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第三話 忘却の彼方①

一ヶ月、二ヶ月……相変わらず懲りもせず、マスコミたちは家に押し寄せてくるし、カーテンも開けられない。学校でのいじめも減らない。


それでも、俺たちは父さんが犯人でないと信じていたし、そのうちこの騒ぎも収まるだろうと思っていた。しかし、それからいつまで経ってもニュースの放送内容も変わらないし、マスコミもやってくるし、加害者扱いしてくる。


次第に母さんは食欲を無くし、痩せ細っていった。ひもじい生活をしているわけではなかったが、母さんは一日一日生きていくのが精一杯という感じで、目の下には大きな隈とその周辺の泣き跡が目立った。


母さんは家のこと以外は、椅子に座ってぼぉっとしている時間が段々と増えていった。


心配になった俺たちは、「大丈夫?」とそう聞いても、口癖か、自分に言い聞かせるかのように「大丈夫よ、大丈夫……」と言うばかりで、本音を言おうとはしなかった。そんな母さんを見て、大人になったら母さんを守れたのに、と叶いもしないことを願い、思った。


そんなある日のことだ。


学校からいつものように家に帰って、「ただいまー」と勇希(ゆうき)とふたりで玄関からリビングの方へ呼びかけるが、「お帰りなさい」の声が返ってこなかった。


「母さん?」


「お母さん? 買い物?」


買い物はこの間、済ませていたはず。何か買い忘れてまた買い物に行ったのだろうかと思いながら、リビングへ俺たちは向かった。


リビングへ足を踏み入れると、まず視界に飛び込んできたのは母さんの浮いた両足だった。俺はそれを見て首を傾げながら、人間は浮くはずないのにと、そこから辿るように視線を徐々に持ち上げたところで、「うわああぁああ⁉︎」と言う俺の背後にいた勇希(ゆうき)の叫び声に驚いてバッと勢いよく振り向いた。


勇希(ゆうき)は腰を抜かしたようで、尻餅をついて口をはくはくさせながら震えていた。瞳孔は見開いたままで、前を見ていた。


勇希(ゆうき)⁉︎ どうしたんだ⁉︎」


俺は勇希(ゆうき)が心配になって駆け寄る。すると、勇希(ゆうき)が人差し指で前をさした。


勇希(ゆうき)の指差す方向を見てみれば、先程俺が見ようとしていたその先だったようで、そこには────


「母、さん?」


そう、母さんがいた。俺たちの母さんが───。母さんは首に白いロープを巻きつけて、目を開けたままの状態でぶら下がっていた。


刑事ドラマでよく見たワンシーン。


「母、さ……ん」


俺は声を震わせながら母さんに駆け寄った。そして、母さんの手を握った。冷たかった。既に人の体温はなく、血の通った肌はなく真っ白になっていた。


「ぁ……ぁ、ゔぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


俺のまるで狂ったかのような声が、リビングに響き渡った。

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