11話 ジュリアスさまはちゃんとお話を聞いてくれる良い旦那さまのようです。
「・・だ・ぃじょ・ぶ・・・」
「ーー心配し・なぃ・・ょ」
「・・・ぁ・」
眩い光の中で、何も見えないけれど女の子の声がする。
暖かい。
女の子の姿を見つけて、彼女の手を取りたいけど届かないの。
ふぅと息を吐いて目を開けるとはじめて見る天井。大きなベッドに木のぬくもりを感じるウッド調のシックなデザインのお部屋。
「リーシャ、起こしたか?」
ジュリアスさまがベッドの端に腰を掛ける。サイドテーブルでお仕事をしてたっぽい。
「リーシャは体が弱ってるから疲れやすいみたいだな。王都からの移動で疲れたところにうちの親に付き合うのはしんどかったな」
頭を優しくなでてくれる。
「リーシャは16歳の立派な成人だからきちんと話し合いをしていこうと思っている。まずは体の回復が一番だから食事や散歩が良いと思うんだが何がしたい?」
「ジュリアスさまは私が料理するのは怒りますか?いろんな薬草や木の実で試したいことがあるんです!」
フンスっと鼻息荒くなっちゃった。この世界の料理の味付けが微妙だからもう少し美味しく食べられるようにしたいのだもの。
「食にこだわるのは良い事だ。いろいろやってみて欲しいよ」
「野原で薬草採取したり森林で木を見たいんです。とにかくいろんな素材を生で見たい。」
ジュリアスさまがニカって笑って、
「湖が見たいとか花畑とかじゃないんだな」
と言う。デートスポット的な?女性らしいおねだりをするって思っていたのかな。それもしたいかも。でもまず食の充実を最優先だよ。
「森林は体力が付かないと連れていけないけど野原くらいならいいだろう。護衛もいる」
護衛付きはちょっと慣れるまで困りそう。そんな暮らしはしてきてないので。
「外を歩くのにズボンがいいのでお古の生地が欲しいです。あと革製のバッグ作りたいので端材が欲しいです!」
いきなり希望をたくさん出してしまった。
ジュリアスさまはニコニコして聞いてくれてるけど大丈夫かな。
「明日仕立て屋が来るから作ってもらったらどうだ?生地も新品でいいんだよ」
「ちょっと使い込んだ生地のが動きやすいです。お試しに作って大丈夫そうでしたら作ってもらいましょう」
私が楽しそうにしているとジュリアスさまがまた膝抱っこしてきた!
「リーシャはこの結婚どう思ってる?嫌かい?」
「嫌じゃないです、ありがたいしジュリアスさまは優しいし、でも迷惑かけてそうで申し訳ないの」
本音で話そう。これから先の人生を一緒に過ごすだろう相手に対して猫を被ることはしたくない。絶対に自分の首を絞めちゃう。
「まぁ体格が良すぎる俺と小さな君ではいろいろ問題がある。そこは追々一緒に解決していこう。リーシャには錬金術や魔法具、魔法陣の資質があるようだけどなぜ親は君にそれをさせなかった?その才能は一族の繁栄に貢献できうるものだ」
そうなんだ?
「私は目立ってはいけなかった・・・父の怒りを買わないように、義姉より秀でてはいけない。あとは亡くなった母が父に能力を知らせてはいけないと言ってました」
リーシャの記憶の中を必死に探る。
母は父とはほとんど関わっていなかったし、母の仕事道具や実家からだという荷物は全部隠し部屋に入れていた。
父もほとんど義母たちのところに入り浸っていたと思うから、母に興味が無かった気がする。
母が亡くなる前・・・8歳までは母にいろいろ教わっていて父のことはたまに帰ってきてはイライラをブツけてくる嫌な人くらいの認識だった。
リーシャの中では父がなぜああだったのかわからない。ただ母と似たリーシャを受け入れたくはなかったんだろうなってなんとなく思う。
ジュリアスさまは少し考え込んでから、
「家はそこそこ繁栄してるからリーシャは作りたいもの、やりたいこと、試したいこと好きにやって、家のことややりたくないことはやらなくていいからな」
頭をぽんぽんしてくれた。男前か。
「ジュリアスさま、こんな小さい嫁が来ちゃって大丈夫でしたか?」
私に嫌かって聞いてくれたから逆に質問。
辺境伯で騎士でマッチョでモテそうなのにいきなり幼女趣味とか騒がれそうな嫁を押し付けられて困っているでしょ。
「うーん、まず俺が結婚してないのは貴族だからそれなりの家格の娘でないと王家から許可が出ないということ。見合い話があってもここが辺境でなかなか相手が来てくれない。夜会とかで相手が気に入ってくれてもここを見に来てそのまま帰るってことがあってな。無理に来てもらってもやっていけないだろう」
ここは田舎らしいけど、街もあるし景色もいい感じなのにお貴族さまのご令嬢は無理なんだ。
「まぁ弟たちや従兄弟たちもいるから何かあっても後は継いでもらえるし結婚はできるならそれもいいかってくらいだったんだ」
苦笑してるジュリアスさま、めんどくさくなっちゃったんだね!
でもセリウスさまもクラウスさまも独身!!
「だから、可愛いお嫁さんが来てくれて嬉しい。君はここが嫌じゃないみたいだし、あの両親のことも受け入れてくれてる。最高のお嫁さんだ」
お膝の上でむっちゃ甘やかしてくれるワイルドイケメン。耳のそばで良い声でお話してくれて超恥ずかしい!
「ちゃんとした関係はまだ先だけど婚約期間が無かったからゆっくりお互いを知っていこうな」
何もかもカッコいい!なんかスマート!!
そうして私は筋肉腕枕で大きな手をお腹に添えられて温かな夜を過ごしましたとさ。
って寝れるかー!って思ったものの、この体が睡眠を欲していたのでドキドキしながら寝落ちした。




