第七話 動く①
記憶を取り戻してから俺は、学校の友人とよく遊びにいくようになった。たまに遊ばない日を設けて、その日には超能力を操る練習をしていた。
(この能力は、一体何が出来るんだろ?)
自身の超能力がどういったものなのか把握できずにいた。ただ、能力発動の条件がトランプのジョーカーに触れるとしか。
俺の周囲を水で満たす能力かと思っていたが、誰かがそれで溺れたことはないし、そもそもこの水は相手には見えない。
記憶を取り戻したものの、児童相談所では職員という監視の目があるので、身動きがとれない。情報収集していれば、確実にバレる。だから俺が、今できることと言えばひたすらに超能力を使い熟すことに専念することだった。
***
それからしばらくして、俺は中学へ上がると同時に、子供に恵まれなかった夫婦に引き取られることとなった。
そして、俺は新たな名をその夫婦からもらった。
"高良正人"
この夫婦は、俺の父親が犯罪者であることを知っているようだ。職員が俺の記憶喪失について話しておいたと言っていたから、そうに違いない。つけられた名前だってそうだ。正しい人になりますようにと願いを込めて、と言われた。
何が正しい人だ。犯罪者の息子は犯罪者だってか? 違う……、おまえらは何一つ知らないし知りもしない。メディアにばかり惑わされて全責任を俺の父さんに押しつけやがった。メディアも、父さんを犯罪者扱いした全国民が犯罪者だ。
おまえらのせいで母さんが死んだ。首を吊って。殺したおまえらは自分が犯罪者であることを一切知らない。
「正人くん、今日からここが貴方の部屋よ」
「ありがとうございます!」
でも、俺を引き取ってくれたことは感謝する。これで、職員の監視から逃れられた。個室の部屋も与えられた。そして、スマホも。
今日から俺は動く。父さんの無実の罪を晴らすために、まずは"アメジストクルーズ船自爆テロ事件"が起きた当初の情報収集をしなければ。
***
それから一年経過した。ネットや図書館での情報はしれている。どれもこれも父さんが犯人としか書かれていなかった。
そんなある日のことだ。
「ねぇねぇ、そこの君! 君だってば!」と、肩をがしりと掴まれて振り向かされる。覚えのない声だったので、てっきり俺ではない誰かを呼んでいるのだろうとそのまま歩いていたのだが、呼ばれていたのは、どうやら俺だったらしい。
「俺、ですか?」
その顔を見てもやはり覚えがない。見た目同年代くらいの女の子だが、やはり知らなかった。その女の子は、茶髪で長い髪を胸まで伸ばしていた。
彼女は、俺の耳に顔を近づけて内緒話をするような小さな声で、驚くべきことを言った。
「ね、アメジストクルーズ船自爆テロ事件の犯人……知りたくない?」
俺は、鳥肌が立ち、ズボンのポケットに入れたトランプのジョーカーをいつのまにか握りしめていた。ほぼ暴走に近い状態で超能力を発動させていた。
(な、んだ……これ?)
超能力の性質は、いまだにわからない。だが、この現象は初めて目にした。
彼女の周りに、連なった泡が渦巻いている。




