難民の子供達
デクトラウトの肉片を、大幅に増産する。
孤児だった子供達が勇者パーティーに誘われなくても、異形退治を引き受けて活躍出来る冒険者にはなってもらいたかったから、いずれデクトラウトの肉片を使った装備を彼らにも渡そうと考えていたからだ。
今戦闘訓練をしているのは四十人ちょっとと少ない人数ではあるのだが、必要素材はそれなりに必要になって来る。しかもその素材はここでしか手に入らない。
魔界にでも行けば素材の魔族がゴロゴロいて、討伐したらもっと増えるのだろうか? どっちが楽だろう。
増殖させるのと魔族狩りで集めるのと、どちらが効率いいのか少し気になる。
「デリト。そちらにデクトラウトという種族の魔族はいるか?」
気になったので諜報パペットから進化した、魔族型マジカルドールのリーダーに念話を送ってみる。
『少々お待ちください・・・・・・小規模ながら集落があるようです。御用命は何でしょうか』
「小規模というと、百体いないくらいか?」
『もう少し少なく、二十体くらいです』
魔界の広さを考えると、ほとんど絶滅危惧種と言ってもいいくらい少ないな。
「すまん、一杯いるようなら素材を集めたかったのだが、その数ではあまり意味がなかったようだ。継続して仕事を頼む」
『はっ、お任せください。しかし、何でしたらデクトラウト種を増やすように動きましょうか?』
「いや、こちらで素材を増やす方法が見付かったのでな。一度は魔王の四天王くらいに強くなった種族だ、下手に増やさない方が安全でいいだろう」
『わかりました。監視のみにしておきます』
「ああ、頼む」
早々楽な方法は無いようだ。
増殖自体は出来るようなので、これは普段から多めに確保しておく事にしよう。欲しい時に手元に無いっていうのが一番厄介だからな。
「せんせー」「バグ先生、出来たよ!」
レビルスの様子を窺って直ぐ、難民の子供達の様子を見に来ると、あまり成績がよくない子供達が集まって来た。
それはもう毎日付っきりで教えていた為、懐かれても仕方ないのだろう。
まあ馬鹿な子程可愛いとも言うし、いいのだがな。
それに嫉妬した訳じゃないだろうが、ビゼルが他の眷族などを連れてこっちへ手伝いに来ていたりする。もちろん眷属達の場合は、手が空いた時だけ顔を出して、ちょっとだけ指導して戻って行っていた。
後ビゼルの場合は、一応今でも神になる事を目指しているようだが、どれくらい鍛えれば神という職業になるのか見当が付かない。なので焦らずにのんびり経験値集めをする事にしたようだ。
こちらとしては人手が増えるので助かる。
後は先生と生徒といっても、それぞれに相性がある。教え方が上手いかどうかっていう問題もあるのだが、それ以前に気の合う相手から教わるかどうかでも成長度合いは変わって来るだろう。
こればかりは僕がって訳に行かない。
ビゼル達の応援は、そういう意味では嬉しかった。
とりあえず誰と相性がいいのか見る為に全子供に指導してもらって、相性がよさそうな子を担当してもらう事にする。
それによって担当が決まったのだが、ビゼルはどうやらトップでがんばっている子供達と気があったようだ。
どちらかといえば天才に分類出来る子供達なので、ビゼルの肉体言語の方がわかりやすかったのかもしれないな。いや別に殴って教えている訳じゃないぞ。
そうじゃなくて、実際に敵をこうやって倒せって感じで教えているようだ。見取り稽古とでも言えばいいのだろうか? 自分の真似をさせて覚えさせて行っているようだな。それで通じるのならそれでいいのだろう。
「バグ様。新たにやって来た難民の子供がいますが、こちらに連れて来ますか?」
まずまず順調かなって考えていると、チョビがやって来てそう言った。
あー、そういえば食糧援助を続けながら、こちらに受け入れられそうな人間がいれば、追加で受け入れていたままだな。
それで追加の子供がいたからどうするのか、迷ったのだろう。
今子供が合流するって事は、既にいる子供とのLV差が出来て、授業の進捗速度に影響が出て来る。
これはどうしたらいいだろう・・・・・・でもたかだか四十人ちょいで、世界中の異形を倒して来いって言う方が無茶だろう。ある程度は勇者が倒すのだろうが、それでも終わるまでにいったいどれだけ時間がかかるかわからない。
ここは先発組、後発組みとかって感じでどんどん育てて行く感じでやってみるかな。こういう人材は悪ささえしなければ、強過ぎても何も問題はないだろう。
「じゃあチョビ、どんどん連れて来てくれ」
「かしこまりました」
追加で何人の子供が来るのかわからないが、この機会に住居などを拡張しておくかな。
新人の子供はまず、適性を調べてからそれぞれの勉強を始める事になる。そこはドール達が担当してくれた。
冒険者に適正があってもいきなりこちらに合流というのは厳しいので、最低限自分の得意武器を選択してどう振るえばいいのか、事前に学んでおいてもらうのだ。
適性が無い者は普通に専門職の勉強に合流してもらう。
そっちはそっちで合流のタイミングもあるのだろうが、まあ急ぐ必要がないからね。ある程度じっくりと学習してもらおう。
「マスター」
基礎の勉強が終わるまで今までいた不出来な子供の指導をしていたのだが、そう声をかけて来る者がいた。
勉強が終わるまで、最低でももう二・三日くらいかかるかなって考えていたのだが、意外と早かったようだ。でもって声をかけて来た子供を見てみると、違和感が・・・・・・・子供というには等身がおかしい? 大人なのに背が小さいといった方がいいのかなって思ったのだが、どうやらホムンクルスのようだ。
あー、マスターとか言っているし、そういえばこっちもダンジョンで経験値稼ぎをしていたのだった。
ステータスを見てみるとLVも随分高くなっていて、とっくに進化させてもよかったくらいに成長していた。じれてやって来たのかもしれないな。
「マスターの御邪魔をして申し訳ない。しかし我等の進化をなにとぞ御願いしたく・・・・・・」
やっぱり。いろいろとやる事があったので任せきりにというか、彼らの事を忘れていたようだ。こちらの方こそ面目ない。
「直ぐ行こう。ここまで足を運ばせてすまないな」
「いえ、我等の方こそ無理を言ってすみません」
なんか腰が低いというか、卑屈というか・・・・・・創造主と被造物の関係のせいなのかなー
そこまで偉そうな身分ではないので、もう少し普通でもいいのだがな。不愉快にならない程度にフレンドリーでお願いしたい。神になったのでそうも言っていられないかな。せめて身内は普通にしていて欲しいものなのだが・・・・・・
「ビフィーヌ。直ぐ戻るの子供達を見ていてやってくれ」
「はい、主さま」
こっちはこっちで素直に反応してくれるのだが、ずっと一緒がいいって顔にデカデカと書かれていた。どいつもこいつも極端な者ばかりだ。
まあ個性があっていいのかもしれないがね~
進化を望んでやって来たホムンクルスに連れられて向かった先は、上級ダンジョンの側にある宿屋であった。
その大部屋で待機していたホムンクルス達のステータスを見てみると、全員九十近くまでLVが上がっている。人間だったらもう直ぐカンストって感じだろう。これはさすがに放置し過ぎたな。
確か彼らの進化は後二回あるはずなので、人間と同じ九十九でカンストするのなら、次の進化もほとんど連続って感じになるのだろうか。これはさすがにもっと早くに連絡して欲しかったな。自分が忘れたのが悪いのだが、いろいろと予定外な事件が起きたのが原因だといいたい。
グダグダしていないで、サクサクっと進化させてしまおう!
とはいうものの、混ぜられた魂の問題もあるのがちょっと戸惑うところだよな。気にしないでもいいと思うのだが、実際僕の中でずっと生きていたのを見てしまうと、安易に混ぜていいものやら・・・・・・今もドラゴンとかが分け身で同族のところに行っているが、フォーレグス王国に海は無いのでリバイアサンのような水生の者は外に出ていない。
このままだとずっと僕の中で眠り続けることになるので、それはそれで申し訳ない気がしている。
セイレーン達もいるので、新領地のどこかに巨大な湖でも造るかな?
いやそれより進化素材をどうするかだ。そもそも、目の前で進化を待ち望んでいるホムンクルス達が待っているので時間が無い。
いや、わざわざ進化合成するまでもなく革進というスキルを使えば同じような進化を促せたよな。
そっちなら素材を集めて来る必要もないので、サクサク進化させてみよう。
名前 チワト 種族 ホムンクルス-プロガラン 職業 知者-大魔導師 EXP 62%
LV 1-87 HP 8-1038 SP 63-1682 ST 5-983
力 2-76 耐久力 1-68 敏捷 5-79 器用度 6-80
知力 36-144 精神 9-91 運 76 素質 98-47
属性 火* 水 風* 生命 混沌* 無* 空間*
適正 攻撃魔法 回復魔法*
スキル LV無し 簡略詠唱-無詠唱* 念話-集団念話* 待機魔法*
LV一 竜の一撃* 言霊*
LV二 意思疎通* 植物操作*
LV三 地衝撃陣* 再現* 物まね* 三重詠唱*
LV四 収穫*
LV五 博識* 錬金* 属性付加*
LV七 強打* 重撃* 食材召喚* 調合*
LV八 受け流し*
LV九 薙ぎ払い* 魔力変換* 料理*
LV十 棍術* 打撃向上* 調理*
LV十一 水脈感知* 空間干渉* 限定魔法陣*
LV十二 毒耐性* 自動回復(HP) * フォーレグスの加護*
LV十三 瞑想* 帰巣本能* 危険感知* 魔法耐性* 範囲拡大*
LV十四 活性化* 回復向上* 火の加護*
LV十五 支援* 祝福* 感知*
LV十六 鑑定* 看破* 防御障壁* 風の加護*
LV十七 魔物知識*
LV十八 毒知識*
LV十九 方位感覚*
LV二十 罠知識* 魔力向上* 水の加護* 亜空間* 敵感知* 直感* 空間把握* SP消費減少(中) * 暗視* 聴覚*
進化後のステータスを見てビックリ。
確か後一回は進化させないとバッカーライという新人類にはならなかったはず・・・・・・なのに違う種族になっていないか?
プロガランって何?
・・・・・・魔力の操作に秀でた種族。ヒューマンの上位種族で、混血児もプロガランとなる。その場合特性はプロガランであり、同じく魔力の扱いが優れた子供として育つ・・・・・・
おー、何やら子供の説明まで出て来たぞ。
説明を聞く限り、下手をすればヒューマンとの間に軋轢が生まれそうだな・・・・・・この子達はまだ常識的というか、僕が創り上げたホムンクルスとして見てくれているから問題は無いが、子孫達は他人を見下したりしないかどうか心配だ。
よくよく考えればそれはバッカーライであっても条件は同じなので、ちょっと早まったかもしれないな・・・・・・
いやそれはそれで問題ではあるのだが、このままこいつらを進化させてしまってもいいのだろうか?
ひょっとしたら進化させるともっといろいろな種族に分かれたりするかもしれない。それはそれで子孫を残すというか、増やすというかで問題になりそうではあるが、とりあえず進化させてみるのがいいのか?
しばらく悩んでみたところで、結果はシンプルにやるかやらないかしかないと悟る。
いや、欲しいのはホムンクルスではなく新しい友好種なのだから、ここはやるべきだろう。
その後立て続けに進化させていったのだが、種族は全員プロガランになった。ひょっとしたら進化合成と、革進のスキルで進化先が違う種族になるのかもしれないな。
あるいは進化させるLVだろうか・・・・・・おそらくはそんなところだろう。
本来の予定ではバッカーライという種族を増やそうとしていたのだが、まあプロガランでもいいか。バッカーライは超能力が得意らしいが、どちらかといえばSFっぽい。
それよりも魔法に適正がある種族の方が、この世界に馴染みやすいだろう。今からホムンクルスをもう一度育てるのも面倒だしね。
全員進化させた後は新領地にでも村を造ってもらって、自由に生活して行ってもらおう。
「チョビ。プロガラン種達の村を造り、面倒を見てくれ。それとホーラックス。新たなる友好種の誕生だ。国民達に知らせてやってくれ」
『承りました、バグ様』
『よかろう。では何かしら祭りをやらせる』
日本にいた時のような仕事に追われる生活を嫌って、のんびりとした環境を作って来たのだが、どうやらまた新たな記念日が誕生してしまったようだ。
まあ忙し過ぎるよりはましかな? 国民が怠惰で怠けるようだったら問題になるだろうが、町などを散策してみるといろいろと活動しているようだからな。
もちろん仕事ではなく、いろいろと提供している遊びになるのだが、ニートとして閉じこもっているやつがいないだけ良い国だろう。幸い餓死者とかもいないし、スラムも存在していない。
喧嘩している者はちょっと多いかな。
これは多種族が多過ぎるので、もうそういう特色を持った国だと思うしかないだろう。
殺し合いにならないだけましだ。そこだけは人間の国よりは治安が良い。
さて、次はレビルスの様子でも見に行ってみようかな。
残念ながら難民の子供達がレビルスに追い付くのは、ちょっとばかり無茶振りだったようだ。
それはそうだよな。
勇者っていえば、ちょっと見ない間にガンガンLVアップして行くチートのような職業だ。一般市民が必死にがんばって経験稼ぎをしたところで、ほいほい追い付ける訳がない。
集中して経験値稼ぎしているので、トップ集団はかなりLVが上がっているようだけれど、異形退治に行かせるのはまだまだきついだろう。
遅れ気味な子供達は当初予想していた通り、トップ集団よりは劣るけれど置いて行かれないくらいには喰らい付いて行けている。
そこに新人も入って来るので、そっちはのんびりって感じになって行くだろう。
肝心のレビルスはといえば。ソロで異形退治はまだ無理そうだな。同LVのパーティーならば、一体くらいは倒せるかもしれない。
レイシアも一緒に経験稼ぎをしていたわりにはそこまでLVが上がっていないので、まだまだソロで倒す程強くなってはいないな。おそらくレビルスに合わせていたせいだろう。まあ仕方ない。
だけれど今現在の実力を調べておくのも悪くはないだろう。
多目的シートで今現在の実力に合った相手を探してみる。
異形自体、元になった人間で強さが変わるので、平均的な強さから見ればエンシェントドラゴンクラスの敵が妥当だと考える。さすがにレイシアでも普通のドラゴンがやっとかな。
レビルスはそれよりもう少し下なので、相手をさせるのなら巨人ランクの敵がよさそうだ。
テッシーはLVこそ低いものの、基礎能力がずば抜けているのでレイシアとレビルスのペアで戦ってもらう。というか、テッシーの場合は格上に見えてたいていの敵が格落ちらしく、そうそう経験は稼げていない。
実力的には勇者パーティーで活躍してもいいくらいだろう。勇者パーティーにはあげないけれどね。
「どれくらい強くなったか試すぞー」
「バグ! かなり強くなったよ~」
「何だ、今なら魔王の配下でも結構いい勝負が出来るぞ!」
レイシアとレビルスが自信に溢れたいい表情でそう言って来る。レイシアの場合は問題ないが、レビルスはちょっと調子に乗っている感じかな? 気を引き締める為にもちょっと強めのモンスターでもぶつけて、まだまだだって教えておいた方がよさそうだ。
せっかく育てた勇者がボロ負けしたなんて噂が広がっては、人類全体の士気にかかわる。いや、まだ正式に勇者だって発表されていないから、今なら平気なのかな?
とにかく二人で戦ってぎりぎりになるようなモンスターを召喚して、慢心しないように言っておこう。
「これからモンスターを出すから、二人がどれだけ強くなったのか見せてくれ」
「はーい」
「どんどん来い、経験値稼ぎにしてやるよ!」
気合が入っているのか、二人ともやる気十分って感じだ。
テッシーは壁際で控えているビフィーヌのところへと行き、二人の戦いを観察するつもりらしい。戦闘結果を分析して、今後の指導に生かしてもらいたいものだ。おそらくあれこれ言わないでもちゃんと指導してくれるだろう。
「召喚、ロフロス」
召喚しようとしたモンスターは、ダンジョンなら十分ボスに相当する強さを持っている。魔法が効き難いだけでなく、接近戦にも優れた四本腕の巨人。
日本風の鎧を着込んだ独特なモンスターのはずだったのだが・・・・・・なんか全然関係が無い普通の人間が出て来た?
「ここはどこだ?」
ちゃんと召喚出来た手応えはあるのだが、呼び出されたのはどこからどう見てもただの人間。いや、これって日本人じゃないのか?
レイシア達もどう対処したらいいかわからないって感じでその男を見ているのだが、出て来た男も周囲をキョロキョロと見回している。
僕としても特にミスっていない召喚魔法で、呼んでもいない人間が出て来るとは思っていなかったので、対応に困ってしまう。それを更にあおるような台詞を、出て来た男が叫び出した。
「来た来た来た~! これはどう見ても異世界召喚だろう! 俺は勇者としてこの異世界を救って美少女と冒険し、魔王を倒してうはうはな生活を送るんだ! ついに俺様の時代の到来だ!」
何こいつ。どこからどう見ても日本人らしいってわかるのだが、ラノベ展開を期待し過ぎじゃないのか?
いや、実際に魔王がいる訳だから、実力やチート能力があればありえない展開じゃないのか?
思わずこの男のステータスをチェックして、どんなチート能力があるのか確認してしまう。というか確認したのだが、こいつには何もスキルがなかった。
まあスキルが無いならこれから覚えればいいのか。
それよりもとっくの昔に地球は崩壊しているのに、六百年以上たった今になってここに召喚されて来た事に疑問がある。何故に今頃召喚されて来た?
「お前は・・・・・・」
「なあなあ、あんた。あんたがこの世界の神様か召喚者なんだろう? 俺はここで何をしたらいいんだ。いや召喚する理由なんて、魔王退治に決まってるよな。早速で悪いが、スキルをくれ。後伝説の剣とか鎧とか無いか? 無けりゃ取って来るから場所を教えてくれよ」
「何この人」「何だこいつ」
気合を入れて戦おうとしていたところに現れた人間に、レイシアとレビルスがあっけにとられて呟いた。
自分で召喚しておいてなんだが、僕も誰かにそう言いたい。
「むぅ、こういう時のお約束だと、絶世の美女の姫様か巫女が相手をしてくれるってパターンもありだが・・・・・・美人の神様も姫様も巫女もいないな。ここはどうなっているんだ? まったくなってないなー。未来の勇者様を歓迎しようって誠意がみえん」
周囲があっけにとられているのも構わず、まだそんな事を言っていた。後レイシアは確かに絶世の美女ではないが、普通よりちょっと上くらいに可愛いぞ。本人を前に美人じゃないとは失礼なやつだ。
まあ七歳児だとロリコンじゃなければ、それ程食指が動かないのかもしれないがな。
それで言えばビフィーヌは美少女だといっていいだろう。何といっても元はねずみで、普段は僕基準の美少女姿に変身している。人間バージョンの造型は、好きに表現出来るからこその姿だろう。
何故ビフィーヌに反応しないのだ?
そっちを見てみると、フォーレグス教の衣装に身を包んでいるのだが、頭からかぶっているベールかな? シースルーになっているそれが、遠目で見ると普通の布に見える。あれでは顔を窺うことは出来ないだろう。
壁際に待機していることもあって、モブ扱いされているのだろうな。
その後もラノベ設定でありがちな俺ツエー発言を連発していたのだが、こちらから何かしらアプローチをする事が無いのを不思議に思ったのか、恐る恐る聞いて来た。
「なあ、あんた。俺は勇者になる為に呼ばれたんだろう?」
その目はそうだと言えって訴えていた。
よく何の疑いもなく、都合のいい設定を妄想出来るものだな。僕なんてスライムとして召喚されたのだぞ。しかもチートスキルなんて無かった!
いや、喋れないだけで言葉は通じたので、言語チートはあったのか? 特にそういうスキルは無かったと思うので違うよな?
まあこれといって凄いスキルなんて持っていなかったから、それに比べれば人間だっただけいいじゃないか。
そう考えつつもスライムに転生した事は、今ではよかったと思っているのだがな。おそらく呼ばれた時人間のままだったら、ミノタウロスに殺されていただろう。
スライムでなければ、そもそも呼ばれていなかったかもしれないけれど、そこはどっちだったのか考えたところで答えは出ない。
「呼んだのはあんたなんだろう? 何て言ったらいいか、そっちの嬢ちゃん坊ちゃんに比べると神々しい感じがするから、神様かなんかなんだろう? チート能力をくれよ。あれだ、十倍くらい早く成長する能力とか不老不死になるとかでもいい、いや異性を虜にする能力なら戦力とハーレム要員を一度にゲット出来るか?」
めちゃくちゃ都合のいいチート能力を要求してきやがった。不老不死は別に神でなかった時にも与えられたけれどね・・・・・・ただしあれは拷問用だと僕は思う。
どうやったって死ねないし、怪我をすれば普通に痛い。無限の再生能力とセットでないのなら生けるゾンビと変わらないのだ。苦痛から開放されないなど、地獄の苦しみを味わうだけだろうな。
いっそ不老不死にしてやろうか?
そう考えたりしたのだが、さすがにうっとうしいからっていって与えるスキルではないな。
「レイシア、レ・・・・・・アーゲルト。ちょっとこの男の相手をするから、そっちの方でもう一度準備を頼む」
「うん」
訳のわからない男の乱入で、どうしたらいいのか迷っていた二人をダンジョンの奥の方へと移動させる。元々どんどん敵が出て来るダンジョンだったので、戦闘場所には困らない。こっちはこっちで反対の方へと男を移動させつつ敵を召喚しておくかな。
「召喚、ロフロス」
よし! 当たり前なのだが今度はちゃんと目的のモンスターを召喚出来た。
まったく同じ召喚魔法を使っただけなのに、達成感があるのはどうしてだろうね~
しばしレイシアとレビルスが戦う姿を観察する。
レイシアは後衛なので余裕を持って戦っているが、その攻撃は普段より威力が足りない。これは召喚したモンスターが魔法抵抗を持っているせいだ。その分いい経験になるのでがんばってもらいたいな。
肝心のレビルスは、防御一辺倒になっている。今までの敵と違い実力差がある為か、盾で受け流しきれずにまともに攻撃をもらっているようだ。この分だと異形の相手はもう少し先になりそうだなー
腕が四本もあるのでそれぞれの腕から繰り出される斬撃を、必死に凌いでいた。腕二本分足りないから、どうやら反撃する余裕は無いようだ。
じりじりと交代しつつ、ぎりぎりで防いでいる。後で戦い方の見本を見せた方がいいかもしれないな。
おっと、勝手に召喚されて来た男を放置していた。やけに静かだなって考え見てみると、レイシア達の戦闘を観戦しているようだ。
「すげー、俺もいつかあんな風に戦うのかー」
いやスキルも持たない華奢な日本人に、あんな激戦など出来る訳がないだろうが・・・・・・相変わらず根拠の無い自信に溢れた、おかしな男だった。




