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第四話 忘却の彼方②

「あれ? ここは……」


目覚めれば、見慣れぬ白い天井。どこだろうと思い、起き上がるが知らない場所だった。キョロキョロ見渡してみれば、寝ていたベッドの後ろに、ナースコールがあった。


(病院?)


誰に聞いたらいいかわからなくて、取り敢えずナースコールを押した。


数分も経たないうちに、コンコンコンと三度のノックの後に看護師と医者が入ってきた。


「こんにちは、医者の中島といいます。お名前、教えてくれるかな?」


そう中島という医者が、俺の目線に合わせてしゃがんで聞いてくる。


「俺の名前は───……名前?」


(俺の名前って……あれ?)


「俺の名前って、何? 俺は誰……?」


診断は、記憶喪失だった。俺は自宅で意識を失っているところを救急車に運ばれて来たらしい。


検査の結果的に脳にも異常はなかったし、ショックによる記憶喪失だと言われた。そのショックの原因となった出来事は、皆、口を濁して誰も教えてはくれなかった。


ただ唯一、教えてくれたのは柊木(ひいらぎ) 正義(まさよし)という名前だけだった。家族のことすらも、俺は知らぬまま病室で過ごした。


そんなある日のこと、首から名札を下げたどこかの職員が二人、俺の元を訪ねてきた。


「きみが……正義(まさよし)くんかい?」


「はい、そうですけど」


俺は、退院したらてっきり家族のいる家に戻ると思っていたのに、俺は児童相談所で預かられることになっていた。俺の意見は、一切として聞き入れられなかった。


「なんで⁉︎ 俺の母さんは? 父さんは? 何で家に帰れないんだよ‼︎ 俺には家があるんだろ⁉︎」


「ごめんね。でも、これはきみのためなんだ。それに……厳しいことをいうようだが……」と溜め込んで、視線を忙しなく彷徨わせると、向かい合うように、職員が俺を見てくる。そして、俺の両肩をがしりと掴んで、きゅっと結んだ口を開いた。


「きみの……お母さんもお父さんも………もう、この世には……いないんだ」


「え……?」


頭が真っ白になる。


(もういない? お母さんもお父さんも?)


「ううううう嘘だ‼︎」


ここの医者も看護師も、この職員も誰も何も話してくれやしない。俺に隠してばかりのこいつらの言葉を、どう信じろっていうんだよ⁉︎


「ふざけんな‼︎ 何も教えてくれないくせに、終いには死んだだって? その言葉だけ信じろって? 子供だからって馬鹿にするなよ‼︎」


どうしたらいいかわからなくて、誰も味方がいなくて、俺は目の前の職員に当たり散らすことだけしかできなかった。自分の無力さに涙が溢れてくる。


(俺は……どうしたら、いいんだ)


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