1-婚約破棄
「婚約を破棄して貰おう、シャーリー公爵令嬢。」
婚約者の涼やかな声は驚くほど良く響いた。
私と王太子の学院卒業祝いを兼ね、王家が宮殿で開いた豪華絢爛な社交界。
普段と異なり、我が国の上流貴族殆どが招かれた今夜のパーティー。
一流楽団の演奏を聴きつつ、人々は互いに洗練された趣味や贅を競い、最近の噂話に花を咲かせるーー予定であった。
「なぜ、とお伺いしても宜しゅう御座いますか。」
ミルクブラウンの髪を僅かに揺らし、会場の雰囲気をぶち壊した爆弾発言を受け、当の本人であるシャーリー・リンデンシールド公爵令嬢は、すぐにその理由を求めた。
☆
『ばっ、、何考えてるのよッ!!こンの馬鹿王太子ッ!!!』
思わず口から飛び出そうになった言葉を気力と立場で抑えつけた私は、目の前で偉そうに踏ん反り返っている婚約者、もとい馬鹿王子を睨みつけた。
「なぜ、とお伺いしても宜しゅうございますか。」
一応、なんでこんな事をしたのか聞いておいて損は無いだろう。
国賓も多く招かれたこの社交界で、何を考えたらこんな真似が出来るのかサッパリ理解出来ない。
幼い頃から婚約者として、両親に何度か引き合わされてきたが、今ほど頭が悪いと感じた事は初めてである。
というか、こんなにアホでは無かった。
むしろ賢く、聡明であった。
私はそんな彼の事をとても尊敬していた。
共に庭園を散歩したり、一緒に書斎の本を読んだり、、
今思い出しても、幸せな時間であった。
なのに何故、こうなってしまったのだろう。




