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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第三十章  幼き勇者
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救済

 多目的シートで周辺の状況というよりは、難民達を寄せ集めて造る国の候補地を確認してみる。

 今ならほぼどんな土地でも選び放題の状況ではあるが、同盟国であるドラグマイア国とワレスホルト国の隣辺りに造るのがいいだろう。

 残念ながら両国は離れている為に隣接して造るとしたら、どちらか一方となる。

 そう考えると、ずっと一緒に歩んで来たドラグマイア国の隣に造るのが一番いいのかな?

 やがて属国から脱して独立するとしたら、ドラグマイア国との交流はいい刺激になりそうだからね。もちろんトチ狂って攻めようと考えるのであれば、容赦無く叩き潰せばいい。

 そっちの心配は特にいらないのだが、候補地として選んだ場所は既に王族がいないが現地住民はまだ生き残っている。仲良く出来ればいいのだが、やっぱり初めは治安維持などに手を貸さないと駄目なのだろうな~

 だが今回に限っては僕の国ではない為、そこまでの手間暇をかける必要はない。

 難民達を寄せ集め、程々の援助をした後は現地の人間同士生活させればいいのだ。そこで争いが起きるようなら勝手に争えばいいのだし、最悪見捨てても構わない。

 所詮どんな状況になろうと手を取り合えない人間など、いちいち助ける必要もない。

 恐怖などで縛り上げるなどの方法で秩序をもたらす事は可能であるが、やっている事は単なる支配政治だからね。当然人間達からの恨み辛みは僕に向くのだろう。

 それが例え結果的に助けになっていたのだとしても、いずれ感情を爆発させて反乱を起こすに決まっている。そういう役目は魔王の部下になって死んだ時にもうやらないと決めていた。

 まあそんな訳で、一応昔に縁があったサフィーリア教と神になった時に面倒を見てくれた事に感謝して、困っていたサフィーリア神の信者達に手を貸してみる。

 その手を払いのけるのなら、僕としても義理は果たしたのでその後好きにすればいいだろう。こっちもすっきりするしね。


 「メリアス。元ブロアド国に難民達を集め、食糧援助してやってくれ。援助する食料は潤沢でなくぎりぎりで、農業の知識を教えてやれ。がんばって働かないやつは、東と西に別けてしまえば全滅する程醜い争いにならないだろう。片方が残っていればいずれは国として発展して行くだろうしな」

 「直ぐ手配します」

 いつまでも援助が受けられないと知れば、まともなやつはちゃんと働く者も出て来るだろう。

 こっちは勇者を育てなければいけないので、どうでもいい人間に構ってばかりではいられない。

 「ああそうだ。北の方にでも今現在避難して来ている難民達の住む場所を用意してやってくれ。どうせあまり人間を受け入れていてもフォーレグス王国にはメリットが無いのだし、今のうち国内に受け入れている難民をそっちに移動させよう」

 「了解しました」

 後で追い出そうとしたらごねそうだしね。まだ来たばかりなのだからそっちの方が自由だぞって言えば移動するだろう。

 チョビに動いてもらおうかなって考えたのだが、彼にはまだ新領地で仕事してもらわなければいけないからな。そう考えメリアスに頼んでおいた。新しい難民の国にはなるべくノータッチだ。

 手の空いている眷属と協力して、動いてくれるだろう。


 数日そんな感じでそれぞれが活動してくれる。

 その間僕は子供達と召喚されて来た男の訓練に付き合って過ごしていたのだが、どうやら男は慣れて来たのか軌道に乗って、職業見習い戦士になれたようだ。

 スキルも剣術とか手に入れている。棍術も手に入れるかなって予測していたのだが、直ぐに剣に持ち替えていたからかそっちのスキルは出て来ていなかった。まあやっとこれでスタート地点って感じだろう。

 「それにしても、何時見てもヘッポコだな。筋力が足りないからか、剣に振り回されているじゃないか」

 一応振り回して入るが、攻撃の後にフラフラしている。剣を習いたての一般人がこんな感じだな。

 「剣って意外と重いのな。こんなの両手剣じゃないのか?」

 「ブロードソードは片手剣だぞ。もうレイピアとか持った方がいいんじゃないか? あれならかなり軽いぞ」

 「そんなんでドラゴンとか倒せるかってんだ。やっぱ勇者が使うならバスターソードとかだろう!」

 「だったらバスターソードを使えよ。振り回せるものならな」

 持ち上げる事も出来ない姿しか、想像出来ないがな。

 「あれ無理。両手でも持ち上げるのがやっとだったんだぞ。余計な鉛でもくっ付けてんじゃないのか?」

 「西洋の剣はほとんどが、重量で押し切るタイプの剣がほとんどだぞ。シミターみたいな剣もあるが、ドラゴンにダメージを与えたいのならグレートソードみたいな重量級の剣くらい使えないと駄目だな」

 「なあ、筋力アップのポーションとか果物とかないのかよ」

 「そんな都合のいいものが、ある訳がないだろう。もちろんそんな都合のいいスキルは与えられない。どこかの遺跡でも探索したら、筋力アップの魔道具くらいはあるかもしれないがな。自分で探してくれ」

 今の僕ならほんとにチートみたいにそういうスキルを与えたり出来るのだろうが、こいつに付与するつもりはない。

 武器にしても、そこまで筋力が無くても振るえる武器とか造ったり出来るのだが、わざわざ与える理由が思い付かないのだよね~

 努力して勇者になったのなら考えないでもない。それなりに見合った物を用意しよう。

 「いっそシミターみたいな軽い剣を両手に持って、双剣使いになったらどうだ?」

 「それってなんだか勇者らしくないんじゃないか? どっちかっていうとシーフだろう。勇者っていえば戦士なのに、何でシーフなんかにならなきゃいけないんだよ」

 たいした実力も無いくせに、あーだこーだと注文ばかりだな。別に職業なんて何でもいいだろうと思うのだが、やっぱり見栄えとかそういうもので決めているのだろうか?

 「どっかの漫画で勇者なのに盗賊って変わり者がいたぞ。結局はどんな職業なのかなのでなく、何をしたかで勇者かどうかが決まるのではないのか?」

 誰も成し遂げることが出来ない勇気ある行動をした者が、勇者と呼ばれるのだと思うのだがな。ほとんどの作品の場合は魔王を倒したらになるのだが。

 「おー、なるほど。自分の行動次第か・・・・・・なんかやれそうな気がして来た!」

 それは気のせいだ!

 僕の助言を受け入れたからか、ナイフよりはちょっと大振りになった短剣を二本選び、早速振り回し始めた。こいつって案外単純なのだな。

 チョロ過ぎるぞ。まあ使いこなせればいいのだが、がんばって欲しいものだ。


 双剣を逆手に構えて振っている姿を見ると、どうやら何かに影響を受けているように思う。どうせゲーム辺りなのだろう。

 何となくそういうゲームがあった気もするからな。

 しかし本当に夢見がちだよな。

 ゲームなどでそんな武器の使い方をしていたからといって、リアルで通用するはずがないと思うのだが。

 例えばよくゲームで出て来たビキニアーマー。

 あれってリアルでは防御力皆無だろう。

 こちらにいる通常の女性冒険者で、スカートをはいている人など数える程しかいない。それも下にはちゃんと厚手のズボンをはいているか、単なるデザイン用の飾りだったりする。

 この世界ではデザインより防御力優先らしく、普段着すら破れにくい厚手の服ばかりが流行っていた。機能重視ってところだろうな。豊かな生活をしている訳でもなければ、そうそうお洒落の為に何枚も服を用意したりはしないのだろう。

 それもフォーレグス王国で服が流行る前までの話なのだがね。

 フォーレグス王国内でいえば治安もモンスター被害もほとんどない為、結構薄手の服なんかも流行っていたりする。機能よりデザインが主流になっているのだ。

 これは治安もあるが、国民達の生活にはお洒落を楽しむゆとりがあるって事だよな。いい事だ。

 後服が流行しているのは、ドラグマイア国が発端だったかな?

 あそこは芸術方面に特化しているので、文化的なものが流行しやすい。

 友好種達が現状に満足してしまう性質と違い、人間が多く暮らしているからか今では料理も装飾品なども、ドラグマイア国の方が優れているのだ。新しい技術は劣っているけれどね。

 関係性としては、新技術をフォーレグス王国というか僕が提示して、ドラグマイア国が改良するって感じになっている。

 だからこそ、長い事同等の関係性で共存出来て来たのだろうな。属国にならないだけの実力があったとも言えるな。


 まあそれはいいのだが、曽根のやつはどうにかならないものかな?

 格好ばかり気にして逆手で素振りしているのだが、ただでさえリーチが短い武器なのに更に特性を殺してしまっている。何であんな訳のわからないやつの面倒を見ないと駄目なのか、考えさせられるよ。

 というか、あいつが出て来たのは幸運を司る神エムファランが横槍を入れて来たからだった!

 後で文句を言ってやるつもりで忘れていたよ!

 忘れないうちに神々がいる天上界へと転移する。

 はっきりいって既に勇者はいるのだから、召喚は必要なくないか? そこら辺りの事情も聞かなくては・・・・・・

 指定した場所はエムファラン神が普段いる場所のはずなのだが、周囲にそれらしい人物はいそうにないな。どこかに出かけているとか、他の神のところにでも顔を出しているのかな?

 確か地上には顕現出来ないような事を言っていたので、他の神のところに行っている可能性の方が高いのだが。正確には神降しという神を直接憑依させるタイプで、地上に呼ぶ事は出来るらしい。

 僕は以前、召喚で呼び付けた事があるのだがな。あれは例外だったらしい。

 呼び出した理由いかんによっては、神の怒りに触れて殺されていたかもしれないな。

 それはそうと目の前に神はいないのだが、何故か猫はいるようだ。

 さっきからお腹を見せて、媚を売るようにゴロゴロしている。撫でてやると気持ちよさそうに手にじゃれ付いて来た。随分と人懐っこいのでおそらくエムファラン神のペットだろう。

 天上界にもペットっているのだな。

 「ニャー」

 特に避けるでもなく、じゃれ付いて来る。猫ってあまり構い過ぎるのも駄目だった気がするのだが、どうやらこの猫は構われるのが好きなようだ。

 撫でるのをやめると前足を絡めて来て催促する。

 もっと撫でろとばかりに絡み付いて来るのできりがない。

 まあ目的のエムファラン神がどこかへ行っているようなので、戻って来るまで構っていても問題あるまい。勝手にペットと遊んでいた事に怒ったりしたら困るけれど、無理やり撫でたりしないのであれば猫好きならばそこまで怒らないよな。


 「お邪魔する」

 そんな感じで猫の相手をしていると、神の一人がやって来た。何故神だとわかったのかといえばあきらかに格の違い、正確には神格の違いが見て取れたからだ。後どこかで見た気もする。

 まあ僕も成り上がり者ではあるが神の末席にいるので、研修の時にでもすれ違ったのかもしれないな。だが目的のエムファラン神ではないだろう。何となくそう思う。

 それはそれとして、確実に僕よりも実力者だ。

 その神をよく見てみると、聖騎士かっていう程きっちりとして隙の無い格好をした男性神がそこにはいた。しかしアルファント神のような粗野な様子は見当たらない。普通にハンサムな神様だな。少しも笑っていないので、ちょっと作り物めいた人形っぽさがある。これで笑ったら女性にもてるのだろうな。

 「初めましてになるのか? バグという。神になったばかりだがよろしく」

 「話はいろいろと聞いている。我は秩序を司る神ディクラムという。覚えておいてくれ。さてここに来た目的なのだが、バグ神よ。我等は呼ばれなければ地上には顕現出来ぬ。そこでお主には地上の人間達に救いの手を差し伸べてもらいたい。これは他の神々も同意見で、まだ若い汝には申し訳ないのだが協力の要請でもある」

 「魔王に対処しろとかなら断るが?」

 「そちらは勇者の仕事である。バグ神に要請したいのは我等を慕う者達の手助けだ。彼らが特にバグ神に協力を求めないのであれば、そのまま無視してくれても問題はない」

 えっとつまりはそれぞれ神を信仰している信者達の手助けか。聖サフィアリア国みたいに国だったらやりやすいのだが、各地に点在する教会を見て廻るのだとしたら、かなり手間がかかるな。

 ちょっとばかり面倒な協力要請になりそうだ。

 「もちろんそちらにも多少のメリットにはなるよう働きかける。残念ながら人の心を好き勝手に弄りたくはないので確約する訳にはいかぬが、信託によりバグ神の事を信者達に知らせ、今回の救済の事を広めよう。上手くすれば神格を上げる為の信者が増えるかも知れぬぞ」

 なんというか、フォーレグス王国内で僕の信者がそれなりに増えているのだが、何故か今でもLVに相当する神格は一のままなのだ。信仰を集めれば経験が溜まりLVアップすると聞いていたのだが、見事に裏切られたって感じていたのだが、どうも数ではなく質に問題があったようだ。

 一応数そのものでも神格は上がるそうなのだが、ただ教会に名前を置いているだけの者が数いたところで、格をあげる要素は薄いのだそうだ。

 だったら狂信者のように、何でも言う事を聞くようなやつの方がいいのかといえば、実はあれらも自分達が思い描いている偶像を信仰しているので、それ程の信仰心は無いらしい。

 真の意味で神を理解し賛同する信者が望ましいのだとか。

 ようするに僕の眷属達みたいな存在が理想だな。ただし彼ら眷属の扱いは使徒であって、ある意味僕の一部のような存在である為、信者には数えられないのだそうだ。

 格をあげるって、難しいな・・・・・・


 とにかく聖サフィアリア国のような神を崇めている国以外にも、教会を頼って来た者達がいるらしい。そして教会だけでは助ける事は出来ないのはわかりきっていた。

 国が破綻するくらい助けを求めている者が多いのに、教会単体でどうにかなるはずがない。

 そこで人間とは違い友好種を集めてこの暗黒時代の中びくともしないフォーレグス王国に、支援してもらいたいというのが神々の総意なのだとか。

 直接的に地上へ行けないという事も関係しているらしいのだが、魔王に関しては人間に与えられた試練の意味もあるらしいので、完全な救済をすることも出来ないのだそうだ。

 そんな理由から、僕に協力して欲しいとはいったものの、全てを救えって訳ではないのだとか。

 いうなれば助けたいと思えば助けて、嫌だと思えばそのまま傍観でも構わないらしい。そこは僕の判断に任せてもらえるとか・・・・・・一部だけでも助けておきたいといった感じなのだろう。

 「いくらフォーレグス王国が平和を維持していても、全世界は救えない。無理のない範囲で程々に、条件が合うやつだけなら手助けするよ」

 「それで問題ない。我々としても、本来ならば人間だけで乗り越えて欲しかったものだからな。多くは望むまいよ」

 「そうか」

 それだけを伝えるとディクラム神は去って行った。

 秩序を司っているだけあって何となく堅物といえばいいのか、厳格といえばいいのか、自分にも周りにも厳しそうな性格だったな。

 まあそっちは特に問題ないだろう。世界中を廻るのは面倒ではあるが、情報なら諜報用のマジカルドール達が集めている。

 比較的まともそうな者を避難させればいいだろう。

 相変わらずゴロゴロと鳴きながら懐いて来る猫を撫で、エムファラン神が帰って来るのを待つ。

 ディクラム神のどこにいるのか聞いておけばよかったな。でも何となく硬い雰囲気が、些細な疑問に答えてくれなそうで質問し辛かった気もする。思い込みかもしれないけれどね。


 それにしてもこいつは随分人懐っこいな。そして何故天上界に猫がいる。

 ぱっと見たところ周囲の空間は霧に覆われ、草花はおろか他の生物も物も存在していない。地面も硬くはないが白い平らなもので、人間が住んでいるような場所ではないように思える。神だからこそこんな殺風景なところにいても、平気なのだろうな。

 いや、だから猫を飼って気を紛らわしているのか?

 こいつも地上から連れて来たって訳でもないだろうし、そもそも地上で猫を見た事は無い。

 狼は一杯いるようだが、犬も見た事は無いな・・・・・・モンスター溢れるこの異世界で、ただのペットとして暮らして行けるほど犬猫は強くないからだろう。

 そう考えると、天上界に保護しているって可能性もあるな。

 僕自身天上界には講習で来たくらいで、全体を見て回った事がない。どこかに草花が溢れる楽園みたいな区画があってもおかしくはないかもな。

 「バグ神。話は聞きましたか?」

 どうしたものかと考えていたら、サフィーリア神がやって来た。ちょうどいい。

 「生き残っている人間の救済なら聞いた。こちらに問題が出ない範囲でなら助けよう」

 「頼みます。出来るのなら全ての人々を救いたいところですが、私とあなたでは考え方も生き方も違いますしね。私も地上に顕現出来ればよかったのですが」

 「さすがに世界中の人間を救える程、僕の造った国は大きくないからな。どう考えても限界はある」

 「ええ、無理をしてもらいたい訳ではありません。出来る限りお願いしますね」

 「わかった。話は変わるのだが、エムファラン神がどこにいるのか知らないか?」

 「彼女ならそこにいますよ」

 そう言って指し示されたのは、先程から僕の手にじゃれ付いている猫だった。

 まあ可能性の一つとしてそういう事もあるだろうなとは思ったよ。しかしサフィーリア神に暴露された後でもエムファラン神と呼ばれた猫の行動に変わりはなかった。

 こういう時って見事に騙されおったな的な展開で、正体をばらしたりするのではないのか?

 「まるっきり猫のままだな」

 「はい。彼女は気まぐれなので」

 性格まで猫のままなのか。確かに猫って自由気ままに生きているイメージがある。

 「エムファラン神よ。僕はあなたに文句を言いに来たのだ。こちらの召喚に割り込ませて、日本人を召喚するのは迷惑だぞ。今後あのような事はやめてもらおう」

 絵図ら的に馬鹿みたいに見えるのだが、猫と視線を合わせながら文句を言う。

 これを神だとわからずにやっているのだとしたら、変人扱いされそうで嫌な光景だな~

 そんな事を考えたのだが、当のエムファラン神は特に反応を返す事もなくじっと見つめて来るだけだった。

 なあこれってただの猫って可能性無いよな? 思わずサフィーリア神の方に顔を向けていた。


 「彼女は人のように喋ったりしませんよ」

 「え?」

 「見たままなのです。一応こちらの言葉は理解出来ているので、神格に見合う力は使えるので安心してください。神々で協力しなければいけない事なら、ちゃんと参加してもらえますので」

 「はあ」

 つまり一方的に文句は言えるのだが、会話が成立しないのか・・・・・・何故割り込んでまで召喚させたのか、どこからあの男を召喚して来たのか、何を考えて呼び寄せたのか。いろいろと聞きたい事はあったのだがな。

 とりあえず重要な役目があるのかどうか、確認だけしておくか。

 「こちらの言葉は理解出来るようだから聞くが、あの男は勇者として呼んだのか?」

 レビルスが今現在勇者となっているのだが、どちらかといえば現地勇者だ。異世界から勇者を召喚するっていうのが大抵の小説などのお約束である。

 まあそれに別に勇者は一人出なければいけないってルールもないしな。同じパーティーに入れるか、別々にパーティーを率いて魔王討伐を目指してもいいのではないだろうか。喧嘩しなければだけれど。

 エムファラン神がどう考えてあの男を召喚したかによって、今後の対応がいろいろ変わって来るだろう。

 今後の展開をいろいろ考えていたのだが、猫は横に首を振っていた。

 あれ? 勇者にする為に呼んだ訳じゃないのか?

 「あいつは戦闘要員じゃないのか?」

 今度は縦に首を振る。

 まあどう考えてもあいつに戦闘職は不向きだと思える。鍛え方によっては多少戦えるようになるだろうが、基本雑魚には強いがボスと戦える程向いてはいないだろう。

 もしボス級の敵との戦いになれば、足を引っ張りそうで怖い。

 とすると何の目的で召喚したのかますます訳がわからないよな・・・・・・

 「あいつにはこの世界で何かしらの役目があるのか?」

 これは根本的な質問だ。役目があって呼ばれた者と、そうでない場合では今後の展開がかなり変わって来る。

 しかし首を横に振られたので、どうやら特に重要性がない男だと判断出来た。というか何故たいして重要でもないのにあの男を召喚した!

 理由がわからない・・・・・・この感覚、言葉が通じない不便さを久々に感じたぞ!


 しばらくどうしたものかと考えつつ猫を睨んでいたのだが、当のエムファラン神はのんびりしたままこちらを窺っていた。

 腹を見せ両腕を頭の上に伸ばしてピコピコ動かし、媚を売っている。これって猫好きなやつが見たら、思いっきり抱きついて撫で繰り回すのだろうな。確かに可愛いしぐさだ。

 だがあえて言おう! 僕はどちらかといえば犬派だ!

 別に猫を可愛いと思えない訳ではないが、媚を売ったくらいで騙される程ではない!

 その代わりというか、サフィーリア神が撫で撫でしていた。別にいいのだが、これが神か~

 そういう僕も神なのだが、意外に人間と変わらないのだなって思ったよ。

 天上界の神々についてはまあいいのだが、結局いくつか質問してわかった事は召喚された男に役目はないという事だな。本人は勇者として呼ばれたのだと言い続けているのだが、今後の生き方は好きにしたらいいらしい。

 本当になんで召喚したのだか・・・・・・そっちの理由は結局わからずじまいだった。

 僕としては勇者みたいな役割は向いていないので、それはそれでよかったと考えるけれどね。

 もしこの状態で勇者に育て上げて欲しいとか言われたら、本気でチート能力でも植付けてやらなければ役にはたたなかっただろうな。

 最低限それだけ確認出来れば、まあいいだろう。


 地上に戻って来た僕は早速世界中の生き残った人間の情報を集め、移住させても構わない者で同意した人を集める作業を、眷属達に指示した。

 一人でこんな作業は無理だ。眷族の中で人間と同じ外見の者を派遣して、時間を掛けて移住させて行こう。

 中には転移のスキルが無い眷族もいるので、転移の魔道具を全員に配って送り出した。

 ちなみにスライムで人化出来る者も送り出したので、難民の子供達の指導は僕が分身して指導する。

 新人でなければもう付きっきりでの指導は、必要なくなっているからな。後はひたすら経験値を稼いでもらうだけだ。

 「バグ様見てて! 僕達ルワオゾンも倒せるようになったんだ!」

 眷属達と交代して僕が指導というか様子を見に来たら、子供達が声をかけて来た。まあこれは分身体なのだが。

 ちなみにルワオゾンっていうモンスターは、ミノタウロスのような筋肉質の大きいモンスターで、三つ目の蛇頭の中級くらいの強さがある敵だった。

 そんなモンスターを相手に、声をかけて来た子供は盾を使って攻撃を上手く受け流す。

 攻撃力がかなり高いので、まともに受け止めれば吹き飛ばされる危険なモンスターなのだが、十分過ぎる程戦えているな。

 その後も自慢げに見ていてって言った子供は集中を切らす事無く、見事に攻撃を受け流し続ける。

 そんな彼のチームもその壁役の期待に応え、見事に攻撃を繰り出して行った。

 連携もばっちりで、危なげなく倒せているな。まあ敵が一体しか出て来ないからかもしれないのだが・・・・・・ここはあまり油断しないように言っておかないと危険かもしれない。慢心は隙を生む。

 それでもここに来てそこまで日数が経っていないのに、随分強くなったものだ。

 レビルス程強くはないのだが、このまま順調に強くなって行けば、いずれ異形も倒せるようになるだろう。

 エムファラン神がどんな意図で曽根という男を送り込んで来たのかはわからないが、あの男に比べれば何の不安もなく見ていられた。

 「いい感じだな。その調子で油断する事無くがんばれ。今のままだと複数来たら持たないぞ」

 「あー、ルワオゾンが複数体か・・・・・・ちょっときつそうだな」

 「ばーか。こんなのが複数来たらきついどころじゃないよ。まだ一体でぎりぎりだよ!」

 さっきまで上機嫌だったけれど、僕が問題提起したらまだまだ未熟だとわかったようだ。しかし時間がかかってもいいのなら、現状でも二体相手にすることが出来るだろうな。

 ゲームのように戦闘時間が区切られている訳ではないので、スタミナが持つならば時間をかけて倒す事も可能だ。

 そういう方法を見付けるのも、優秀な冒険者の実力だろうな。


 「敵が二体の場合、足が比較的速く回避が得意なやつが一体を引き付けている間に、残りの一体を全力で討伐。後はみんなで倒すって方法を使う。実力があるなら一人で倒してしまうか、みんなが揃うまで粘っていればいいのだがな。まあ方法はいろいろだ。自分達で出来そうな手段を検討しておくのがいいぞ」

 剣や盾で永遠と受け流し続けるとか、方法は人それぞれだ。

 こういうのはいざ想定外の状況に陥るよりも、普段から対策自体講じておく方が生存率は高くなる。油断するなって事かな?

 このダンジョンは訓練用に造られたものなので、こちらに都合がいいように敵が出て来てくれるのだが、実際の戦場では敵が一体しか出て来ないなんてありえない。

 よく練習と実戦は違うといわれるが、こういうもしこうなったらって想定をしていないやつは、どんどん死んで行く。所詮僕もゲーム知識だけれどね。

 いや、ゲームだからこそそういう攻略を考えて来たといえるかもしれないな。

 ゲーム画面で自キャラを上から見ていられたので、常に第三者の目線で戦略を考えることが出来た。

 リアルは目の前の事しか見えないので、この経験はかなり有利なのだろう。

 「なるほど。みんなでがんばって作戦を考えておこう!」

 子供達はそう言って、敵が一杯出て来た時の戦略を話しだした。

 せっかくなので敵だけじゃなく地形なども指摘して、こんな危険がある地形で戦わなければいけなくなった場合は、などと問題提起していった。

 出来るだけもしもの仮定話は多い方がいいだろうからな。


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