世界樹(大根)
さすがに動けないのが不安で周囲を見回してみたのだが、遠くにいる異形は戸惑っているが中心に生えている大根には興味も何も無いようだった。
まあそりゃあそうだよな。見えるのは大根の葉っぱだけで、危険なものに見えないよな。ほとんど雑草のように、ただ生えているだけだしな。
ではじっくり考えさせてもらおうか。
魔族で自由に動けるがその実、野菜の大根か。世界樹という本体を持つ精霊か。
これはどちらを選んでも、そこで終わりは嫌だな。
そうなると別の選択肢が欲しいところだ。つまり他の要素を取り込む。
神格を得た影響で、レイシアがやっていたような合成進化は不可能になった。その代わり神の細胞を使って自力の吸収をして、自身を変化させることは可能みたいだな。
まあそれが僕に釣り合う要素ならの話だろうが。神に釣り合う要素って何だ?
とりあえず身動きできないのは不便なので、もう少し魔物化を進行させておこう。このまま成長することでマンドラゴラみたいに二又になって、歩けるようになるようだ。
そうと決まれば異形の多い所へ転移! そして一気に成長!
うーん。困惑している異形を見ると、まだ人間だった頃の感覚が残っているのかなって気がするよな。でもあれ、本能で敵を探しているだけなのだ。
報告も兼ねて、一度帰還しよう。ううっ、そっちの方がどちらかといえば気が重いな。
「た、ただいま」
「バグ! もしかして、やられたの?」
「バグよ、どういうことか詳しく聞きたいわ」
レイシアとビゼルだけでなく、ビフィーヌ達もびっくりしつつ僕を迎えてくれた。
「ああ、油断したというか、精神攻撃に似た感じだったというか。相手の親玉が予想外の相手だったみたいだ」
「バグがやられるなんて、想像以上だったのね」
「いや少し前までならそこまで強い相手ではなかったかな。どちらかといえばこの世界の人間の悪意に気を取られた感じか。黒幕と思っていた核の少女の記憶を知って、動揺したといっていい」
「バグもまだまだだわ。敵に同情などするからそういう目に合うのだわ」
「それは申し訳ないが、こればかりは仕方ないだろう。ある意味自分の過去を見せ動揺を誘って攻撃して来るなど、思いもよらなかったからな。それに僕に攻撃を通す存在がいるわけがないと侮り過ぎた。自分の能力を自分で食らっての自爆だ。相手が上手だったって事だよ」
「そうなんだ」
そう。普通なら攻撃など効かなかった。しかし過去の記憶を見せると共に、精神的に繋がりを持って能力の一部を遠隔操作、自滅を促して攻撃して来るなど予想外過ぎる。
もう同じ攻撃は受けないが、現状はそうも言っていられなくなったのだ。
僕を倒した事により、相手も神格と同様の力を手に入れたようなのだ。これはかなり厄介なことになったといえる。
みんなにも相手の強化について話をすると、場が静まり返ってしまった。それも仕方がないだろうな。
「まあ倒す方法が無いわけでもない」
「勝てるの? 今じゃあバグと同等の力があるんでしょう?」
「わらわと協力すればいいわ!」
「なるほど、その手もあるな。僕とビゼルの神格を上げる方法で、悪霊群を超える」
「つまり、信仰集めなのね?」
「ああ、ただしこの世界ではないがな」
「どういうこと?」
みんな訳がわからないといった表情を浮かべる。はっきり言ってしまえば今のこの世界で信仰を集めるのは、もう不可能に近い。
人が少ないという意味もあるのだが、神として後から出て来た僕では、今更信仰が集まらないのだ。
そこでホムンクルス達と同じように、完全に他の競合する神のいない世界で信仰を集めることにする。ちょうどゲーム世界の元日本人達の処遇を考えていたところだった。
このまま友好種達のアバターと合流されると、最悪戦闘になって日本人の子孫達が死んでしまう。こっちはゲームで仮初の体なのに対し、元日本人は実際に生きているのだ。さすがに何とかしたい。
そこで元の滅びた地球をテラホーミングして再び日本人達を戻す計画を考えている。
僕とビゼルが神として君臨し、信仰を集めようって計画だ。
まあ全て想像の計画で、上手く行けばいいなって感じなのだがね。ついでに移動の時間を調節すれば、新しい地球の世界で何年も過ごしてからこちらに戻って来られるだろう。
レイシアの年齢的にもいい感じになるのではないかと思っている。いろいろと都合がいいのだ。
レイシアやビゼル、眷属達に今後の予定を説明し、まずは下準備に地球の様子を見に向かった。
そしてこれは、宇宙空間に漂うただの隕石だな。
銀河系から遠く離れ周囲に星は一切無い場所にあり、地球と同じような大きさの別の惑星とぶつかって瓢箪型になっている。
まずはこれを惑星へと作り変えなければいけないな。
合体させることでちょっと楕円型の惑星になったがまあこんなものかな。
そして肝心の太陽を生み出す。これはガスの集合体みたいなのでいいか。
そして太陽の周りを地球が公転するように調整する。後一年でぴったり一周するようにも調整しておこう。うるう年とか面倒なものを作る人がいるからな。
それと月とか欲しいな。
ふむ。いずれこの月にフォーレグス王国の住民と一緒に移住するのもいいかもしれないな。どうもあの世界の人間達とは相容れない気がする。
いっそのことこっちの世界に来てしまえば軋轢もなくなる気がするのだ。お互いに不干渉にするのが平和でいいだろう。
よくよく考えると、他所からの厄介事に巻き込まれてばかりだった気がするしね。
幸いうちの王国の住民達は、あまり自分達で変化しようとする者がいない。僕の発明品などで変化することはあるが、せいぜい便利な物が出て来たら変化するって程度だろう。
なら厄介事を持ち込まない場所に移動してしまった方が静かに暮らせそうだ。
そうなると、月もそれなりの大きさが欲しいな。
いや、月は月で地球に配置して、太陽をはさんで反対の場所に僕らの惑星を配置しよう。
いずれ移住する予定の惑星って感じだな。適当に無くてもよさそうな漂っている惑星大の隕石を拾って来よう。そして人が住める環境にテラフォーミングっと。
基盤となる地球の整備が大体完成した。後は最低限人が住める環境の整備かな。
資源や草花に動物。元日本人が拠点にして安全に暮らせる土地の準備。
全てを充実はさせないが、ここなら暮らして行けそうと思えるだけの整備はしておきたい。移住や開拓は大変だからね。
信仰を集める為にはある程度、こちらを頼って感謝されるような状況が欲しい。
依存し過ぎも困るけれどね。
匙加減は難しいのだが、元同じ日本人だ。上手くできるだろう。
まあ基本ゲーム世界の町を参考に、それぞれ必要最低限の活動拠点を幾つか配置したらいいだろう。
フォーレグス王国はそのまま切り取って、向こうの惑星に持って行けばいい。ドラグマイア国とかの同盟国をどうするかって問題もあるが、そちらは話し合いかな。
一緒に来たいと言えば移動させるだけだしね。
そしてもう一つ気になっていたことがある。その相手であるゲームの管理者、駒田のおっさんとその仲間に事情を説明し再び神のような存在になるか、地上で普通の人間として過ごすかを聞いてみる。
ちなみにおっさんは次元の隙間と融合していた魂なのだが、神格を得たことと生命の神になったことで分離が可能になっていた。つまり肉体を用意すればおっさんも人間に戻せるようになっていた。
この事も伝える。
「そうだな。さすがにずっと神でい続けるのは疲れた。そろそろのんびりと過ごしたいかな。バグ君には悪いが、地上で普通に過ごして人間として生きたい」
「そうか。まあこちらは気にしなくていいぞ。結構楽しく過ごしているからな」
「わかった。今までありがとうな」
「ああ、次は僕が神としておっさん達を管理する。何かあれば言ってくれ」
「神と知り合いとはまた、普通の人間といえるのかな?」
「新たな地球は剣と魔法のファンタジー世界だ。神官みたいなものだと思えばいいのではないか」
「はは、ゲームの世界に飛び込んだみたいだな」
「今いる元日本人達にはそっちの方が、生活しやすいだろうからな」
「ああ、彼らに合わせてということですか。わかりました」
じゃあゲーム裏世界の元日本人達にアナウンスをするとするかな。
『諸君私は生命を司る神バグという。今の君達は過去地球が滅亡する時に生き残る術として、魂だけをこの世界へと移住させた状態である。この度諸君は再生させた地球へと帰ることが可能となった。今この世界にはモンスターの大群が迫っている。元いた地球へと帰るにはちょうどいいタイミングだろうと判断した。諸君には選択を与えよう。魂の故郷地球へと帰るか、この地に留まりモンスターの大群と対決するか。選びたまえ』
さすがに急過ぎるのか、戸惑う人が多い。
そこで今現在の地球の風景を空に映し出し、早速地球へと移住を希望した者達を見せることにする。
後は自然と地球へと戻りたい者達に体を与え、移動させて行くだけだ。出来れば全員移動して欲しいところだけれど、難しいだろうな。
そして追い出すようで褒められた方法ではないが、やって来る表プレイヤーの姿を映し出して恐怖を誘うとかかな。それでもこの地にこだわるならもう仕方ないだろう。ある意味日本人らしい行動だろうしね。
そして信仰を得る方法としてはなるべく、地球に移動した者達には身近な存在と感じてもらわねばならないな。
何をするかはまたビゼルとも相談していこう。もちろんレイシアも連れて行くから、相談するぞ。
「それでは地球での活動方針を決めて行こう」
信仰を集める為の活動拠点を地球に移すメンバー。ビゼルとホーラックスと紗枝、おまけでレイシアとビフィーヌ、テッシーにマジカルドールのフォレイヤでやって来た。
人手が欲しければまた誰か呼べばいいだけだしね。まずはこのメンバーで活動して行こうと考えている。
世界樹である紗枝はゲーム世界の管理を維持しつつ、こちらの動植物の管理をしてもらう為に連れて来た。
僕も成長先を世界樹にして北極と南極に世界樹を配置しようかなって考えている。まあ片方大根の世界樹だけれどね。
「まず僕は生命を司る神として、回復の奇跡でも与えようかと考えている」
「ふむ。ならばわらわは死者の管理だわ」
移住して来て直ぐ必要な役割ではないな。いや、案外怪我や狩などで死ぬ者が多いのか? あまり信仰を集めるタイプの仕事とはいえない気がするな。必要な役割ではあるのだがな。
「いや当面は信仰を稼ぐ為に、何かしら犯罪行為に対する断罪でいいのではないか?」
「ほう。ならばそれをやるわ!」
「でもバグ、それならホーラックスはどうするの? 紗枝さんも役割がバグと被るよね」
そうなのだ。向こうの世界では他に神がいたので僕の役割を分担していたのだが、こちらでは系統の違う神が必要になる。
ならいっそうのこと、ホーラックスには戦い辺りを司ってもらうとかもいいか?
邪神だけれど、世界が変わると司る役割が変わるとか、よくあることだしな。
「よし、ビゼルは法と秩序を司ってくれ。ホーラックスは戦いを司る神として活動してもらう」
「我が主よ、承った」
「ふむ。確かに邪神では信仰も集まらぬわ。ならば世界が違うここでは、役割も変えるという事だわ」
「確かにそうよね」
そうなると紗枝も豊穣辺りを司ってもらってもいいかもな。
「紗枝は豊穣を司る神を頼む。他の者にもそれぞれ信仰を集めるか?」
一応眷属達が信仰を集めたら、僕も神格を得るから幾らでもいいのだが、そうすると向こうの世界に行くとこっちが放置されることになるからな。バランスが難しいぞ。
管理用の眷族でも創って配置するか?
「そうね、向こうに帰るのならこちらに定住するのはまずそうね」
「幸い眷属で仕事の代行は可能だわ。ならば信仰を集める為にがっつり活動しても問題はないわ」
ふむ、やはり管理する眷族が欲しいな。でなければ動きにくいしね。
向こうでも神の仕事に手を裂かれて動けなくなりそうだったし。こちらでも代行者は必要だろう。
ならまたエンジェルを創ろうかな。
「では向こうと同じで、仕事内容につき4人のエンジェルを創るとしよう。それで何とかこの世界に束縛されずにすむと思うぞ」
「じゃあ次はどんな仕事をするかよね?」
「だな。僕は生命の神だけれど、創造神のポストに収まるべきだったな。回復系ならビフィーヌでよかった。今更だけれども」
「そうね、今からなら創造神兼生命の神?」
「人間共には詳しい事情はわからぬわ。そこはわらわ達の自由でいいのでわ」
詳細な区分はいらないか。必要な仕事を探してそれぞれ信仰を受ける担当を選べば。眷属がみんな神になっていく。
それもまたよしかな。僕達の関係が変わる事もないのだしね。
必要な神様というと、戦い、回復、魔法? 愛、運、職人、転生、天候、豊穣、それこそ上げ出したら際限なく出て来るだろうな。日本なんて八百万の神っていって、全てに神様が宿っていると言われていた。
はっきり言ってそんなにも管理できない。そうなるとある程度タロットのように兼業してもらうのがいいか。うーん、知識によるとタロットもそれぞれ内容が重なるところがあるのだな。結構曖昧だ。
まあぽっと出の神が混じるのでなければどうにでもなりそうだな。神が身内だけなら仕事が重なっても協力、あるいは譲り合いで解決できそうだ。
ではタロットに当てはめて神の仕事を決めてみよう。
魔術師、女教皇、女帝、皇帝、法王、恋人、戦車、力、隠者、運命、正義、吊るし人、死神、節制、悪魔、塔、星、月、太陽、審判、愚者、世界・・・・・・はっきり言って多過ぎないか?
皇帝とかの権力者も多いしな。ここら辺りは削ってもいいだろう。
知恵、権力者、審判、戦い、自然、恋愛、運命、厄災、職業、創造、まとめるとこんなところかな。これならそれなりの人数で、管理しやすいと思う。このままの名前で司る神って訳にはいかないだろうけれどね。特に権力者を司るとか、ちょっとわからない。王様の神とか?
まあ僕の生命は宣言しちゃったのでそのままで行こうと思う。役割は創造と運命だろう。全体の統括だろうな。
ビゼルには予定通り断罪を司ってもらおう。法の番人で権力者だね。
ホーラックスは戦いと厄災とか? 厄災とかはっきり言ってタロット的な意味だけで、神にして崇めるものじゃないしな。その代わり厄災を払いたいとかなら神にお願いしたりする。まあその為の担当かもしれないな。
紗枝は自然だな。世界樹だし。
ビフィーヌは恋愛でいいのではないか? 主従愛が凄いとかで選んだのではないぞ。
フォレイヤは職業とか、似合いそうだな。マジカルドールでいろいろ作り出すのは得意だしな。
レイシアは残った知恵かな。元々魔法使いだったし、人間は知恵だろう。
テッシーが余ったか?
「仕事なんかいらない」
そうか。まあ今まで通りレイシアの手伝いをしてやってくれ。
仕事と担当が決まれば後は手伝いの用意だな。
「創造」
神及び、これから神になる者達の手伝いをする為に呼び出したエンジェル達。総勢四十人。一気に増えたなー
後僕達が地球を管理する為の空間を創っておこう。仕事場だな。
天界みたいなものだけれど、輪廻転生する魂が来る場所ではない。そっちはそっちで待機場所も必要になるか?
賽の河原と真っ白い空間、花畑など、どれがいいだろうか?
「のんびりできる草原でいいんじゃない? 死んでのんびり過ごす空間だし。ああでも、暴れる人もいるのよね。そういう人には地獄のような場所もいいのかな?」
「そうだな、死んだ時にはもう善悪わかっているのだし、別けてしまうか」
閻魔様とか必要ないよな実際。死んだ時に何をしていた人間かわかっているから、その時点で天国地獄は決まっている。
草原の隣に地獄を創って、双方の行き来は不可能にしておこう。これでいいよな。
後は、神がどういった存在かわかるようにしないと信仰してもらえないか。
それぞれ造った町に、神殿でも建てておけばいいかな?
いやそれだけでは信仰は集まらない。軌道に乗るまではうざがられない程度に干渉していかないと駄目だろうな。
現在の移住状況は大体半分くらいが地球へとやって来ているみたいだ。
元のゲーム世界に残っている連中は、土地に愛着がある者とこちらの世界に不安がある者がほとんどらしい。それを聞いて土地事運んだら駄目かなって考えたのだが、気候や景色それら全てが大切なのだろうと考え、止めておいた。
了承してもらえるのなら家の周りくらいの範囲でなら、こちらに運んでもいいのだけれどね。とはいえ、データを元に実態を寸分違わずに造るだけなのだがな。さすがに全員分の全てをまるっきり同じに造っては、移住させた意味がない。
ある程度地球で、自分達で活動してくれなければ神という存在に頼ったりしない。今の町である程度安定しているからな。
僕達はこのまま神殿で暮らし、住人に困った事があれば手助けし、普段は神官の資質がありそうな人を指導して過ごす事にする。
移住したばかりでそんなに神に頼ることなんて無いだろうしね。
まずは地球に慣れてもらい、徐々に始めの町を拠点に周囲に散らばって行ってもらわないとね。
後食料は大事なのでここは神の奇跡の見せ所と、野菜やお米の栽培には手を貸した。
こんなところで不満を持たれても困るしね。後は自分達で生活していってもらおう。
移住開始して間もないからか、今のところ神としての仕事自体がほとんど無い状態だ。つまり眷属のエンジェル四十人も、暇を持て余していた。
そこでそれぞれに神官となれる資質を持つ者の選定を手伝ってもらう。
基本誰の神官でも普通に聖属性の魔法が使え、回復の奇跡が使えるように教えていこうと考えている。怪我は日常で最もありふれたもので、それを癒す存在はありがたいだろうしね。
今はまだ落ち着いていないが、落ち着いたら周辺へ進出して行くだろう。
その時に癒し手がいるかどうかで、生存率はかなり違って来る。
そうすればありがたみも、それなりに出て来るだろう。あ、これってかなり先になるのではないかな?
何年先になるのだろう。下手をすれば何世代もかけて、手をかけていかないと駄目そうだな。
信仰を根付かせるって、ちょっとやそっとじゃあ無理そうだ。気長にやって行こう。
別次元にある地球で長期的に住み込み、信仰を集め始めて数年。移住して来た元日本人達のがんばりで、初期に造った町は軌道にのったといえるだろう。
まずは食べ物。これは元の日本で食べられていた食生活に、かなり近い状態になったと思う。
気候によって手に入らない作物などはあるのだが、今後各町毎に流通が整えば、何処の町でも食べられるようになるだろう。
ベースをファンタジー世界にしたので、町の外に出るには戦闘能力が必要になるのだが、ゲームと同じようにLVやスキルで誰でも強くなれる。ただ元日本人の名残で魔法職が少し能力的に弱いかな。
その代わり精霊魔法と神官の奇跡はそれなりに強くしたつもりだ。
それらの力を使い、今後は町の周辺を開拓して行く時期に来ていた。まあとはいっても町を出て直ぐには危険なモンスターは配置していない。
無茶をしなければ怪我などはしないバランスだ。
そして各町がある位置については、神官に対してどちらの方向にあると、神託みたいに教えている。
このように、怪我の治療や神託による相談。ファンタジーの世界らしく神を身近に感じる世界を構築したつもりである。
とはいえまだ神格はまだ増えないのだがね。
基盤が完成し、少しずつ浸透して来ているので、いずれ増えるものと考えている。
ここからはひたすら時間が過ぎるのを待つだけになるだろうな。
落ち着いた僕は自分を成長させる為、一度元の世界へと帰る事にした。その前に北極で僕が植わる場所を確認しておくか。
ちなみに仕事場が北極の真上にある。それに対して死者の国というか、死者の待機場所の天国と地獄は南極側に創ってみた。紗枝の上空の空間だな。
ここで地獄に落ちた魂は、ホーラックスと紗枝によって人間以外に転生させることになる。天国の魂は、僕とレイシアとビゼルが人間種に転生させる計画だ。まあ記憶が残っているわけじゃないので、あまり意味は無いかもしれないな。
そういう意味では記憶を残してもいいのでは? と考えないこともないが、下手に記憶があると人外連中は人間にちょっかいかけそうで怖いのだ。変な事をしないように記憶はしっかりと消す。
そんなことより気軽に動けなくなるけれど、さっさと世界樹に成長し、更に分身体を作れるようにしよう。
今のままだと不便というほどでは無いのだが、本来の強さが損なわれる。
さすがに大根の姿で神と言い張るわけにも行かないので、人化して接触していたのだが、人間になるということは神格相当の敵とは渡り合えない。異形くらいなら多分人化状態でも倒せると思う。格が違うからね。
でも同じ核を持った者が相手だと、さすがにきついだろう。魔王はどうかな? 装備次第で多分人化でも倒せると思う。
そう考えると、普段ならそこまで慌てる事態ではないな。いや、レイシア達に申し訳ないか?
本人達はあまり気にしていないようだが、体は野菜だからな。あまり気分のいいものではないだろう。
やっぱりさっさと人間タイプになれるようがんばろう。
元の世界に戻ると、異形の集まっているところに向かって転移する。そして再び成長させてもらおう。
周囲の異形を生贄に成長っていうのがちょっと神としてどうなのだろうと思わなくもないが、まあ元々こちらはモンスターなのでそんなものだとでも思っておくか。
しかし世界樹(大根)って、ただでかくなった大根であって神秘も何もないな。もう少しこう、樹木みたいな見た目にならないものなのか? 大半は地面の下だけれど、やっぱり大根はどこまで行っても大根だな。
肝心の分身体はどうだ?
よし、出せるぞ! ドリアードみたいな存在かな? もう少し力を蓄えると、零体じゃなくて物質体を獲得できそうだ。
ならば異形どもには生贄になってもらおう。集まり過ぎて危険って事もあるので、ちょうどいい間引きになる。
あ、異変に気付いたのか、ハウラスが出て来た。お前とは戦う気がないのでさっさと退避。
魔王と戦うのは勇者の役目だからね。そっちとがんばってくれ。
じゃあ再び地球へ戻りますかー
あらかじめ出現地点を確認していた場所に、転移で埋まる。予想よりも大根が大きかったのか、僕の周囲が軽く山のように盛り上がってしまった。
まあ北極点はエルフしかいないのでいいのだけれど、後々反対側の惑星に行った後に埋めるのが大変そうだな。いや記念に同じものを配置しておいてもいいかもしれないな。
さてそれでは分身体を作り出し、後は自由に行動しようかね。
「ホーラックス。ダンジョンの調子はどうだ?」
「我が主よ。問題なぞない。我が調整したのだからな」
「そうか。じゃあこちらで管理しなくても自動で採算は取れるのだな。しかしどんなイレギュラーがあるかわからん。対策は練っておいた方がいいだろう」
「その場合、代わりのダンジョンコアがあれば再稼動できる。まあダンジョンそのものを壊されれば終わりだがな」
「まあ、それはどうしようもないな。何事にも限度がある」
いや、ダンジョンの設計図を作っておいて、全て魔力で補えば全損しても再起動できるのでは? まあ再起動のタイミングが難しいか。破壊者が近くにいれば、また壊される可能性があるからな。
その時は眷属が再起動したら大丈夫かな? わざわざ僕やホーラックスが出向く必要もないだろう。
「一応全損させられた時用に、ダンジョンの設計図を頼む」
「ふむ、任せよ」
ファンタジーよろしくダンジョンを造る計画を立てたのだが、向こうとこちらにダンジョンを造れば管理が大変になる。そこで自動で管理するシステムをホーラックスと作っていたのだが、どうやら採算の合うシステムが完成したようだ。
これも神格を得て力を増したおかげだな。ダンジョンの管理自体を信仰で支えてしまえばいい。
ダンジョンは神が人を成長させる試練の場として、教会で管理させることにしたのだ。
これで信仰が続く限り、ダンジョンは存続する。補助システムとして、周囲や冒険者達の漏らす魔力でも運営し続けるシステムだ。
ちなみに全部のダンジョンではないのだが、隠し部屋が造ってあってそこにある僕の像に祈ると、種族を変更できる。これは一度像に祈った人がいると別のダンジョンに転送されるのだが、その人の素質で選択できる種族が決定される。
獣人とか、エルフ、ドワーフなどだな。
もちろん人によってはモンスターにもなれたりする。ぜひネームドモンスターになってもらいたいものだ。そんなお遊びも混ぜてある。何気に種族の変更など、神でなければ出来ない奇跡だろう。
さてこの度この種族システムを導入した理由は、元日本人だけでは信仰を集めるのに時間がかかり過ぎると考えたからだ。
僕が世界樹になったっていうのもあるが、エルフとかいたら楽に信仰を集められるのでは? とか考え付いちゃったのだよね。もちろん世話してくれるのであれば、恩恵を与える。
そこは持ちつ持たれつでいいと思う。
という訳で、北極の僕の周囲に白エルフ。南極に普通のエルフを種族創造で作ってみた。
ちなみに僕の恩恵は野菜に薬効効果が出る。高麗人参みたいなやつだね。
苦いやつじゃなくちゃんと甘い野菜だ。それを食べる動物達も、ちょっと滋養に優れた肉に育つ。
人間が交易に来たらいい値段で売れるだろうと予測している。
南のエルフは、ポーションに使う薬草系だ。物によってはエリクサーみたいなポーションもできるのではないだろうか?
まあエルフの薬師にがんばってもらいたい。
ドワーフはマジックドールのフォレイヤが恩恵を与えている。
作る作品の品質がよくなったりするはずだ。これは結構わかりやすいな。
獣人はレイシアとビフィーヌが恩恵を与えた。
比較的肉体系に優れたもの達はビフィーヌが担当し、知恵ある獣人達はレイシアが担当するという分担だ。
特に何かを作る種族ではないのだが、戦闘などに優れているのではないかな? 後モフモフ。
日本人なら好きだろう。
そしてファンタジーの王道ドラゴンなんかも創造してみた。やっぱりドラゴンは欲しいよね。
だがそんな者が好き勝手したら、世界がめちゃくちゃになってしまう。そこでビゼルが秩序の管理人として恩恵を与える。ちょうど神としての分担も法と権力者だしね。
ビゼルにお似合いである。
「わらわに任せるがいいわ!」
そう言ってドラゴンを従える姿は、さすがに絵になっていたよ。
というか既にドラゴンから信仰されていないか? さすが魔王の娘って感じだな。




