表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターに転生するぞ[通常版]  作者: 川島 つとむ
第二十九章  混沌の時代が始まる
210/240

残りの仕事

 早速といっていいのか、呼び出しを食らった・・・・・・予定より早いそうだが、死者の魂の管理を任されるに当たり、研修と引継ぎ作業で呼び出されたのだ。

 そして今回仕事を教えてくれたのは、戦いの神アルファント神だった。

 以前地上でディクラム神を召喚した事があったのだが、何というかまさに格が違う。神格を得て、まさにその神格が比べ物にならない程上位の存在なのだと感じた。

 聞いた話だと地上に召喚される事もあるのだが、その時は格を落として降臨するのだとか。そうしないと周囲に悪影響を及ぼすらしい。ちょっと動いただけで、嵐が起きたりとかするのだそうだ。

 これが無知ってやつだな。

 当時は簡単に呼び出せたので、神とはそこまで隔絶した強さじゃない存在だと考えていた。あの時点で僕にでも簡単に戦えると考えていたのだが、あれは分身体のようなものだったらしい。まさに井の中の蛙だったと思い知った。

 そうすると、僕も神格とやらが上がると地上では暮らせなくなるのかな? そんな疑問が湧いて来た。

 僕の場合は元々地上で誕生した神なので、今は気にしなくていいそうだが、神格が上がって来たら周囲に与える影響を考えた方がいいと言われた。場合によっては、天上界に引っ越して来るようにとも警告を受ける。

 このまま信仰が広がって行くと、神格は育っていくらしいけれど、やはりそんなに広めて欲しくはないな。

 地上にいられなくなってしまうではないか・・・・・・

 出来るならば今のままの生活を続けて行きたいものだ。


 前回の命の誕生についての研修に比べ、今回はかなり時間がかかった。引継ぎそのものにもいろいろ手間はかかっているのだが、やはり死因に関する決定事項は選択肢が広い。

 病気や事故は当然だが、食べ物を喉に詰まらせるっていう選択肢も低確率ながらある。風邪も魔法で簡単に治療出来るとはいえ、放置し過ぎれば死ぬ事もある。異世界でなら戦争やモンスター被害も当然多いな。

 いや、病気で亡くなる確率より遥かに高いといえる。魔法の存在があるからこそ、病気の死亡率というものは極端に低いらしい。

 例外は伝染病だ。こればかりは癒し手が忙しくなり、手が回らなくなってそのままってパターンがどうしても出て来て、当然死亡者は数多く発生する。一時的なものだけれどね。

 これって僕が前にやったみたいに、治療しちゃったらまずいのかな? 人の手で計画が狂っていなければいいのだが・・・・・・心配になって参考データを見せてもらうと、一応低確率で回避出来た場合の選択肢もあった。

 つまり、これは確実に死ぬだろうって状況にも対応した選択肢を、前もって用意しておかなければいけないのだそうだ。

 そこが誕生の時の仕事とは違うところだろうな。

 後、死因の選択肢に自殺は無かった。あれは神の予定外になる死亡理由らしい。

 自殺したからといって、転生出来なくなるとかそういうペナルティーは発生しないみたいだ。この世界で自殺は、そこまで珍しい死因でもないというのも、その理由なのだろう。

 生きている方がつらい事も、この異世界では多い。まともな貴族などにも、自害する事により責任を取るという方法を使う時もある。そんな者が現世をさまよう事になる方が、神としては困るのだそうだ。

 まあ仕事としては魂の総数さえ把握して、現世を幽霊だらけにしなければいいらしい。


 そうそう、この異世界には霊界に相当する界は存在していない。

 死んだ魂はそのまま現世に漂い、再び転生するのを待つのだそうだが、もちろん新たな生命を得る時には記憶を全て失う事になる。だから蘇生可能な時間は、転生する前って感じだな。

 実は結構回転率が高いので、十分な時間があるように見えて短かったりする。何せ人間に生まれ変わるとは決まっていない。虫などになると、一気に百匹生まれたりする時もあるので、下手をすれば一時間もしないうちに転生したりする。

 そういう意味でも蘇生は、そうそう成功しない奇跡だったりしたみたいだ。

 今回一気に神格を得られた訳だ・・・・・・奇跡を目のあたりにして、心から信仰に目覚めたって感じだろう。


 内容はちょっと複雑になったけれど、やる事は結局魂の管理。六日くらい天上界で研修を受けて、引継ぎをして帰って来た。

 後は仕事をすればいいのだが、やはりこれも専門家になる眷属を用意してお任せするのがいいだろう。

 いや、楽がしたいからではなく、他人の人生を背負うには内容が重過ぎる。出来ればミスをしたくないし、じっくり吟味する時間も早々無い。命が循環しなくなって、地上にゾンビが溢れられても困るからな。

 長時間魂が地上にあると、アンデットになるケースがあるそうだ。魂を核にして魔力が集まればゴースト系に、死体そのものに集まればゾンビ系になるそうだが、転生システムがあるのでゴースト系に会う確立は相当少ないらしい。

 大体見かけるゴースト系は、転生の機会を蹴って現世に固執している者がなるそうだ。システム的には別にその魂に拘る必要もない為、別の魂が繰り上がりで転生して行く。

 案外ゴースト系のアンデットはレアモンスターだな。殆どが悪霊になるだろうが・・・・・・


 「創造!」

 今回は余裕をみて、眷属を何人か創っておく事にした。

 最初に創った天使が確か、ヘルシオルだったか。その同僚に新たに三人。これでもかなり少ないのだが、まずはこれで様子を見よう。続いて魂の終わりの管理を任せるのに新たに四人配置する。

 早速仕事を任せてみたのだが、凄い勢いで命の情報が流れて行く。確かに効率はかなり上がって、仕事が滞る事はなくなったと思うのだが、総合的にチェックしたり情報を保持するのは結構大変そうだった。

 これって、あまり人を増やすものではないな。神様になっていなければ、情報の多さで気が狂っていたかもしれないぞ。

 つくづく虫達は知能が低くて助かった。そして友好種達の知能をあげたのが、こっちに跳ね返って来て仕事を増やしている。まずい事をしたのだろうか? いや、これも時の流れというものだろう。

 今さら馬鹿になれなど言えないからがんばるしかないな。今ではゴブリン達も楽しそうに暮らしているしね。


 さて神の仕事はどうにかなりそうな感じなのだが、別の懸念がある。

 魂の総数のバランスを取らなければいけないと聞いているのだが、今の世界情勢を見てみると、どうも人間の子供は増えそうに無い。

 これは当然だよな。周り中異形だらけで、下手をすれば直ぐ隣にいる人間ですら、異形化するのだから安心して子供を作れる状況ではない。その暇もないと言い換えてもいい。

 かといって今現在異形を倒せる人間は、いないようだ。勇者的な強者がいればよかったのだろうが、その内の一人は倒しちゃったからな。

 あれは僕らが悪いのではなく、勇者側が悪い。

 言い訳でなく優先順位と、挑む相手を間違えていたのだ。

 まあああだこうだ言っていたところで状況は変わらないのだが、これってまた僕達が手を出さないと駄目なのかな? 出来れば周辺の国で何とかしてもらいたいところなのだが・・・・・・生き残っている国でさえ、混乱状態が続いている。

 こういう状況になった場合、神として手を出すべきかどうかマニュアルがあると便利なのだがな~

 まあ最悪僕達の国以外が全滅したら、必要数を虫や動物で補う事にしよう。モンスターを増やすのでもいいらしい。

 ただ、友好種を増やし過ぎるのは危険だな。総数を考えると、土地が圧倒的に足りなくなってくるのと、眷族の管理能力を超える。一種の統一国家になりそうだ。

 まあ、全ての国が全滅したら同じ意味になりそうだけれどね。


 そう姑息な手段ともいえる帳尻合わせを考えていたのだが、なんと異形も一応生命体ではあるらしい。

 異形に殺される生き物もいるのだが、神の仕事で考えればそこまでひっぱくしてはいないらしいな。異形は魔物又は魔族扱いになっている。書類上は人間から魔族へと種族が変わっただけのようだ。

 であるなら仕事はそこまで複雑ではない。いずれ誰かに倒されるって選択肢しかないからね。

 そのうち次の勇者が出て来て倒してくれるだろう。

 次は暴走しないで欲しいな~

 そう考えつつも仕事にかかわってくるのなら、国外にも目は向けておかねばならないだろう。

 今生き残っている国々で、人が多いのは・・・・・・聖サフィアリア王国か。確かここってサフィーリア教の本部があるところじゃないか?

 そうすると、この人口の多さは難民を一杯抱えているからってところか。また食糧難になっていそうだな。

 実際確認してみると、かなりひっぱくしているようだ。

 ふむ。まともな人間で、フォーレグス王国に馴染みそうな者なら引き取るのもいいかもしれないな。人類保管計画ってところか。どうせここで恩を売ったところで、いずれ仇で返す者も出て来るだろうが、別に永久に囲っておく事も無いだろう。

 今代の魔王が倒され、落ち着いたら出て行ってもらえば問題にはならない。

 サフィーリア神や教会には、かつていろいろと助けてもらった事があるからな。少しは手助けしておくかな。


 しかし昔は関係性を持っていたけれど、今はそれも無い。突然訪れて話を持ちかけても信頼してもらえないだろうから、親切の押し売りって感じじゃないかな?

 まあ行くだけ行ってみるか。どうせ全ての難民を救うことは出来ないのだし、その一部だけで向こうが楽になるのかどうかも不明だ。

 先に視察して多少の食糧援助ってところが、妥当かな。

 そんな訳で、いつものメンバーに声をかけて聖サフィアリア王国へと跳んだのだが・・・・・・

 「ここが聖都でいいんだよね?」

 「首都と言うにはいささか、薄汚れておるわ」

 こういう話し合いには総本山になる教会へ行くか、国王とか教皇辺りのお偉いさんがいいだろうと首都に着てみたのだが、町の雰囲気は最悪といってもいいかもしれない。

 何といえばいいのか、町のいたるところに浮浪者っぽい人がいる。

 その影響なのか、町全体が薄汚れて見えた。実際彼らは泥などで汚れたまま、あちこちに座り込んでいるので、スラムか何かにでも来たかのように壁も道も泥だらけだ。糞尿も垂れ流しで、匂いも酷い。どこかの地下牢と言ってもいいのではないか? これがサフィーリア神を崇める聖なる国かって言いかった。

 それだけ沢山の難民が押し寄せているのと、それらを受け入れて行った結果というべきなのだろう。

 多目的シートを出して情報を見てみると、既に食糧は備蓄も尽きている状態だな。自国民ですらまともな食事も取れず、困窮し始めているようだ。

 当然そうなると国民自体も不満の声を上げているようだが、まだ暴動には至っていない。これはお国柄だといえる。

 しかし、身内が倒れるようならさすがに不満は爆発するだろうな。

 そんな情勢らしい。まさに瓦解する瀬戸際ともいえる状況だな。


 「よくぞいらしてくださいました。生命の神、バグ様。神の御導きに感謝を」

 町の様子を見ていると、身分の高そうな司祭が出て来てそんな事を言って来た。内容から察するに僕達が来る事を知っていたとみていいのかな? おそらくはサフィーリア神からのお告げみたいなものでも受けたのだろう。

 僕にとっては先輩みたいなものだから、後輩がこれから行くよって伝えたのかもしれない。

 「信託でもあったのか?」

 「はい。この度、新たなる神としてバグ様が、生命を司る神になられたと。そして現状を憂いて人々を救済される為に、こちらへとお越し願えると伺っております」

 何というか確かに助けに来てはいるのだが、拡大解釈されている? 別に全ての人間を助ける為に来た訳でもないのだがな。そこのところしっかり言い含めておいた方がいいかもしれない。

 「あー、悪いが全ての人間を助ける訳ではないぞ。僕の造った国は、一部のモンスターを友好な種族と見て共存している。彼らを見た目で邪悪と考えるような人間を救う気は無い。僕としては言葉が通じ、共存出来る種族を虐げるような者を助けるような酔狂じゃないのでね。勘違いはしないでもらいたい」

 「はいわかっております。フォーレグス王国についての話はいろいろと聞き及んでおりますので。現状この国の民はとても危機的な状況に置かれているのです。見ての通り既に食料も枯渇して、それでもなお救いを求める人々が次から次へとやって来ております。そこにもたらされた救いの手を、例え全てをお救いになられないのだとしても、文句は言えません」

 さすがにそう都合よくは考えていないのか。

 今はどれだけ少なくても、助かる人間が増える事を願っているって感じかな。なりふり構っていられないともいうな。

 下手な期待を持っていないのなら、こちらとしても都合はいい。出来るだけ助ける方向で考えようかね。

 「ならば受け入れることが出来そうな人間を選ぼう。この国に友好種を入れても問題はないか?」

 「はい、どうぞよろしくお願いします」

 そういえば、この人って本殿の偉い人なのかな? それとも宗教国家っぽいから、一応国王みたいな人なのかな? 身なりは一応身奇麗にはしているが、権力を示すようなものは身に着けてはいない。だからこの司祭がどんな身分かを推測することは出来そうになかった。

 自己紹介すらしていなかったしね・・・・・・まあいい、今は移民の選択を始めよう。

 ステータスで確認すれば早いが、別に後でもいいだろう。

 結構しっかりした国みたいだし、こっちに残る人達用に食糧援助もしておいてもいいかもしれない。無視しても一向に構わないのだが、まともな人間もいるようだからね。

 魔王関係に手を出さない代わりに、少しはこの世界にも手助けしておこうかな。


 当初はあちこちの町や村を巡って、条件に合いそうな人間を探そうと考えていたのだが、どうやら初めから人員を選んでいたようだ。

 とはいっても司祭が判断して選んだのであって、必ずしも連れて行ける人材ではない。

 質疑応答ではモンスターと共存しても構わないと言いつつも、内心では快く思っていない人間など山程いる。

 これは初めから予想している事なので、あらかじめ選別する手段を用意していた。まあ普通に住民登録する魔法を水晶に込めただけなのだがね。飛空艇にも設置してある魔導装置だ。

 飛空艇に設置されているのは、後から結界で弾かれる者がいるとまずいからだったりする。試してはいないが、予想では空中で結界に捕らわれ、その状態で飛空艇内部の壁にぶつかって押し潰されるのではないかと考えている。

 関係の無い乗客には相当ショッキングな事件だろうな。その対策で、乗り込む前に弾くのだ。

 水晶に触れてもらい光れば資格あり、反応が無いのならば資格は無い。本来の住民登録の方は、後で仮の滞在を認めるって感じになるだろう。観光客にしては滞在時間が長そうだからね。

 後はとても残念な事に、家族の中で一人だけ資格が無い場合も、選択次第では連れて行けない。たいていはその家族はここに残る事になるだろう。

 ワレスホルト国が属国ならば、そっちに押し付けたりも出来たのだろうね。でも、国民の質が落ちるので今回は排除だな。

 いやワレスホルト国と同じで、聖サフィアリア王国も隣に移動させてはどうだろうか?

 食糧支援とかもその方がやりやすいしね。民間レベルで助けたり出来るようになる。

 早速司祭に話してみた。

 「さすが神の奇跡ですな。ですが我々はここを動くつもりはありません。おそらく今なおこの国を目指して必死に逃げて来ている人もいるでしょう。今この国がここから消えれば、そうした人々を救うことが出来ませんので。過分な申し出なのに、申し訳ありません」

 「いや、そういう理由ならばしかたない。一応離れてはいても、援助は出来るからな」

 他所の連中とは違い、しっかり考えているのだな。しかも自分達が助かる事よりも、他人を助ける事に必死とか・・・・・・あまり賢い生き方だとは思わないが、がんばって欲しいものだ。


 「チョビ、人間を送り込んでも構わないか?」

 『バグ様。町に余裕はありますので、いつでもどうぞ。当面は十万人程受け入れても問題ありません』

 十万人か、多いように見えて少ない。それでも今のこの国にしたら、大助かりなのだろうな。

 「わかった。引き続き町の拡張を進めてくれ」

 どれくらいの人間を受け入れるかはまだ決めていないのだが、出来るだけ受け入れておいた方がいいだろう。まあフォーレグス王国に来ることが出来ればだけれどね。

 チョビに連絡した後、移住希望者でいいのかな? 人が沢山いる場所へと案内してもらい、早速選別を始めた。

 水晶は今回一緒に付いて来たレイシア達の分も用意していたので、手分けしてチェックして行こう。さっそく希望者には並んでもらい水晶に触れてもらう。

 水晶が光った者には一応意思確認をしたのち、転移用魔法陣でフォーレグス王国へと跳んでもらうのだ。パッと見では資格のある者は半数以下といったところかな。

 当然資格がない者などから文句を言われる事もあったのだが、全て無視する。手を上げる者は容赦なく反撃するのだがレイシアを始め、こちらのメンバーで彼らにやられるような者はいなかった。

 聖サフィアリア王国の国民ではないからか、やはり受け入れに問題のある者の方が圧倒的に多そうだ。

 十万人しか受け入れられない現状だが、おそらく十分枠は足りているだろう。おそらく他の村や町を廻っても、十万人を越える事はないかもしれない。良くも悪くも普通の人って感じだ。


 さすがにこの選別作業が一日で終わるはずもなく、数日かけておこなったのだが、結局は八万人程の移住で収まった。僕の予想よりは多い人数だった。

 それでも聖サフィアリア王国の実情はほとんど変わっていない。依然として飢えた人々で溢れかえっている状態である。

 まあ今も続々と難民が押し寄せているからね。

 そしてそっちは既に手を打っており、久々に飛空艇が長距離航行でお邪魔していた。

 これは食料物資を援助する為でもあるが、今も続々とやって来ている難民の中から、移住出来る者を移送する為でもあった。

 世界が落ち着いたら逆に送り出す為に使うけれどね。

 早速運び込んだ食料を教会関係者達に渡して行く。

 誰にどれだけ配給するのかなどは、彼らにお任せになる。さすがにそこまで内政に口出しはしたくないからな。

 手伝いでやって来たゴブリン達に、荷物の移動を指示していると、司祭が渋い表情をしてやって来た。別にゴブリンについて言いたい事がある訳ではない。有効種についての話はしてあったからね。

 では何かといえば、おそらくは何かしら厄介事でも出来たのだろう。

 フォーレグス王国が無理なら同盟国を紹介してくれって話かな? 現状を見るに、既に聖サフィアリア王国では受け入れ人数をかなりオーバーしている。そして他の国に手助けする余裕は無いばかりか、支援してもらえる伝もない状態だ。

 このまま共倒れになるくらいなら、頭を下げてでも無理を聞いてもらいたいといったところかもしれない。

 おんぶに抱っこで申し訳ないって思っているのだろうな。


 「バグ様、申し訳ないのですが少しよろしいでしょうか?」

 「内容によるが?」

 「そうですね。では率直に、バグ様に面倒を見てもらいたい子供がいるのです」

 子供の面倒? ひょっとして貴族とかでよくある婚姻とかそういうので、家同士の縁を結びたいとかそういう事か? いや、それなら子供じゃなくて女性を紹介するか。どちらにしてもこの状況では不謹慎だろうが。

 詳細を聞いてみないと、まだよくわからないな。

 「訳ありの子供かな?」

 「そうですね。行く行くは世界を救ってもらいたいと考えております」

 うん? それって勇者候補を育てて欲しいって事か? フォーレグス王国にはダンジョンがあるので、納得出来る話だな。

 そうなって来るとサフィーリア神の信託とかでも受けたって感じだろうか。

 子供が何歳なのかわからないが、今から育てて諸外国は持つのだろうか? 気にはなるが、一年も修行すれば相当な実力になってもおかしくはないだろう。子供の性格とか実力次第だけれどね。

 「この子なのですが・・・・・・勇者の兆し有りとの信託をもらっております。どうでしょうか?」

 「この子!」

 ! 司祭が紹介して来た子供を見て、近くで手伝っていたレイシアも反応を示した。おそらくレイシアには明確に表現できるものはないのだろうが、何かしら感じ取ったのであろう。

 この子供の魂は、かつて僕達の子供であったレビルスの魂だったのだから・・・・・・


 見たところ、子供の方は特に何も感じ取ってはいないようだ。いや、レイシアの方には視線を向けているので、何かしら感じるところがあるのかもしれない。

 僕とレビルスは、そこまで仲が良くなかったというか、恨まれていたようだからな。こんなものだろう。

 「この子を魔王と戦えるよう鍛えればいいのかな?」

 「はい。このような幼い子供に頼る事は不本意なのですが、少しでも良い未来になるのならと」

 「わかった。預かろう」

 「ありがとうございます。バグ様」

 息子が勇者に転生か。いずれは魔王軍って事は、親子そろって運命に弄ばれる事になるのだろう。

 過去では息子だったが今は勇者候補だ。自分の運命は自分で切り開いて欲しいものだ。

 戦闘能力だけなら育ててあげられるからな。

 ただ、おそらくは僕が育てるのではなく、レイシアが育てる事になりそうかな?

 「よろしくお願いします」

 息子の魂を持った子供は、見た目十歳くらい。もう十分自分の事は自分で決められる年齢だ。日本ならまだまだ甘えたがりの子供でいいのだが、近くにモンスターがうろつくこの世界ではもう少しで成人を迎える半人前っていったところだ。

 勇者の使命も理解しているのだろう。その目は自分がみんなを助けるのだと訴えかけて来ている。

 魔王システムを知らない若者は、無邪気でいいものだな。こっちはちょっと複雑な気分なのだが、こればかりは仕方ないのだろう。こっちで教える訳にはいかないしね。

 全てが終わって、記憶を持ったまま転生でもして来たら、いろいろと話せるのだがな~

 早速フォーレグス王国へと連れ帰り、基礎を見つつダンジョンデビューと行こうか。こんな情勢だと、直ぐにでも始めた方がいいだろう。


 後のいろいろをチョビとメリアス達に任せ、こっちはレビルスの面倒を見る事にした。

 フォーレグス王国以外は大混乱だからな。出来るだけ早く一人前に育て上げ、魔王を排除しなければいけない。

 そういえばハウラスも僕の教え子だったから、兄弟弟子対決って事になるのか? 皮肉なものだな。

 いや、僕の運命をいじっている神がいるのか? 見付けたら殴ってやろう。

 初心者用ダンジョンに付くと、早速レイシアが指導を始める。予想通り、彼女が面倒を見るようだな。レビルスもどうやらレイシアになついているようなので、ここは任せてみよう。

 ただ時々様子を窺って、心構えや戦術など抜けているところがないか確認しておく方がいい。

 しばらく見ていると、ビゼルも指導に参加するようだ。レイシアに付けているパートナーのテッシーもいるので、僕の仕事はなさそうだ。

 チョビの様子も見てこよう。新しい住人と町も心配だからね。


 元トルグブルト国へ向かうと、フォーレグス王国とワレスホルト国を結ぶ街道沿いにいくつもの町が出来ていた。そっちは元々住まわせる予定だった友好種達が、既に昔からそこに住んでいたかのように定着していた。

 まあ人間達とは違い、そこからあまり発展はしていかないのだがね。子供などが増えて家とかは増えるのだが、何かしら新しいものを開発したりといった事は無いのだ。こっちから与えれば、取り込んで行くのだがなー

 それはさておき、今回受け入れた難民はこれらの町には入って来ていない。

 何故かといえば、情勢が落ち着いた後で出て行ってもらう予定だからだ。あまりに多く人間を住まわせていると、後々にトラブルになる可能性が高い。純粋な愛国心があれば多少トラブルを起こしても許容していいのだが、単純に人間の方が優れた種族だとか騒ぎ出すに決まっている。

 よくあるパターンだろう。

 少数ならば問題はないのだが、集団になると人間は問題を起こしやすいのだ。

 だから一時的な村を造り、そちらに受け入れている。

 もちろんその村で自給自足をしてもらうのだが、ちゃんと支援物資は送る事にしていた。

 まずは畑と来て直ぐ食料が収穫出来る訳ではないので、当面の食料物資を配給する。これは後々商店を開いて販売する方向に切り替えて行く予定だ。今は生活が安定していないので、お金を持っていないと仮定して配給する事にしている。

 お金を持ち出している人と、着の身着のままの難民がいるだろうからね。

 次に衣服や生活必需品などの雑貨だな。これも始めは少し支援物資として渡す。落ち着いたらやはり店で販売を開始する予定だ。

 そして娯楽用品と嗜好品。お菓子とかお茶とかいろいろだな。

 これらは友好種達がいる町から行商させる事にする。有効種と仲良くしないと手に入らないって仕組みだ。

 こちらとしては別に仲良くしないなら、売る必要が無い。

 子供などはお菓子に釣られて、見た目など直ぐに気にしなくなるだろう。洗脳とまではいかないが、敵じゃないぞっていうアピールにもなるはずだ。

 これで永住を希望する者が出て来るのならば、あまり固まらない程度に受け入れていく方針だ。


 これらの村はマジカルドールが準備しているようで、家の建築から当面の衣服や炊き出しなど、あちこちで動き回っているのが見える。

 やって来た難民達も、恐る恐るではあるが話しかけたりしているので、早速進化した成果が出ているのだと思う。やっぱり喋れるっていうのは大きいな。

 その中でも女性型の司書と裁縫パペットだったマジカルドールは、じっくりと顔を見られなければ人間そのものに見えた。

 着飾った服で球体関節が見えないからね。

 顔の方は、どうやら化粧でわからなくなっているようだ。いや、これはゴム製の仮面といった方がいいのかな? 表情を動かしても隙間などが出来たりしないようだ。まあほとんど無表情で、ほんの少しだけ喜怒哀楽を表現するだけみたいだけれどね。

 あまり感情を表に出さない人間に見えるだろうな。

 進化後の彼らには興味はあるのだが、あまり詮索はしない方がいい。他の男性型と同じドール系である事は知っているのだから、必死になって粗探しする程興味がある訳ではない。そんな事をすれば、嫌われるだろう。

 表情の秘密は、まあ頼めば教えてくれるとは思うが、気分的にこっちがいい気持ちがしないね。

 生産の為に生み出されたドール達だ。このまま人間達の町を増やして行ってもらおう。

 こっちは任せて、支援用の食糧を増産させるかな~


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ