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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第三十章  幼き勇者
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ウクルフェスの成果

 コトリ


 テーブルに置かれたポーションとよく似た瓶に注目する。というかポーション瓶をそのままに、中に水を入れただけのように見えるな。

 それを手に取ってキュポンっとコルクの栓を抜く。

 特に臭いらしいものはしないし、揺すってみても粘度は水より少しとろみが付いているくらいか。それも言われなければただの水と間違えても、おかしくはないくらい微かな粘度だろうな。

 「これが限界突破薬か」

 「まだ安全は確認出来ておらんけどのう。まあ問題なければそれで完成じゃろう」

 「レイシアはまだ限界まで行っていないから、試すのは当分先だな」

 「うむ。その頃には安全も確認出来ておるじゃろうて」

 これで寿命についても問題は無いし、実力についてもがんばればそこそこまで行けるだろう。

 後は不老になる年齢まで今のままがんばってもらって、出来ればビゼルみたいに神になれれば文句無しだろうな。

 夫婦間で一方はただの人間。もう一方は神様ってなってくると、序列とまではいかないまでも差が出来てしまうからな。なるべくそういう溝になりそうなものは、無くして行きたい。


 「あっ、そういえば。研究中、他の成果もあったとか言っていなかったか?」

 「うむ。そっちはバグにはあまり関係無いかも知れぬがのう。ホムンクルスを作るうえで、多種族の特徴の一部を引き継げるようになったわい」

 「ほー。キメラみたいなものか?」

 「そうじゃな。それに近いが、今のところ成功なのか失敗なのか、判断出来ぬのう」

 「なんだそりゃ」

 「引き継ぐ要素なのじゃが、安定しておらんのじゃ。だから上手く引き継げば、良いとこ取りのホムンクルスが出来るが、失敗した時は使えんホムンクルスが出来るじゃろうて」

 遺伝みたいなものかな。細胞を作り変えるとかそういう系統の薬なのかもしれない。

 そうなるとこの薬、本当に安全なのか?

 「なあ、この薬。ウクルフェスが使う前に被験者で、テストとかしているのか? 動物実験とかでもいいのだが」

 「そこはちゃんとやっておるよ。いきなり初手から自分で試す程馬鹿ではないわい」

 そうだよな。マッドの人ならいきなり理論は完璧だとか言って、飲みそうなのだが違うよな。

 「安全確認はしっかりな」

 「任せるがいい」

 不安はあるが、これを使うのはかなり先だ。それまでに完璧に仕上げてもらえればそれでいい。


 その後しばらくはホムンクルスで試された成果を確認した。

 獣人みたいに猫耳、尻尾などが付いたホムンクルスが誕生したらしい。その他にも、コボルトみたいなのとかウェアウルフとか、人間の一部がいろいろと変化したらしい。

 データによれば、外見で大きく変わった部分は最大で人体の三十パーセント。

 ラミアみたいに体の半分が別のものに変わるみたいなホムンクルスは出てこなかったようだ。

 三十パーセントを超えると、まともな形状を維持出来ない可能性が高い。奇形児みたな変な体になるのだそうだ。

 おそらく基本となる生物の形状を保てないのだろう。

 後それとは逆に、外見にまったく変化が見られないホムンクルスもいたらしいが、そっちは内面がいろいろ変わっていたそうだ。

 まあ細かい部分は詳しくない僕にはわからない。

 それにホムンクルスようの研究らしいので、そこまでがんばって追及する内容でもないかな。普通のホムンクルスを作り出せれば、それで事足りる。

 その後の研究は、やりたい人達に任せておこう。

 ただしヒントになるかどうかわからないが、遺伝子というものがあるとだけは伝えておく。

 これって電子顕微鏡とか無いと、わからない研究じゃないのかな?

 ウクルフェスが魔道具の研究もしているので、がんばって代用品を作って研究を進めてもらいたいものだ。まあがんばれ。


 「バグさん。お祭りをするって聞いたんですが、それって私も参加していいですか?」

 ウクルフェスとの話が終わり、のんびりとお茶を飲みながら雑談していると、天然ダンジョンマスターの佐渡さんがやって来た。

 「別に構わないが、ひょっとして出店かな?」

 「はい。せっかくなので文化祭みたいな事したいなって思って」

 「いいぞ。時間はそこそこあるし、自由に参加してくれて構わないが・・・・・・クレープとかたこ焼き、たい焼きとか焼きそばなんかはもうレシピが出回っているぞ」

 「あちゃー。やっぱりそこら辺りの食べ物は、日本人としては作っちゃうよね。既にある食べ物の名前を、リストにして教えてもらっていいかな?」

 「ちょっと待ってくれよ。モルモがデザート専門パペットだった時の記録があるはずだ。それを見れば僕が教えたレシピは出て来ると思う」

 「ありがとうー」

 こっちの世界でアレンジしていたり、独自に編み出したレシピなども載っているけれど、まあ佐渡さんなら上手く活用してくれるだろう。

 というか、新しいレシピが増えるのを期待しよう。

 リストを多目的シートに表示して、そのまま佐渡さんへと渡す。

 う~ん。もう少し多目的シートを作っておいた方がいいよな?

 さすがに誰にでもほいほい渡せる物じゃないが、複数枚持っていてもいい気がする。使い勝手がいいからな。

 素材置き場から材料を取り寄せ、予備も含めて十枚くらい生産しえおいた。

 「それ持って行ってもいいぞ。後で返してもらえればいいから」

 「はーい。じゃあ遠慮なく借りて行くね」

 早速準備を始めるのか、佐渡さんが出て行くのを見送り、ウクルフェスに声をかける。

 「じゃあこっちも戻って、子供達の指導をして来るよ」

 「じゃあわしもがんばるかのうー。また何かあれば知らせるわい」

 「頼んだ」

 別に指導は分身と眷属が見ているので急ぐ事もないのだが、みんなもそれぞれにがんばっているようだし、こっちもがんばるかなー

 そんな事を考えながら、拠点内に造られた特訓用ダンジョンへと跳んだ。


 「まだまだ連携が上手くいっていないようだな。それではアーゲルトとその他で別れて戦っているようなものだ」

 レイシアからある程度連携訓練が終わったって聞いて見に来たのだが、どうも上手くいっていないようだ。

 確かに上手い事敵を倒しているようには見える。しかしアーゲルト一人が突出して孤立しているようにも見えた。

 今はそれでもいいのだろうが格上の敵が出て来た場合、果たして倒す事が出来るのであろうか? 子供達の実力がそれ程高くないので、アーゲルトが信じ切れないのかもしれないな。

 仲間を信じ切れていないっていうのはパーティーとして致命的な気がする。

 レビルスはどちらかといえばソロ向きだったからなー。これからはそれでは困るよな。

 しばらく力を合わせなければ倒せないような、格上の敵を相手にしてもらった方がいいだろう。経験稼ぎにもなるしね。

 「次からクックレイを相手にしてくれ、初めはレイシアがある程度補助して、慣れてきたら任せるようにな」

 「クックレイって、アーゲルトにはまだきついと思うよ」

 「だからみんなで力を合わせて戦うのだ。一人では倒せないとなれば、みんなと連携して倒そうと考えるだろう? まあ実力が足りないから下手すれば死ぬかもしれないが、そこはレイシアがサポートしてくれ。もしもの時はこっちで回復する」

 「わかった」

 今まで異形を相手にする事を目標に訓練させて来たが、最終目標は魔王だ。

 異形は倒せても魔王には勝てませんって情けない事にならないよう、上を目指して強くなってもらわなくてはいけない。

 「じゃあ敵を出すぞー。召喚、クックレイ」

 今まで相手にして来た巨人に勝てていたから、もう十分強くなったと油断していたのだろう。

 連携出来ているといって、その実それぞれが近場で戦っていただけ。

 確かにフォローしあい、お互いの背後を守っていたので連携って言われればそうなのだが、それは個人と集団で別れた戦いだ。レビルスなんて、一人で相手が出来る敵だからこその戦い方になっていた。

 でもそれでは本当の連携とは呼べない。

 難民の子供達に混じって戦う事も、覚えていかなければいけないのだ。

 もし混じって足手まといだと感じたのなら、それはもうパーティーとは呼べないだろう。

 まあ最終的には魔王と一対一で戦うのかもしれないけれど、もしレビルスだけでは力不足だった時、みんなで力を合わせなければいけないからな。

 いざ魔王と対峙して、力不足だったので修行して来ますとはいかない。力が及ばないのなら、その場で何とか補わなければいけないのだ。

 それが仲間の力。仲間との連携になるだろう。

 みんなもっともっと経験を稼いで強くならなければ駄目だけれどね。


 「うわ! なっ、何だこいつ」

 レビルス達の前に呼び出された肉塊。クックレイを見て、子供達が気持ち悪がる。

 大きさは直径三メートルくらいの球体の肉の塊で、あちこちから触手が伸びているグロテスクな物体が地面から一メートル程浮かんでいる。

 こいつは難敵であるものの、比較的攻撃パターンが少なくて初心者向けのボスとして設定された群体悪魔キメラだ。

 群体である為いくつもの魂を持っていて、わずかな欠片でも残っていると再生して復活する。

 物理一辺倒な前衛職にはちょっと相性が悪い相手といえよう。

 つまり、今のレビルスでは連携しないと倒せない相手ともいえる。いや倒せない訳ではないかな。

 がんばって攻撃を続ければ、いつかは倒せるかもしれない敵だろう。

 圧倒的に連携して戦った方が、倒しやすいってだけだ。素直に連携する事を学んで欲しい。

 「くそっ、こいつ再生しやがる!」

 「斬撃は駄目だ、肉片を飛び散らせるな。魔法で燃やせ!」

 「駄目だようー。HPが多いから、MPが持たないよう」

 「くっそっ、どうしやいいんだ」

 おーおー、悩んでいるようだ。

 「それなら武器に魔法を付加してみたら?」

 レイシアの助言が入る。

 まあ単発で魔法攻撃するのは、どう見ても効率が悪い。あっという間にMPが尽きてしまうだろう。

 昔レイシアに指摘したように、召喚するのが一番効率はいいと思うけれど、召喚使いは仲間にはいないからな~

 一応レイシアが、昔程でないにしても召喚魔法が使えるのだが、レイシアが主力になって倒したのでは意味がない。

 ここはみんなで相談しながらがんばってもらわないとだな。


 その後もしばらく様子を窺ってみたけれど、かなり手間取っていた。

 魔法攻撃一発でズドーンって吹き飛ばす事が出来ないので、地道に斬り付けたりしていたけれど最終的には再生速度に追いつけなくて、何度も完全回復されてしまう。

 その代わりといってはなんだけれど、盾役の子ががんばったおかげかみんなに怪我はなかった。

 つまりお互い決定打がなく、こう着状態になってしまったようだ。

 「バグー」

 どうやら魔法使いの子もMPが付きそうで、これ以上続行不可能って感じかな。

 レイシアが声をかけて来たのは、どうも一度やり直した方がいいと判断したようだ。お手本を見せろという意味でもあるのかも?

 まあとにかくどうやって倒すのか見せる必要がありそうだ。

 とはいっても、僕なら魔法一発で消滅って感じなのだが、それではお手本にならないよね。やっぱり剣で倒すところを見せないと駄目かな?

 そうなると・・・・・・グレートソードを創り出し、火を付加した剣を持って倒してみよう。

 クックレイ相手に心もとない武器だけれど、というかこれで失敗したら恥ずかしいよな。がんばってやってみるしかないか・・・・・・

 「よっと!」

 剣で斬るのではなく、剣の腹の部分を使って敵を端から潰して行く。

 この時素早く連続でやらなければ再生速度に追付かれるから、スキル連撃で再生速度を上回る攻撃を仕掛けて行く。

 対応していない攻撃方法なので、手に余分な力がかかってやりにくい。まあ武器にしてもそんなに軟じゃないので、無理やりに攻撃出来ているけれどね。

 「おおーっ!」

 後ろで子供達が驚いているけれど、ペースを乱せば再生されてしまうので、一気に潰して行った。あー、ハンマー系で潰していった方がよかったかもしれないな。

 みんな見た目で武器を選択しているから、同じ剣ばかり選んでそれ以外の斧すら持っていない。

 同種類の武器ばかり持つのではなく、違う種類の武器も必要になるって教えておかなくては駄目そうだな。これは失敗したかな~


 「あー、今更でわるいのだが。敵によっては武器の選択を変える必要がある場合がある。斬撃が効かない敵なんかもいる。今回の敵は見ていてわかったと思うが魔法以外なら、打撃が一番有効になって来るだろうな。今後同じパーティーで戦って行くのなら、ある程度武器が被らないようにした方がいいだろう」

 「えーーっ」

 「まあ戦略会議でもして、みんなで話し合ってくれ」

 「はーい」

 反省会を始める子供達に、言い忘れていた注意をしてビゼルの元へと向かった。難民の子供達には分身から話をしておいた。

 レイシアばかりに構っていると、ビゼルが拗ねてしまうのでこっちも重要だろう。

 「たまにはみんなで食事でもするか」

 「賛成!」

 始めの頃は子供達と一緒に食事をしていたのだが、最近ではレイシア達身内だけで食事をしていた。

 孤児になって子供だけっていうのは、何かと大変で苦労も多かっただろうし、まともに料理など出来ないと思ったからな。そもそも調理するような食料がなかったのだから仕方がない。

 技術的な問題や食材の問題以外にも、いずれ異形と戦ってもらう為にもそっちに力を入れて欲しかったし。

 まあ諸々の理由で始めの頃は一緒に食事をしていたのだが、後々自分達で食料を調達して活動してもらいたいので、ある程度実力が付いてきてからは、食事も子供達だけに任せるようにしていた。

 野宿って訳ではないけれど、パーティーの中で一人くらいは料理出来る子がいないと悲惨な事になる。

 保存食だけっていうのも味気ないし、それでは元気が出ないしね。保存食と現地食材で上手く料理して、十分な食事をしてがんばってもらいたい。

 まあそんな訳で久しぶりに一緒に食事でもって考えたのだが、結構子供達の食い付きがいいようだった。


 「ううっ」

 みんなで一緒に調理して、何となくキャンプっぽく楽しい食事になったのだけれど、隣で食事しているレイシアからはそんな呻き声が聞こえて来た。

 別に料理に失敗した訳ではない。

 今のレイシアは転生して七歳児の体になった影響で、味覚が変わってしまったせいだ。

 もう少し詳しく説明すると地球産の野菜、ピーマンの苦味が苦手のようだった。

 初めて会った時のレイシアは、貴族の生まれにもかかわらず貧しい食生活をしていたので、好き嫌いする事無く何でも美味しく食べていた。そうでないと飢えていたからな。

 しかし僕と一緒に行動するようになった事と、今の世の中フォーレグス王国から余程離れていなければ、それなりの食材が手に入るようになっている。

 これは別に援助している訳でもなんでもない。一部の者が個人的に取引しているからだな。

 なので昔に比べてはるかに豊かで美味しい料理が食べられるようになっていた。

 まあそれでも、子供が嫌いな野菜でまず名前が上がるピーマン。その例に漏れず、レイシアの味覚にも苦く感じられたようだ。

 「無理をすれば食べられない訳じゃないよ。でもこの野菜だけは苦手かも」

 「まあどうしても食べなくっちゃいけない野菜でもないしな。元々こっちの世界にはなかった野菜だし、食べられないなら無理する事もない」

 「うん」

 そう言いつつも、何となくがんばって食べているようだ。

 他の子供達はって見てみると、多少表情を歪めている子もいるようだが、残さず食べているようだった。

 この子達は満足にご飯も食べられなかったからな。どんなに苦くても残さず食べるのだろう。飢えるのは怖い。

 やっぱり濃い緑の野菜は健康にいいだろうとはいうものの、もう少し食べやすく品種改良するのがいいかな。これでも一応大人には苦くないよう、品種改良してあるのだが・・・・・・子供は敏感なようであった。

 せっかく子供の状態なので、レイシアに手伝ってもらうかな。

 にんじんは甘いって、歓迎されたのだがな~

 さすがに何でもかんでも甘くすればいいってものでもないので、バランスが難しい。


 食事をしていてふと気になったのだが、フォーレグス王国から距離がある他国はどういった食事事情なのだろうか?

 野菜などは当然、距離に関係して痛みやすくなるから、そうそう輸出出来るものじゃない。

 肉類は周辺の森で狩って来るだろうから問題ないだろうが、フォーレグス王国からは特に食料の輸出はおこなっていない。

 その代わり商人が種などを独自に仕入れて、勝手に栽培とかしているはずだ。

 これは取り締まったりしてもあまり意味がない。どうしてもどこからか流出してしまう技術の類になる。

 本当は独占したいところだけれどね。

 食事の後、多目的シートを広げて確認してみると、やはりどこの国も困窮しているみたいだ。

 新鮮な野菜を真空パックみたいな形で保存して、フォーレグス王国から遠い国々に援助すれば、国の名前も売れるしついでに少しは信仰心も得られるかな?

 うーん、一時感謝されるかもしれないが、そこまで期待はしない方がいいだろうな。

 他の神々の願いもあるので、そっちの協力って感じで支援すると思えばいいかな。

 どちらにしても、今は祭り準備でマジカルドール達の手が空いていないので、後々手伝ってもらう事にしよう。


 食事が終わり子供達はそれぞれ分かれて訓練に向かったのだけれど、レイシアはその場に残っていた。

 一瞬レビルス達に付いて行かないのかって思ったのだが、今までと違いパーティーで連携訓練をしているのならもう、レイシアが一緒に戦う必要がないのだと気が付く。

 教える事も、特に残っていないのだろう。

 そうなるとソロで経験稼ぎになって来るのかな? それはそれで寂しい事だ。昔の僕なら平気だけれど。

 神格を得てから僕に経験稼ぎは必要なくなったからな~

 その代わり信仰集めっていう、もっと面倒で厄介な試練が待ち受けていたけれど・・・・・・

 一緒に戦わないけれど、付いて行くだけ付いて行こうかな?

 いや、どうせなら昔のように一緒に戦いたいものだな。

 今あるスキルや神になって得た能力で何かいい方法はないものだろうか・・・・・・ステータスを見ながら考えてみるけれど強化するスキルはあるものの、弱体化させるスキルなど持っている訳がない。

 そもそも実力を同じくらいにしたからといって、神格を得た後LVは意味を失くしている。僕の経験稼ぎにはならないだろうな~

 まあそれはそれとしてアニメや小説などで、分身すると能力値が半分になったりはするのは見たけれど、僕のスキルはそのままの能力値だったからな。おかげで助かった場面は多い。

 でもこの発想自体はなかなかよさそうだ。

 百パーセントの分身を作るのではなく、レイシアと同じくらいの力を持った分身を作ってみるのはどうだろうか?

 イメージは僕のクローン。

 ついでに今のレイシアに合わせて、子供の僕を作ってみよう。

 手順は分身を作るのとほぼ同じ、ただ力配分を調整した感じだ。

 「その子ってもしかして、バグの子供?」

 「バグそっくりな子供だわ!」

 隣に現れた分身に、レイシアとビゼルが食い付いた。

 ビフィーヌは特に驚いたりしないな。

 おそらく見た目に騙される事なく、本質で僕だとわかっているのだろう。

 さすが僕の眷属だ。

 「レイシアの経験集めに付き合えるように、力を加減して分身させてみた。レビルス達の指導が終わって、自分の経験稼ぎを始めるのだろう?」

 「うん!」

 うわー、嬉しそうだな~

 「ずるいわ! 私も一緒に行きたいわ!」

 ビゼルがそう言ってアピールして来るが、確かビゼルに分身技はなかったような・・・・・・?

 「でもビゼルがそのまま参加すると、差があり過ぎてパーティーの連携など出来ないだろう。分身するスキルとかもないだろうし」

 「むー。置いて行く気か?」

 拗ねられた。

 こちらとしてもみんなで一緒に行きたいところなのだが、こればかりは如何ともし難い。


 「別行動は嫌だわ」

 「と言われてもな。ビゼルにも分身系のスキルがあればよかったのだが、ないからなー。ビゼルにも分身を付けようか?」

 おそらくビフィーヌもそうだが、それぞれに分身を付けた方が手っ取り早いだろう。今は難民の子供達を指導するくらいしか、分身は使っていないからな~

 そういえば力の配分を変えた分身を出しているのだが、頭数は今までと同じ人数になるのだろうか?

 いやあれは二十重詠唱っていう並列思考可能なスキルがあるから出せる人数なのだ。

 でなければ普通に二人分の数にしか分身出来ないだろう。

 そう考えると、弱い分身も一人と計算されて二十体しか、分身出来ないだろうな。

 「魔法で分身っぽいものは作れないのか?」

 ふと思い付いた。

 ビゼルはよく闇の鞭みたいなものを出して戦っていたのな。

 おそらく闇の魔法の力を鞭状にして作ったものだと考えられるのだが、同じ理屈で自分そっくりな人形みたいなものを作れるのではないだろうか?

 ただそれだけでは意味はないのだが、そこに自分の意識を入れて動かせば、擬似的な分身が作れそうな気がする。

 「ふむ」

 僕の作り出す分身とは別物になるのだが、今回は別にそっくりさんが必要な訳じゃないしな。一緒に行動出来ればそれでいいだろう。

 「むー、魔法と言われてもわらわは闇属性以外、それ程得意ではないわ」

 「いやいつも使っている闇の鞭があるだろう。あれを人型にして自分の代わりに動くように出来ないか?」

 「なるほど。やってみるわ」

 そう言うと今度は闇というか瘴気といえばいいのか、モヤモヤした闇が人型になっていく。

 おおー。見た目は上手くいきそうだな。

 後はこれを分身のように操作出来れば一緒に活動出来そうだが、どうだろうか?

 まだ人型を維持させるのに苦労して、意識を乗り移させるまでには至っていないようだな。

 がんばれって応援しつつ見ていると、視界にビフィーヌが映る。でもって私にもって感じでジーっと見て来た。

 ビフィーヌはあまり戦闘向きじゃない事もあって、分身に使えそうなスキルなど持っていないよな。彼女はどちらかといえばヒーラータイプだ。

 そもそもが眷属だし、普通に分身のスキルを付加しておくかな。

 後はレイシアと一緒のパーティーで行動するのなら、やっぱり実力差があるので能力配分が必要だ。

 スキルを与えて、能力の調整をしてもらおう。


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