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モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第三十章  幼き勇者
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新領地の発展

 デクトラウトの肉片の増殖が済むまでには、まだ時間がかかる。

 その間に他の事をしていようとまずはレビルスの様子を窺ってみると、もう少しすればレイシアと一緒にだったら異形と戦えるのではっていうくらい、力を付けていた。

 まあ、レイシアも一人で異形の相手が出来る程強くは無いのだけれどね。その代わり、しっかりした前衛がいてくれるのなら、十分過ぎるくらい戦えるはずだ。

 でも異形が複数いると、前衛を抜けて来たりして危険かもしれない。やはりしっかりとしたパーティーを組む必要はあるだろう。

 しかしこちらは、手伝えそうな事が今のところなさそうだな。

 テッシーがいい仕事をしているみたいなので、僕が指導するような必要はなさそうだ。魔法も戦い方も、的確に教えているのがわかる。

 逆に僕より教え方が上手いかもしれない。

 レイシアが強くなったらテッシーには、学校の先生をやってもらうのがいいだろう。

 さてここにいても邪魔するだけだな。チョビのところにでも行って、何か困っていないか視察でもしてくるとしよう。


 ワレスホルト国からフォーレグス王国へと真っ直ぐ進む主要道路沿いに、農業都市といっていい町が幾つも出来上がっていた。

 更にその道を一定間隔で十字に交わるように道が続いていて、その道の側に幾つもの町が出来上がっていた。

 ゼロから町を造っていった結果、結構規則正しく配置されているようだな。

 元からあった人間達の町や村は、大半が壊され畑に取って代わっている。

 それでも位置的に離れた場所にあった村などは、緊急処置でやって来た難民達がそのまま使って活用しているようだった。それに周囲にあった畑も、ゴブリン達の町などからかなり離れているみたいだ。

 ここら辺りはお互いに接触して、無用ないざこざが起きないよう引き離されているのだろう。

 まあ必要不可欠な生活用品などを運ぶ、行商人くらいしか互いに接触はしないようだ。

 それにしても広大な畑だな。

 どこもかしこも見渡す限り畑だらけだ。

 それもこれもコボルトが増え過ぎたっていう事実と、難民救済用の食料を作るよう指示を出したせいなのだろう。

 野菜や穀物も、植える時期が同じだったからか、綺麗に生え揃っている。

 他所の畑は結構好き勝手に植えていたので、バラバラな所が多かったからなー。まあこれも初めだけでここもいずれ土だけの畑、青々とした畑、収穫まじかな畑って感じでバラバラになっていくのだろう。

 今だけ感じられる歴史の始まりの風景って思えば、これも貴重な瞬間に見える。


 「それでお前達は僕にどんな用があるのだ?」

 あちこち見て廻っていると、下は五歳くらいから上は十五歳くらいまでの人間の子供達が、ぞろぞろと後ろを付いて来ていた。

 どこか疲れたようなその表情を見るに、おそらくは孤児といってもいい子供達だろう。

 この様子だと本来ならボロボロな服というか、もはや布を巻き付けているだけといった格好をして出て来そうなのだが、全員新品の服を着ているところが妙にアンバランスだ。

 当然これらの服は、フォーレグス王国で用意して援助物資として配った物だ。

 血色がよくなくて、微妙にゾンビっぽい雰囲気の子供達にはまるで似合っていない。おそらく食料が足りていないせいだろうな。

 これは何もチョビの不手際って訳ではない。

 そもそも十万人近い人間を養うだけの余力は、フォーレグス王国にはなかったのだ。小さなところなら国丸ごとといってもいい人数だしね。

 聖サフィアリア王国のように国民の食料まで削れば、もう少し食べ物を廻せると思うのだが・・・・・・こちらには自分達が飢えてまで施しを与える理由が無い。

 いざとなれば、彼らも敵に廻るのだから余計にそんな義理は無いだろうな。

 たぶん配給した食料の中で、死なない程度に食いつないでいる状況のだろう。


 子供達は僕からの問いかけに戸惑った様子を見せてはいるものの、誰も問いかけには答えなかった。

 どう説明すればいいのか、迷っているのか?

 何か訴えかけたい事があるようにもじもじしている子供も多いが、ただそれだけだ。

 この時代というか、この世界の子供なら五・六歳の年齢でも畑仕事を手伝わされていたはず。いや、孤児の場合なら親に手伝えって言われたりはしないのか。

 あるいは現状の食料では満足できず、さらに食料を欲しがっているってパターンもあるな。

 子供なら飢えるのはきついだろう。

 「今のフォーレグス王国にも、これ以上の食糧援助は難しいぞ」

 さすがに無いものを分け与えることは出来ない。

 飢えている人間、しかも子供には酷な話だろうがそもそも僕は彼らの王では無いのだ。同じ飢えに苦しむ者を助けるのなら、やはり自国の国民に手を差し伸べる。

 今回は多少の余力があって、気が向いたから助けたに過ぎない。それを当たり前とか、善性を説いてもっとよこせと言われてもこっちが困るのだ。ここで譲歩すればいずれつけあがる。人間の欲には際限が無いからな。

 相手はまだ子供だが、ここははっきりと言っておかなければいけないだろう。


 だがどうももっとご飯をよこせっていう訴えではないようだな。まあ話を振ったのでお腹をさすっている子供が結構いるようだけれど、これはご飯の話をしたから空腹を思い出しただけだろう。

 腹具合を思い出させてしまった事は申し訳ない。実際お腹を鳴らしている子供もいるので、攻め立てられているように感じてしまう。

 そこで作り置きしてあるたい焼きをみんなに配る事にした。もちろん自分とビフィーヌやチョビも一緒に食べる。

 子供達の喜ぶ姿を見つつ、レビルスにも後であげようかなって考えた。

 それはさておき食事の要求ではないとすると、畑仕事以外の職を斡旋して欲しいって感じかな?

 ある程度お金が稼げさえすれば、食べ物だって着る物だって、住んでいる住居の環境も安定するからな。

 「何か仕事を斡旋しろという事か? 何かの職人とか、冒険者とか・・・・・・」

 どうやらこれも違っていたらしい。

 しかし僕があげた例えを聞いた子供達は、ザワザワとしだした。

 集まった二十人程の子供達が、互いに意見を交し合っては頷いたりしている。

 どうも明確に何かっていうものはなく、何となくで後を付いて来たって感じなのかな? でもって冒険者と僕が発言して、それだ! って感じになったように思う。


 「僕達に戦い方を教えてください!」

 子供達の中で一番年上っぽい少年。十五・六歳の男の子が代表するようにそう言って来た。

 「これでも僕は忙しいのだがな」

 「・・・・・・お願いします。もうただ流されるままとか、目の前で見ているだけで何も出来ないのは嫌だ」

 「何でそれを僕に言う? 近くの町にでも行って、冒険者ギルドにでも頼めばいいじゃないか」

 ここの近くの町に冒険者ギルドなど無いのだが、いきなりやって来ただけの者に頼む案件じゃないだろう。

 もっとこう、行商人が来た時にでも情報収集をして、ギルドまで連れて行ってもらうとかやりようはいくらでもありそうなものだ。ひょっとしてたい焼きをあげたから、餌付けされた?

 「何となくだが、あなたは偉い人のように見えたから・・・・・・だから助けてくれそうだって・・・・・・」

 喋っている内に、こちらには子供達を手助けする必要性も義理も無いって事を理解したのか、段々声が小さくなっていく。そして最後は上目遣いですがるように見て来た。

 まだ子供だとはいえ、男にそんな目で見られてもなんとも思わないよ? これで相手が女性だったら保護欲を刺激されたのだろうがなー

 周囲の子供達も自分達の要望が聞き入れられそうに無いと感じ取ったのか、すがるようにこちらを見て来た。

 ふむ、まだ交渉するとか考えるような年齢じゃないみたいだな。

 こっちの世界では、リーダーっぽい男の子は十分成人した大人って扱いなのだがね。リーダーや意見をまとめたりは出来ても、交渉事は不向きらしい。


 よくよく考えてみると、レビルスって今ソロで経験集めをしているのだが、パーティーメンバーがいないと魔王退治は難しい。

 魔王の相手は一人でするとしても、周囲の魔物を押さえておくお供は必要だろう。魔王自体の実力次第では、仲間と共に戦わねばならないだろうしね。

 そうすると一人だけ強い状態でパーティーを組む事になりかねないのかな。でもって仲間とLV差があった場合、一戦毎にパーティーが入れ替わる事態になったりして、犠牲ばかり多く出る結果になるかもしれないな。

 異形を討伐出来る冒険者なんて、早々いないから欠員は覚悟しなければいけない。やはり犠牲なく活動したければ、固定勇者パーティーが必要不可欠だろうな。

 なのでこの子供達を僕が鍛えて、レビルスとパーティーを組ませるっていうのはどうだろうか?

 パーティーを組むかどうかを選ぶのは本人達になるのだが、選択肢は多い方がいいだろう。

 例え選ばれなくても、異形を倒せる冒険者がいれば、世界中でどこに行っても活躍することも出来る。そうすればお金も一杯稼げて、その後の暮らしが安定するかもしれない。

 そういう意味でも難民の子供達にはメリットがありそうだ。

 まあそこまで育ってくれればの話なのだがな。やる気だけはありそうなので、試して見てもいいのかもしれないな。


 「お前達、冒険者になりたいのか。必ずしも儲かる訳でもなく、常に命の危機と隣り合わせの職業だぞ。それにモンスターとはいえ相手の命を奪ったり、時には野盗などの人間を退治したりもする。お前達が考えているような、憧れるような職業ではないと思うがな」

 「うっ」

 一応念押しておくと、さすがに考えが甘かったのか、嫌そうな表情をする子が目だった。

 そりゃあそうだ。物語に出て来る冒険者とは違い、早々輝かしい活躍なんて出来るはずもない。

 冒険者として活躍して語り継がれるような者は、極一部の成功者だけなのだ。がんばったからって全員が全員、稼げる訳でも活躍出来る訳でもない。

 それでもしばらく待つと決意を固めたのか、子供達は冒険者になりたいと決心したようだ。

 「それでも、冒険者になりたいです!」

 まあ使い物になるかどうかはわからないが、試しに育ててみてもいいかもしれない。


 「チョビ。冒険者になりたいっていう孤児だけを集めてくれ、親がいる子供は後々トラブルになるからな」

 「お任せください」

 親がいるといろいろ口出しされて面倒事も増えるので、孤児に限定して冒険者として鍛えてみよう。大人はそもそも自分で考えて好きに働けばいい。そっちの面倒までは見れないからね。

 新領地に着てから付き従っていたチョビに、子供達を集めさせる。

 レビルスに追い付く為には、多少厳しめに鍛え上げなければいけないだろう。

 その過程で脱落する者も出て来るだろうが冒険者の厳しさを知ることが出来るし、実際に死ぬ可能性もあるのだから途中でやめる者には適性が無かったと思ってもらおう。憧れだけでなれる職業ではないのだ。

 翌日あの場にいた以外の孤児達も集まり、希望者は九十人程の人数に膨れ上がっていた。これを多いと見るのか少ないと見るのかはわからないが、さすがに一人で面倒を見るのはきつい人数ではないだろうか。

 ビフィーヌは変わらず一緒に付いて来ているので手伝ってくれると思うが、チョビは領地を任せたいので付き合わせる訳にはいかない。

 そうすると他の眷属達でも呼び出して協力してもらおうかな。中には仕事がなくて、ゲームで遊んでいる眷属達もいるだろう。特に戦闘系の者は、平和な世の中で仕事にあぶれているだろう。

 そう考えると、アルタクスを初めとするスライム軍団がいいだろう。彼女が育て上げたスライム達は、全員人化のスキルを取得しているのでこういう指導には向いている。

 メンバーの中にはかつてマグレイア王国の学校で、行事の模擬戦で戦ったり指導したりと活躍した者も含まれていた。

 多少なりとも指導経験があるのならば、まさにこういう状況にはうってつけじゃないかな。


 新領地内にある友好種達の町と、難民達に用意された村の間辺りに新システムでダンジョンとその側に仮設住宅を造り、そこで子供達に教育を施していく。

 教育の内容は、戦闘の技術事態も大事なのだがこの世界の一般人は、読み書きが出来ない者の方が多い。冒険者ともなるとこれはかなりの痛手だ。

 まず依頼を自分で選ぶことが出来ない。そればかりか、正式な依頼手続きの書類を作ろうにもその内容が確認出来ないため、騙される事があるだろう。これは相手によっては命にもかかわって来る。

 依頼の内容的にも、何かの書類を確認したりっていう捜索依頼とかも受けられない。

 魔法使いなら書物から技術を学ぶなどといった方法も必要だろう。

 その他にもいろいろと必要になって来るだろうから、読み書きは冒険者に必須の技能と考えてもいい。

 そんな訳で読み書きや座学、その後に実技を叩き込むという結構ハードな内容で、子供達に授業を受けさせた。

 教えるこちらも結構な時間付き合わないといけないから、一日中忙しくなってしまうのだが、レビルスとの兼ね合いがあるから仕方がない。まあ子供達にはきつい日程になってしまうけれどね。

 冒険者をしていれば、あるいは一日中でも戦闘するような場面も出て来る。そういう時の練習とでも思って諦めてもらおうかな。


 難民の子供達の誰もが真剣に勉強したり、訓練に向き合っているのだが、やはり向き不向きといったものが出て来るものだ。さすがに憧れだけでなにもかもが上手く出来る訳がない。

 かと思えば飲み込みも早く、冒険者に向いていると思える子供などもいる。

 正直まとめて一緒の進行速度で授業をおこなえば、暇になる子供と付いて来られない子供がどうしても出て来るのだ。

 ある程度はクラス分けみたいな感じで、授業内容毎に別れて対応するしかない。出来ればこのトップ集団の中からレビルスに協力して、魔王と戦う子達が出て来てくれると助かるな。

 現在そのトップ集団に所属する子供の数は六人、普通の集団は四十人近く。そして今回参加した子供の半数くらいの子達は、あまり冒険者には向いてないと判断せざるをえなかった。

 何もこれは不思議な事でもなんでもないのだが、みんながみんなモンスターと正面きって戦える程強くはないのだ。

 半分程戦えるだけでも上等ではないだろうか?

 おそらくこれが日本の若者だったとしたら、九十人中普通に戦える者でも一人いればいい方だろう。

 勇気が有る無しって問題だけでなく、日本人は進んだ文明の中で生きて来たので、肉体自体が厳しい戦闘生活に付いて行けないのだ。

 その点こちらの世界の子供達にとっては、モンスターの危機が隣り合わせでもおかしくはない生活をして来ている。

 そういう世界性以外にも普段から水運びなどの手伝いで、肉体が鍛えられていた。

 後は実際に面と向かって闘える勇気と、ある程度の適性さえあれば十分戦えるくらいには育つだろう。

 問題は戦闘に向いていない子供だよな・・・・・・


 「召喚、クストルフ。今何かしている事などはあるか?」

 「バグ様、特にありません。ご用向きは何でしょうか」

 少し考え影武者を担当するパペット改め、マジカルドールを呼び出した。彼には冒険者向きではない子供達の教育を任せたい。

 初めは眷属でダンス担当のダムガシア達に教師役を頼もうかなって考えたのだが、彼らも他の眷属達もフォーレグス王国の学校で教師をしていたり、他の仕事を担っていたりする。

 こういっては何だが、難民の世話に廻すような人材ではなかったのだ。

 その点、最近は特に国外に行ったりなどの用事がなく、出番が少ない影武者なら時間はあるはず。マジカルドールに進化したおかげで素の状態でも会話が出来るし、元々影武者を任せられるくらい知能は高いので、僕の代わりに教師役を任せることも出来るだろうと考えたのだ。

 はっきりいって、冒険者だけが必要な仕事ではない。

 他にも商人や職人。冒険者を支える裏方に必要な人材は、一杯いるだろう。

 この子供達にはいろいろな知識を学んでもらって、影ながら支えてもらう役割を担ってもらいたい。

 別にここで協力しなくても、いろいろと学んだ知識はさまざまなところで役に立つ事だろう。彼らにとっても今後生きていくうえで、損の無い知識になるはずだ。

 「クストルフ。彼らの適正に合った教育を施してやってくれ」

 「わかりました。では早速適性を調べてそれぞれに合った教育をしましょう。他のドールに手伝いをお願いしてもいいのですか?」

 「ああ構わんぞ。手が空いている者を手伝いに呼んでくれ。仕事があるやつは、そっちを優先してくれればいい」

 「仕事に差し支えがない者に手伝わせます」

 「頼んだ」

 ひとまずはこれでいいだろう。後は冒険者組みの成長次第だな。

 死なない程度でストレスが溜まり過ぎないよう、出来るだけ急いで鍛え上げるぞ!


 僕が授業を受け持つのは普通の冒険者に分類される子供達だ。

 本来ならエリートとでもいえる子供達の指導をするのがもっとも賢明なのだろうが、彼らの場合ある意味放置していても勝手に強くなって行く。正に冒険者の適正があるので、いちいち指導するまでも無いといったところだろう。

 それでもわからないところ、危ういところなどの指導はちゃんと眷属を付けようと考えている。

 しかし本当に指導が必要となる者は、出来の悪い子達だと思うのだ。

 そういえば教師とは、出来ない子を出来る子にする事で評価されると聞いた事もある。

 出来る子が良い成績を取るのは当たり前、出来ない子を出来るようにする事こそ教師の役目といっていいのだろう。

 今回の場合、まったく適性の無い子を指導しないでいいだけ、まだ楽な仕事だと思えた。

 まあ適性が無いと言われても参加したがる子はいるのだが、それはそれで一応授業を受けさせるつもりだ。

 こちらがいくら適性が無いと言っても、本人が諦めないのでは意味が無いからね。諦めきれずに無理をして、危険な目に合わせるよりは随分とましな事になるだろう。

 参加させて自覚したなら他の道を教えてあげればいいのだ。まだ子供なので多少遠回りしてもいいじゃないかと思う。

 そんな訳で座学は程々にして教育用のダンジョンへと入り、子供達には実地で経験を積んでもらう事にした。


 ダンジョン参加者は四十三人。ゾロゾロと連れ立ってダンジョンへと潜って行く。

 軽くこう剣を使おうとか槍はこう使うなど、レクチャーしただけでいきなりの実戦だった。

 子供にはきつい時間スケジュールになるのだが、こうでもしないとレビルス達に追い付けないからな。彼は既に中級で、もうそろそろ上級冒険者と言ってもいいくらいの実力者になりつつある。

 さすがに少しばかり焦るけれど、今はやってみるしかない。

 「ようーし、前もってチームを作っていたと思うが、交代で出て来る敵を倒して行けよー」

 「「「はい!」」」

 ダンジョンに入って直ぐの縦長の部屋にはいくつかの扉が設置されていて、開けた扉からモンスターが出て来る仕組みになっていた。

 縦長と入っても、二チームが横に並んでも十分戦える広さがある。

 そこで左右に設置されている扉を手前から順番に開ける事で、出て来るモンスターの強さを加減するのだ。

 これなら強さの違う生徒達をまとめて鍛えることが出来るだろう。

 いざって時の為にスライム部隊がサポートに付いているので、死ぬリスクはかなり低下しているはずだ。後は実地で指導もしてくれると思う。

 指導の方は、僕もなるべく口を出して行こうと考えているのだが、四十人以上いる生徒全部を見る事は無理だ。

 いや、分身のスキルを使えば出来なくも無いか。指導員が増える分には問題は無いだろう。


 「うわぁ~。グサってなった!」

 「グチャってなった!」

 さっきから交代でモンスターと戦っているのだが、攻撃するたびにそんな風に不快だって叫びがあちこちから聞こえて来る。

 練習で武器を振り回すのとは違い、生き物を攻撃するのが初めてなので、肉を潰したり切り裂いたりする感触が不快なのだろう。

 わからなくはないのだが、これからそういう職業で活躍して行きたいのなら早めに慣れてもらわねばいけない。

 女子だと泣いちゃっている子も見かけるのだが、こっちは今更やめないぞ?

 何度も交代しつつ戦闘を繰り返していく内に、徐々に騒ぐ者は減っていき、粛々とモンスターを倒せるようになっていった。

 それでも最後まで騒いでいた者と、早々に騒ぐのをやめて積極的に倒していった者とで差が出て来る。

 その差はより上位のモンスターが出て来る次の扉の敵を倒す者と、今現在も最初の扉で足踏みしている者という差として現れている。こればかりは相性とか適性などもあって、仕方がないのだろうな。

 ちなみにエリート達で組んだ六人組は、だいぶ先の扉まで進んで行った。彼らは初めに少しばかり顔をしかめるくらいで、どんどん敵を倒していた。さすがだな。淡々と敵を倒して行くのが怖いけれど、それでこそ冒険者って感じがする。

 差は他のところにも出ていて、それは戦い方にも現れていた。

 大体騒いでいる者はへっぴり腰で、モンスターからの反撃で危なくなる場面もちらほらと出ていたので、こっちで攻撃を受け流すなどの補助が必要だったりする。

 踏ん張った者は、こちらがどういう風に武器を振るえばいいのか指導すると、次の戦いで改善したりしてどんどん技術を身に付けていった。

 ある意味冒険者なら誰でも通る試練を乗り越えた者は、どんどん強く成長して行くのだ。とはいえまだまだ技術やチームワーク、それぞれ自分の役割がわかっていない素人達なので、目を離せない戦いばかりだ。


 数日するとさすがにドベだった子達もかなり慣れて来た。

 僕は一番成績が悪い子供を重点的に指導していた。さすがに才能自体が無い子の面倒は見られないのだが、普通の集団の一番下の子くらいは面倒をみたい。

 この子達がチームを組んで、異形を討伐出来るくらいまで育ってくれるのが理想かな。

 達成条件が結構厳しいけれど、トップ集団の子達と違ってそこまで時間が差し迫っている訳ではない。ドベの子達はある程度のんびり育ってくれればいいのだ。

 まあトップ集団は、とっくに追い付けないような高みまで進んでいるようだけれどね。

 「先生! 動きが早くて当たりません!」

 ようやくモンスターとはいえ、生き物の命を奪うという事にも慣れて来て、普通に倒せるようになったかと思えば次の問題が出て来る。

 今相手にしているのはダチョウみたいな二足歩行で走る鳥のモンスターだ。

 動きの早いモンスターを用意したのは、チームで連携して倒して欲しかったからだ。

 チームを組んだとはいえ、バラバラに戦っていたのでは倒し辛い相手である。

 モンスターの行動を予測して、仲間の動きも見つつ協力して倒して行くように用意したモンスターだ。

 さすがに圧倒的な実力があれば倒せるモンスターなのだが、素人に毛が生えただけの冒険者が協力しないで倒せるようなモンスターではない。

 その代わり基本逃げ回るだけなので、ダメージを受けにくいのだけれどね。

 これくらいはさくさくと倒してもらいたいものだったが、やはり彼らには難しかったようだ。


 とはいえ、ヒントも無しでやらせるには知識も経験も足りない事も事実だろう。ここで時間を無駄にして欲しくも無いので早速指導して行く。

 「相手の動きをよく見ろ。こいつら足は速いがそこまで反射神経はよくないぞ。全員で動きを読んで挟み撃ちにし、死角から攻撃を繰り出していけば傷くらいは付けられるはずだ。個々で戦おうとするな。チーム全体で動け」

 こちらの指示で、何となく互いを意識して動こうとがんばっているようだ。しかしいかんせん、今までやってこなかった戦い方なので、どう動けばいいかがわからないようだ。

 そこで一人ずつに分身を付けて、個別に指導して行く事にした。

 敵ばかり見るのではなく、視界内に味方が入るよう位置取りするとか、そういう基本的な動作など教えていく。

 その課題がクリア出来たら次は複数の敵を相手に戦う方法、何かに特化した敵と戦う方法などなど、いろいろと思い付く限りのパターンを用意し攻略方法を教えながら奥へと進んで行った。

 冒険者に必要な罠とかは後回しだ。

 まずは異形と戦えるくらいの強さを身に付けてもらいたいから、遺跡など潜れるよう指導するのはある程度強くなってからにする方針だ。

 ただ問題は魔法使いの系統が少ない事かな。

 さすがに魔王を相手に戦おうっていうパーティーにもかかわらず、魔法系の職業がいないっていうのはきついのではないだろうか。まあそこは実際にレビルスが勧誘するなりしてもらうしか無いだろう。

 残念ながらトップ集団の中には魔法系がいない。

 これはそれだけ魔法を使える人材は貴重だからな。

 普通の集団の中には二人程いるのだが、魔王の相手をさせるのはちょっときついかもしれないな。でも何とかがんばって追い付いてもらいたいところだ。

 選ばれるかどうかは、わからないけれどね。


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