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第8話 動く②

能力の発動と共に、水が出現するのはいつものことだ。しかし、泡が見えたのは初めてだった。連なった泡が彼女の周りを渦巻く。それが、後に俺たちが泡蛇と名付けるものだ。


「何者だ⁉︎」


「何者……って、フククククク、アッハハハハハ!」


腹に手を添えて腰を折り、突然大笑いし始めた目の前の不審者に、俺は気味が悪くて後退る。そして、その間に俺は暴走に近い状態で発動させた能力を安定させた。


少しして、笑いが収まり落ち着きを取り戻した彼女は、涙を指先で拭って口を開く。


「面白いことをいうね、君。そこは普通、"どなたですか?"とか"会ったことありましたっけ?"とかじゃないの?」


「……⁉︎」


(しまった⁉︎)


そう思ったがもう遅い。俺の顔が引き攣るのを感じた。嘘をつくのは苦手だ。


「ま、いいや……それより、どうする?」


「どうするって……」


「知りたくないの? テロ事件の真犯人」


彼女のその言葉を聞いて、俺は目を剥く。ようやく希望が見えた気がした。


(やっぱり、犯人は父さんじゃなかった!)


話を聞く前から、鵜呑みにするべきじゃないことは分かっているが、これでまた一歩進むことができるのだと思うと、そう思わずにはいられなかった。



***



詳しい話を聞きたかった俺は、こじんまりとしている喫茶店にやってきた。中は渋く、新規の客よりも常連客の方が多そうな雰囲気だった。若者が好むようなお洒落なカフェとは程遠い。


「マスター、奥の部屋……借りていい?」


「もちろんです。お好きにどうぞ」


カウンターで几帳面にカップを磨いているマスターと彼女とのやりとりに、彼女もまたここの常連なんだと思った。


「飲み物は、どうされますか?」


「私はいつもの」


「じゃあ、俺はオレンジジュースで……」と注文すれば、横にいた彼女が「ブフッ!」と吹き出して笑った。


「ねぇ、君さ、まだコーヒーも飲めないの?」


「俺がコーヒー飲まないのはおかしいですか?」


「そ、その凛々しい顔でオレンジジュースっていうのが面白いなって……ごめんごめん」


失礼なやつだなと思いながらも、口には出さない。嘘なのか本当なのかはわからないが彼女が何かしら情報をもっているのは確かだ。


(じゃなきゃ、世間で加害者と言われている息子の俺のとこまでこないだろ……)



***



マスターが飲み物を運んできて、ようやく二人きりになった。


「さ、本題へ───」


「ちょっと待て! なぁ、散々人のこと馬鹿にしといて、それはないだろ……」


彼女の側に置かれた飲み物。それは、俺と同じオレンジジュースが置かれていた。


「何が"いつもの"だ! 格好つけやがって」


「女の子はいいの。だって、コーヒー飲むよりは、可愛いでしょ?」


「じゃあ、俺は何が駄目なんだよ……」


「性別。あと、可愛くない見た目、以上」


「そ、れだけ?」


「もういい? 本題入るよ」


(理不尽⁉︎ 差別だ……)







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