28.謁見
両脇に立っていた近衛騎士たちがハルト様を見て、礼をして扉を開けてくれる。
中にはヨハン公爵と金髪の男性、そして黒髪の女性がいた。
「あぁ、着いたか。フェリシー、こっちにおいで」
「はい」
呼ばれたのでヨハン公爵のもとへと向かうが、
ここが謁見室だということに気がついて顔がこわばる。
どうしよう。謁見室ということは、
この男性はアロイス国王陛下で女性は王妃のコレット様に違いない。
慌てて臣下の礼の姿勢を取ると楽にするように言われる。
「そんなに硬くならなくても大丈夫だ。君がフェリシーだな?」
「はい。ラポワリー家の長女フェリシーと申します」
「よく来てくれた、フェリシー。今、書類を用意させているところだ。
事情は聞いている。ヨハンの娘になることを認めよう。
コレットもそれで問題はないな?」
金髪に緑目。ヨハン公爵と色はそっくりだけど、顔立ちは違っていた。
全体的に身体が大きくて、目は細い一重でひげをはやしている。
強面に見えるけれど、コレット様に向かって問いかける声は優しい。
「ええ、ハルトから話は聞いていたわ。
フェリシー、よく頑張ったわね。でも、もう無理しなくていいのよ。
ヨハンとハルトに甘えてしまえばいいわ」
「あ、ありがとうございます」
豊かな黒髪をまとめあげ、青い耳飾りと首飾りをつけたコレット様は、
ハルト様に似た笑い方で優しくなぐさめてくれる。
賢妃とも呼ばれ、陛下と共にこの国を治めていると言われているコレット様。
王宮にいるだけでも緊張するのに、国王陛下と王妃様と話すなんて。
気を抜いたら、ひざの力まで抜けてしまいそうだ。
「あぁ、書類が届いたな。ヨハン、確認してくれ」
文官が一人書類を持ってくると、陛下はヨハン公爵に確認するように言う。
公爵は書類をざっと見て署名をし、私へと差し出した。
「署名は二度。ここへはラポワリーの名で。
その下は新しい名前だ。フェリシー・アルヴィエ」
「フェリシー・アルヴィエですか?」
「ああ。ヨハンは公爵でもあるし、王族でもある。
だが、フェリシーは家名が必要だろう。アルヴィエ公爵家の長女になるんだ」
そういえば、ヨハン公爵は王族だから名前しか名乗らない。
公爵家の名前を聞くことは少ないが、アルヴィエ公爵領を賜っている。
緊張しながら間違えないように二度、署名をする。
フェリシー・ラポワリー。この名前を書くのはこれが最後。
そして、新しい名前。フェリシー・アルヴィエ。これが私の名前……
「おめでとう、ヨハン。これで家族ができたな」
「ああ、兄上。フェリシー、これからは父と呼んでくれるか?」
「はい。お義父様。これからよろしくお願いします」
これからはヨハン公爵が私のお父様になる。
初めてお義父様と呼んだら、優しく微笑まれてくすぐったい気持ちになる。
「どうだ、うらやましいだろう?兄上には娘がいないからな」
「うらやましいが、うちも来年にはアルバンが結婚する。
そうすればシャルロットが娘になる。
あぁ、フェリシー、シャルロットとも仲良くしてくれな?
王太子妃になるシャルロットを支えてあげて欲しい」
「は、はい。私にできることでしたら」
シャルロット様を支える?一度も社交界に出たことが無い私が?
たしかに臣下の中で一番身分の高いヨハン公爵の娘になったということは、
公爵令嬢のローゼリア様よりも身分が高くなってしまった。
どうしよう……私にそんなことができるだろうか。
「父上、急にそんなことを言ってフェリシーを困らせないでくれ。
フェリシー。慣れるまでは無理しなくていい」
「あぁ、そうだな。私が悪かった。
ゆっくりでいいからな」
困った顔をしていたのか、ハルト様が助け舟を出してくれる。
それに対して、申し訳なさそうに陛下もゆっくりでいいと言ってくれる。
少なくとも、私がヨハン公爵の娘になることは反対されていない。
そのことに感謝して、できるかぎりのことはしよう。
「ありがとうございます。この御恩を返せるように精一杯」
陛下とコレット様、そしてお義父様にお礼を言おうとしたら、
渋い顔をしたお義父様に止められた。
「いや、恩とかは必要ない。
むしろこちらは謝らせてほしいくらいなんだ。
ずっと、つらい思いをしていただろう。もっと早くに迎えに行けばよかった。
昨年のラポワリー領地の収穫量は一昨年の六割だった」
「え?」
「だから、フェリシーに何かあったんだと思っていた」
ラポワリーの収穫量が減っていた?
昨年はもう領主としての勉強をしていなかったから、領地からの報告も見ていない。
いつも豊作だったラポワリーの収穫が六割にまで減るなんて異常だ。
「フェリシーがラポワリー侯爵の跡継ぎから外されたからだろう」
「そんなことで影響があるんですか?」
「ある。フェリシーは気がついていなかっただろうが、
フェリシーが産まれてからこの国は豊作続きだった。
だから、あの年の神託の儀式で豊穣の加護が見つかるとわかっていた」
神の加護を持つ私が産まれたから豊作になっている?
神託の儀式の前なのに影響があるとは知らなかった。
でも、収穫量が六割まで減ってしまうなんて領民の生活は大丈夫なのだろうか。
「私のせいなのですね……」




