表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣技師バッカス~神剣を目指す転生者は、喰って呑んで造って過ごす~【書籍発売中&コミカライズ】  作者: 北乃ゆうひ
【2】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/168

空腹をスパイスに、したくはない 9

書籍版7/14発売です٩( 'ω' )و

前日である今日の時点でもう並んでいるところもあるようです!

よろしくお願いします!



「まぁ」


 黒エビ(クカルブ・ナワープ)のすり身のフライサンドを一口食べたマーナが目を輝かせる。


「これは、お酒が進む味ね」


 そう言って、マーナは白ワインに似た酒(エパルグ)のグラスを傾けると、ほうと息を吐いた。


「バッカス君はこちらに来ないの?」

「厨房で摘みながら作ってるから気にするな――だ、そうです」

「本人がそれで良いって言うなら良いのだけど……」


 クリスの言葉にどことなく残念そうに口にして、もう一口エパルグを飲んだ。


 その時、マーナはクリス以外の面々が料理に手をつけていないのに気づいた。


「どうぞ皆さんもお食べになって。

 堅苦しく考えなくて良いのよ。この場で作法などをうるさく言うつもりはないから」

「まぁ、作ってるのがバッカスで運んでくるのがクリスちゃんなら、毒の心配もないですしね」

「その通りよシノンさん。そして出来立て熱々をはしたなく頬張れるのって幸せなのよ」

「それを貴女に口にされると何も言えませんね」


 シノンはそう苦笑し、同意するようにクリスも苦笑してみせる。


「そういうワケだからみんなも食べてちょうだい。

 時間が時間だから、準備も食べるも片づけも一気にやっちゃいたい――ってバッカスが言ってたし」


 クリスの言葉に、それでも護衛の騎士や何でも屋たちは微妙な様子だ。

 シノンはそんな彼らを促すように、軽く手を叩く。


「それじゃあ頂きますか。

 護衛騎士のみんなも、おれの護衛の何でも屋のみんなも、好きに食べていいぞ。この場じゃあ、よほどの馬鹿をやらかさない限りは、見逃してもらえるみたいだしな。

 何より、このお屋敷のお嬢様に、マーナ妃が一緒に食べて欲しいと言っている以上、断るのはむしろ失礼だぜ」


 そこまで言われたら――と、騎士も何でも屋も、ハメをハズしすぎない程度に……と気をつけ、自分に言い聞かせながら、料理やお酒に手を着け始めた。




「あの、シノンさん」

「んー?」


 黒エビを油で煮込んだアヒージョという料理に舌鼓を打っている時、シノンは若い何でも屋に声を掛けられ、そちらに視線を向ける。


「昼間の挨拶の時、連れて行ってもらえなかった理由……みんなに聞いてもあまりハッキリと教えて貰えなかったんです。

 もう一度、同じコトを聞いてもいいですか?」


 若い何でも屋の顔は、多少顔が赤らんでいるものの、瞳は正気のままだ。酔って絡んできているのではなく、本気で知りたがっているのだろう。


「そうだなぁ……」


 アヒージョで熱を持った口の中をエパルグを流し込んで冷やしてから、シノンは答える。


「おれとバッカスは……恐らく理由や状況は違うだろうが、王族への不敬が条件付きで許されてるんだよ」

「え?」

「だからバッカスが、マーナ様にめちゃくちゃな口の効き方をしても許して貰えてるワケだ」


 そんなことがあり得るのか――という顔をする若い何でも屋を横目に、シノンはダエルブをちぎって、アヒージョの油に浸して口に運ぶ。

 黒エビの旨味がたっぷりしみ出した油は、ダエルブに味を添える調味料として申し分のない味だ。これだけで延々食べていられそうで、シノンの顔は綻ぶ。


「じゃあ、バッカスさんの態度って許される範囲でわざとやってるってコトですか?」


 若いのの疑問に、シノンはどう答えるか少し考えて――小さくうなずいた。


「まぁそういうコトじゃねぇかと、おれは思うよ」


 そんなシノンと若い何でも屋のやりとりを見ていたクリスは、何とも言えない顔をして告げた。


「バッカス君の場合、八割くらいは素じゃないかしら」

「いえ、あれは十割で素かと」

「マーナ様とクリスちゃん。混ぜっ返すのやめてもらえませんかね? ややこしくなりすぎるんで」


 勘弁してくれ――と、天を仰ぐシノン。

 それに助け船を出すように、マーナは笑った。


「バッカス君が色々許されてるのはね。バッカス君曰くの、超絶迷惑クソ悪友の面倒を見ていた上に、そのご両親の悩みを解消する魔導具を提供したかららしいわよ」

「超絶迷惑クソ悪友?」


 おおよそ貴族が口にしないだろう言葉で形容された人物に、聞いていた者たちは一様に首を傾げる。


 それに、マーナはケラケラ笑いながら答えた。


「私の旦那様」

「…………!?」


 衝撃的な情報に、聞いていた全員が固まった。

 口になんか含んでいた者は思わず吹き出す勢いだ。


 だとしたら、その両親とは国王夫妻のことだ。

 とんでもない話に、何となく聞いている程度だった者たちも、それを聞き流しきれなかった。


「バッカス君が若い頃――それこそ王都に住んでいた頃は、旦那様のやらかしの大半をバッカス君が奔走して何とかしてたみたい」


 殿下のやらかしの後始末に奔走する――その言葉だけで、聞いていた者たちはバッカスに同情を抱く。


 だが、歳が近く当時の実状を知っていたシノンだけは反応が違う。


「あー……学園始まって以来の問題児コンビ……殿下の片割れってバッカスだったのか」

「あら、ご存じなの?」

「やらかしの三割くらいはバッカスが引き起こしてたはずですよ。その時は殿下が後始末してました」


 シノンの言葉に、今度は「あの人なにやってるの!?」という空気になる。

 だが、貴族としての知見があるクリスは少々異なった。


「バッカスのやらかしの原因……ほとんどが、ほかの貴族たちからのやっかみでしょう?

 大方、殿下と仲が良い上に、学年どころか学園一を狙える好成績の生意気な平民に対して、何らかの攻撃を仕掛けて返り討ちにあってただけだろうと、推測するけど……どう?」

「クリスちゃん、正解。

 正直、くだらね~嫉妬だなーって、おれも思ってた」


 シノンはそう告げて、グラスに残ったエパルグを一気に煽る。

 当時はバッカスをバッカスと認識していなかったシノンだったが、優秀な平民を馬鹿にする学園――いや貴族たちの空気感に嫌気が差していたのは確かだ。


 シノンにとっては、家出をしようと思った最初の要因かもしれない。


(そう考えると、バッカスと今日出会えたのは、不思議な縁だよな)


 何とも言えない感傷に耽るようにしながら、シノンがグラスを置く。


「シノンさん、どうぞ」

「ああ、悪いね」


 空になったグラスに、年嵩の何でも屋がテーブルに置いてあった新しいモノを注いでくれる。


「縁とは不思議なモノですな」

「まったくな」


 さすがは年の功と言うべきか。シノンが考えていたことを何となく読みとったらしい。


「さて、少し厨房を覗いてきますね」

「悪いわね。クリスティアーナ」

「好きでやっているコトですので」


 そうして部屋を出ていくクリス。

 その気配がだいぶ離れたのを確認してから、マーナがみんなに聞こえるように独り言を口にする。


「好きでやっているねぇ……給仕のマネのコトかしら? それともバッカス君との逢瀬かしら?」


 クスクスと楽しそうなマーナに、席についている誰もが敢えて聞こえないフリをして黙殺する。

 そんな中で空気を読まない若いのが答えようとしたので、横にいたリーダーにはたかれていた。




 最初こそガチガチだった空気は、そう悪くないところまで緩み。

 続けて届いた食事に舌鼓をうったあとは、気持ちの良い空気のまま、夜食会はお開きとなる。


 その後、シノンを含め、何でも屋たちは恐縮したままだったが、彼らも領主邸で一泊し、早朝にそれぞれ解散するのだった。



書籍版7/14発売です٩( 'ω' )و

前日である今日の時点でもう並んでいるところもあるようです!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ版【魔剣技師バッカス】連載中!٩( 'ω' )و
【コミックノヴァ】
コミカライズ魔剣技師バッカス
https://www.123hon.com/nova/web-comic/bacchus/

第三金曜日 17時頃更新予定!


【ピッコマ】
https://piccoma.com/web/product/165180?etype=episode
話読み先行配信中!
ノヴァ版より先行して最新話が更新されます!


【ニコニコ漫画】
https://manga.nicovideo.jp/comic/70493?track=official_list_s1
毎週日曜日11時頃更新予定!

【コミックス1巻~】発売中!
魔剣技師コミックス1



書籍版【魔剣技師バッカス】
一二三書房 サーガフォレスト より発売
2023/7/14発売 発売中!
魔剣技師バッカス1

2024/08/09発売 発売中
魔剣技師バッカス1





他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~【書籍化】
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~ヒロインの一人に転生しましたが主人公(HERO)とのルートを回避するべく、未知なる道を進みます!
【連載版】引きこもり箱入令嬢の結婚【書籍化&コミカライズ】
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ