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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第三十章  幼き勇者
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日本から召喚された男

 レイシア達が戦っているのを観戦しながら、召喚に割り込んで来た男の相手をする。

 「なあなあ、魔王討伐が俺の役目なんだろう。早くチートスキル選ばせてくれよー」

 普通こういう訳のわからない召喚された主人公っていえば、元の場所に帰せとか魔王なんかと戦える訳ないだろうとかわめきそうなのだが、勇者になりたがるっていうのもアニメの影響なのだろうか。

 実際の戦場を経験すると、とてもまともには戦えないと思うのだがなー

 そんなに勇者になりたいって言うのなら、少し素質を試してみるかな? はっきり言ってステータスを見た感じ、こちらの世界の子供にも勝てない程微妙な能力しかないのだけれど・・・・・・言葉でわからせるよりは、実際に戦いっていうものを体感した方がわかりやすいだろう。

 「そこまで言うのならまず、この世界での戦いっていうものを実際に試してみろよ。それでも勇者になりたいっていうのなら、まあ何か出来る事を考えてやるよ」

 スキルが無いと何も出来ないが、修行してやることは出来る。それに付いて来られるかどうかは別だけれどね。

 「おっ、おう。やってやるよ!」

 威勢はいいが、ちょっとビビッてないか?


 「召喚、ブルトフォア」

 試しに初心者ダンジョンで一番弱いモンスターを召喚した。いや、正確にいえばこの異世界でスライムの次に弱い魔物といってもいいだろう。

 おそらくこの間に入る強さとしたら、ちょっと凶暴な野生動物ぐらいだろうな。

 ちなみにブルトフォアはダンジョンモンスター用に僕が創ったモンスターで、フェレットみたいな頭部に大人の腰くらいまでの身長、がりがりに痩せ細った子供みたいな体をしたモンスターだ。

 知能が低いのでまともな装備なども持っていない。一応装備させれば持つだろうけれどね。

 主な攻撃方法は噛み付きとたまに爪で引っかいて来るだけなので、初心者がモンスターを倒す事に慣れる為の敵って感じだろうな。おそらくは子供でも武器さえあれば倒せるだろう。

 必要なのは生き物を殺す覚悟だけ。だがこの異世界ならそこまで難しい壁ではなくとも、日本人はどうだろう?

 僕はモンスターに転生したからかあまり拒否感もなく人殺しも受け入れられたけれど、この男には難しいのではないかって考えている。

 実のところ男が何故僕の召喚で出て来たのかを調べたくて、過去視というスキルで出て来る瞬間を調べてみたのだ。

 その結果、幸運を司るとされるエムファランという神が、召喚魔法に干渉していたのを発見した。ついでに男の過去も少しだけ見えたのだが、どこにでもいそうな小市民だった。

 しかも蜘蛛などの小さな虫にもいちいち驚くくらいに・・・・・・

 そんなやつがモンスターとはいえ生き物を殺せるのか? 彼の言動もそれを知ってしまった今では、不安を紛らわせようと無意味に虚勢を張って喋っているようにしか見えなかった。

 まあそんな訳で、この男には勇者の素質が無いと判断したのだ。そういう僕も大して闘いの素質なんて無い気がするのだけれど、おそらくは慣れとスキルによる補助があって戦えているのだろうな~

 目の前の男もブルトフォアを倒してなお、やる気があるのならがんばってみればいい。


 「うおりゃーって、せめて何か武器をくれよ! 素手で倒せる訳ないだろうが!」

 敵と向かい合って始めて、何も持っていないって事に気が付いたらしい。

 ちなみにブルトフォアは、変な気合の声にビビッて男から距離を取ったところだ。男もへっぴり腰で似た者同士の勝負って感じだな。

 「創造。・・・・・・これでも使えよ」

 どうせ剣とか出してもこの男ではまともに使えないだろうから、子供でも使えるような棍棒を創り出した。これなら敵に刃を立てなくていいし、単純に振るえばいいので扱いやすいだろう。

 結局剣といっても、持てば誰でも直ぐ使えるなんて事はない。真っ直ぐに振り下ろす練習をしなければ、十全な効果を発揮しないばかりか、まともに斬れないのだ。

 ちゃんと敵に対して刃を立てて、力を乗せて押し斬らねばならない。へたっぴが使えば直ぐに欠けちゃうしね。

 その時の肉を斬る感触がダイレクトに伝わり、生き物を殺すっていう事を使用者に伝えるので、日本育ちの甘ったれた根性をした者にはきつかったりする。しばらくは夢にまで出て来るだろうな。まあ棍棒でも似たような感触はあるのだけれどね。

 ちなみに上手く刃が立っていない場合は、対表面に弾かれる事もあって、なまくら剣でも使っているかのような感触があるらしい。ほとんどの作品で持った瞬間使いこなしているのを見かけるが、意外と技術が必要な武器だ。

 僕の場合は能力値で、無理やり進入角度を調整した感じだろうな。後試し斬りで木を攻撃して感覚を掴めた。

 召喚したてのこの男には、使いこなせない武器だろうな。

 「へへ、武器さえあればこんな敵、どって事ないぜ」

 武器を手にして気が大きくなったのか威勢のいい事を言っているのだが、へっぴり腰なのにはかわりがなかった。棍棒を素振りして手に馴染ませようとしているのか、やたら振り回しているみたいだけれど躊躇としているのか、最後まで振りぬけていない。

 あれではスポーツと変わりないので、相手を刺激するだけに終わるだろうな。

 中途半端に痛みを与えるだけでは、相手を激昂させるだけで逆に危険だぞ。確実に殺すって感じで体重を乗せて振り抜かねば。


 ギャ! ギュウウ!


 男が強くないのは当然として、ブルトフォアも弱かったから棍棒を避けきれずに叩かれ悲鳴を上げている。まあそこまではいいのだが、思っていた通りダメージはそれ程ではなく、相手を怒らせるだけの結果になったようだ。

 「うわ! いってぇ! やめろこっち来んな!」

 怒ったブルトフォアに引っかかれたり噛み付かれたりして、男が悲鳴を上げる。

 剣道をやっているのではないのだから、手加減して殴ったのではそうなるのが当たり前であろう。相手にしてみればどつかれているだけなので、怒って反撃して来るのは当たり前だった。

 双方が悲鳴を上げながらポコポコと殴り合っている。

 ブルトフォアの攻撃が致命傷になっていないのは、単純に力が弱いからって理由にしかならない。これがゴブリンだったとしたら、男は既に死んでいたのだろうな。

 ああ見えてゴブリンの力は強いので、一般市民くらいなら楽に撲殺出来るのだ。だからこそ冒険者へと討伐依頼が発生するのである。

 ゲームなどで雑魚キャラとして有名だからと侮ったら即、命は無い。ここはそういう世界なのだ。そんな生ぬるい敵だったのなら、現地住民の手で殲滅されていて当たり前だろうな。

 それが出来ないから冒険者には雑魚だとしても、討伐依頼としての仕事になるくらいには脅威の敵になる。

 それよりは格段に弱いブルトフォアになるのだけれど、殺す気で殴っていないので互角の戦いになっていたりするようだ。

 あー、もしかしたら相手からの攻撃が痛いで済んでいる時点で、生命の危機を感じきれていないのかもしれないな。

 逆に相手を殺さなければ自分がやられるって感じたなら、攻撃にも躊躇がなくなるかもしれない。その場合はとっくに殺されているだろうけれどね。

 敵の選定って、案外難しいのだな。


 泥沼の戦い。いくら痛くても、死ぬ程の攻撃が来ない事を理解したのか、子供の殴り合いのような戦いが繰り広げられていた。

 男の体にはあちこちに、噛み付かれた歯形と引っかき傷が無数に見える。

 いつの間にか棍棒を使わない殴り合いになって、互いの顔には青痣まで出来上がっていた。

 おいおい、文明人を気取りたいのならせめて武器を使えよって言いたい。どちらにしてもスポーツとまではいかないまでも、喧嘩の延長上みたいに考えているのだろうな~

 そんな男と魔物はかなり時間を無駄にし、今現在お互いに殴り疲れて地面に寝っころがっていた。

 これで友情が芽生えたのならある意味、テイマーとしての素質を認めてやるよ。だが、ブルトフォアからは憎々しい視線が垣間見えているので、せいぜいがライバルと認定されたくらいだろうな。

 以上の結果により、召喚された男には勇者の素質は無いと考えられる。だってブルトフォアはスライム以外では最弱の魔物になるからなー

 「おい、この世界で冒険者なり勇者になりたいというのなら、これできっちりと止めを刺せ。後冒険者になりたいって考えているのなら、それを使って素材も回収しろよ。ブルトフォアの場合は牙と爪だ」

 男がどう思っているのかは知らないけれどこれだけは必須だと考え、男の前に剥ぎ取りナイフを突き立てた。

 「えっ!」

 男が戸惑うように声を上げるが、反論は返って来ない。いや、何を言われたのか理解が追い付いていないのかもしれないな。だがこれがここでの現実だ。

 家畜の解体とかもそうだが生き物を切り刻む経験なんて、日本で普通の生活をしていれば一生経験する事は無いだろう。しかしこちらでは子供でも経験する現実だ。

 これは小説なんかでも詳しくは描写されなくても、大体の作品で表現されている。

 まさか出来なくて冒険者や勇者になりたいなんて、甘く考えていなかっただろうな? そんな意思を目に乗せて睨み付けてやった。

 肝心の男には僕が見えていないようで、迷うようにナイフを見詰めていた。

 そこにナイフを手に取った存在が現れる。

 ブルトフォアだった。

 「ちょっと待て、それは俺のだ!」

 慌てた男がブルトフォアとナイフを取り合いだした。

 さすがにナイフはやばいとお互いに考えたのかもしれないな。相手に渡してなるものかって取り合いだした。

 男は誤って刺さらないよう慎重に行動しているが、ブルトフォアはとにかくそれで相手を攻撃出来ればいいって感じで暴れている。

 その結果、両者はどんどん傷だらけになっていっていた。


 しばらくゴロゴロと転げまわり、ナイフの奪い合いと押し付け合いが続く。

 そこには熟練した技や技術といったものはなく、単純な力だけがものをいう醜い争いがあった。

 おそらく男からしたら「お前なかなかやるな」「お前もな」みたいな漫画的展開を期待していたのだろうが、魔物であるブルトフォアからすれば生きるか死ぬかの弱肉強食でしかない。

 あるいは暴れる肉の塊としか見ていないだろう。

 魔物から見れば人間など肉の塊でしかなく、そこに友情もなければペットのような存在もありえないものだった。いや、探せば共存関係の魔物もいるだろうし、人間と共存しようとする魔物もいるかもしれないな。

 今まで見た事が無いのだが・・・・・・

 まあとにかくこれで男は相手を殺すしか方法がなくなったという訳だ。

 これでもなお相手を殺せないのだとしたら、この世界で戦闘職に付く事は無理だな。

 そう考えていたのだが、さすがにナイフを突き付けて来る相手と仲良くなる事は無いのか、必死に抵抗していた。

 「くそ! くそ!」

 やがて相手の筋力を上回ったのか、ナイフの主導権を握ったらしい男は、そのままブルトフォアの腹部にナイフを突きたてた。

 その瞬間、まあ当然の事ながら魔物の青い血が噴出し、男の体を血で染めて行く。

 その段階になって始めて男は何をしたのかに気が付き、自分のした事に慌てだした。

 剥ぎ取りナイフは武器としても使えるのだが、さすがにここで油断出来るものではない。血に驚いて慌ててブルトフォアから距離を取ると、ブルトフォアは痛みに耐えながらナイフを腹部から引き抜いた。

 「うわ! うわー」

 更に吹き出す血を見て男が後ずさる。

 自分がやった事を無かった事にしたいのか、しきりに首を横に振って現実を拒否しているのだが、ブルトフォアの方は改めて武器を手にし男へと一歩一歩近付いて行く。

 さすがにダメージがあるのか、ちょっとふらふらしているようだな。腹部を押さえ、なるべく血を失わないよう手で押さえながら男へとナイフを突き付けていた。


 血を滴らせながらも迫って来る敵って、僕からしてもちょっと怖いと思う。死に掛けているからかその目は血走り、決死の覚悟で相手を殺そうと考えているのがわかる。

 これは実際に血なまぐさい世界で生きて来た人間ならともかく、争い事に無縁であった者にとってはトラウマものの出来事だったに違いないだろう。

 しかしこの世界で生きて行くなら避けて通れない場面でもある。一撃で相手を倒せる程、能力で優れていればまた違ったのだろうがね。

 「くっ、来るな! あっち行けよ!」

 さすがに自分のした事と、血まみれになってさえ男を殺そうと歩みを止めない相手を前にして、男は泣きそうな表情で目の前で起こっている事実を否定しようとする。

 そこには勇者として呼ばれたと騒いでいた男の面影は、既に残っていなかった。

 現実なんてこんなものだ。

 何も好きこのんで平和な世界で生きて来た人間が、血なまぐさい世界に行きたいなど思わないだろう。そう考える人間は、止むを得ない状況に追い詰められているかゲーム脳と呼ばれるある意味現実を見ていない人種だけだ。

 ちなみに僕はゲーム脳だったのだろう。

 普通に異世界だとわかって、敵は経験値にしか見えていなかったからな。

 さすがにグロいものは避けたかったけれど、繰り返しているうちに慣れるものだ。そこもこの男とは違うところなのだろう。

 はっきりいって魚を捌いているのと変わらず、日本にいた時もグロいものは存在していた。牛や豚の解体などはさすがに見た事も無いけれどね。

 ああ、そう考えると僕は簡単にでも自炊していたからこそ、グロ耐性が付いたのかもしれないな。


 改めて男を見てみた。

 どう見ても料理をするようには見えないな。親に作ってもらっていたのか、外食ばかりして生活していたのか。

 そう考えると何が影響してくるのかわからないので、やはりなんでも経験しておくのがいいのだろう。

 「その状態ならそこまで苦労する事無く倒せるが、どうする? もう勇者になるとか言わないでおとなしく暮らして行くのか、今からでも気合を入れて戦うのか結論を出せ」

 「まっ、待ってくれ。ちゃんと戦う。直ぐ終わらせるから・・・・・・俺は選ばれた勇者なんだから・・・・・・」

 どこが勇者なのだって言いたいのだが、それは言ってはいけないのだろうな。というか、もう勇者なら後ろにいるのだが・・・・・・それも言ったら駄目なのだろう。

 勇気あるものって言えば、難民の子供達の方がよほど勇者っぽいのだがな~

 まあどちらにしろ、この男がこの世界で生きて行けるかどうかがこれでわかるのだから、がんばって欲しいところだ。いや、別に戦えなくても生きて行くだけなら問題は無いか。

 特にフォーレグス王国ならば一般の職業はいろいろある。だけれども見た感じ、特殊な技術を持っているようには見えないので、どちらにしてもあまり期待は出来ないな。

 「やるぞ、やってやる、俺は勇者になる男だ。こんな雑魚なんかでつまずいている場合じゃない」

 しばらくするとぶつぶつと言い出した男は、まるで自分に催眠術でも掛けているかのように繰り返しそう言いだした。確かに自己暗示っていうのも大事だろうね。

 特に今後の自分の活動を考えるのならば、これは避けて通れない通過点でしかない。本物の勇者ならさくっと決断出来ないのでは望み薄なのだが・・・・・・この男は戦闘が出来ても勇者になれる器ではない。

 そういう意味ではここで大いに悩んだり、戸惑う事は正常な人間として普通の事だと考えられる。

 「うああああーーー」

 自己暗示に成功したのか腹をくくったのか、男は突然叫び声を上げてブルトフォアに踊りかかった。

 こちらのやり取りをなるべく気にしないように自分達の戦いを続けていたレイシアと、レビルス達がびっくりしてこちらを見て来る。

 そんなみんなが見守る中、瀕死のブルトフォアに馬乗りになって男は奪い取った剥ぎ取りナイフで攻撃を繰り返していた。

 もしこれが毛皮の収集依頼だったら、確実に売り物にならない状態になるな。

 血塗れになりながら相手の生死も気にせず、動き続ける男を見守りながらそんな事を考えていた。


 「はっははは・・・・・・やった。倒せたぞ・・・・・・。――うわっ」

 しばらくしてブルトフォアが死んでいる事に気が付いたのか、荒い息を吐きながら死体を見下ろすと、ようやく自分が何をしたのかを認識したようだ。

 一応誰の手も借りずに生き物を倒す事は出来た。まあそこまでの過程は散々なもので、とても勇者どころか冒険者になろうとか考えるような職業には付けそうにないのだが・・・・・・投げ出さなかった事だけは褒めてもいいだろう。

 生き物を自分の手で殺した事実から逃げようと、這いずって死体から逃げ出しているようだが、そういう人間はどこにでもいる。

 後は今後もこういう事を続けて行けるのかどうかだろうな~

 「おい、もし今後も勇者として戦って行きたいのなら、素材になりそうな部位を回収しろ。牙と爪だ」

 皮を剥ぐのよりはまだ抵抗は少ない回収作業だろうが、さっきまで生きていた生き物から素材を剥ぐのだ。これもこちらの世界で生活して行くのなら必要になって来る作業ともいえる。

 まあ予想していた通り、男は抵抗があるようでなかなか作業を開始しようとしない。

 「冒険者なら誰でもやっているような作業だぞ。それとも剥ぎ取り用の人材でも雇うのか? 冒険者なら確かにそういう人材を雇う事もあるだろうが、勇者ならそういう足手まといは連れて歩かないと思うがな」

 確かこの世界でそういう荷物運びとかやっている職業は無いようだが、小説などでたまにそういう副業みたいなものはある。

 たいていの場合は戦闘が出来ないような子供で、奴隷なんかもそういう仕事をしていると書いてあったかな。しかし、この世界でモンスターを殺せるのに剥ぎ取りが出来ない者っていうのは、聞いた事がない。

 やっぱり余分な出資に繋がるとか、いざという時に足手まといになるとか、いろいろな理由でそういう仕事をする人がいないのだろうな。

 だが、この男の場合はそういう人材を雇うとかもありかもしれない。何故自分で剥ぎ取りをしないのかって思われそうだけれどね。


 やはり死体の解体という程グロいものではないのだが、素材回収をなかなかしないようだったが、結局はどうやるのか指導して回収する事に成功した。泣きながら嫌々していたけれどね。

 だが生き物を殺す事もその後の回収作業も出来たので、一応は冒険者くらいこなして行けるのではないだろうか?

 もうこんな事をするのは嫌だっていうのなら、別の仕事を探すだけだしね。

 「で、まだ勇者になりたいとか考えているのか? お前には向いていないと思うのだがな。普通の一般職に就く方がお前には向いていると思うぞ」

 「・・・・・・いや、勇者に障害はつきものだろう? 勇者って壁を乗り越えて成長して行くんだ」

 そんな死にそうな表情で言われても・・・・・・しかも壁って、この世界の人間からしたらえらく低い壁だったりする。まあ本人がやるっていうのならば、仕方が無いのだろうけれどね。

 「じゃあどんどん倒すか」

 もう二・三体倒させて、駄目かどうか確認させようかなって思っていると・・・・・・

 「いや、ちょっと待ってくれ。せめて明日。明日からで!」

 これ駄目なパターンじゃないか?

 まあいいが、この男が勇者になるにはいったいどれだけの月日が必要になるのかね~

 とりあえず、もうこれ以上何もする気にはなれなそうなので、壁際で休憩させる事にした。こっちはこっちでレイシア達の成長を具合は確認したので、難民の子供達を相手にするかな。

 レビルスが異形を討伐出来るまではもう少しかかる。少しだけだが、トップ集団が成長する余裕はまだありそうだった。

 レイシアにがんばれって言い残し、早速子供達のところへと向かう。

 召喚された男はまあ子供達の特訓でも見学させて、今後の参考にでもしてもらおう。勇者になりたいというのなら、避けて通れない経験になるからね。まあ勇者はレビルスになるので自称勇者になるのだろうが・・・・・・


 「ほへー。子供なのに凄いな! 全然動きが見えないぞ!」

 僕が普段指導しているドベ集団は分身に任せてトップ集団の様子を見に来たのだが、一緒に付いて来た男から見ると相当衝撃的な光景だったようだ。

 この子達も少し前はお前と同じように戦いも知らない一般人だったのだがな。そう考えると、この男も鍛え上げれば同じくらい強くなる可能性はあるのかもしれない。

 いや無理があるか。現代の日本人にはそんな素質ある訳がない。

 それならまだ肉体を使う職業ではなく、魔法使いに適性が在った方が不思議ではないだろうな。いや、地球には魔力が無いので、そっちも不可能か?

 そう考えると、銃とか科学を使って錬金術士みたいな戦いとかなら行けそうな気がする。世界バランスを崩しそうだからやめて欲しいけれどね。裏ゲーム世界で日本人達が辿った黒歴史は、さすがに真似して欲しくはないな。

 「俺もいつかこんな風に戦うんだなー」

 「いやそれは無理だろう。どうがんばってもその鈍った体では、激しい運動が出来るとは思えないがな」

 「そこはほれ、チート能力をもらって肉体強化とか、そういうスキルでもくれよ」

 「あほか、現実を見ろよ。何でもかんでも都合がいいような力が手に入る訳がないだろうが」

 たまに成長過程で求めているようなスキルを手に入れる事はあるが、誰かに与えられる事などはないな。この世界では神に祈っても、そういう力を授かるみたいな現象は聞いた事がない。

 勇者とかは貰えるのかな? 特に記述とかも見た事がないので、おそらく努力して手に入れているのだと思う。

 それにしてもこいつは楽をして強くなりたいみたいだな。そんな気持ちでこの先、生きて行けるのかね~


 翌日チョビが連れて来た新人の子供に混ぜる形で、男を鍛える事にした。

 一応男には曽根淳也っていうちゃんとした名前もあるようだが、こんな半人前はわざわざ名前を呼んでやる必要もないだろう。子供に混じっていい大人がへっぴり腰でモンスターと戦っているのを見ると、余計そう思う。

 というか、どう見ても子供の方がしっかりしているよな。

 「おっちゃん、しっかり攻撃してよ!」

 「おっ、おうわりい。次はちゃんとするから、任せろ」

 「ほんとかよう。頼むぜ」

 六人チームの一人として活動しているのだが、盾役の子供に怒られていた。あれで勇者を目指しているとか、笑えるよな。

 おそらく子供達とは真剣さが違うのだろう。

 子供達は生きて行く為に必死で技術を学ぼうとしている。それに対して男は単なる憧れと、願望でしかない。まあ多少はこっちの世界での生活の事も考えているのだろうが、はたしてどれだけ真剣なのかは僕にはわからない。

 とにかく勇者や冒険者を目指したいのであれば、周りの子供達を見本にでもしてがんばるしかないだろう。

 自称ではない本物の勇者であるレビルスだって、以前の勇者だったハウラスだって、ちゃんと修行して強くなって行ったのだ。今男が経験している道は、誰もが通った道でしかない。僕は進化だから例外かな。

 まあ昨日までとは違い、少しは冒険者になれる可能性があるのではないかなー

 まずは根性を鍛え直して、がんがん敵を倒して行ってもらおう。


 しばらく基本を教えた後、手のかからなくなったトップ集団を指導していた教師役を、新人達に当てる。僕自身はその間全体を見つつ新領地内の様子や、聖サフィアリア王国の様子などを見て廻りたい。

 いつまでも一つ所にいられないからな。明確な役目は持っていないのだが、これでもいろいろとやる事はある。

 新領地内に造られた大規模な農場のおかげで、どうやら聖サフィアリア王国内の元々の国民プラス、周辺から流れ込んできた難民達を養うくらいの作物は生産出来ているようだった。

 逆にいえばそれだけの労働力分のコボルトが、新領地内にいるといえるな。

 寿命と出産率の調整が微妙に間に合っていなかったといえるのだが、ぎりぎりのタイミングで対策が間に合ったのかもしれない。タイミングよく新領地を手に入れる口実がやって来たって感じだ。

 しかし、何十年かしたら爆発的に人口が増えそうなので、もしかしたら更に新領地を取りに行く必要があるかもしれない。

 こればかりは何年か経たないとわからないので、しばらくは様子を見て考えてみよう。

 今の世界情勢では、周辺国が次々に滅亡して行っているので、領土拡大を狙い放題になっている。チャンスはいくらでもあるという事だな。ただし、勇者が対処するまでという時間制限があるのだが、レビルスの仕上がり具合を見るにもう少し時間はある。

 どこの国も状況が厳しくなっている中、フォーレグス王国と同盟国だけは何の打撃も受けていないので、予想外に勢力を伸ばし放題になっていた。

 難民受け入れも続いてはいるのだが、そっちは結界を越えられる者に制限があるので、少しずつしか増えていっていない。

 聖サフィアリア王国からは、もう少し難民受け入れの条件を緩和して欲しいとは言われているものの、さすがに後々敵になりそうな人間を許容は出来ない。

 彼らと違って僕が守りたいのは人間ではなく、自国の友好種である国民なのだ。一部人間もいることはいるのだが、彼らはフォーレグス王国を裏切らない。

 それに比べて難民は、次の世代がどうなるかわからない。だからこそ今現在いる難民達も、たいした情報を与える事はなくいずれ追い出すつもりでいる。

 いや、いっそ空いている隣国を占拠して、難民だけで一国立ち上げてしまった方がいいのかな? 属国みたいな感じならありかもしれない。

 その方が後で出て行きたくないとか言って、騒がれなくて済むかもしれないな。今ならまだ定住しているといえない状態だし。よし、そうしよう!


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