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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第三十一章  変わる世界
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地盤固め

 僕の近接戦闘技術自体は既にマックス状態だといえる。

 剣や棍棒、槍や弓といった複合スキルなのだが、その応用として刀術のスキルが使えるといった感じだろうか。

 だから本来スキル上げの必要はないのだけれど、やはり使い慣れていない武器を扱う場合には慣らしのようなものが必要になってくる。

 とはいっても以前刀自体は使っていたので、戦い方自体は何も問題なく扱えるようだった。

 「せいっ!」

 レイシアの隣で居合い斬りを試してみたのだが、あきらかに以前とは違った感触であった。

 前は身体能力だけで振るっていただけなので、叩き斬っているぞーって感じだったのだと思う。

 それが今は鞘で少し溜めた後、振り抜くと間にある物全て通過するように刀を振り抜いていた。

 間にあった金属性のゴーレムは、抵抗なく切断されている。

 これが本来の居合い斬りかって感じたよ。

 今ならこれをレイシアにも教えて上げられそうだな。


 「我が主よ。帰ったぞ」

 「ホーラックス、お帰り。国王の引継ぎは聞いているな? お前には元ブロアド国にダンジョンを造ってもらいたい」

 「よかろう」

 拠点の専用ダンジョンで、レイシアに刀捌きを教えつつ経験稼ぎをしていると、ホーラックスが帰って来た。

 ちなみに敵にダメージを与える事が出来ないと、基本となるLVは上がらない事が判明した。

 スキルはダメージにかかわらず経験が積めるようなのだが、LVは敵にダメージを与えてこそ経験になるようだ。

 つまりパーティーに鍛えたい者をただ入れて、強制的にLV上げをしようとする事は出来ない。

 前から考えていた事だが、経験稼ぎも楽ではないってことだね。

 ホーラックスを見送り、引き続きレイシアに指導しながら自分自身も、銃の扱いの練習をする。

 特に急ぐ訳でもない経験稼ぎは順調そのものなのだが、ホーラックスの代わりにビブナイクスが国王となる事に関して発表すると、反対する者が現れたようだ。

 主にヴァンパイア族が不満をあらわにしているらしい。大体こちらに反発するのはヴァンパイア族っていうのがパターンだな。変にプライドが高いのはどうしてなのか?

 まあ穏やかな者も中にはいるので、種族全体が傲慢だって訳ではない。比較的多い傾向があるって話だ。

 それはともかく、反対の理由は人間なんかが国のトップに君臨するのが許せないとか何とか・・・・・・

 自分達だってぱっと見は人間とそうかわりないくせに、よく言うよって感じだよね。

 結界のおかげで昼間でも焼かれる事なく、外に出られるようになったヴァンパイア族は、もうほとんど人間そのものだ。

 外の国でいうところのエルフが近いかもしれない。

 長寿で知能が高いゆえに選ばれた種族だって、傲慢なところがあるようだ。普通に寿命が長い者って、もっと一杯いるのだがな。

 まあ人間と違い、モンスターに属する者なら話し合いで解決するのではなく、力を示してやれば問題ないだろう。

 魔王なら漏れ出る瘴気である程度、黙るのだがな。

 ビブナイクスはどちらかといえば見た目は弱者そのもの。そういう意味では友好種を従える資質は当然ない。

 だから現実的な力を示して従わせるのが手っ取り早いだろう。


 国外の事はひとまずビルトフォックに任せて、国内の安定を図ろうと考えた。

 自分の地盤がガタガタになっているのに、他所を手助けするなどもってのほかだしね。

 日本ではよく貧困に喘いでいる外国の様子をテレビで宣伝して募金を集めていたが、よくよく見れば同じ日本国内にだって餓死しているような貧しい人や、虐めに苦しんでいる子供などが五万といた。

 税金も年々高くなっていくのに給料は減っていき、物価が高くなっていくのを見て、外国に手を差し伸べるより国内を何とかしろよとよく考えたものだ。

 だってそうだろう?

 自分が困っている状況で、他者に手を差し伸べても、結局は自分が後で倒れることになる。

 まあ余裕があるから手助けするのかと言われたら、それは個人の思想だからなんとも言えないのだが、少なくとも貧しい者同士が分け合い共倒れするよりはましなはずだ。

 まず基盤をしっかりとして余裕を作り、そのうえで手助け出来る者がいるのならば手を差し出せばいい。どっちにしろ偽善と呼ばれて嫌がられる行為だけれどね。

 まあ今回は神々からの依頼だから援助するのは決定事項なのだが。

 だがさすがにフォーレグス王国だけで、全世界を支える事はまず不可能といってもいいだろう。

 ある程度の食糧なら増産出来なくもないが、その為に自国の国民に犠牲を強いるのは間違っている。

 マジカルドール達は命令すれば喜んで時間の檻の中で働くと思うのだが、それが僕の為になる事ではなく、どこの誰かも知らない赤の他人の為に働けって言うのは違う気がした。

 やはり彼らには機械のように盲目的に働いてもらうのではなく、自分からやりたいと考えて働いてもらいたい。

 時間の檻に閉じ込めて、主以外の者の為に一生を費やすなど、間違っていると思うのだ。

 だからまず国民にはしっかりした地盤を作って、その上で出来た余裕で他者に手を差し伸べる。

 どうせ援助した物資は帰ってこないのだから、こちらも無理のないようにしなければいけないだろう。


 さてさて、僕達もレビルス達もしばらくは経験値稼ぎをするしかなさそうだね。

 まあレビルス達は経験値稼ぎっていうより、異形を排除して人類の敵を駆逐しているのだろうが、それだけでは魔王には勝てない。

 どこかのタイミングでハウラスの時みたいにダンジョンへと誘導する事にしよう。

 レビルス達がダンジョン攻略している間は、難民の子供達や新たに強くなってくれるだろう大人達に期待ってところか。

 どれもこれも今すぐって訳にはいきそうにないな。

 体制が整うまで、今しばらくはかかりそうだ。

 人類全体を見れば、一刻も早く魔王を倒した方がいいのだろうけれど、現状早くて一年はかかるのではないだろうか。

 レビルスの成長具合からすれば、結構早くに魔王討伐まで持っていけそうな気がするのだが、魔王が支配している訳ではない異形達が残っているからな。

 そっちも相手にするとなると、勇者パーティーだけに任せてはおけないだろう。

 現状頭を潰したところで人類の脅威がなくなる訳ではないのだ。あくまで一番の脅威が取り除かれるだけで、魔王がいなくなった後も、人類が苦しむ事は確定している。

 そうなると文字通り世界中の人間が協力して討伐しなければならない。

 そこいらじゅうにいる異形を全て倒すには、やつらを討伐出来るだけの強者が複数人必要だ。

 それもそれで問題なのだがね。

 力を手にした人間は、よくよく暴走しがちだからね。

 誰も彼も鍛え上げて強くすればいいってものではない。

 現状そういう力に溺れそうなやからは、比較的少なくなっていると思われるが、所詮は意志の弱い人間だ。しかも元が弱者から強者になった者達は、比較的力に溺れやすい。

 そこが子供達を優先的に鍛える理由でもある。いやそれも性格にもよるかな?

 子供の方がまともな性格に矯正しやすいからだ。

 大人は変にプライドが高く、こちらの話を聞かない事の方が多いし、抵抗が激しいからな。後狡賢い。

 そう考えると今育てている難民の子供達を主力として、駄目な大人が出て来た時には叩き潰してもらう方針がいいかもしれない。そうすれば、今まで冒険者をして来た大人の者達なども使えるようになるだろう。

 ふむ。悪くないな。

 チョビにはしばらく、がんばってもらおう。


 眷族やマジカルドールなどに仕事を割り振り、それぞれ鍛え上げる。

 特に問題が起きる事もなくそんな日々が二ヶ月程も過ぎると、のんびりと経験集めをしていたにもかかわらず、レイシアのLVがカンストした。

 「お疲れ~」

 「ありがとう、バグ。ビゼル、テッシー、ビフィーヌもありがとうね」

 「いえいえ。おめでとうございます」

 レイシアが疲れたって感じでみんなに挨拶をすると、テッシーは手を上げてそれに応え、ビフィーヌはなんでもないように答えを返す。

 「後は薬で限界を超えたらいいんだよね?」

 一度休憩がてら拠点に戻り、お茶をしながらそう聞いて来るレイシア。

 薬自体は既に完成していて、後は安全面のテストを待っている状態ではあるのだが・・・・・・薬には限界を突破する意外にももう一つ、忘れてはいけない効果が付随してきた。

 それは寿命を撤廃する効果。端的に不老といってもいい効果だった。

 つまりレイシアが今薬を飲んでしまえば、幼女のまま成長しなくなるという事だ。

 さすがに僕はロリコンじゃないので、それは遠慮したい。

 だから薬を飲むのはもう少しレイシアが大人に成長してからって事になった。それまでは僕と同じようにスキル上げか、のんびり暮らすって感じだろうな。


 「むっ。ハウラスが結界から抜け出した?」

 しばらくはのんびり出来るなーなんて考えていたのだが、どうやら何がしか動き始めた気がする。

 今まで僕がいるフォーレグス王国に侵入しようとして、結界に捕らわれていた魔王と四天将だったのだが、急に抜け出してどこかへと移動を開始したようだ。

 結界自体意識した訳ではなかったのだが、そう簡単に抜け出せるようなものではなかったのだがな。

 さすが魔王と四天将といったところなのかな?

 異形では抜け出せない結界も、がんばれば抜け出せたみたいだ。まあこちらに進む方向では無理でも、戻るならって条件が付くけれどね。

 『バグ様。世界各地に点在している異形達が、どうやら集結しているようです』

 メリアスからの報告を受け、神の目で世界中を観察してみると・・・・・・確かに今まで異形化した場所から動く事のなかった彼らが、明確に目的を持って移動しているのが見えた。

 ハウラスを含め、それらが目指している集結地点を予測して見てみると、なにやらおどろおどろしい闇の渦を発見することが出来た。

 (確認した。しばらくは様子見で情報を集める)

 『了解しました』

 闇の渦が何なのかは不明だが、ひょっとすると魔王軍みたいなものが出来上がるのかもしれないな。

 はっきり言って、あちこちに点在されるよりはそっちの方が、居場所が特定できてやりやすい。

 異形の規模によっては凄腕の対抗者が必要になってくるだろうが、どちらにしろ鍛える必要があるのは変わりないだろう。

 集結し終わるまで、修行時間も稼げるかもしれないしね。

 場合によっては、これはいい傾向とも言えそうだな。

 いや、集結方向によっては途中で襲われる人間も出て来るか。

 レビルス達に情報を流し、間引きしつつ犠牲者を減らすようにした方がいいのだろう。


 早速それぞれに指示を出し、様子を窺う事数ヶ月。

 まあハウラス達は闇の渦に到達はしたのだが、世界各地に散らばっていた異形が集まるにはまだまだ時間がかかりそうだな。

 よくよく考えれば昼夜問わず、それこそ走り続けている個体なんかもいたりするのだけれど、世界の端から走って集まるにしては距離が遠過ぎる。

 全ての戦力が集まるにはかなりの時間がかかって当たり前なのだろう。

 ちなみにレビルス達は今後集結しようと動いている異形達を、少しでも倒す為に奔走中だ。

 それには難民の子供達も、訓練が終了し次第参加している。

 それなりの討伐人数が集まれば、難民の子供達だけに任せ、レビルス達はダンジョンでの修行に移ってもらった方がいいのだろう。

 だが、難民の子供達だけではとても人手が足りていないのが現状だ。

 これで大人の冒険者やどこぞの兵士、騎士なんかが手伝えればいいのだが、少し鍛えた程度では異形には勝てなかった。

 一部冒険者の中で、使える人材がいただけでも儲けものって感じだろうね。

 兵士、騎士連中は駄目だ。

 偉そうな奴はいなくなっているのだが、残っていてまともそうなものでも口だけで、実力がともなっていなかったりする。

 騎士道とか気取っていなくていいから、まともに戦えるくらい強くなって欲しかったところだね。

 根性論で突っ込んで、大体そういう者達は病院送りで後方に引っ込んでしまった。情けない。


 「うーむ。これはどうやら魔王軍の誕生といった感じなのかな?」

 「魔王軍? ・・・・・・でも今のハウラスって、暴走状態だったんじゃないの?」

 「ハウラスが指揮してって感じじゃなくて、ハウラスを操ってまとめているのがいる感じだな」

 「調教でもされたのかしら?」

 集結しつつある異形達を見ていたら、理性なく暴れていたハウラス達を束ねているっぽい存在が確認できた。

 どうやって操っているのかはわからないのだが、レイシアの言うようにトップのハウラスを調教でもして操っているって感じに見える。

 おかげで狂っている魔王を上手くまとめて、ちゃんとした組織として運用出来ているみたいだ。

 「こうなるとレビルス達も、人類軍とか結成した方がいいのかもしれないな」

 「でも人類側に、まともに対抗できそうな組織なんて作れるのかな?」

 それを言われるとちょっと難しいと言わざるをえないな。

 現状異形達に対抗出来ているのが難民の子供達と、一部の冒険者くらいしかいない。

 はっきり言って、僕達が用意した戦力になる。

 規模で言えば超少数精鋭。

 軍団規模の戦いなんてとてもとても無理な人数しか集まらないだろう。

 しかし第三者目線で現在の世界状況を見てみると、勇者側が圧倒的に不利だな。

 そりゃあ神々がどうにかこうにか手助けできないかって、いろいろ手を打とうとするってものだろう。こっちに皺寄せが来るのはどうにかならんかって思うけれど。

 事実、僕が乗り出せば何とでもなる状況ではあるのだが、危機的状況が起きる度に僕が出向く必要はない。

 これくらいの危機は、人間達で上手く協力して乗り越えてほしいものだ。

 せめて異形くらいはこっちの手を煩わせずに倒してもらいたかったって感じだろう。

 魔王はちょっと伝説の武器とかないと、人間にはきつそうだからね。聖剣が無いときついみたいだけれど。

 だが結局その人類の希望といえる聖剣も、今じゃあどこに行ったのやら・・・・・・ほんと味方同士で足を引っ張ってばかりだな。

 そう考えると、あまり手助けする気にもなれなくなる。

 「聖サフィアリア国にお願いする? あそこなら人類軍をまとめてくれるかも」

 「あー。今の世界情勢からすると、あそこくらいしか頼めないかもな」

 「何処の国もバラバラで、多少国として機能しているところも自国だけで手一杯だしね」

 「だな」

 手助けするようお願いして来たサフィーリア神のお膝元でもある。

 聖サフィアリア国には今回がんばってもらいたいところだな。


 「何者だ? こいつは」

 「バグ。どうしたの?」

 本来は僕があれこれと口出しする謂れもないのだが、手助けしてくれって言われた関係で人類軍を設立するよう手配などしていると、魔王軍の方で異変の原因っぽい者を見付けた。

 思わず漏れた呟きにレイシアが反応したので、その場にいる他の眷族達にもわかるよう多目的シートを広げて情報を表示する。

 情報自体は僕がスキル神の目で見た場面だ。

 「これはゴースト。いやレイスの上位種か?」

 「ゴースト系で透き通っているみたいだけれど、ただのレイスっぽくないね」

 「見た目だけでは判断つかぬが、ノーライフキング並みの上位死霊系だわ」

 多目的シートに映っていたのは、狂った魔王に指示を与えるレイスっぽい者の姿だった。

 レイシアが言ったように、ただのレイスのような雑魚っぽく見えなかったのだが、ビゼルが言うにはノーライフキングっぽいな。

 それにしても、ノーライフキングって種類が多い。

 ゾンビの上位種に、スケルトンの上位種。

 ちょっと死霊系にしては実力が離れ過ぎているように思えるが、ヴァンパイアの上位種もノーライフキングと呼ばれている。

 そう考えると、ゴースト系の上位種が出て来たとしても、まあ有りかなって考えられるな。

 今まで見た事がなかったので、新種のモンスターと考えていいかもしれないな。


 「ハウラス達が集結しているのは、この上位レイスのせいってことよね?」

 「見た感じ、そうだろうな」

 今なおテレビのように表示されている集結地の様子を見るに、このレイス型ノーライフキングがハウラス達をコントロールしているように見える。

 一体どうやって操っているのかはわからないが、黒幕なのは間違いないのだろう。

 「ノーライフキング如きが、魔王を操るっていうのは信じられないが、今回異形達が集結しているのはこいつのせいだろうな」

 「おそらく異形共は、魔王に操られておるのだわ」

 ビゼルが言うように、たぶん黒幕が操っているのは魔王一人だけなのだろう。その他は魔王の指示で集結しているのではないだろうか。

 さすが強者に従う魔物共。

 それ故にノーライフキング如きに操れるような存在ではないように思える。

 何かしらカラクリがあるのだろうな。転生者とかか?

 うん? レイスの後ろに人間がいるな。

 「これってブレンダ!」

 レイシアも気が付いたみたいだな。だが四天将として死んだブレンダの見た目は、魔族っぽく変化していたはずだ。人間の姿ではなかったはず。これがハウラスを操れている理由とかかもしれないな。レイスの後ろから動いていないし。

 「フェザリオもいるな。死んだ四天将全員復活して勢ぞろいって感じか」

 「みたいだね。でも偽者だよね」

 「そうだろうな」

 これは一度親玉の正体を確認しておいた方がいいだろうな。どうもこのレイスがそこまで優れた能力を持っているようには考えられない。

 正直魔王に匹敵する実力というのなら、いい線いっているのだけれど死んだ四天将を復活させ、魔王のハウラスを操れるほど強大な力は無いように思える。

 そう考えると黒幕は別にいるのではないのか? そんな風に感じたのだ。


 そこで僕自身が直接闇の渦を調査することにした。というか神の目で見ても、渦があることしかわからなかったのだ。

 それって絶対何かあるだろう?

 「じゃあちょっと行って来る。何かあったら連絡するから待っていてくれ」

 「わかったわ。気を付けて行って来るのだわ」

 「気を付けてね」

 眷族達にも出来るだけ情報集めと、異形を間引きする作戦などを考えておいてもらう。移動中の異形なら簡単なのだがな。数集まっていると、全ての異形がリンクして襲って来るだろうから、早々倒せないだろう。

 最悪僕達で分散させて、勇者と難民の子供達で協力しないと駄目かな。

 いや、これだと僕達がいないと何もできないか。今後を考えて人間達だけで対処してもらいたいところだ。

 指示を出し終わり、早速転移した。


 今僕の目の前に闇の渦がある。それはただ見ただけでは闇の色をした渦でしかなかったのだが、現地に来た僕にははっきりと理解できた。

 これは人の悪意だ。

 怨み辛みに憎悪、人のマイナスの感情を濃縮したような瘴気。そしてそれを纏っているかのように、渦の中心に悪霊がいた。

 いやこれは悪霊達だ。一人の悪霊というレベルじゃない。悪霊の軍団だ。

 悪霊が数多く集まって一つの魔物と化している状態なのだろう。そして神の目で見たレイスは、こいつの一部でしかないようだ。

 つまり神の目で見えていたのだけれど、同一体だとはわからなかった為、渦の外だけが見えて正体を見抜けなかったわけだ。

 だったらレイスを見た時に気付けたのではっと思わなくもないが、レイスにも別個の人格があった為に、レイス自身の情報しかわからなかったみたいだな。

 この悪霊群は危険そうだ。レイスの方は勇者に残しておいてもいいが、こっちはそのままにして置いてはまずい気がする。

 帰る前に消滅させておこう。

 そう考えた時、一人の少女の記憶のようなものが流れ込んで来た。


 これは、悪霊群の中心にいる人間の記憶か?

 遥か昔、初代魔王がまだいない頃の記憶。

 どこにでもありそうな普通の村に一人の少女がいた。その少女の人生が狂ったのは、破滅主義とでもいいのか、黒いローブを来た変な集団がやって来てからだった。

 彼らはいろいろな人間への不満を口々に叫び、何の関わりもない村にその不満をぶつけ出した。

 突如現われ、いわれなき不満への八つ当たりとしてなぶり殺しにされる村の人々。記憶の主である少女の目の前では、両親がローブの男達によって、生きながらじわじわと殺される光景が映っていた。

 そんな光景は村のあちこちで行われ、それは村の自警団の者達にも行われていた。自警団とはいっても所詮小さな村の者だ。凄腕の戦士や魔法使いなどいやしない。

 それにローブの連中はそれなりに強い者達のようだった。戦い慣れているのだ。人を殺し慣れてもいた。

 村人が少女を残して全滅するのは本当にわずかな時間であった。

 そしてそれで終わらないのが最後まで残った少女の運命でもあった。

 少女はローブの男達に無理やりに引きずられ、村人の血で描かれた魔法陣の中へと連れて来られた。そこで少女は異界から呼び寄せる神への供物として嬲られることになったようだ。

 入れ替わり立ち代り、少女の命が続く限り。いや死んでからも行われ続け、嬲り者にされた少女はやがて、村人達の無念の想いもあり悪霊と化す。

 その生贄の状態を待っていたかのように空間が裂け、どこか別の場所から神と呼ばれる存在が召喚されたようだ。

 ローブの男達の予想外なところは、呼ばれた神が悪霊と化した少女へと何かを囁いた事。

 「今のお前なら、この憎い人間達を残らず食べられるだろう」

 そう囁かれた少女は疑問に感じることもなく、周囲の男達を文字通り喰った。同調した村の者達が嬲られた恨みを晴らすように、それはもう生きたまま出来るだけ苦痛が続くように、手足から徐々にゆっくりと嬲っていった。

 全てのローブの男達が少女達に食べられた後も、少女達の怨みは晴れることはなかった。いや、喰った。取り込んでしまった者達の怨みを増幅させてしまったが為に、救いが無くなったのだと言った方がいいかもしれないな。

 そしてこの悪霊群は力を増し、魔界と呼ばれるところから初代魔王を引き寄せてしまう。

 ちょうど空間が避けていたからなのか、神と呼ばれる存在がいたのが魔界だったのか、こちらの世界に呼びこんでしまったようだ。

 そして悪霊群は呼び出した魔王に、人間を滅ぼすことを願った。それを望まれた魔王が喜んで人間に攻撃を仕掛けて行ったようだな。

 最後に魔王の後から人間が現れたようにも見えたがそこで突然、少女の記憶が途切れていた。


 「はっ、しまった!」

 走馬灯の様に少女の記憶を見ていた僕は、体が崩壊していっている事に気付くことができなかった。気が付いた頃には体を失った後だったともいう。

 そう、僕は悪霊群を前に無防備になり、やられてしまったようだ。

 幸いといっていいのかどうか、神になっていたことで次の転生をしたみたいだ。

 今度は一体何になったのだ? 周囲は真っ暗で小さな粒がゴロゴロしているのだが、能力はそのままらしく状況は確認できるようだな。

 えっと、どうやら野菜の種の中に混じっている感じ?

 つまり僕の次の転生先は野菜ってことか? しかもこれは大根・・・・・・さすがに大根に生まれ変わりたいなど、思ったこともないだろう。つまり転生先はランダムってことかな?

 そう考えたのだが、野菜に転生というキーワードでとある記憶を思い出した。

 久々の休日にのんびりと家の窓から外を見ていて、隣の庭が目にはいった。そこは家庭菜園なのか、小さな趣味の畑があって、野菜が数種類育っていた。

 確かその時野菜を見ながらこう思ったはずだ。「ただ日を浴びて水を貰って過ごす毎日、実に楽で優雅な毎日だな」って。

 その時見た野菜が、大根だったように思う。

 いやいやちょっと待てよ、これって植物全体であって大根になりたいって言っている訳じゃないだろう? 何故よりによって大根なのだ・・・・・・確かに羨ましいとは思ったが。


 《名前 バグ  種族 大根の種(生命の神)  年齢 0  職業 管理者  EXP -%

 LV -  HP 113029-282万  SP 171934-429万  ST 123861-309万

 力 9243-23万  耐久力 10833-27万  敏捷 10214-25万

  器用度 11358-28万  知力 17856-45万  精神 17589-44万

  運 75  素質 47  神格 2-14

 属性 全*

 適正 生存地形全般* 戦闘全般* 魔法全般* 創造

 スキル 神の肉体* 神の細胞* 神の瞳* 神の叡智* 神の心* 神の体技* 神の精神技*》


 ステータスを確認してみたけれど、随分とすっきりしたなー

 いやいやそれはいいのだが、やはり大根か! 先行きが不安になるのは何故なのだろうな。

 LVは無いままで神格は結構上がっているな。

 その影響でスキルが統合された感じなのかな。HPなどはこれでもかってくらい上がっている。

 つまり敵を倒して成体に進化することはできない。

 でも神の肉体を持っているおかげか細胞の方の影響か、普通に急成長して成体になれるみたいだな。

 種のままは不便なので早速成長しよう。・・・・・・と思ったのだが、ここでの成長はちょっとやばい気がするぞ。

 こうなれば被害が出ても構わない所で成長してみるかな。

 それは何処だといえば異形の集まっている所だろう。あそこならむしろ被害を出してくれって感じだろう。なので早速転移して異形がうようよしている中、種なので土に埋まることにしよう。

 準備完了! では早速成長させてもらおうか!


 グンって感じで周囲から生命力を奪い取って成長したようだ。そう周囲からの生命力を糧にしたのだ。

 これってあの場でやっていたら、今や兄弟となった大根の種はもちろん、近くにいた友好種のやつらまで巻き込んでいたのではないか?

 嫌な予感がするわけだ。そして生命力を奪われた異形は・・・・・・まあ予想通り干乾びたように死んでいた。

 うわー。これは酷い。

 そしてそんな中心地で無事に成長した大根が一本、暢気に地面に植わっている状況だな。シュールだ。

 種から成長したのでステータスを確認すると、種族 大根魔物(生命の神)に変化している。

 ・・・・・・この表記はない。まるで大根役者のように、駄目な魔物って言われているみたいじゃないか!

 うわー、大根に転生した時に微妙な気がしたのだが、これが原因だったのか。まだ名前だけだったのでいいのだが、何かしらのマイナス要素があれば最悪だな。

 いやこれ、動けないぞ。

 植物なのだから走り回れないのはわかるが、本当にただの大根って事か!

 魔物化したのは周囲の異形を倒した結果らしいな。どうせなら足が二又に別れれば走れるのに。

 確かいたよな? そういう植物のモンスターが。マンドラゴラ? あれは人参だったか?

 うーん。系統樹によると、マンドラゴラみたいな種族と、このまま動けない世界樹の系統に別れるのか? しかし人型はどちらもちょっと難有り?

 マンドラゴラはそのまま人型になるけれど、食用魔族になるらしい。大根味の魔族って一体・・・・・・

 世界樹だが本体はそのままに、分身が精霊化して動けるらしい。人型ではあるが、精霊だけに肉体が無いそうだ。

 これはちょっと、レイシアとビゼルがいるので避けたいな。



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