そろそろ信仰を集めに行こうか
直ぐにみんなで経験稼ぎに出かけたかったのだが、そういう訳にもいかなかった。
ビゼルは闇を人型に留める事に成功はしたものの、まだ意識を移して操るまでには至っていない。新しい魔法として闇人形というものを習得しているみたいだけれどね。
操作まで出来るようになれば、そっちも新魔法として覚えるのだろう。特訓あるのみだ。
ビフィーヌも、スキルを付加させたので分身する事は簡単だったのだが、元々彼女は戦闘員ではなかった。
その為パーティーを組んで活動するには、まずそれなりに動けるよう訓練しなければいけない。
今まではLVを上げて無理やり付いて来たようなものだ。
同LVになってしまえば足手まといになるのは仕方がないだろう。
まあそれは僕も同じだったりする。
今まで二の太刀いらず、殆どの敵を一撃で倒して来た弊害か、同ランクの敵を相手に上手く立ち回れなかったりする。
初めは体が鈍ったのかなって、見当違いな事を考えたものだが、そもそも僕はインドアなゲーマーであって戦士ではない。
圧倒出来る身体能力がなければ、ビフィーヌとそう変わらず足手まといなのだった。
そんな訳でしばらくみんなと訓練をしていた。
やっぱり接近戦は駄目だな。元々の素質が無い。
いやこっちに来て長いので普通には動けると思うのだが、圧倒出来るほどの才能は無いといった方がいいかな。
今までが圧倒的だっただけに、それが目立っているのだ。
日本にいた時に、剣道とか柔道とかそういうスポーツをしていた訳ではない。どころかそもそも球技などのスポーツも、学校の授業程度だった。
命がけの戦いに身を任せなければいけない接近戦など、にわか仕込みで出来る訳がなかったのだろう。
うん、スキルを鍛える意味でも後衛の方が僕には似合っているな。
身体能力でバンバン敵を蹴散らしていた頃には使っていなかったスキル。銃術をメインに戦って行こう。
懐に入られたら爪撃。後は呪歌なんかの支援もいいかもね。
普段使う事がなかったので、そこら辺りのスキルは全然育っていないので、積極的に使ってみたい。
子供達とはまた別の拠点にあるダンジョンにて、かなりランクを落とした敵を相手に戦いを挑んでみる。
「うーむ。思うように体が動かないわ。何か体にまとわり付いておるようだわ」
一緒に訓練を始めてから数日。
ビゼルは何とか闇の人形に意識を移し操作出来ているようだけれど、レイシアランクまで身体能力を落としている影響が結構あるようだな。
僕もそうだが、これは慣れるしかない。
「そうですね。ちょっとこれは大変そうです」
ビフィーヌも一応分身出来るようになったものの、僕と同じで元は非戦闘員。
身体能力で無理やり押し切れなくなれば、同ランクの敵と戦うのも結構きつそうだった。
そんな彼女が前に出て戦うのは無謀なので、今は僕と同じように銃器を持たせて戦っている。
これなら腕力とか接近センスに頼る事無く、銃器の性能で戦えるからな。まあ、銃器が効かない相手には弱いのだがな・・・・・・
「こうなるとビゼルとテッシーが前衛、レイシアと僕が後衛、ビフィーヌは回復要員って感じだな。パーティーとしてはそこそこのバランスになるか?」
ゴットホムンクルスのテッシーも参加してくれるようなので、安心して戦えそうだ。
ちなみにテッシーは同調というスキルを習得しているみたいで、レイシアの能力に合わせた行動が出来るようだ。
なので分身とかする必要がなくなった。
なんというか、さすが神の名が付くサポート特化のホムンクルスだ。
しばらく不慣れな体に四苦八苦しながら連携の訓練をする。
まあレイシアとテッシーは安定した戦いぶりで、異形までの敵なら問題ないだろう。
それに比べればこちらのメンバーは、神だったり魔王だったり使徒だったりするのに、ぎこちない動きしか出来ない事に申し訳なく思う。
そうはいっても、僕は元々一般市民だったのでゲームの操作ならまた違うものの、生身の体を達人のように動かす事など出来ないのが当たり前だよね。
そんな僕が神だっていうのが、物凄く違和感があったりする。
ある程度感覚がつかめた僕達は、難民の子供達に混じって戦っている。
実力的にはレイシアを基準としているので、異形と戦えるくらいには強くなっていると思いたい。
そんな訳で同じダンジョンで戦っていた。
「よっ――ほっ! 動きは見切れるのじゃが、体が付いてこんわ」
闇の人形の操作に大分慣れてきたものの、同ランクの強さを持つ敵を相手に完璧に対応するには至っていないようだ。
敵の攻撃を避け切れず、巨人の攻撃がかすってしまった。
しかし、ビゼルが操作している体は闇の力が集まって出来た人形。そもそもダメージは皆無なので問題はない。
しいて言えば本来のビゼルからしたら雑魚の敵に、攻撃を当てられたのがプライドに引っかかっているくらいだろう。
僕は最初っから諦めて、接近戦をほぼ捨てているけれどね。
ビフィーヌと連携して、ビゼルに接近しようとしていた巨人を後方から銃撃。
足止めしつつじわじわと体力を削りながら倒していた。
弾丸自体は魔力を込めて作られている為、精神力を注ぎ込めば一撃で倒せる攻撃も使えるのだが、如何せんレイシアランクまで能力を制限するとMP消費が多過ぎてきつい。
一回戦ったら休憩とか非効率的過ぎて、やっていられないのだよな。
一応MP消費軽減の為に鉄粉から弾丸を作る構造になっているのだが、これを完全な地球の銃器にしてしまうと効かない敵も出て来る。
アイアンゴーレムとかドラゴンなどだな。
後魔人とか魔王とかも効かないだろう。そんなやつとは戦わないだろうけれどね。
とにかく魔力を絡めない方法では、倒せない敵も出て来るのでそのままでは使えない。
その為精神力を注ぎ込んで威力を調節出来る構造にしていた。
今は継続戦闘能力を見ながら、どのくらいの威力まで使うかを試しているところだ。
また敵に応じた急所などを狙う事によって、効果的に倒すまたは足止めする方法なども調べている。ビフィーヌとの連携だけじゃなく全体の連携も含めてだな。
属性を持った弾丸とかも用意した方がいいかもしれない。
確か昔に作った銃器も、そういう構造だった気がする。
その後数日が過ぎ、連携訓練が終わった勇者パーティーが旅立つ事になった。
「まずは聖サフィアリア国に行ってもらいたい。向こうに着いたらあちらの指示で周辺にいるデミフュルス退治になると思う。何も指示が無いようなら、こちらからどこに向かえばいいのか指示を出していこう」
「指示って?」
「まあ、信託みたいにどこどこへ向かえって感じだな。後アーゲルトには一応、フォーレグス王国や最近神になった生命の神の宣伝なんかも頼みたい。無理にとは言わないが、少しでも認知度を上げておきたいからな」
恩着せがましくて嫌なのだが、少しでも信仰を集めたいからね。
機会があるのならどんどんアピールしてもらいたい。
「バグ様、俺達がばっちり宣伝しておいてやるよ!」
「ああ、頼むな。じゃあまずは無理をしないで敵の少ないところから討伐して行け。数多く集まっているところは相応の実力が付いて、余裕が出た後に向かえばいい。なるべく怪我をしないようがんばってこいよ」
「大丈夫! 俺達しっかり鍛えたからな!」
「ええ、それではレイシアさん、バグさん行って来ます」
「行ってこい!」
若干レビルスよりも難民の子の方が気合入っている感じだけれど、飛空艇に乗って元気に旅立って行くのを見送る。
彼らは優秀だったので、あまり手はかかっていなかったのだけれど、やはり少し寂しく感じるものだな。段々と成長していく彼らを見るのは嬉しくもあり、誇らしくもあったが彼らは魔王と戦う事になる。
出来る事なら生き残ってほしいな。
そのうち残りの子供達も旅立って行くのだが、彼らも今から心配だ。
しっかりと鍛えたけれど、訓練と実践は違うからな。油断して失敗しなければいいのだが、まだまだ子供。
調子に乗らない事を願うばかりだ。
さて、こっちもそろそろ異形退治に繰り出そうかと考えているのだが、その前に祭りの準備の方も見て廻っておこう。
食材の方はマジカルドール達のおかげで、十分な量を確保出来ているようだ。
後は本番に露店をする者達の様子を見てみたのだが、こちらは年に何回も祭りをするから手馴れていた。食材さえ確保出来れば、特に問題などないだろう。
「あっ、バグさん。見回りですか?」
あちこち見て廻っていると、佐渡さんから声をかけられた。そういえばこの辺りは佐渡さんの家の近くだったな。
「祭りの準備は順調なのか、ちょっと気になってね。佐渡さんの方は問題ないか?」
今回初参加になる佐渡さんと違い、町の住人達はばっちりそうなので、佐渡さんの様子を見てみるかな。
そう思い近付いて行ったら・・・・・・
「ウクルフェスは何をしているのだ?」
屋台の裏でなにやら動いているウクルフェスを見付けた。
確かホムンクルスの研究をしていたのではないのか? そして今まで祭りを見て回る事はあったのだが、参加する側に興味を示した事はなかったはず。
どんな心境の変化があったのやら・・・・・・
返事もしないで何かに熱中している様子を不審に思い、何をしているのかと覗き込む。
そこにはとても見慣れた電化製品が並べられていた。
ミキサーやホットプレート、食器洗い機に電気ケルト等々。僕から見ればそれ程珍しくもないのだが、この世界には存在しない物ばかり。
どうやらそれらの道具が珍しくて、ウクルフェスが張り付いているようだった。
身内・・・・・・のような者が邪魔をしてすまないって思う。
「どうやらお邪魔しているようだな。すまん」
「いえいえ。まだ何で勝負するか迷ってたんで、大丈夫ですよ」
「祭り開始までもうそろそろ時間がないのだが、間に合うのか?」
「まだまだバグさんがやっていない屋台もありますし、選択肢はあるんですが・・・・・・どれもバラバラで一緒に出せないのが残念なところですね」
「まあ、それはしょうがないだろう。一つに絞ってまた次の祭りの時にでも出すのが妥当だろうな」
「はあ、やっぱりそうですよねー」
結構佐渡さんは祭り好きなのかもしれない。あれもこれもやりたくて、うずうずしているって感じだ。
まあ楽しんでくれているようなので、安心した。
「これはケバブか?」
用意されている材料を見て、屋台の内容を予想してみる。
「いろいろと悩んだんですが、ケバブとフレッシュジュースにしようかと思いまして」
ホットプレートとたこ焼きの板などもあって、そっちの方を作るのかと思っていたのだが、たこ焼きもお好み焼きも、クレープなども既に普及しているので、ケバブに決めたようだ。
僕も名前くらいは聞いた事があるけれど、実際どんな食べ物なのかよくは知らない。
クレープっぽいものに肉を包む感じだった気がしたので、もしかしてって考えたのだがどうやら当たったようだ。どんな味なのだろう。ちょっと気になるな。
確か屋台などで売られていたものなので、こっちでも屋台で売ったり出来るものだとわかる。
電化製品に興味津々のウクルフェスを放置して、佐渡さんは早速ケバブを作り出した。試作品かな?
おそらくは既に有力な候補の一つとして考えていたのか、焼きあがって吊り下げられた肉が準備されていた。それを包丁で削いで野菜と共に、クレープの皮みたいなもので巻いていった。
「どうぞ」
「ありがとう」
受け取るとレイシア達の分も作ってくれたので、全員分が揃うのを待って一緒に食べる。
「クレープみたいなものかと思ったら、皮は甘くないのだな」
「デザートとは違いますしね」
肉や野菜がたっぷり入っているので、普通に食べ応えもあって美味しい。
これはこれでありだな。
サンドイッチと違って弁当に出来ない事から、こういう屋台向きの軽食って感じだ。
今後はたまに、マジカルドール達に作ってもらってもいいのではないかな。
「始めて食べたが、ケバブっていうのは美味しいな。おい、ウクルフェス。やめろ!」
一緒にいたのでウクルフェスもケバブを貰っていたみたいだが、ふと見ると電化製品を分解しようとしていた。
初めて見る物を調べたいのはわかるのだが、さすがに人の物を分解するのはまずいだろう。せめて許可を貰え。
ポト――
ミキサーを調べていたらしいウクルフェスの手元から何かが落ちた。
まさか壊したのではないだろうな?
拾い上げて見ると、プラスチックらしき板と魔石か?
感触はプラスチックそのものなのだが、この世界にプラスチックは存在していない。おそらくダンジョンマスターの権限で取り寄せた品々だから存在する物だろう。
それはそれとして、魔石を使っているところが微妙にこっちの世界と融合しているところだな。
そういえばこれら電化製品にはコードが付いていない。
電気で動いているのなら電源コードが付いているものなのだが・・・・・・よく見ればどれもコードが付いていなかった。魔石が乾電池の役割でもしているのだろうか?
ウクルフェスがひっくり返しているミキサーを取り上げ、裏側を見てみると予想した通り、乾電池を入れるような溝が見付かる。
落ちた魔石をそこに配置して、プラスチックの蓋をはめる。
ぴったりはまったのを確認してスイッチを入れてみれば、容器の中の刃が回転して回っているのが確認出来た。正常に動いたので、壊れたりはしていないようだ。ちょっと安心。
それとやっぱり乾電池代わりだったかー
「バグよ、ひょっとして今落ちた物が動力源か?」
「まあそうなるな」
魔石が動力源とはいうものの、そもそもその魔石自体がめったに手に入らない。過去作る事が出来る人間がいたらしいのだが、今だとちょっと前にいたロップソン以外作れる者はいなかったはずだ。
今手に入れようと考えるのなら、遺跡を漁るしかないだろうな。
まあ、ロップソンがいた時に魔石を作る技術を見ていたので、フォーレグス王国なら問題なく作る事が出来るのだが・・・・・・あいにくと活用する機会はなかった。
あれは地球のような魔力がほとんど無い土地でこそ、活躍するものだろう。
あるいは魔法が使えない人用の使い捨てのエネルギーか、予備の補給魔力って感じだろうか。
値段のわりにあまり利用価値のなさそうな魔石が、これら電化製品の動力源として使われているようだ。
「これって、魔石の魔力が無くなったらどうしているのだ?」
「DPを溜めて交換するんですよ」
ちょっと気になったので聞いてみたが、やっぱり交換なのか。それならひょっとしてあれが利用出来るかな?
ミキサー以外の電化製品も確認してみたのだが、必要としている魔石は雷属性だった。
属性魔石を作る方法も確立している。
ロップソンが作った魔石製造装置だと、ただの魔石を作ってから雷属性へと変換するものだった。それを独自進化させて、直接雷属性の魔石を作れる魔道具を作る。
これくらいなら簡単に作れる魔道具なので、佐渡さんに渡そう。DPの節約になるからな。
「これを使うといい。周囲から魔力を集めて雷属性の魔石を作り出す魔道具だ」
「うわー、ありがとうございます。いいのかな?」
「構わない。僕達が食べた事のないような料理とかあれば、紹介してくれ。オリジナルでもいいぞ」
「わかりました」
横に置いてあった多目的シートを確認して、むむむって感じで考え込んでいる。
一応司書をしていたヴィリアンなら地球にあった料理の知識があるだろうが、どれが美味しい食べ物なのかはわからないからな。
作り方や存在は知っていても、味わった事はないだろうから、僕が教えた料理しか作ってこなかった。
佐渡さんからもこんな料理があるよって教えてもらえれば、もっと食生活が充実するだろう。
僕も佐渡さんも、コックだった訳じゃないのでそんなに多くの料理を知らない。
二人で考えれば一人よりはましになるだろう。なってくれるといいな。
電化製品にくっ付いて離れないウクルフェスを拘束し、佐渡さんに今度安い電化製品を用意してもらう交渉をして一旦帰らせる。
たぶん分解したところで、こっちの世界では真似出来ないと思うのだが、まあ一度中身を見せればわかるだろう。
だって基盤なんてこっちの世界には無いだろうからね。
おそらく電源部分だけ魔石に置き換えているのだろうと思われる。
まあ僕ならほとんどの電化製品は、基盤などなくても魔道具として再現出来るだろうから、そこまで研究する必要はないだろう。必要なのは発想だけかな。
こっちの世界の人間なら、魔力が一切無いなどという状態はないので、こちらの魔道具が使えない人もいないだろうしね。
それに必要不可欠な魔道具などはないと考えられる。
後、便利過ぎると日本のように体力が低下するぞ。
まあ召喚されて来た異世界人だと、さすがにこちらの魔道具が使えない者も出て来るかもしれないが、そんなレアケースは想定する必要もないかな。ピンポイント過ぎるだろうしね。
ウクルフェスの行動以外に想定外の事は起きていないようなので、そろそろ本格的にレイシア達とスキル上げに出かけよう。
レビルス達は聖サフィアリア国からスタートになるが、こっちはフォーレグス王国周辺から始める予定だ。
神の目によれば、またフォーレグス王国の境界にある結界に異形達が引っかかっているのが見えている。以前倒した後、再びフォーレグス王国を目指してやって来た者達の成れの果てだろうな。
そいつらを相手に今の僕達で太刀打ち出来るのか、テストさせてもらおう。
翌日国の境界の外へと跳ぶと、結界に捉えられていた異形を一体開放して戦ってみた。
「ふむ、慣れればどおって事もないわ」
呪歌による支援をおこないつつ、適当に銃器で異形の足を撃っていたのだけれど、ゴットホムンクルスのテッシーが安定した盾役をこなしてくれるので、危なげなく敵を倒す事が出来た。
これって呪歌による支援効果が出ているのかどうか、ちょっとわからないような気がするな。それともスキルが低いので、目に見えて効果が出ていないだけなのだろうか?
それともあっさり倒しているのが呪歌のおかげとか? 確かめてみよう。
次の戦闘は呪歌無しで戦ってみて、どの程度変わってくるか検証してみる。
ちなみに呪歌で歌う曲は何でもいいらしく、戦闘で燃えそうなアップテンポのアニメソングを歌ってみた。
ゾンビとかのアンデット相手なら、賛美歌なんて効果ありそうだよな。教会なんか行った事もないので、歌えないけれど・・・・・・歌えたらテンション上がりそうだ。
銃による支援の方は、足を狙っただけあって上手い具合に支援出来ていたと思う。
本体よりも動きの鈍ったビゼルが、余裕を持って戦えるくらいには支援出来ていたはずだ。
もちろん百発百中ではないので、ビフィーヌと連携した結果である。
僕が右足を狙って撃てば、ビフィーヌが左足を狙って撃ってくれるので、異形の機動力はズタズタだった。
後はテッシーが押さえながらビゼルが隙を見て攻撃、レイシアが後ろから魔法でガンガン攻撃して終わりだった。実にあっけないと思える程、楽に倒せている。
まあ一体ずつ戦っているのでそんなものかもしれないけれどね。
「じゃあ次は複数相手に戦うぞ」
むしろここからが本番。複数の異形を相手に無理なく戦えなければこの先きついだろう。
という訳で三体開放して早速戦ってみる事にする。
「ほっ! よっと!」
テッシーが二体の異形を盾で殴りターゲットを取ってくれる。
異形も元は人間。ある程度知能があるのでおとなしくテッシーを相手に足止めされないでこっちに向かおうとするけれど、横を抜けようとするたびに剣で斬られ盾で殴られてはさすがに無視も出来ないようだ。
上手く二体を引き付けてくれているな。
そして残ったもう一体はビゼルが足止めというか、ガンガン攻め立てていた。
この調子ならもう一体いてもよかったかもしれない。
ビゼルの前にいる異形はそのまま倒せちゃいそうなので、テッシーの前にいる異形に集中攻撃を仕掛けて数を減らしていく。
ちなみに今回、呪歌は無しだ。
今のところ無しでも特に問題は無いようだけれど、若干攻撃力が低下している気がする。
これはそれなりに効果があったという事なのだろう。
ならスキルを育てる為にも呪歌はガンガン使っていこうかね~
《・・・・・・神様助けて!》
戦いの歌をノリノリで歌い異形を銃撃していると、信者ではないけれど助けを求める声が聞こえて来た。
いいところでなんだよって一瞬思うが声の主を神の目を使って見てみると、これは難民を集めた地区だろうか?
仮設のログハウスが密集している場所で、異形が暴れたのかあちこちに丸太が散乱しているのが見えた。
その丸太に挟まれるようにして子供が一人、下敷きになっている。
そしてそれを何とか助けようとしているのか、母親らしき者が丸太を背中で押しているのが見えた。
さらに最悪な事に、その親子を狙うように迫って来る異形。その表情は追い詰めたねずみをいたぶるかのように歪んでいる。
《誰か、神様。助けて!》
はいはい。信者ではないのによく声が届いたものだな。
いやこれは信仰心を集めるチャンスだろう。
まあ助けたところで直ぐに信仰してくれる程、人間というやつは信仰深くないだろうが、少なくとも知名度は上がるかもしれない。
分身の中で、難民の子供達を指導している一人を向かわせるとしよう。
異形は異形で戦いつつ、本来は信仰集めの方が重要だったので早速手助けしようかな。まあそっちにも異形がいるのだけれどね。
ただ襲われている難民の方へは、普通に行くだけでは効果が薄いだろうな。
普通に助けた場合、それは単にたまたま居合わせた冒険者に助けられただけで終わりか、神アピールしても信じてもらえず頭がおかしいと思われかねない。
なので神に相応しい格好で登場してみようと考えてみた。
空から登場するのは基本として、背中には純白の白い翼がいいかな。
後はギリシャ神話のような服装に、光り輝いて神々しく光っていればばっちりではないだろうか。天使の輪も考えたのだが、神であって天使じゃないのでそれはやめる。
そもそもこっちには天使がいないしね。
「安心しろ。もう脅威は去った」
今まさに異形に殺されそうになっていた母親の前に降り立つと、異形に分解のスキルを使いつつ声をかけた。
こっちの分身体はわざわざ能力を落としていないので、異形に触れるだけで倒す事も可能。後は肝心のアピールだな。
今まさに優越感を漂わせた表情で、母子をいたぶろうとしていた異形が分解され、塵となって風に流されて散って行く。
その光景が信じられないのか、母親は呆然とこちらを見てきた。
おいおい、まだ子供が無事かどうかも不明なのだぞ。
まあ助かるとは思っていなかったのだろうから、呆然としても仕方が無いのだろうかね。
母親が立ち直るのを待つ事無く、子供の上に乗ったままの丸太を持ち上げ様子を窺う。
助け出した子供を見てみれば瀕死。
いやかろうじてわずかに息があるのみで、これは普通なら助かる状態ではないな。ほとんどの者が即死と判断して、治療を諦める事だろう。
医者なら微かに息があると判断するかもしれないが、おそらく助からないと判断して無駄な努力はやめるのではないだろうか。
実際これは致命傷だからね。
「ああっ! リア! どうしてこんな事に・・・・・・」
やっと自分の現状に気が付いた母親が子供を見た。
一目で助からないと気が付いたのだろう。子供にすがって泣き始める。
「僕はフォーレグス王国で最近、神格を得て神となった生命の神バグ。治療するので場所を空けよ」
神を信仰させるのに、これほど明確な奇跡の実演はないのではないだろうか?
まあ人の命をこういう駆け引きに使うのはどうかと思うが、こっちもメリットが欲しいからね。
人間はそうそう簡単に神を信じてはくれない。いろいろと面倒なのだ。




