8話 男性陣side
スノウリリィがリーシャを連れて行って屋敷の男性陣は一気に静かになった。
辺境の女性陣は肝っ玉が大きく気持ちも体も立派な人が多い。
まれに王都や他所からグレーデン辺境騎士団の騎士と婚約予定の令嬢が来るが田舎過ぎることと、危険区域であること、住民の大きな声、騎士たちの体格に驚いてほとんどの場合逃げ帰ってしまう。
もちろん平均的な一般の女性も居るが彼女たちは辺境生まれで環境に慣れているだけで、外部の貴族女性がこの地に馴染むのは難しいようだ。
王家から1月ほど前に突然の婚姻の命令が届き、その意味と役割を知らされてはいた。保護をするだけでも良いのではとは思ったが、中々嫁を貰わない辺境伯に対してのお節介も兼ねているのかも知れない。
だが王国の標準よりかなり体格の良いジュリアスの嫁としてやってきたのは辺境基準の子供サイズより少し下の小さな少女だ。
辺境基準では10歳いかないのではないかというくらいの痩せぎすで色白な女の子なのだ。
王都から送られてきたのは、日焼けして走り回る元気いっぱいのプクプクした幼児を見慣れている男たちにとって、子供と女性は大切な宝だと思っている辺境の騎士にとって、あり得ないほどの庇護欲をそそる子供であった。
そして痩せすぎではあるものの、大層可愛い人形のような女の子だ。
特に夫となるジュリアスにとって大変動揺する問題があった。
「結婚したら閨を共にしないと女性に屈辱を与えてしまうのだろう?どうしたらいいんだ?ロジャー」
ロジャーは少し眉を顰めてジュリアスの眉間を弾く。
「今手を出したら逆に犯罪者だ。周りも無茶なことだと理解するだろう」
「だよな⁉」
ジュリアスはホッとしたが、
「栄養失調が解消したら徐々に体が変わってくるだろう。背はあまり伸びないかも知れないが体力が変わってくる。それまでは心の安定を大事に、まず信頼を得るんだな」
と言われてしまう。
「信頼・・・」
見た目が幼いとは言えど、16歳の貴族の女性にどう接したものかと困惑する28歳。
「あの子は暴力はないとは言え、放置という虐待を受けていたのだろう?愛情を与えられることに慣れてない。とにかく自身が愛される存在であると認識させることが大事だ。心と体の成長はリンクしている」
啜り泣きが聞こえて、ロジャーが横を見るとルドガーが歯を食いしばって涙を流している。
「あんなに可愛い子を愛さないなんてのぅ。体が成長出来ないほど食べられん状況に置くなど信じられん。ワシはいっぱい可愛がるぞ!ジュリアス!泣かせたら承知せんからの!」
「当たり前だ!」
何かが燃え滾ってる二人に対してロジャーは、相変わらず暑苦しいものだと思うのだった。
「ともかく結婚式をするまでは婚約期間のようにして接しよう」
「いやお前の存在に慣れてもらうには部屋は一緒の方がいいだろう」
二人でいろいろ言い合っているが、おそらく何を決めてもスノウリリィが最終的に決めるだろうなぁと思うすっかり壁になっていた騎士と侍女たちなのであった。




