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死の予言のかわし方  作者: 海野宵人
本編(シーニュ王国編)

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未来の筋書き (2)

 リヒャルトがニナから聞き出してくる予言は、学院内で起こる些細な出来事がほとんどだ。その中に、国の先行きに関わるような重要事項がさらりと紛れ込んでいる。


 基本的な筋書きは「逆境にも負けずに明るく賢く育ったニナ」を主人公とした、少女が好みそうな夢物語であり、最後は「ニナは王子さまと結ばれました。めでたしめでたし」で終わる。

 ただし結ばれる相手の「王子さま」は、ニナの選択により変わるらしい。このことは、リヒャルトが聞き取りを進めるうちに判明した。


 どうやらリヒャルトの勘が告げていたとおり、ニナは当初「お相手の王子さま」としてリヒャルトを標的にしていたらしい。

 リヒャルトは、いかにも王子さま然とした上品で爽やかな風貌である上、基本的に温和で、気配りのできる性格だ。そうした面を好ましく思って選んだのかとアンヌマリーは思ったのだが、リヒャルトが苦笑しながら言うことには、実はニナがお目当ての人物にたどり着くための踏み台だったそうだ。


 ところがニナがリヒャルト経由で知り合いたがっていた人物に、リヒャルトは全く心当たりがない。それを知ると、ニナは即座に標的を変更した。変更した先は、この国の第二王子であり、アンヌマリーの婚約者でもあるシャルルだった。

 なぜシャルルなのか、リヒャルトはニナに尋ねてみたことがある。


「きみに選択権があるなら、王太子殿下はどうなの? とても立派なかただし、その上、容姿端麗だよね」

「好みじゃないからパス」


 即座に切って捨てられて、リヒャルトは思わず遠くを見る目をしてしまった。

 おっとりと優しげな風貌の第一王子よりも、男らしさのある第二王子のほうが好みなのだとニナは言う。しかしまあ、確かにそこは個人の好みの問題である。ニナの好みがどちらであろうと、自分が標的とならない限りはリヒャルトには割とどうでもよいはずの問題だった。


 ところが、からかうような調子で重ねて質問してみたところから、どうも風向きが変わった。


「だけど王太子殿下と結ばれれば、きみは晴れて王太子妃じゃない」

「シャルルを選んだって同じだよ。そのときはシャルルが王太子になるもん」

「え、どういうこと?」


 ギョッとしたリヒャルトが問い返すと、ニナは第一王子が事故に遭って命を落とすことを説明した。


「だったら王太子殿下を選んで差し上げてよ。それなら殿下が事故に遭うこともないんでしょう?」

「えー、やだ。好みじゃないって言ったじゃん」


 笑顔のニナが軽い口調で返した言葉に、リヒャルトは凍りついた。

 言われた内容に凍りついたというより、そのあまりにも軽い口調が恐ろしかった。好みかどうかは、仕方がない。けれども国の要人の命が懸かっているというのに、お菓子の好みの話をするのと同じくらいの軽さで話すニナが、何か得体の知れない怪物のように思われてならなかった。


 だがリヒャルトは、その内心を押し隠した。

 今はまだニナの機嫌を損ねるべきではない。父から手出しを禁じられているとはいえ、情報収集まで止められているわけではないからだ。この国のためには何もできないとしても、せめて自国の今後のために、得られるだけの情報は得ておこう、とリヒャルトは決意した。


「うん、好みじゃないって言ってたものね。それは仕方ないけど、後学のために王太子殿下を選んだときに何が起こるのか教えてくれないかな」

「後学って、何の役に立つって言うのよ?」

「うーん。いつか何か役立つことがない、とは言い切れない、かもしれないじゃない?」


 ニナは吹き出して「ないでしょ!」と笑い転げた。

 リヒャルトは、ニナが機嫌を損ねていないことに心の中で安堵した。


「だってほら、僕のときのように知らないうちに何かシナリオ改変が起きてるかもしれないし。筋書きを知っていれば、不測の事態が起きたときに教えてあげられるでしょう?」

「わかった。じゃあ、教えてあげる」


 そんな具合に、リヒャルトは他の選択肢を選んだ場合の筋書きもすべてニナから聞き出した。


 すべてを聞き出し終わったとき、リヒャルトは愕然とした。ニナが結ばれる相手としてシャルルを選んだときの筋書きは、他の筋書きと比べて最も被害が大きかったのだ。王族にまで死者が出るのは、シャルルを選んだ場合だけだ。


 逆にシーニュ王国にとって最も損害が少ないのは、リヒャルトを選んだ場合の筋書きだ。ただしその場合、オスタリア王国に被害が出る。リヒャルトの婚約が解消となるからだ。

 リヒャルトには、対外的にはまだ公表していないが婚約者がいる。オスタリア国内の有力貴族の娘であり、仲も良好だ。少なくとも彼のほうは、良好だと認識している。彼女の親しげな態度がすべて社交辞令ということはないはずだ。たぶん。

 そのような相手の家が、おかしな強制力のせいで醜聞に見舞われて婚約が解消になるのだとすれば、国にとっては決して小さくない打撃となるだろう。何より、リヒャルトの心の痛手が計り知れない。


 けれども、もしかするとそのほうがよかったのかもしれない、とリヒャルトは思うことがある。オスタリア国内のことであれば、いかようにも父王が対処できるはずだから。


 ランベルトと二人でいるときに、リヒャルトがそんなふうにこぼすと、ランベルトは呆れた様子でこう言った。


「何を甘いこと言ってんの。自国にとっての危険性を真っ先に回避するのは当然でしょ」

「でもそのせいで命に危険が及ぶ人がいると思うと……」

「あのね、それはオスタリアだって一緒だから。シーニュのことは、シーニュ王家の責任でしょう。リヒャルトが気に病むべきことじゃない。アントノワ侯爵閣下だって、きっとそうおっしゃるんじゃないかな」


 いずれにせよ、もうリヒャルトはニナからすでに「テンセイシャ仲間」と認定されて、お相手としての候補からは外されているわけで、認定される前の状態には戻れない。だから、できるだけ詳しい情報を聞き出す以外に彼にできることはないのだ。


 リヒャルトは内心ニナを苦手としているようだが、それをおくびにも出すことなく、新しい情報を得てはランベルト経由でアントノワ侯爵家に知らせ続けた。

 アンヌマリーは彼に深く感謝するとともに、心の底から感心した。


「リヒャルトさまには、諜報員の素質がおありだと思います」


 彼女が尊敬に目をきらきらと輝かせてそう褒めると、彼はあまりうれしそうではない、何とも言えない曖昧な笑顔を見せて力なく「ありがとう」と答えた。

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