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暗雲立ち込める

 たまにどうしてだろうって感じの作戦ミス? 詰めの甘さを見せる彼らに疑問を持った僕は、彼らのステータスを見てみることにしたのだが、その結果わかったことは彼らはレイシアより少しだけ先輩ってだけの新米、よくて中級レベルになったばかりの冒険者って感じだった。

 LVでいけば高い人が三十後半低い人で三十前半、レイシアがLV三十一に上がったことを考えても、そう変わるほどLVが高くなかったよ。

 予想なのだけれど彼らも冒険者学校を卒業して、まだ一年経っていないとかじゃないのかな? だからいろいろと詰めが甘いのだ。

 まあだけど先輩だけはあって、依頼をこなした実戦経験自体はあるのだろう。

 それがレイシアの持っていない部分で、彼らの強みになっているのだと思われる。逆に言えば経験の差が埋まれば、レイシアがこのパーティーでかなり上位の実力者にもなれるってことだろうね。

 レイシア本人がそれを望んでいるようには思えないので、衝突とかしたりはしないと思うけれど。


 そんなパーティーでぼちぼちと依頼をこなし、気が付けば在校生の卒業の時期が来る頃、レイシアの懐も暖かくなって待ち望んでいたワンランク上の宿に、常に泊まれる余裕が生まれたようだった。

 レイシアは早速宿を引き払い、満足できる宿に寝泊りすることになった。

 変わったことといえば、ご飯が美味しくなった。何気にこれは重要かもしれないね。女性なら特に気にする部分だと思うが、防犯対策が向上した。これも夜の安眠という意味で重要だな。ただ頼り過ぎになると、痛い目を見る事もあるだろう。絶対はこの世の中には存在しないのだ。

 後は、この宿には女性が結構いて、気軽に話ができる友達が見付かるかもしれないところだと思う。

 レイシアは、あまり友達を作るタイプじゃなさそうだけれどね。作らないのか作れないのかは、わからないな。予想では、作れないって気がする。友達を合成する神経がわかりません!


 まあ、とりあえずはいいパーティーに巡り会えたってことだろうね。このままいい関係を保てるといいな。

 結局は稼がないといけない金額も少し上がったので、今日も今日とて依頼に出かける。

 レイシアの加入で、パーティーのバランスもよくなり、多少難易度の高い依頼でも受ける事ができるようになったようで、引き受ける依頼も実りはいいがちょっときつそうなものが増えて来た。

 このちょっとの背伸びが、今のところ工夫でどうにかなっていて、大怪我には繋がっていない。

 これは運がいいのか、僕のフォローが効いているのかはわからない。まあ、それも込みと考えていい感じで経験を積めていっていると思う。

 モンスターの僕としてはお金はいらないけど、パーティーメンバーとしてみたら何か欲しいとか考えてしまうな。影に隠れてみんなからはいない者になっているけれどね。たまには何かレイシアに請求しようかな~。ベッドとか・・・・・・

 ちなみに、まだいいベッドとソファーは見付かっていない。

 遺跡や廃墟にある物ってほとんどが壊れていたり、痛みが酷くて使えない物ばかりなのだ。

 依頼に、山賊とか悪徳貴族の家に襲撃をかけるものとかないものかね~。そういう依頼があればこっそりと貰っても、問題ないと思うのだけれどな。まあ今後に期待だね。


 さて今日の依頼はどこかの馬鹿が、森の中で見付けたワイバーンの卵を不注意で割ってしまったことで、怒り狂って暴れているというワイバーンに、とうとう討伐依頼が出されたという経緯のものだ。

 ワイバーンは二体いて、それを倒して欲しいという話。

 そのワイバーンは卵を割ったという村人のいる村を度々攻撃しに来るそうだ。その村の人は、家から出ると襲われるということで、冒険者が来るのを家に閉じ籠って待っているそうだ。

 現状家から出ない村人に、苛立って家の屋根を破壊したりする事態に発展していて、早期解決が求められている。

 その為今回の依頼では、ギルドから馬の貸し出しがあり、それぞれが馬に乗って村へ向かうことになっていた。ちなみに、借り受ける馬に、真っ白な馬がいたので、レイシアはその馬を要求していた。

 こういうところを見ると、女の子だなって思うね。こちらの世界でも、白馬の王子とかは憧れられているのかな?

 訓練はちゃんと受けていたので、レイシアも問題なく馬を操れて、依頼があった村へはその日の真夜中に到着することができた。途中休憩を挟みながらの移動になったが、馬が潰れては元も子もない。

 辺りが暗く、不安のある移動だったけれど、無事に着いたことでみんなホッとしていた。


 村は結構酷い有様で、ほとんどの家の屋根が壊され、無事な家の方が少なかった。

 そして村の中なのに野宿という有様。これは村人も似たようなものだったので、まあ文句も言えなかったけれどね。

 レイシアだけは、女性だからという話になり、屋根付きの家に泊めてもらえたよ。

 ワイバーンは夜のうちは森に帰っていて、朝になると村を襲撃に来るのだそうで、みんなはそれぞれ軽い睡眠をとり、日が昇る前に起きて討伐の準備をすることになった。

 日が昇る少し前に僕らと共に、村人にも起きてもらい、みんなで討伐の準備を進める。

 今回ワイバーンは空を飛んでいる。しかもワイバーンは空の王者と言われると小説などで見た記憶があり、引き摺り降ろさなければ、まともに戦うこともできないと事前の作戦会議で話し合っていた。

 そこで今回レイシアがバリスタを召喚して、二つのバリスタの間に網を仕掛け、それで捕獲して地面に落とそうって考えていた。

 村人にはバリスタの準備をしてもらい、合図で発射してもらう予定になっている。バリスタを撃つまでもなく降りて来た場合は、そのまま村人には避難してもらい、僕らが討伐することになっていた。

 その為の人員として、ゴーレムが家の影に隠れている。ワイバーンを捕まえて、空に逃げないように押さえ込む作戦だ。後は上手く当たるかどうか、当てられるかどうかが鍵になる感じ。

 訓練などはできなかったので、ぶっつけ本番の出たとこ勝負になる。

 まあ彼らも怖いなりに、どうにかしなければいけないので、村の男衆が快く参加してくれている。


 徐々に日が昇りだし、村人の誰かが叫んだ。

 「来たぞ! ワイバーンが来たぞー」

 村全体に怯えたような緊張感が伝わる。十分に引き付けたところで、セルドイアが号令をかける。

 「第二バリスタ、撃て!」

 方向とか位置で二番目に配置したバリスタが、ちょうどいいと判断されてそちらのバリスタが発射された。

 不意を突かれたのか、真っ直ぐに突っ込んで来ていたワイバーンに見事網が絡み付き、捕獲に成功した。

 網に絡まったワイバーンが地面へと吹き飛ばされ、そのまま村の端へと投げ出される。直ぐ後ろからやって来ていたワイバーンは、慌てて上空へと退避してしまって、攻撃の範囲外に行かれた。

 とりあえずは一体、僕らパーティーは素早く近付いて、網に絡まったまま威嚇しているワイバーンを攻撃し始める。

 「二体目がこちらに来ます」

 ザボックが上空のワイバーンを警戒していて、その動きを報告する。

 「ゴーレムの用意!」

 レイシアはセルドイアに言われるまでもなく、ゴーレムを家の影に再配置、いつでも助けに来たワイバーンを捕獲できるように、待機させていた。

 ここら辺りはいろいろな依頼をこなして経験を積んだだけあって、もう自分でさくっと判断できるようになっている。

 「ゴウ!」

 セルドイアの合図で、ゴーレムを突撃させた。

 ちょっと合図が早かったな、ワイバーンは後少しで捕まるという所で体を捻り、辛くもゴーレムから脱出する。そしてそれを待っていたかのように、さらに隠れていた三体目のゴーレムが油断したワイバーンの首を抱きしめるように抱えた。

 バリスタ二台に付き、ゴーレム一体を置いておいたのだが、予備でもう一体、配置されていたのだ。何にでも予備とか保険とかって、大事だよね。

 空の王者も地面に落とされれば後はたいした事もなく、昼頃には討伐は終了した。

 「本当に、本当に、ありがとうございました!」

 「いえいえ、こちらも無事に依頼が果たせて、ホッとしていますよ。バリスタの操作のお手伝い、ありがとうございました」

 セルドイアが村長から、熱烈な歓迎を受けていた。

 余程困っていたってことだよね。

 村はまだ被害の跡がそのままで、これから家の修理など大仕事が一杯残っているものの、脅威が無くなった事で村民達の顔には笑顔が溢れていた。

 僕らはそのまま歓迎を受け入れて、今日はこの村で過ごし翌日のんびりとギルドへと帰ることになった。


 ワイバーンのように緊急をようする依頼は、そこまで多くはない。

 あったとしても冒険者の実力次第で受けるのが難しいものや、手間がかかるだけでそんなに難しくないものもある。ちょうどいい難易度で緊急のものは、早々無いのだ。

 そうなると日々のこまごまとした依頼を数こなして、お金を稼ぐ必要が出て来る。

 レイシア達は、そんな日常にある自分達の実力のほんの少しだけ上の依頼を、こつこつと受けながら生活していた。

 夢が無いとか言わないように。小説やアニメやゲームなんかのお話は、フィクションなのであんなに色鮮やかなだけだから。

 実際の冒険はそこまで劇的な展開とか、夢のある話とかそんなものはないのだ。普通にサラリーマンのように仕事して、お金を貰うのみである。

 そんな冒険を続けていると。僕の年齢もやっと一歳になった。

 この世界に召喚されて、一年経ったってことだね。

 そしてステータスは既に魔王並み! 実際の魔王を知らないから、ほんとにそれくらい強いのかはわからないけれど。ドラゴンと一対一で戦う自信はあるよ。

 エンシェントドラゴン辺りになってきたら、どうなのかわからないけれどね。ひょっとしたらそんなドラゴンが存在して、それより遥かに強くないと、魔王レベルにならないって可能性もあるけど、それくらい強いよって話だ。


 このパーティーで数々の冒険を繰り返すうちに、気が付けば一年以上の実績を積んでいた。その殆どの冒険はあまりぱっとしないちょっとした冒険ばかりで、生活費を稼ぐ為の冒険って感じだったな。これが職業冒険者かって実感したよ。

 彼らとそんな感じで過ごしているうちに、気付けば僕の年齢も二歳を迎えていた。

 やっと二年なのかもう二年なのか、そんな事を考えていると、待っていた依頼がとうとうやって来た!

 綺麗な方ではないけれど、山賊退治の依頼。

 綺麗な方は悪徳貴族の方だったのだけれど、まあ仕方ない。

 山賊の拠点がわかったので早急に襲撃、殲滅して欲しいという依頼だった。

 昔に冒険者が調べ尽した遺跡に山賊が住み着いていたらしく、そこを拠点にして活動をしているという話らしい。僕らはまた馬を借り受けて、早速その遺跡へと向かった。

 今回の相手はモンスターではないので、問題となるのは数。後は地形を利用して戦術を使ってくる恐れもあるから、そっちにも注意が必要だ。

 実力でいえば突出したやつがいないのなら、特に苦労はしないだろう。そんな依頼だった。

 遺跡の周辺まで馬で移動した後、そこからは警戒して歩きで向かう。

 襲撃予定は夜で音をなるべく立てず、スピードのある行動が求められる依頼だ。

 「安らかに眠れ、スリープ」

 レイシアがボソリと呟くように眠りの魔法を使う事で、山賊への襲撃は開始された。

 見張りに就いていた山賊三人が崩れるように眠り。それを確認したと同時に戦士であるセルドイアと、ロンブロクが入り口に駆け寄る。

 そして中を警戒しながら、見張りの口を塞ぎ、止めを刺していった。

 襲撃の第一段階は問題なくクリアされる。念の為に入り口の側にゴーレムを配置。遺跡から出て来る相手には攻撃、入る者は入り口を通して侵入者の存在を知らせてもらうようにしていた。

 後は迅速な突入だけれど、ここからはほとんど行き当たりばったりの正面突破になる。特に作戦と呼べるものは存在しない。

 別れ道などは、二つならそれぞれの戦士を前にして別れて移動って感じかな。そんな感じで突入が始まった。

 遺跡の中は、昔調べたという地形とほぼ変わりがなく、新たに作られた穴とか通路とかは見当たらなかった為、今のところはスムーズな制圧ができている。

 さすがに侵入者の存在は気付かれてしまったので、奥から飛び起きた山賊がやって来るけれど、案外ばらばらとやって来てくれるので、撃退するのに手間はかからなかった。

 そしてしらみ潰しに部屋を調べながら移動していた時に、ちょうどよさそうなベッドを発見、ちょっと古臭くて汚らしい物だったけれど、とりあえずはこれでいいかなって物だったので、部屋を調べ終わってみんなが移動する時に、こっそりと拠点へベッドを送っておいた。

 後で配置を決めなくちゃね。帰った後が楽しみだ。

 欲しい物を少しずつ集めて行くって、冒険していて楽しいなって思える。

 案外、生産とか合っているのかもしれないな。レイシアは錬金だったけれど、僕は道具系で何かしらスキルが取れないか、そのうち試してみよう。

 そんな事を考えていると、遺跡の最後の部屋の前までやって来られたようだ。抜け穴とか掘っていなかったら、ここで終わりだな。油断だけはしないように、さあ突入だ!


 「くそが!」

 部屋に入ると、山賊の頭と思われる男が短剣のような物を投げ付けて来た。それをセルドイアが弾く。

 部下が三人程部屋の中にいて、そいつに混じって頭も攻撃して来ていた。

 特に意表を付くような物は、無いようだね。部下が倒れ頭も傷だらけになった時に、異変は起こった。


 ガァアア!


 それは、人間の発するものとは思えない咆哮。メンバーの警戒が強まるのがわかった。

 ひょっとして、ワーウルフだったのか? 月は出ていないけれど命の危機を迎えて本性を現したとか?

 でも次第に盛り上がり不気味に変化していく姿は、狼なんかとはまるで違い悪魔、エーリアン? そんな感じの異形の生き物の姿へと変わっていった。

 「くそっ」

 セルドイアが攻撃を仕掛けるものの、そのことごとくを長く伸びた爪で弾かれる。

 立場が逆転して、今度はこちらが押され始める。

 こちらの戦士二人の攻撃が、まるで通じない。隙を見て弓の支援と短剣による攻撃も加わるものの、その全てが防がれるか、避けられてしまった。

 「燃え尽きろ、ファイアアロー」

 レイシアも魔法で参加するのだけれど、多少ふらつくくらいで火傷も負っていない感じだな。これはやばそうだ。

 例の如く、特殊召喚の準備をしないといけないかもしれない。今度は、どんな召喚で誤魔化そうか・・・・・・

 「レイシア、危なくなったらインプ召喚って言ってくれ」

 レイシアも理解していたのか、余裕のある受け答えでこう返事をして来た。

 「うん、頼むね」

 インプなら魔法を使っても、そういう生き物を呼んだといって、言い訳できるだろう。

 その後も長い間、みんなが思い付く限りの攻撃を加えていくものの、決め手になりそうな攻撃はなさそうだった。レイシアも、なるべく僕の手を借りない方向で考えているのか、直ぐには呼ばない。

 それでもセルドイアと、ロンブロクが攻撃を避け損なって倒れたのを見た時には決断を下したようだった。

 「召喚、インプ」

 異形の前に現れる、ちょっと頼りない大きさの緑の肌をした小悪魔。肉体変化のスキルだけでは真っ黒なので、今回は豪華に魔法で緑になってみた。細かい演出だな。まあインプを見たことがないので、これで合っているかわからないけれどね。さしずめ日本産のインプといったところか?

 異形が何だこんなものとでもいうように、嘲笑ったのがわかる。

 「アイスニードル」

 わざわざ悪魔っぽい感じのダミ声を演出して、魔法を唱える。

 氷でできた針のように細い複数の弾丸は、異形の体をことごとく貫通して遺跡の壁にまで到達する勢いで突き進んだ。そして穴の開いた異形の体は傷口が凍り付き、稼動部ならその動きを束縛する。

 あざ笑っていた顔に、驚愕の表情が浮かんだ。

 まだまだ続くぞ。

 「ファイアピラー」


 グアアアァア


 異形が叫びのた打ち回る。異形が立っていた地面から炎の柱が現れて、全身を燃やしたのだ。

 意外とHPが高いな、まだ転げまわるくらいの体力は残っているのか。

 じゃあ続けて次に行こう。

 「アースボム」

 異形の体のあちこちが爆ぜるように爆発した。

 HPは完全に削り切ってはいないな、でもここまでやれば、もう任せても大ダメージを受けそうな攻撃は、できないだろう。そう判断して、掻き消すように消える演出で影の中に戻った。

 結構僕って演出家に向いていそうだな。ちょっと楽しかったよ。

 僕が攻撃をおこなっていた間に、ザボックの治療を受けていたセルドイアとロンブロクが戦線に復帰して、異形に攻撃をしていった。

 執念というのか、異形の生命力が高かったのか、ボロボロになりながらも何とか攻撃をかわそうとしたり、剣をさばこうとしてはいたけれど、僕から受けたダメージがデカ過ぎてまともに動くこともできずに、結局は倒れることになった。

 戦闘が終わった瞬間、みんなその場にへたり込む程疲れきっていた。

 「みんな、大丈夫か?」

 セルドイアが何とか声を絞り出して、みんなに確認する。

 周りを見回して確認するのも億劫という様子だった。それぞれに何とか、大丈夫って声を出し合い。そのままつかの間の休息を取っていた。

 「今日はここで適当な部屋を探して、一泊して行こうか」

 極度の緊張を強いられたからか、セルドイアがギルドへの撤収を延期して、ここで休んで行くことに決めた。

 「じゃあ、僕が馬を入り口まで連れて来ますね」

 比較的余裕があった、ザボックが馬を迎えに出て行く。

 みんなはその間にベッドのあった部屋に行ってそこで休もうって話になって、移動を開始した。

 何となくしまったと思っていると、案の定そこは僕が転送させたベッドのあった部屋で・・・・・・

 「あれ、ここにベッドってなかったか?」

 セルドイアに指摘されてドキッとしてしまったよ。

 「他の部屋じゃないのか?」

 モランが幸いにして直ぐにそう言ったので、勘違いってことで落ち着いたようだった。お隣の部屋にて、みんなしてベッドに寝っころがった。

 レイシアは、まだ他の部屋にベッドがあったので、私はこっちでと言い、そっちでくつろぐ。

 その後帰って来たザボックを含めて、夕食を早めに取ってそれぞれ眠ることになった。

 ちなみに、レイシアは設定のMPを一杯使う切り札を使ったとして、見張りはしなくてもいいと言われた。


 その日の真夜中、見張りの交代をしている声が聞こえ、しばらくしてからのことだった。

 レイシアが寝ている部屋の中へと入って来たのは、ロンブロクか?

 思わず警戒する僕の前で、おもむろにレイシアに馬乗りになる。

 違和感を感じ取ったのであろうレイシアが慌てて飛び起きようとするのを、ロンブロクが押さえ付ける。暗闇の中、誰とも知れない相手に乗りかかられて混乱したレイシアが悲鳴を上げた。


 キャーー


 その声は遺跡の中によく響く。

 直ぐに口を塞がれたが、それでも仲間に知られてしまったことは間違いない、予想通りパーティーメンバーが起き出して来てレイシアがいる部屋に集まった。

 「何をしている、ロンブロク・・・・・・」

 「何って、見ての通り、お楽しみだよ・・・・・・」

 そう言って、セルドイアとしばらく睨み合った後・・・・・・

 「程々にな」

 セルドイアはそう言って背を向けた・・・・・・パーティーメンバーの中で、ロンブロクを止める者はいなかった・・・・・・

 「離して!」

 何とか口を塞ぐ手をどけることに成功したレイシアを、ロンブロクは殴り付けた。

 「大人しくしていろ、お前だって気持ちよくなるのだから、男女のパーティーなんてこんなもんだ。お前も楽しめ」

 頬を殴られ、頭を揺さぶられて朦朧としているのか、レイシアが大人しくなる。

 そんなレイシアの姿を見せられ、僕の奥底から暗い感情が沸き出して来るのがわかった・・・・・・


 「約一年半。それなりに長く持った方なのか・・・・・・」

 突然聞き慣れない声が聞こえたので、ビクッとしたのか僕の声を聞いたパーティーメンバー全員が、辺りを見回して警戒する。自分でも声を聞いた瞬間、凄く低い声だったので、相当怒っているっていうのがわかる声だった。

 「誰だ、どこにいやがる!」

 「何を言っているのだ? この一年半もの間、ずっと一緒にいたパーティーメンバーなのに、ご挨拶じゃないか・・・・・・」

 「なんだと?」

 ロンブロクと、セルドイアが慌てて周囲を見渡す。

 僕はレイシアの隣で影から抜け出すと、そのままの勢いでロンブロクの喉を押し潰す程握り絞め、その状態で空中へと持ち上げた。

 「スリープ」

 それと共に、眠りの魔法をロンブロク達ではなく、レイシアに唱える。

 「お休み、レイシア・・・・・・」

 レイシアが眠りに就いたのを確認する。

 僕の姿を発見して安心したのか、レイシアの顔には苦痛などは無く、安らいだ微笑が浮かんでいた。頬は痛々しいく腫れているのに・・・・・・思わずこのまま喉を握り潰してしまいそうになったよ・・・・・・

 「モンスターか!」

 セルドイアが今更ながら剣を構える。そんな戦士を前に、今更そんな物がなんの役に立つのかとおもむろに刀身部分を握り、そのまま力任せに握り潰した。それを見たセルドイアの腰が引ける。

 「なあザボック、お前神に仕える神官だったよな。何故止めなかった? ここは仲間をいさめるべき場面だろう? 特に神に仕えるお前が、相手の意思を無視して無理やりに襲っている現場を目撃したのだ。それをお前は無視したな。そんなだからろくな魔法も使えない、未熟な神官のままだったのだよ。もうお前はまともに神の奇跡さえ使えないな」

 そう言いつつ、この部屋を魔力で包み込む。これで神の力が来ても、多少なりとも威力を減らすことができるはずだ。

 「何を言っている?」

 「お前はもう神官じゃなく、ただの人になったと言っているのだよ。嘘だと思うのなら、今この現状を神の力で覆してみればいい」

 ザボックには攻撃手段は無いものの、危険と判断して仲間の支援をしようと抵抗力の強化から始めようとした。

 「神の祝福よここに、マインドアップ!」

 そしてその魔法は僕の魔力に疎外されて、効果を表すことなくMPだけを消費しただろう。

 「魔法が発動しない・・・・・・嘘だ、神の祝福よここに、マインドアップ!」

 次の詠唱は神の加護に疑いを持った為に、最初よりも遥かに力の無いものとなり、やはりあっさりと魔力に阻害される。ザボックは、神官としての力を失ったと思い込み、その場で崩れ落ちた。

 ついでに、喉を圧迫し続けて泡を吹き出したロンブロクも床に投げ捨てる。さすがに殺すのはレイシアにとってマイナス評価になりかねないからな。

 セルドイアが認めたくないように、こちらへと喚き出した。

 「僕はお前など知らない、いつからだ、いつからいた!」

 「初めからだ。最初の冒険は、熊とゴーレムを戦わせて、レイシアの力を試していたな」

 それを聞いた時、セルドイアの顔が醜く歪んだ。ほんとに初めからだというのが理解できたのだろう。

 「狼の群れの時はたいした実力もないせいで、群れを逃がしそうになっていたな、僕が捕縛しなければ依頼は失敗だったな」

 「そうか! レイシアが言っていた、緊急の時にしか使えない召喚というのがお前か!」

 「ふん半分外れだ。古城の幽霊は、ザボックが相手をするのかと思いきや、レイシアに全て任せるなんていう、ド素人丸出しの話をしていたな。魔法は無限に使える訳も無いのに、そんな知識すら無いとは。僕がユニコーンと、ライトエレメンタルを出すように指示しなければ、ヴァンパイアより先に幽霊にもやられていたんじゃないのか?」

 「お前が指示を出していただと・・・・・・?」

 「ああそうだとも、幽霊やヴァンパイアに通常の武器が効くものか、そんな事も知らないのか。だからレイシアに聖水を作るように言ったのも僕だ。おかげで何とかヴァンパイアと戦えるようになっただろう?」

 もはや言葉も無く呆然とした顔をしていた。

 「ああそうそう最後にへまをして、ヴァンパイアを逃しそうになっていたな。僕が攻撃しなければレイシアがやられて、ヴァンパイアにも逃げられていただろう? ワイバーンも無策で挑んで結局はレイシア頼み、空を飛んでいるやつに剣で何するつもりだったのやら。さて、理解できていると思うが、僕はずっとお前達と一緒にいたのだよ」

 モランとリュドセンが、危険を感じて部屋から出ようとしているが、部屋中に廻らせた魔力に遮られて、出ることができなくなっていた。恐怖でちょっと半狂乱って感じか? いい気味だな。

 「簡単な話だよ、因果応報って言葉を知っているかな?」

 セルドイア達は、ゆっくりと首を横に振る。まるで嫌々をするような動作だった。

 「因果応報・・・・・・。自分達の行いが、いずれ廻り廻って自分の元に返って来る。誰かに親切に手を差し伸べれば、いずれそれを恩に感じた相手が、手助けをしてくれるように。お前達がレイシアに対して自分の欲望を押し付けようとしたのなら、それを俺がお前達の絶望を持ってお返しするということだ。理解したのならさあ、逃げるなり抗うなり、好きにして見せろ」

 そう言って最大級に警戒する。

 最初にリュドセンが放った矢が飛んで来る、僕はそれを避ける事もせずにお返しの呪文を唱えた。

 「アシッドボルト」

 リュドセンの持っていた弓ごと手の表面が溶け出す。弓は中央から溶けて、もう使い物にはならない、弦も切れているしね。ちなみに放たれた矢は、霧の体を素通りして後ろの壁に刺さった。

 「ゆ、許してくれ、魔が差しただけなんだ!」

 プライドを捨てたのか、セルドイアがそう言って頭を下げるけれど、その言葉の返答として頭を持って床に叩き付ける。

 「抵抗は終わりかな?」

 見回しても、誰ももう抵抗するような気配は無かった。

 では仕上げにもう二度と、女性を襲うような真似をしないように、徹底的に恐怖を味わってもらおう。

 さすがに殺したりはしない。僕がいたおかげだけれど、未遂だからね。

 だけれど、レイシアにはトラウマができてしまったかもしれないな・・・・・・そう思うと、僕は合成された時の比じゃない怒りを持って、彼らに恐怖を植え付けていった。


 人間、これだけ長く付き合っていても、相手が何を考えているのか正確には理解できない。人間関係の難しさを改めて思い知ったよ。

 その後、レイシアの頬の傷を魔法で癒して、レイシアの拠点へと影渡りで戻った。

 ついでに眠っている間に憑依させてもらって、依頼の報酬は貰っておいたよ。ちゃんと馬は六頭とも、持って帰って来た。

 セルドイア達は、まあ知らん。持っていたお金とかめぼしい物は、僕がお小遣いに貰っておいた。

 今までの報酬代わりにちょうどいい。

 さてこれからのことを、レイシアの目が覚めた時に話し合わないといけないな・・・・・・。安らかに眠るレイシアを見詰めながら、僕は悲しみに包まれながらそう考えていた・・・・・・


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