウでもびっくりはしていたが、討伐の為に襲いかかろうとはしなかった。まあ逆に襲い掛かられたら大変だったかもしれないがね。
「まあ知能が低くても、しっかり教育してやればちゃんと理解して、共存できるものなのだろうな。本能で動いているモンスターは駄目だったが、大体は友好種として普通に生活できているよ」
「そうなんだ~」
そう言いながらもフォラウは、コボルトがプチプチと害虫を潰している姿を見ていた。
位置的には隣町までもう少しといったところで、家畜を放し飼いにしている地区にやって来た。
肉の消費量は結構激しいので、大体飼われている家畜はでかいねずみだ。直ぐに成長してくれて一杯増えるので、大量消費される肉の生産量に追い付ける家畜は、ねずみくらいしかいなかったのだ。
一応牛や豚、鶏など他の動物も育てているようなのだが、成育に時間がかかるので高級な肉って感じになっている。実際に長い時間をかけて、テイマーのリースが餌を工夫して美味しくなるように育てたからな。
さすがにドラゴン相手に安定供給しようとすると、ねずみ以外は生産が追い付かない。だが何かのお祭りの時などには、多くの牛などが処分される。
ちょっと可愛そうだが、家畜の運命だろうな。出来るだけ無垢な魂は家畜に転生させないようにしよう。
とはいっても、記憶も無ければ所詮家畜の知能だ。そこまで苦しんだりはしないだろう。
「可愛い~」
フォラウだけでなく、レイシアも一緒になって食用ねずみを可愛がっているのが見えた。
まあ確かに人懐っこいねずみは可愛いだろう。人間の子供くらい大きいねずみなのだが、愛嬌はある。
そういえばビフィーヌは人の姿をしているのだが、元々はモルモットだったな。
食用ねずみを見学とか、ちょっとデリカシーが無かったか? 僕もさっき大根を見て来たが・・・・・・
「主さま、どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。ああ、同じねずみに属するものだからな、ちょっと不愉快じゃないかと心配しただけだ」
「お気遣いありがとうございます。ですが似ているだけですので、お気になさらず」
「そうか」
「はい。彼らはただの家畜。私とはまるで違いますので」
ビフィーヌが問題ないというのなら、問題ないのだろう。いや、我慢しているだけって可能性もあるか?
その場合でも、この懐き様だと僕には嘘など付かないかな。
フォラウ達が満足するまでしばらくそこで過ごし、改めて町に向けて歩き出した。
「おーよしよしよし。いい子だね~」
うん? ふと後ろを見ると、いぬっころがいた。
こいつも最近よく見るな。まあ別に不都合もないし、フォラウも楽しそうにしているので別にいいか。
ガウ!
のんびりと歩いていたのだが、いぬっころがいきなり警戒した唸り声をあげる。
ふむ、あれが原因かな?
周囲一帯の地面から複数のスケルトンが這い出して来るのが見える。その数は数えるのが馬鹿らしくなるくらい。
直ぐにどれくらいの範囲で術が行使されているのかを見てみると、おいおい一体どれほどの規模の召喚術なのだ? フォーレグス王国を丸ごと包み込むほど、いや違うな。これは世界規模だ。
「父様・・・・・・」
フォラウが困惑した声を出している。たかだかスケルトンが相手なので、おそらくフォーレグス王国で危険な目に合うような者はいないだろう。
だからフォラウも恐怖するより、ただ困惑しているようだ。
「とりあえず、こいつらを捕獲してダンジョンにでも押し込んでおいてくれ」
「バグ。倒すんじゃなくて捕獲って事は、育てるの?」
「ああ。知性が宿ればそのまま戦力にしよう。知性が無ければ労働力にちょうどいいしな。フォーレグス王国もかなり大きくなって来た。警備の者は多いほどいいだろう。不使者は疲れないとはいえ、交代要員も欲しいしな」
家はブラック企業ではないのだ、無理な勤務体制にはしたくない。
そして上級アンデットなら、下級のアンデットを召喚できるので、数が必要な見回りなどの仕事にうってつけだ。
この機会に人員を増やしてやるのもいいだろう。
「はーい。父様行って来ます!」
「ホーラックスに渡したらいいの?」
「いや、死零系ならトールティだ。だがかなり数が多いから、ホーラックスに言って収納できる場所を用意してもらおう」
「そうね。じゃあ行って来るよ」
「ではわらわも手伝うとするわ。しかし一体、どれくらいの数がいるのだわ?」
「国内だけで数えると八千万といったところか」
「鍛えるトールティが大変そうだわ」
「まあ一気に全員を今すぐ鍛える必要はないしな。スケルトン相手なら何年かかっても平気だろう。今なら知性も無いから、しばらく放置しても気にする事もないだろう。人間と違って文句も言わず、食事なども必要ないからな」
「ふむ、なるほどだわ」
「ホーラックス、アンデットどもを収納できる場所と、鍛えるダンジョンの用意をしてくれ。トールティはスケルトンを集めてダンジョンで鍛え上げてやってくれ。知性が宿ったら正式にフォーレグス王国に仕えてもらおう」
『我が主よ。了解した』
『ああ、いきなり出て来たこやつらか。任せておけ』
では早速ホーラックスが用意してくれたダンジョンに、転移で送り付けて行くかな。ただ回収していくスケルトンというか、ゾンビが出て来ている地域もあるな。とにかく同盟国にも出ているので、僕はそっちの回収を優先しよう。
フォーレグス王国では困惑する者がいても、混乱して怪我などをする者はいない。しかし同盟国は違う。
襲われれば普通に危険な一般市民がいる。なのでそちらを優先させてもらおう。
フォーレグス王国にドラグマイア国、ついでにワレスホルト国。そして難民達を寄せ集めた元ブロアド国。
突如湧き出たアンデットの排除を完了させた。
他の場所にも当然、溢れかえるほどアンデットが湧いていたのだが、そっちは僕の担当ではない。異形と違い、普通の冒険者でも倒せるしね。わざわざ倒しに行く必要も義務もないだろう。
生き残っている人間の中にも戦える者は、それなりにいるはずだしね。
それよりも何故突然、アンデットがこんなにも湧いて来たのかが問題だ。しかも世界規模で。フォーレグス王国内にも湧いたというのもおかしいか。
これが多少範囲は広いが、一定地域だというのなら相当腕の立つネクロマンサーの仕業って可能性ですむのだが、世界中ともなると人間はもちろんモンスターでもありえないだろう。
そう考えるとやはり魔王関係になってくるのかな?
ハウラスにそんな能力はなかったと思うのだがな。うーん、ハウラスの保有する能力を見てみても、やはりそんな特殊能力は持っていないようだ。
おや。ハウラスの後ろ。
悪霊群がいた場所というか黒い渦があった場所に、前と同じ渦が存在したままになっている。
よくよく考えると、渦を消した覚えもないな。悪霊群を倒しはしたのだが・・・・・・元凶を始末して、終わった気になっていたようだ。
そして渦のあった場所には、以前と同じような悪霊群が育ちつつある。とはいっても、見た感じただ悪霊が群れているだけなので、前のような脅威は感じられないな。
どうやら神格に匹敵するような力も、核となる強力な悪意も持っていないらしい。
唯一厄介なところは、アンデットの召喚といったところか?
それも呼ぶだけで操作できる訳でもないようだ。なんだこのはた迷惑なやつは。
まあそれならそれで、悪霊群ごと渦を消滅させるだけで、問題は解決するだろう。
まあ後は残ったアンデットを、それぞれ生き残った人間達が倒してくれればいいかな。
ではそういう事で、早速排除させてもらうか。
ゴロゴロピシャーン!
神の目で超遠距離から神罰の雷を落としておく。それによって、特にハウラス達魔王関係者に関わる事なく、渦の排除を終わらせる。
何事が起きたのかって慌てていたが、案外直ぐ片がついた事件だったな。
一応今回のアンデット騒ぎについて世界各国の被害状況を見てみると、やはり被害ゼロとは言いがたい状況だった。
国という集団が崩壊した事により、それぞれ自国を守っていた軍や衛兵などといった兵士がいなくなり、自警団すらいない集団などもあったせいで身を守る事も出来ない人々がいたようだ。
冒険者はどうしたって話もあるが、彼らは慈善団体ではない。自分の身は守るだろうが、お金にならない見ず知らずの人々の護衛など、する訳もなかった。
大体そういう活動をするような冒険者は、異形が現れた時に突撃して大半が死んでいる。
つまり生き残った賢い臆病者だけが、今生き残っている冒険者なのだ。
いやそれは決め付けかな。ちゃんと力量差を考えて、あえて手を出さなかった冒険者達もいる。
そういう冒険者達は、それぞれアンデットを倒して回っているようだ。
圧倒的に人手不足ではあるが。
聖サフィアリア国はどうかなと見てみると、こちらはさすがに対処しているようだ。
ただアンデットの排除は順調そうなのだが、不安が国中に広がっていてそっちを収めるのに苦労しているみたいだな。
特に自国民は神に祈りを捧げているのでまだ安定しているようだが、外部から流れ込んで来た難民達の動揺が酷い。
恐怖に駆られ暴れている者もいるようだった。おいおい下手すると、異形に変化するぞ。
まあ警備の者が駆け付け取り押さえているようだが、こういう不安は周囲に伝染する。
それがまた不安を抱えた難民であるからたちが悪い。
こういうのを負の連鎖というのだろうな、不安をあおられた者達が、聖サフィアリア国に対応を求めて群がって行くのが見える。
聖サフィアリア国側はこの機会にサフィーリア教への入信を勧め、本来の救済とは別の方向で活躍していた。
まあ宗教国家だしな。機会があればそれを怠らないのだろう。
世界中に溢れかえったアンデットだが、そのおかげで生き残った人間達は互いに集結して身を守ろうという行動にでていた。
さすがに敵だらけの状況で、戦力の無くなった田舎に固執する者は少ないようだな。
生き残りをかけて、少数の人々は大きな町があった場所などに集結し始めていた。それもある程度戦う力がある者がいる集団だけの話ではあったが、彼らが集まる事によって安全が確保され、また周囲の安全も確保していっているようだ。
おそらくこういった集団が、やがて国になっていくのだろうな。
そして問題なのは戦う力がない集団だ。異形のせいで、女子供ばかりになってしまった集団。
いくら相手が最弱なスケルトンやゾンビといっても、それはモンスターと呼ばれ冒険者に討伐依頼が出される魔物。女子供が相手取って勝てる相手ではない。
いや中には勝てる者もいるのはいるが、こいつらは個々の存在が脅威なのではなく、集団になった時に危険度が跳ね上がるモンスターなのだ。ちょうど今回のように。
そして神に目を向けた今現在も、そんな集団の一つを発見してしまったようだ。
女の子が石を投げてたまたま一体のスケルトンを倒したのはいいが、周囲にはそれの何百倍という数のアンデットがいる。
まさに焼け石に水。
たった一体のスケルトンを倒せたからといって、この状況から脱する事などできはしない。
彼女達集団は既に包囲されていて、どうがんばっても結末は見えている状態だった。
まあ見付けてしまったものは仕方ないかな。
それに彼女達の中に、排除したいような人物もいないようだし、たまには神様らしく助けておこうか。
周囲をアンデットに囲まれ、震えながら絶望の表情を浮かべる女子供達。そんな彼女達の上空に転移すると、神気を周囲に振り撒く。まあ自分を中心にした範囲聖属性攻撃を放つみたいなものだな。
意図して攻撃魔法のようなものにはしていないのだが、単純に神の気みたいなものを周囲に溢れさせるような感じか、それがアンデットには範囲攻撃のような力の波動になる。一種の聖域を作る行為なのだ。
だがそんな波動を浴びた人間はというと、圧倒的上位者の力に神々しさよりも畏怖を覚える事だろう。まあなので、かなり手加減された神気を放った。
そのおかげでアンデットへの影響自体、かなり低くなってしまったのだがな。だが最底辺のアンデットしかここにはいなかった為、手加減の効果はその範囲を狭めるというところに表れていたようだ。
うーん。これなら普通に聖属性の範囲魔法を放った方が、効率がよかったかもしれないな。
ついでに信仰でもって欲をかいたのが失敗の原因だろう。
まあ失敗といっても、別にどうって事のない失敗なので、特にデメリットも無い。改めてこちらに寄って来ようとするアンデットを、聖属性の範囲攻撃で殲滅した。
不意に助かって呆然としている彼女達を見つつ、この後の事を考える。
ここは村なのではない、なのでおそらく移動途中って事はどこかの集団に合流しようとしていたのだろうが、明確にどこかと合流するとか目的地があるのかな? もし確実でないのなら、難民達と同じように保護してもいいかもしれないが、まあそれは彼女達次第かもしれない。
別に受け入れたところで面倒事に発展する要素はないのだが、望んでもいない親切の押し付けは相手に迷惑だろうしね。僕としてもわざわざ人間を助けて、偽善者よばりされたくもない。
今回は命を助けただけでもよしとしておくかね。
さてさていつまでもこんな何もない荒地で呆けている場合ではないな。彼女達はまだ何が起きたか理解が追いつかず呆然としたままなので、こちらから声をかけてみますかね。
「お前達はこの後、どこか行く当てがあるのか?」
まず基本的なところを聞いておかないとね。それと、誰がこちらの質問に答えてくれるかな?
「あ、あの。助けていただいてありがとうございます。私達には行く当てもなく、出来れば大きな町などに迎え入れてもらえればと思い、こうして彷徨っていました」
「そうか。当てがないというのなら、僕の国に迎え入れる訳には行かないが、難民達を集めた場所がある。そこになら案内できるがどうする?」
「えっと、よろしいのでしょうか?」
「そこなら別に構わんよ。現地でどう過ごすのかは、現地の者とお前達次第になるがな」
「お願いします。このままではどの道、私達に未来はありませんので」
「なるほどな。ならば移動させよう」
「え・・・・・・移動させる?」
一般人には転移など説明しても、訳がわからないだろうな。既に覚悟も決まっているようだし、さっさと移動してしまおう。
転移させると彼女達は周囲の変化に気付き、再び呆然とした表情を浮かべ、固まってしまった。
今のうちにチョビにでも事情を説明して、当面彼女達の面倒を見てもらえるよう頼んでおくかな。
「チョビ、すまんが難民の追加だ。彼女達の面倒を頼めるか?」
『かしこまりました』
土地自体はいくらでも空いているので、住む場所があれば時期に落ち着くだろう。
後は何かしら仕事を与えてやればいいだろうな。
そこから先はまあ、彼女達次第だろう。
こちらも家族と過ごしたいので、彼女達の面倒ばかりを見る訳にも行かない。こういってはなんだが、優先順位はかなり低いのだ。
いつまでも支援し続けると考えてもらっては困る。
必要最低限は援助するが、それ以降は自分達でがんばってもらおう。それが嫌なら出て行ってもらっても、問題ないしな。
《神格 が一つ上がりました》
そして似たような集団を見付けては元ブロアド国に連れて来ると、神格が上がっていた。
わざわざ名乗りを上げて助けていた訳じゃないのだが、どうやらこちらに来てからフォーレグス教に入信する者が何人かいたみたいだな。
予定通りとはいえ、不幸な目にあった者達を集め、入信させて行くとかどこの邪教だよって言いたい。
まあおかげで神格が上がったので、こちらとしては助かるのだがね。
どうやらフォーレグス王国の被害自体は少々あったものの、国民で怪我したりした者などはいなかったようだ。被害は這い出された地面がボコボコになっているところだな。それ以外は特に被害もないようだ。
アンデットも、どうやら回収できたみたいで、後は育ててみるだけだな。
果たして知性に目覚めるやつが何人出て来るのか。生前の人格が蘇る者はいないのだがね。
あくまでもアンデットは魔法生物だ。知性に目覚める者が出て来ても、それは新たな人格になる。
なので新規の仲間は、無垢な子供といってもいい魂の持ち主になるだろうな。
いろいろと教えていかなければいけないな。




