ビゼルとホーラックスのお披露目
一度子供達と合流して開放された町へと避難民を誘導する。
東担当の南側はこのまま子供達に引き継ぐ。
北側の拠点となる町はこの後、僕達パーティーで殲滅し次第子供達を交えて受け渡そうと考えている。
それが終わればいよいよビゼルを紹介する祭りの開始だ。
予想通り神格が得られるだろうか・・・・・・少しだけ不安だな。
「邪魔になりそうなモンスターはいないな?」
「大丈夫そうだよー」
「結構あっさりと片付いたわ!」
軽く今後の予定などを打ち合わせして、南の町を子供達に任せた僕達パーティーは、北の町に巣食う異形を排除した。
前回の戦闘で格が上がったからか、ガトリングで一気に敵を殲滅出来るようになった事と、レイシアを初め全員がそれなりに強くなっていたのでたいした手間も取らずに制圧に成功した。
まあ全員がレイシアに合わせて能力を下げているのだから、レイシアが強くなれば相対的に全員が強くなったって事だな。
そのおかげで今まで手間取っていたのが嘘のように楽々と異形を相手取れるようになっていた。
今なら呪歌の支援無しで、異形五十体くらい相手にしても問題ないかな。
「そろそろ引継ぎしてフォーレグス王国に帰るの?」
「ああ、もうそろそろ祭りだからな。上手くビゼルが神格を得られるといいのだが・・・・・・まあ友好種達は結構単純だから何とかなるだろう」
「うむ。やつらも元は魔に属するモンスターだわ。わらわの瘴気に触れれば、誰が主であるのか即座にわかろうというものだわ!」
「そういうものか?」
「魔王とはそういうものだわ。だからモンスターは魔王の元に集い、群れを成すわ」
それって魔王が複数いる場合はどうなるのだろうか?
実際ホーラックスも合わせれば、魔王はフォーレグス王国に二人いる。
昔ならビゼルの父親も生きていたので、そのときにホーラックスがいれば魔王は三人だったって事だ。複数いた場合、大魔王とかって呼ばれる者が他の魔王も率いる事になるのかな?
それとも単純に一番強い者が全てのモンスターを率いるのか・・・・・・いや、ここは人間と同じで気に入った魔王に別れて仕えるみたいな感じなのかもしれないな。
まあどちらが神格を得るにしても、フォーレグス王国中の国民を集めれば、二人とも神格を得る事ぐらいは出来るのではないだろうか。
そう考えると、ついでにホーラックスも一緒に祭りに参加させた方がいいだろうな。
現状のフォーレグス王国は、その他の国のように村から村の間隔が空いているって事はない。
いつの間にか近代の日本のように、結界内にある土地は田畑や住宅で埋め尽くされていた。
おそらくコボルトやゴブリンなどの繁殖しやすい種族が冒険者のような天敵がいなくて、好き勝手に増え過ぎたせいなのだろう。
そのおかげで食料はこれでもかっていうくらい豊富なのだけれどね。
まあ消費も馬鹿にならないけれど・・・・・・
国民の数だけならかなりの数になるはずだ。
それだけいれば二人で信者を分け合ったとしても、神格の一つや二つは手に入るのではないだろうか?
上手くいけばだけれどね。
子供達の拠点の北側にある街を開放し避難民達を誘導した後、祭りが始まるまでの数日の間、僕達は町の周辺や町に続く街道付近にいる異形を討伐して廻った。
これによりこの地方に支援に来た子供達やフォーレグス王国の名は、それなりに知れ渡ったと考えられる。
その証拠というか友好の証になるのか、まあ実際は表面上の形だけになると思われるが、それぞれの町にフォーレグス教の教会が建てられる事になった。
より正確にいえば戦いを司る神、アルファント教の教会跡地を貰い受け、フォーレグス教の教会として受け入れられたのだ。
何故アルファント教の跡地なのかといえば、異形が現れた時に真っ先に戦いに赴き、大半の者が帰らぬ人となったからだ。
普通ならその勇敢な行為を褒め称えてもいいはずなのだが、どうやら戦いを司る教会の神官なのに、今回の騒動で役に立たなかった事でいい感情を持たれなかったようだ。
ちなみにアルファント教の信者全員が戦闘要員ではなかったのだが、聞いた話では避難地に残っていた信者は一人もいないそうだ。
これは制裁が怖くて名乗り出て来なかったとかじゃなく、誰もいなかったそうだ。
一体何があったのやら・・・・・・
とにかくそんな訳でアルファント教があった場所を譲り受ける事になったのだ。
一応それぞれの町で、今回の町の開放等々に感謝して僕の信者となった住人が、僕達が去った後も教会を管理してくれる事になっている。
フォーレグス王国にいる信者は友好種がほとんどであって、こっちの町に派遣するような人材はいないからね。
なので他人の権利を侵害しない。最後の瞬間まで精一杯生きるって感じの教示を掲げ、僕の信者に後を任せる事にした。
まあその後どうなっていくのか、また教会に変な信者が紛れ込んでいないか、確認しておこうと考えているけれどね。
まあそっちは他所の国になるので後回しでいいかな。
祭り前日まで異形狩りをして過ごした僕達は、一旦子供達も連れて帰って来た。
一応フォーレグス王国の国民ではないものの、僕が引き取った事になるのかな? 保護しているといってもいい子供達になるので、この機会に祭りを楽しんでもらえたらいいかなって考えている。
さすがに子供相手に毎日休みなく訓練訓練っていうのも酷い話だしね。
いやもう十分酷いのかな?
LV的には十分異形と渡り合えると判断して送り出してはいるのだが、相手の数次第でそれも意味がなくなる。
出来れば急がずじっくりと活動して行って欲しいものだ。
今回の祭りはそういう意味でも、子供達にとっては良い骨休めになると考えている。
他国的には一秒でも早く、正常化して欲しいのだろうがね。しかしそんな事情は考慮しなくていいだろう。
元々人間が好き勝手した結果が今の現状なのだ。まあシステムを造った神様辺りが悪いともいえるけれどね。
でもここまで酷い状態になったのも、大人達の責任なのだろう。だからこそ自分達で解決して欲しかった。
だからこそ、尻拭いさせられている子供達にはここで、存分に楽しんでもらいたい。
心行くまで楽しんで、やる気になったら討伐に出かければいいじゃないか。
冒険者なんてそんなものだ。
その代わり、自由の代償としてさまざまな責任は、自分自身で取らなければいけない。
その結果死ぬ事もあるだろう。
だがそれでこそ僕の庇護下から抜け出したともいえる。
さすがに子供達の面倒を、一生見るつもりはないからね。一人で生きて行けるだけの力を与えよう。
フォーレグス王国は友好種達の国だ。
この国は一部の人間以外はさぞ生き難いはず。無理してフォーレグス王国に残る必要もない。
文明という部分では、どこの国よりも進んでいるけれどね。
祭り前日に戻って来ると、気の早い者達が既に露店を始めていたので、子供達に小遣いを渡してそちらに行かせる。
その間僕達は明日の準備をするのだが、ほとんどの準備は既にマジカルドール達が終わらせていた。
もちろん時間操作して用意した食材も、既に各担当に配布済みらしい。
優秀な眷属達がいるおかげで、何もしなくてもいいな。ありがたい事だが、時々これでいいのかって考える事がある。
仕事仕事って時間に追われるのは嫌なのだが、暇なのも逆に考え物かもね。
明日の打ち合わせをするホーラックスとビゼルを横目に、レイシアと二人のんびりお茶をしながらそんな事を考えていた。
ビゼルが主役のお披露目になるので、ホーラックスに紹介を任せ、僕とレイシアはおとなしく見ているだけの予定だった。
その代わり裏方として準備を手伝ってみた。
ビゼル達がよく目立つように、フローティングボードを開発してみたので、注目度もばっちりだと思う。
原理的には単純で、サーフボードみたいな板が一定の高さで浮くだけの魔道具だ。
オープンカーみたいな物や飛空艇などに乗ってお披露目しても、よく見えない者が出て来ては信者の獲得に支障がでるかもしれないからな。
だから誰もがよく見えるように、フローティングボードを開発してみた。
今回は人間ではなく、友好種を相手に信者を募る予定なので、いかに国民全てに余さず紹介するかの方が重要だと考えている。
おそらく問題は無いだろう。
これが他所の国や人間の国などだったのなら、国の要職に付く者の警備状態の打ち合わせになるのだろうが、まあビゼルとホーラックスを相手に警備は必要ないだろう。
一応名目上、ホーラックスの四天将が一緒に付いて廻るようなのだが、これはどちらかというと威厳を保つ為のパフォーマンス的人員だろうな。
二人だけでパレードしても格好付かないしね。
かといってごちゃごちゃとした警備を引き連れていれば、周りが邪魔になって主賓を見損なう者も出て来そうなのだ。
実際二人に襲い掛かる者がいるとは考えていないので、警備は興奮して喧嘩をしそうな国民を見張っていればいいだろう。
そっちの巡回ルートは通常通りで大丈夫らしい。
そんな感じで準備万端。後は明日を待つばかりになった。
祭り当日。町は昨日にも増して騒がしいようだ。
友好種達で溢れる道の上を、手が届かない程度の距離を置いてビゼルを先頭にして、ホーラックスとそれを護衛する四天将が進んで行く。
「此度、フォーレグス王国に新たに誕生した神を披露する。平伏し崇め!」
上空にてレイシアを連れて見ていたのだが、ビゼルの直ぐ後ろに付き従っていたホーラックスがそんな事を言いながら移動していた。
ちなみにホーラックスも邪神となっているからか、かなり離れた距離にいてもわかるくらい瘴気を振りまいている。
これは別に威嚇している訳でもなく、ついでだからホーラックスもおこぼれで神格がもらえないかなって考えて企画した事だ。
なのでビゼルもそうだが、ホーラックスもフローティングボードに乗って移動していて、その周囲を守るように四天将が飛び回っている姿が見える。
「わらわの名は、ビーゼィフォルト・フォールン・グラウトス。ビゼルと呼ぶがいいわ。わらわは生命の神の妻であり、魔に属する者の神である。わらわはこの地に永久の楽園をもたらそう」
ビゼルとホーラックスの呼びかけなのか、それとも瘴気に触れて本能が刺激されているのか。見る間に群集が平伏して行くのがわかる。
これが魔王と魔物か。
思わずそんな感想が脳裏に浮かぶ。
今まで僕が人間から信仰してもらおうと必死に活動して来たけれど、魔物を従えるという事は魔王にとって造作もないことなのだな。
ちょっと卑怯というか、僕とは難易度が違い過ぎやしないかい?
「「「ビーゼィフォルト様万歳」」」
「ビゼル様、万歳」
「ホーラックス様万歳―」
「魔王万歳! 邪神万歳!」
どうやら一部でホーラックスの支持も増えているようだな。このまま一気に神格を獲得してもらいたいものだが。
どうかな? 上空から窺う限り、洩れなくアピールは出来ていそうだ。
ぱっと見た感じ、僕が信者を集めるより余程熱狂的に支持を得ているように感じられる。ただこれで本当に成功しているのかどうかは、まだわからない。
「これってフォーレグス王国の領土全部、このまま回るの?」
「あー、そうだな。テレビや映像なんかでは、この瘴気をばら撒けないだろうから直接回った方がいいだろうな」
職業邪神になったこの瘴気に触れ、魔物と呼ばれる者は本能的に従うものだと判断している。
そう考えると、テレビや新聞みたいに情報だけばら撒いたとしても、信者を集める事は出来ないと思う。
結局恐怖というか、力で支配しているようなものなのだろうな。
「何日かかかりそうだな」
「だね」
今や領土全体に友好種達が家を建て、畑などを造っているのだ。
この広大な領土全てを巡回するには、一体どれだけの時間が必要になるのか見当も付かない。
幸い僕達は、一週間だろうが一ヶ月だろうが休まず活動する事も出来る。
その点規格外の肉体は便利だよな。
しかしそうなってくると、祭りを何日も開催している訳には行かないよな。食料の備蓄的にも・・・・・・
ビゼル達の計画はどうなっているのだ?
見た感じ、瘴気に乗せて声を広域に広げ、支配地域拡大を目指しているように見える。
当然支配範囲が広がれば、移動ルートももっと大胆に広げられるだろう。
それと移動速度そのものも少し、スピードアップしている気がするな。
ビゼル達も、さっきまでののんびりしたペースで、フォーレグス王国全土を廻るつもりなど元からなかったようだ。
臨機応変に対応して、なるべく早く支持を集めるつもりなのだろう。
このまま任せておいても大丈夫そうだな。
《配下が神格を得た事で 眷属神 が誕生しました》
《眷属神 が得た 神格 が一定量に達した為 神格 が一つ上がりました》
ビゼル達の様子を窺っていると、そんな声が脳内に響き渡った。
どうやら作戦は成功したようだな!
ただし当初予定していたビゼルではなく、どうやらホーラックスが神格を得たようだ。
出来ればホーラックスもって考えていたので、これはこれで予定外ながら嬉しい誤算なのだが、ついでに僕自身にも恩恵があったみたいだ。
こちらの予定外は嬉しいな。
僕の眷属にあたる神が誕生した事で、主にもボーナスが貰えるって感じだろうか?
とするなら他の眷属やマジカルドール達も鍛え上げて、全員神格を手に入れればかなり強くなれるのではないだろうか?
あー、いや。ホーラックスが神格を得たのには、元々魔王として活動してきたっていう実績があるからかもしれない。
そう考えると他の眷属達は僕と同じように、これから地道な活動が必要になって来るのかもしれないな。
それにまず職業神になってもいないので、そもそも神になれるのかどうかから検証する必要が出て来るか。
ままならないものだな。
とりあえず方法は間違っていないようなので、ビゼルが神格を得るのを待ってみることにしよう。
「ねえバグ。ひょっとしてホーラックスって神格を得たの?」
「ああ、ついさっき神格を得たようだな。ビゼルのついでに貰えないものかなって考えただけだったのだが、結構あっさりと手に入ったな」
「元々フォーレグス王国の国王様だったしね。初めからある程度信仰されていたんだね」
「友好種の国で、魔王で王様だったからな。彼らからしたら信仰しやすかったのだろうな」
「そうね」
瘴気を振りまきつつ飛び回っているビゼル達を見下ろし、僕とレイシアはのんびりと状況を眺めていた。
彼らが通り過ぎた後の国民達は、普通にドンチャン騒ぎに突入している。
まあその為に用意した祭りだからね。
好きなだけ楽しむといい。
《妻が神格を得た事で 夫婦神 が誕生しました》
《夫婦神 が得た 神格 が一定量に達した為 神格 が一つ上がりました》
この世界の国の首都だと平均すると二十万人くらいの人間がいるのかな?
ビゼルが神格を得たのは移動距離からすると、その首都五つ分くらいの人口分の地域を移動したくらいだろうか?
そう考えると神格を得るには約百万人分の信仰心があればいいという事になる。
日本にいた頃ならばそうたいした人口ではない気もするが、人間がかなり減った今の世界では信仰を集めるのはかなりきつい状況なのだろう。
ならば眷属の信仰がそのまま僕の力になる現在の立場は、かなり嬉しい誤算になりそうだな。
このままフォーレグス王国全土を廻って、友好種の信仰をどんどん集めてもらうのがいいのだろうね。
目標の神格は二人とも無事に手に入れた。
しかし予定してはいなかった僕自身の神格も上がるので、そのまま続行して信者を集めてもらいたい。
そうなると当然、今おこなっている祭りもその分延長になる訳で、その間必要になって来る食材を準備する為に時間を操作して、再びマジカルドール達に働いてもらった。
些細なごたごたはあったもののビゼルやホーラックス、眷属やマジカルドール達の助けもあり、祭りは八日ぶっ続けで継続して終了する。
「主よ、少しばかりよいか?」
拠点でレイシア達とお茶をしていると、看守をしているブリクトンがやって来た。
こちらから出向く事はたまにあるけれど、ブリクトンの方から来る事は初めてじゃないか? 何かあったのかな?
「どうした?」
「はっ、現在牢に入れられている囚人達がこのたび、ビゼル様、ホーラックス様の為に働きたいと言い出しました。どこかに配属させますか?」
あー、瘴気に当てられて、他の友好種と同じように影響されたのか。
さすがに魔王だった時は反抗出来たけれど、邪神となった影響は並じゃなかったって感じなのかな。
しかしわざわざ危険分子を使う程、人手不足だったりするのか?
「ホーラックス。今現在のフォーレグス王国の運営で、人手が足りないところはあるのか?」
「我が主よ、新たなシステムを構築せぬ限り必要ではない」
「ふむ。ではわざわざ今まで反抗していた者を出してまで、仕事をさせる必要もないのだな?」
「その通りだ」
ふむ・・・・・・
この後ビゼルは僕の神の仕事の一部を担当してもらうので、こちらで仕事内容を教えようと考えているのだが、ホーラックスには一度天界へ研修に行ってもらう予定だ。
邪神なのに天界に行くのかって思えるのだが、別にこの世界の神達はホーラックスに思うところはないらしい。
というか終末の邪神となったホーラックスなのだが、幸運を司る神エムファランからダンジョンのシステムを正式に引き継いで管理する事になるようだしな。
後魔王システムもホーラックスが管理する仕事になったみたいだ。
ダンジョンについてはまあ、ホーラックスらしいのだが・・・・・・魔王システムは余計な仕事をって思わなくもない。
それはともかく囚人達だが、ビゼル達が用事でどこかに行っている間、おとなしく仕事をしているとも限らない。
なのでわざわざそんな危険分子を開放する必要もないのではって考える。
「ブリクトンから見てその囚人達は、ホーラックス達がいなくても真面目に働くと考えているのか?」
「さてどうでしょう。今現在は完全にビゼル様、ホーラックス様に絶対服従しているようなのですが、影響から離れた場合はわかりかねます」
「ならば現状維持でいいだろう。わざわざ危険を冒す必要もない」
「了解しました」
確かに罪を犯した者達を労働力として使えるのは有利なのだがな。
そこまでこの国は、人手に困っていないということだ。
ゴブリンやコボルトが増え過ぎたともいえる。
ちなみにビゼルが司るのは異界だった。種族、異界の邪神。
異界とはいうものの、正確には魔族を守護する神って感じかな。
それを拡大解釈して、魔に属する者全般が、ビゼルの担当になりそうだ。
つまり友好種だけでなく、意思疎通が困難なモンスターもまとめてビゼルの担当となる。
そうなると僕の担当は、人間や亜人や獣人。精霊や動植物ってところか。半分とまではいわないが、かなり分担する事になりそうだな。
モンスターだけとはいえ仕事量は多そうなので、ビゼルにも眷族を創って作業させるようにしよう。
そうでなければいくら神になったからって、忙し過ぎるだろうからね。
「という訳で、神の仕事を教える前に、眷属を用意した方がいいぞ」
後で教えるより、初めからまとめて指導した方が効率的はいいと思う。
「むー、とは言われても、わらわにバグのような眷族を創る能力はないわ。ガーゴイルのような魔法生物なら創れるわ」
「そうか。まあある程度の知能があって、作業出来れば問題ないとは思うが・・・・・・どれくらいの知能があるか次第だな」
人間並みの知能があって、迷ったら誰かに聞いたり出来れば問題ないかな?
「そいつら、会話とか出来るのか?」
「まあ、そういう風に創ればいいだけだわ」
「なら仕事場をこちらと共有したら問題はないか」
今までこっちで引き受けて来た仕事だ。迷った時は眷族に聞いてもらえれば、問題なく仕事出来るようになるだろう。
ガーゴイルと仕事する現場・・・・・・傍からみればシュールだな。
城の地下に造られた僕達の拠点。その一室に用意された神の仕事をする為の執務室というか、仕事部屋。
今まで眷属のエンジェル達と一応僕が仕事に使う立派な机が配置されていたのだが、その仕事部屋を拡張すると共にビゼルが新たに創り出した眷属というか配下の居場所を確保する。
ビゼルが創り出した配下は、中身はガーゴイルと変わらないらしいけれど、見た目は魔人型といってもいい姿をしていた。
理由としてはダンジョンなどの敵役ではないので、事務仕事向きな魔生物を創り出したとの事だ。
その能力は、魔人並みの知能を備え人型なのでちゃんと会話も可能というもの。
これなら十分任せられそうだな。
ただ、一般人程度の知能というか能力では、神の仕事の代行するのは少し難しいかもしれない。
何せやるべき仕事量が並ではないのだからな。
不眠不休で動き続ける魔生物の特性は頼もしいところなのだが、それでもまだ仕事量には追付かないと考えられる。
なので魔人並の知能を有している魔生物が誕生する事になった。
後足りないスペック不足の部分は、配置する個体数を増やして対応だ。
何体くらい必要になるかは実際に仕事を教え込んだ後、余裕を見て仕事が出来ているのかどうかで判断して行くつもりだ。
まあ、元々こちらの眷族であるエンジェル達が側にいるので、何とでもなると思う。
祭りが終わり日常の生活が戻って来て、さあ人間達から信仰を集めるかなって考えるところなのだが・・・・・・現実問題、人間から信仰心を引き出す事って、相当手間で難しいのだよね。
それでもって当初の目的であった神格を上げられる唯一の方法だと思っていたのだが、眷属神に信仰心を集めてもらった方が断然効率がいい事が今回の祭りで判明した。
フォーレグス王国内の国民の数が多いっていう事情もあるのかもしれないが、人間を相手にするよりも余程効率がよかったのだ。
ビゼルとホーラックスの例で考えれば、一神教ではなく一人が複数の神を信仰してもいいらしい。
つまり人間社会の宗教家のように、信仰の取り合いもしなくていいのだ。
おそらく心の底からその神を信仰していれば、対象となる神を絞らなくていいのだろう。
まあそのおかげで今回の収穫はでかかった。
ビゼルとホーラックスの神格は六となり、その信仰心を受け継いだ僕はもろもろ合計して十四となった。
はっきりいえば神格を一つ上げるのに駆けずり回って、必死に奇跡アピールをしていたのが馬鹿らしくなる程、お手軽簡単に一気に神格が上がったのだ。
そりゃあやる気がなくなるよね~
とは言うものの、今世界で悲鳴を上げている人間を助けてほしいと神々から言われているのだよね。
そう考えると、そんなにガツガツ信仰集めする程ではないのだが、まあ適度に手助けしながらフォーレグス王国をアピールする。そのくらいでちょうどいいような気がする。
人間からまったく信仰心が手に入らないって訳でもないようだし、信仰してもらえればラッキーだなくらいで助けておけばいいのかもしれないな。
今後の神格の上げ方自体は、ちょっと別の案を思い付いたしね。
まあ確実性はないので、まずは実際に実験して見ないと駄目だろう。
ゲームの世界ベギウスオルクに創った裏側に、日本人達を移住させたのだがそこに僕を崇める事で手に入る何か、新要素を追加するのはどうだろうかと考えている。
これは表側のゲームにも適用してもいいのかなって考えているのだが、そっちからも信仰が貰えるものかどうかはちょっとやってみないとわからない。
表側はアバターを使って操作しているだけの仮想現実になるので、こちらの信仰には心がこもらない気がするのだ。
アバターとしてゲーム世界に行っている関係で、そこでの信仰は僕に直接影響するかどうか確証がない。
まあそれもやってみなければわからないし、ひとまず新要素として実装してみようと思う。
「という訳でおっさんに頼みたい。何か信仰心を集めるような新要素、開発出来ないかな?」
「新要素か、いいね~。最近はたいした企画もなかったから、ろくなアップデートも出来ていなかったからね。みんなでちょっと考えてみるよ」
「頼んだ」
ゲームの追加要素としてなら、駒田のおっさんに任せておくのが一番だろう。
電脳空間ならある意味おっさんも、神みたいなものだからな。実際はただのGMなのだが。
そう考えてみると、自分が生み出した世界になら好き勝手に振舞う事が可能ということになる。
確か神格を得て、世界を創り出す力を手に入れたような気が・・・・・・
これってひょっとすると神格上げ放題になるのではないだろうか?
おっさんの追加要素が上手く行くようなら、僕を神と崇める世界を創造してみるのもいいかもしれないなー
「私達はどうする? 子供達と一緒にまた、あちこちの異形の討伐でもして、経験稼ぎ?」
おっさんとの打ち合わせが終わったと判断したのか、レイシアがそう聞いて来た。
「人間から信仰してもらうのは、効率が悪いわ」
レイシアに反応しつつも冒険に出かけるのは楽しみなのか、装備を確認し始めるビゼル。
まあ確かに信仰云々はもうどうでもいい気がしないでもないが、レイシアの経験稼ぎやスキル上げは続けたいところだな。
「そうだな。ビゼルに神の仕事の引継ぎも大体終わったし、経験稼ぎはしたいところだな」
「じゃあ私、準備してくるよ!」
「ああ」
そんなに慌てる事もないのだが、準備に向かうレイシアを見送る。
「ビフィーヌとテッシーは準備いいのか?」
同じ拠点の休憩室で、のんびりしていた二人にも話を振ってみると・・・・・・
「私はいつでも主さまと行動出来るよう、準備出来ていますので」
「私に準備など必要ない。必要ならば現地で調達出来る」
まあビフィーヌはほとんど僕と一緒に行動して来たので、いつでも動けるよう準備しているのは知っていたが、テッシーは逆にいろいろな生産スキルがあるので常に現地調達だな。
しいていえば食料くらいか?
そっちは僕達も出発前に確保するので、常に用意して持っていなくても大丈夫だろう。
そう考えると、僕と同じでテッシーはほぼ手ぶらで活動しても、何も問題はないといえるな。
さすが神の名を持つホムンクルスだ。
ふと気が付いたのだが、僕の眷属って訳ではないけれど、テッシーも神格を得る前提条件が揃っているのではないだろうか?
この場合どういう扱いになるのだろう?
眷属ではないけれど、被造物として支配下にあるという判断でいいのかな?
テッシーも神格を得たら僕の神格が上がるのなら、やっぱり神格を獲得してもらった方がいいのだろうか・・・・・・
うーん。まあその場合、どうやって信仰を集めるかの方が難しい問題のような気がする。
人間相手に信仰集めは考えていたよりも大変だったし。今からやるとなると手間がかかり過ぎる。
それに僕とかぶって信者の取り合いになるかもって考えると、いろいろ問題も出て来るだろうしね。
これもいろいろと考えてみないとだな~




