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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第三十章  幼き勇者
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信仰心

 子供達が戦略を学び集団戦の戦い方で意見を戦わせた後、実戦での指導に移った。しかし、さすがにまだまだ早かったかな。

 だがここをクリアすれば、後はもう教えることはなくなるだろう。

 LV的にももう直ぐ、レビルスと一緒に異形に挑めそうだしな。いや、その前にレビルスとの連携訓練をしてからがいいだろう。

 強敵を相手に連携にそごがあれば、単独の異形なら何とかなるだろうが、複数になって来ると危ない。

 それにいきなり任せて後はよろしくっていうのも、何となく無責任っぽい。

 下手をすれば何人かは死ぬかもしれない異形討伐に、最終的には魔王退治なのだ。

 これなら任せられるってところまでは面倒を見たいかな。

 「バグよ!」

 夜そんな事を考えながら拠点でくつろいでいると、そう言っていきなりやって来たのはビゼルだった。

 あれ? なんか雰囲気が違うな。

 ビゼルはビゼルなのだが、妙な迫力がある。違う、威圧感かな。

 振り向いてビゼルを見たところ、纏っている瘴気というか禍々しさが以前とは段違いな程に感じられた。

 しかしこの感じには覚えがあるぞ。確かホーラックスが邪神に進化した時だったか。

 という事はビゼルもとうとう邪神へと進化したって事か。

 ステータスを確認してみると、職業が変化していた!

 魔界の神。

 うん? ホーラックスと同じ邪神じゃないのか?

 まあとりあえず進化したって事でいいのかな。確実に強くなっているだろうしね。


 「おめでとうビゼル。ホーラックスとは違う神になったのだな」

 「うむ。なにやら魔界とやらの神になったようだ。特に神になったからなんだという訳ではないようだが、今までにない力を感じるわ」

 基本のステータス全般が上がって、基礎能力は一気に上がるのだが・・・・・・ただ強くなっただけだよな。僕の時もそうだったよ。

 神格を持たない神は職業が神なだけなので、特に隔絶した力がある訳でもない。せいぜい強めのスキルが手に入る感じだろうな。

 それがそもそも強力かな?

 さて生命の神は生き物を司っていたようだけれど、ビゼルは何を司る神になったのだろうな。

 ホーラックスは邪神とだけなので、特に何かを司っている訳ではないようだ。しいて言えば、よりダンジョンマスターに特化した存在になったかな。

 それ以前に僕の神徒らしいし、神格とやらを手に入れてから何かを司ったりするのだろうか?

 まあ例え神格を手に入れて僕と同格の存在になったとしても、ホーラックスは僕から独立しないのだろう。そういう意味ではもうホーラックスの進化にはあまり期待出来ない。

 そんな事を考えつつビゼルの魔界の神について調べてみる。

 ・・・・・・魔界由来の生物を司る神。いずれは生命の神と対になり、裏と表を司る存在になるだろう・・・・・・

 ふむ。ある意味僕と対ではまり役の神じゃないか?

 地球にいた時も、太陽と月を象徴する神とか、裏と表を象徴した夫婦の神などがいたよな。あんな感じになりそうだな。

 これはいずれ人や動植物を僕が担当し、魔物やモンスターをビゼルが担当するのかもしれない。

 フォーレグス王国の立場でいけば、僕が魔物を担当しているようなものなのだが・・・・・・適役が出て来たので役割分担をしましょうって感じだろうか?

 ヘルシオル達天使の眷族がいるから、仕事自体は分担しないといけない程きつくはないのだがな。だがサフィーリア神達元々いた神々と比べれば、同じ立場の神仲間が増えてくれた方が嬉しいかもな。

 ちょっと時期は外れるが、同期の神っていうのは捨てがたい存在になるだろう。

 そうなるとビゼルにはぜひ神格を手にしてもらいたいのだが、マジカルドールに監視してもらっている魔界で、信者集めをしてもらえば神格を手に入れられるかもしれないかな?

 こっちだとモンスターは僕が取り込んでしまったので、信仰集めは難しい。

 身内で信者の奪い合いは勘弁したいよね。

 というか、僕も信仰が集まらなくて格を上げられないからな・・・・・・心からの信仰なんて、そうそう手に入る訳がないじゃないか・・・・・・

 これは時間がかかるぞー


 「バグ様、今の魔界にはたいして強い固体は存在していないようです。脅威になるような魔族は確認出来ませんでした。それなりに知能がある固体はいるようですが、せいぜい集落を造るくらいの生活環境のようです」

 「なるほど」

 メリアスからの報告を聞き、上手く導けばビゼルへの信仰心を植え付ける事も出来るかなって考えてみる。

 こっちの世界で一から開拓するのに比べれば、魔界で信仰を集める方が遥かに成功率は良いだろう。その手段は魔王らしく力による支配になるのか、フォーレグス王国のように慕われる神になるのか、ビゼル次第だろうな。

 「こればかりは実際に行って見て、現地の魔族と触れ合ってみないとどうしようもないな」

 「うむ、元々わらわは魔王の娘。かつては魔族を従えていたわ。見事信仰を集めて見せるわ!」

 ビゼルも自分の生まれた地元だからか、自身ありげだ。

 上手く行くかどうかはわからないが、とりあえず実際に行って見てみよう。

 それで神格を手に入れたら作業を分担・・・・・・する程忙しくもないが、まあ二人でいろいろ相談しながら神の仕事とか出来るかな。相談出来るだけでも楽になると思う。

 マジカルドールの一人を案内人とし、ビゼルと後一緒に来たがったビフィーヌを連れて魔界へと転移する。

 レイシアはレビルスと共に経験値稼ぎの続きで今回はパスだ。

 なので三人で魔界へとやって来たのだが、うーん・・・・・・およそ文明というものが原始時代? 見た感じ、まともな人工物が存在しない有様だった。

 おそらく昔の魔王城の周りくらいかな。人間らしい文明を維持しているのは。

 だが、最も文明的建物だと思われる魔王城自体が完全に崩れているのが見えた。維持しようとか考えなかったのだろうか?

 周辺の建物は石などで建てられているようで、そっちは一部崩れかけている建物もあるのだが、まだまだ人が住める感じだろう。そんな感じの町が存在していた。

 ところどころ空き地みたいな空白があるので、おそらくは石造りの建物以外があって、それが年月と共に崩れて無くなったのだろうな。

 後文明的な場所は、ログハウスよりお粗末な木の家か、洞穴だな。

 魔族・・・・・・大丈夫なのか?


 「まあ知能が低かったり文化体制が整っていないやつらなら、上手くまとめて信仰させるのも楽かもしれんな」

 「ふむ。ようはバグが造った国みたいに、やつらをまとめればいいのだな? 任せるがいいわ!」

 一応城下町っぽいものは出来ているので、そこを中心に信者になりそうな魔族をかき集めて、ビゼル教みたいなものを広めて行けばいいだろう。

 手始めにビゼルが向かった先は、やはり元ビゼルが暮らしていた城跡。

 廃墟といっていいそれに向かって行った。

 「しばらく魔界で活動するなら、城を直さないといけないな」

 「うむ。それにわらわの信仰の象徴ともいえる城を造らねばならんわ」

 「そっちはマジカルドールを呼んで造らせよう」

 あいつらなら喜んで造ってくれる。

 「頼むわ」

 まあそっちはいいのだが、町中に残っている魔族達の反応は、かなり敵対的な感じだ。それでいて襲い掛かって来ないのは、ビゼルから尋常ではない瘴気が溢れているからか。

 喧嘩を売れば自分がやばいと感じているのだろう。だから威嚇しつつも一挙手一投足に注目し、警戒しているって感じかな。

 この状態で信仰してもらおうっていうのは、ちょっと予想外に厳しそうだ。

 「ちょっとやそっとじゃあ信仰心を抱かせるのは難しそうだな。ならば餌付けするか?」

 フォーレグス王国も、初めは豊富な食事と美味しい料理などで惹き付けたからな。

 争う事無くお腹一杯になるのなら、早々逆らったりもしないだろう。

 ああでも、それと信仰は関係が無いか・・・・・・支配するだけならこれで解決なのだがな~

 国民にはなっているのだが、あいつらはフォーレグス教に入信した訳ではなかった・・・・・・地球にいた頃は結構簡単に宗教にはまる人がいて、チョロいのだと思ったのだがなかなかどうして、所詮心の底から信仰する者などいなかったのだろう。

 考えてみれば同じ宗教団体に所属してはいても、本当に心の底から神を信じているって感じられる者などほとんどいないように思える。

 教祖と呼ばれる者ですら、金稼ぎの手段か周囲の都合でそう演じているだけなのだろう。

 実際に神の存在を感じられるこちらの世界の方が、心の底から信じる信者が多い。まあ実際に奇跡が存在しているのだから当たり前だろうな。


 「とりあえず、城を建て直せばいいのか?」

 「うむ。お願いするわ」

 結局、僕達を見た魔族達に威嚇されはしたものの城まで辿り着くまでの間、誰も突っかかって来る事はなかった。

 そこでビゼルがこの後どうするのかわからないが、とりあえず拠点造りかなって考えマジカルドール達を呼び寄せる。

 呼び出したのは、最初のパペットだったフォレイヤ、鍛冶担当で元ストーンゴーレムみたいなパペットだったオートロン、今回のメインで大工や細工を担当しているブラムエル、鉱石などを採取していたメイソン、木材を採取していたサウビレイ、この五人だ。

 直接建設に携わるのはブラムエルだけとはいえ、他のマジカルドール達が手伝ってくれるので問題はない。というか今までフォーレグス王国で町などを造っている実績もあるので、手伝いが必要なら言って来るだろう。喋れるようになったのだしね。

 「あー一応、どんな城にしたいのかビゼルが指示を出してやってくれ」

 ぱっと見、ほとんど崩れ去っていて復元出来るレベルを超えていそうだからな。

 これは一から造り直しというか、最初に更地にした後造って行った方が面倒がない分早いと思う。

 それくらいボロボロになっていた。

 「そうだな。多目的シートを貸してほしいわ」

 「あいよ」

 確かに、グラフィックツールの様にいろいろといじれる多目的シートで、こんな感じの城って描いて行った方がいいだろう。

 多目的シートを渡して見てみると、いまいち城のイメージがあやふやな感じだった。そりゃ昔に住んでいたとはいえ、ただ日々暮らしていた城なんて内装くらいしか覚えていなくても仕方ないだろう。

 外から見た感じなんか、魔王が住んでいそうな城だ! みたいな曖昧なイメージだったのではないだろうか?

 これは司書パペットだったヴィリアンを呼んだ方がいいかもしれないな。後、内装って事なら裁縫担当のフレアンジェも呼ぶ必要があったか。まあ彼女の出番はある程度城が形になってからでいいだろう。

 ビゼルは子供が思い描くような城を一生懸命描いている後ろで、城の参考資料になればとヴィリアンを呼び寄せる。

 「お呼びですか、バグ様」

 「内装はともかく、どうも城の外見が上手く思い浮かばないようだ。地球に実在した城や、何かアニメ辺りに出て来た城などを参考資料として出してやってくれ」

 「わかりました」

 早速マジカルドール達であーだこーだと外見を決める作業が始まった。ほとんどヴィリアンが描き出した参考資料を見て、これはいいとかこっちの方が造りがいあるな、みたいな感想だったけれどね。


 ビゼル達がそうやって話し合っている間、僕は周囲を観察してみた。

 魔族は好戦的な者が多いので、下手をすれば集団で襲って来るかなって考えていたのだけれど、今のところは威嚇と警戒だけみたいだな。

 しかし一つ確実な事は、歓迎されていないという事だろう。

 一応ビゼルは昔ここに住んでいたはずなのだが、誰も覚えていないのだろうか?

 人間なら寿命で当の昔に生き残ってはいないだろうが、魔族の寿命なら生き残っている者もいると思うのだが、それらしい者はいそうにない。

 あまり外に出たりしなかったとか、そういう理由で認知度が低かったのだろうか? ビゼルの性格からして、引きこもっているとは考えられないのだが・・・・・・ここら辺りは魔族の生態に詳しくないので、何とも言えないな。

 手始めに食事でも配って警戒心を解いてみようかな。

 崩れた城の廃材を集め、簡単なかまどなどを作る。

 ぱっと周囲を見たところ、人型タイプに近い魔族が多そうなので、おそらくは人間と同じ料理ならいけるだろう。

 拠点からそこそこの量の食材を取り寄せ、できるだけ手早く量を作れる汁物を用意してみよう。気分は完全に炊き出しだな。

 そう考え周囲を見れば、まああながち間違いではない。

 城が完全に崩れ落ちているのは見ての通りなのだが、町にある建物自体ボロボロでまともに手入れされている物はないといっていいだろう。

 これって自分達で建てた建物じゃないのか? 魔族の歴史はよくわからないな。

 野菜や肉を切り、豚汁もどきを作りながら魔族だけでなく、町全体を見てそう感じた。

 城や崩れていない石の建物の経過年数を調べてみると、六百年以上経過した建物ばかりで新しい建物は見付からない。そもそもが、布や動物の毛皮みたいな物に包まって道端で寝ている魔族もいるようだ。

 これじゃあ町に住んでいるというよりは、ただ群れとして集まっているだけといった方がよさそうだよな。


 「ビゼル。とりあえず炊き出しをして餌付けしておくぞ~」

 「おおー。任せるわ・・・・・・って待て待て、それではバグに信仰を持って行かれるわ」

 「気が付いたか。じゃあ手伝え」

 「うむ。料理は任せるわ。わらわはこやつらに料理を配るわ!」

 それ、何気に面倒なところを僕に押し付けて、楽していないか?

 手間暇掛けて料理しているのは僕なのに、その成果はビゼルのものに・・・・・・まあ夫婦だから別に手柄とかってないのだがね。分担分担―

 どこの誰かもわからないやつの為に利用されるのは面白くないが、ビゼルの役に立つっていうのなら任されよう。

 とびっきり上手いご飯でも作って、虜にしてくれるわ!

 ちょっと原始的生活をしている魔族に食べさせるには勿体無いかなって考えつつ、フォーレグス王国で美味しく栄養価の高い野菜達をふんだんに使った料理を作り上げていく。

 「手伝ってくれ」

 匂いに釣られたのか、今まで警戒して睨み付けて来ていた魔族達の数を確認。

 一人でこれだけの量の食事を作るのはきついなって判断し、料理担当マジカルドールを呼び出した。

 「お任せください」

 呼んだのは元デザート担当パペット、モルモだけなのだが他の料理マジカルドールも必要かな?

 「百や二百。魔王軍の食事を手伝っていた私なら、楽勝ですよ」

 「そうか、それならじゃんじゃん作ろう」

 「はい!」

 魔王軍の食事といえばかつて五百体くらいの仲間達がいた。

 しかも進化して巨人やドラゴン系になった者も多かったので、その分必要な食事は半端ない量になる。

 それを眷属のラグマイズと一緒に支えていた事もあって、モルモにとってはこれくらいの炊き出し、余裕なのだろうな。

 あー確かに、料理屋のようにいろいろなメニューを作る訳ではなく、一種類をただ大量に作るだけなら何とかなるのかな?

 手際を見るに、慣れていそうなのでここはあれこれ考えずに手を動かそう。


 炊き出しを終えると、おおむね魔族達に受け入れられたのではないだろうか。

 ただ、信仰心が目覚めたのかと言われればそんな事はない。

 普通にご飯を一杯食べられて満足しただけだな。

 そもそも集まってきた魔族を窺って見ると、ご飯を作ってもらった事に対して感謝する気がないように見える。

 おそらくご飯を提供しなければ、普通に襲い掛かって来たのだろう。実際にはビゼルが怖くて、隙を見付けるまでは手出しして来なかったと思うけれどね。

 「様子を見ながら気長にするしかないかな?」

 「こやつら毎日施していたら、常習化するだけのような気がするわ」

 ああ、毎日のようにご飯を用意したら、僕達の事をご飯係りみたいな存在とみなしてくるかもしれないな。

 それでは信仰してもらうどころか、こっちが主に仕えているみたいだ。

 上手くいかないものだな・・・・・・

 「そもそも魔族の生態をよく知らないから上手く行かない気がするな」

 「ふむ。と言われても、魔族といえば欲しい物は力付くで手に入れるっていう感じだわ。あまり誰かと一緒に行動しようとか、手助けしたりなどしないわ。一緒にいるのはお互いに利益がある時だわ」

 「そうすると炊き出しは完全に意味がないな。いや、続けるとかえって逆効果か?」

 「そうなるわ。お腹が膨れておとなしくなっているうちに城を完成させた方がいいわ」

 「そうしよう」

 餌付け作戦が終了し、思っていたような効果が出なかったので気持ちを切り替え、城および町の建物を造って行く事にした。技術力の高さで力の差を知らしめるとかも、効果がないのかな?


 マジカルドール達に混じり、久しぶりに城の建築を手伝ってみる。これでも一応生産は好きな方だったので、難しい造形がなければ手伝いくらいは出来る。

 城の建築をマジカルドールに任せ、比較的無事に残っている町の建物の方を進めようかとも考えたのだが、それではビゼルへの信仰を奪ってしまう可能性を考え、控える事にした。

 やるならビゼルの指示で動いていますよってわかるようにしないといけないだろうね。ただ、こちらを窺っている魔族達にとっては、あまり信仰心を持たれる雰囲気ではなさそうだ。

 手強い。

 「バグ様、過去から今までの情報をまとめてみました」

 「ありがとう」

 城および城下町の再生と平行して司書ヴィリアンに、主な魔族の生態系を調べてもらったのだが、その結果魔族を相手に信仰心を集めようという発想はそもそも無意味そうだと判断する。

 基本的に魔族達は弱肉強食で、文化とは無縁の生活をしている感じだ。

 考えるより先に体が動くと言った方がいいのだろうか。自分達に得になるものなら受け取るのだが、そこに感謝などはなさそうだ。

 所詮は魔族。ビゼルやその周りにいた者達が特別だったのかもしれない。

 その一部の者が魔王という強者に従う生態系を形成、それ以外の魔族は野生動物と変わらない暮らしをしていたみたいだ。

 それに警戒心を解き、こちらを味方だと判断させようと考えて炊き出しをしてみたものの、そのたびに一部の大型の魔族が騒動を起こした。

 魔族には他者に分け与えるといった理性的な考えが無いようで、奪い取ってでも自分が腹一杯になるまで食べようとこちらに襲い掛かって来る事があるようだ。

 ビゼルの配給している所は大丈夫なのだが、手伝っているモルモなどが襲われたのだそうだ。

 だからむしろ仲良くなるどころか、ご飯を持っているのに少ししか食べさせないやつらみたいな、不満を増幅している気すらする。

 さすがに全ての魔族を満腹にするのは難しい事だろう。

 これは早々に方針を変えないとだな。


 あれから数日。

 衣食住を充実させて、魔族に気に入られようといろいろと試してみたものの与えればそれが当然と受け取られ、やめれば不満が募りと悪循環が続いた。

 魔族は根本から人間とは違い、纏め上げるには絶対の力と恐怖が必要なのだと思い知らされる。

 彼らがおとなしく魔王軍なんていう組織を形成するのは、絶対強者の威厳というか恐怖のみが有効で、人間的な一緒にがんばろうみたいな精神は欠片も持っていないようだった。

 これでは邪神としての信仰心でさえ集める事は出来ないだろう。恐怖で縛る事は出来ても、心の底から信じ合う事は永久に来ない。

 「帰ろう。ここで信仰を集める事は無理そうだ」

 「わらわの生まれた故郷であるのに、なんとも情けないわ。魔族とはこれほど未成熟な種族であったのか」

 「なまじ強者がいた事で、かえって力こそが全てって感じになったのかもな」

 「ゴブリン達のように、初めは無理でもいずれまともな生活を送れるものだと思ったのだわ」

 「こればかりは仕方が無いだろう。むしろビゼルや魔王がどうして人間的だったのか、知りたいくらいだな」

 「わらわもよくはわからぬが、遠い祖先が異世界から落ちて来た者だと聞いた事があるわ。案外勇者とか上級冒険者だったのかもしれないわ」

 「それはありそうな話だな。もしそうならよくこんな世界で生き残れたものだ」

 もっと詳しい情報が手に入ればいいのだが、崩れた城から読める書物は発見出来なかった。ボロボロに崩れた本棚と、元書物だったらしき跡は見付かったのだが、これでは文字を読み取る事も不可能な状態だった。

 おそらくビゼルの教育を施した、宰相だったか執事だったか、新たな魔王になろうとこっちに出て来たやつが詳しい情報を持った最後の生き証人だったのだろう。

 思えばやつも、ビゼルと同じ血を引く魔族だったのかもしれないな。


 過去はこれくらいにしておこう。

 いろいろと状況から考えると、魔界で信仰心を集める事は出来ない。

 そうなると戻ってフォーレグス王国の民から信仰心を集めるのが最良かもしれない。だが逆に、僕が信仰心を集める事が出来なくなるのだが戦乱の世って事で、僕は人間を手助けして彼らから信仰心を集めればいいのかもしれないな。

 そうすれば一応二人とも被る事無く目的を達成出来るだろう。

 まあ魔族の時と同じで、計画したはいいがそう上手く行かないのだろうがな。

 だが可能性はそこそこあるものだと考えている。

 「ビゼル、フォーレグス王国で国民から信仰してもらえるようがんばれ。僕は人間を救って信仰心を集めてみる」

 「なるほどだわ。でもバグはそれでいいの? 自分の国であろう?」

 「まあ愛着はあるが、結局ほとんどホーラックスに任せて来たからな。僕だけの国って感じではないよ」

 胸を張って自分だけの手で造りましたとは言えないよな。

 そう考えれば、適材適所でビゼルにまとめてもらう方が似合っている。正真正銘の魔王が率いる国となるのだからな。今はビゼルもホーラックスも邪神だが。

 おそらく今現在僕を信仰している者は、今からビゼルを信仰しないかもしれないけれど、国民の全てが僕を支持している訳ではないからな。

 ホーラックス同様の瘴気を見れば、元々モンスターだった彼らは自然とビゼルを信仰するのではって考えている。

 おそらく僕より信仰心を集めるのは簡単なはずだ。魔族と違い、結構単純でわかりやすいやつらだからな。

 いや、今更瘴気に反応しないかな?

 ホーラックスを前にして言う通りに動いていたのは、恐怖からっていうのがあるからだから、そこに信仰心など湧かないかもしれないな。

 こればかりはやってみなければわからない。

 ただどちらにしても人間から信仰されなければいけない僕の方が、難易度は格段に上がるかもしれないな。


 「方針は決まった。一度戻ってまずはお互いに認知度を上げようか」

 目立つのは苦手だけれど、今回ばかりは仕方がないだろう。

 まずは僕達が神になった事を知ってもらうところから始めよう。

 僕は難民を救済しながら認知してもらうって感じかな。もっと大々的に、異形退治に協力していくのもいいかもしれない。

 「わかったわ」

 「主さまの偉大さを、全ての者が知る事になりますね」

 ビフィーヌは相変わらずだな。

 彼女みたいな者が信仰厚き者になるのだろうが、眷属だからカウントされていない。なんて勿体無い事だろうか。

 「いや、別に偉大さなんかないから。今まであまり前に出て来なかったから、ここで皆に改めて神だと知ってもらって、出来れば信仰してもらおうってだけだからな」

 「神はそれだけで偉大なものですよ」

 「まあ確かにそうかもしれないが、やっぱりこういうのは僕に向いていないよな~」

 ビフィーヌは、僕が何をしても付いて来てくれるが、普通は神だと言ってもまず認めようとしない。いろいろと奇跡を引き起こす必要があるかもしれないな。いや、確実に奇跡を起こさないと認めてもらえないだろう。

 どちらにしても、忙しくなりそうだ。

 とりあえずいつまでも魔界にいても意味はなさそうなので、みんなを連れて拠点へと転移する。

 ホーラックスと相談して、ビゼルの認知度を上げるような祭りでも開催する事にしよう。


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