第七十二話 事件解決の裏側7
スーツ姿のお面の男が手を挙げ合図する。
「じゃ、あとは宜しくね~」
男が服部に背を向け退出すると、男の背後にいた数人が姿を現した。皆、退出した男と同様、お面を付けており顔は見えない。
「いいい、嫌だ‼︎ 何なんだよ! く、来るなあ゛ぁあぁああ!」
服部は足をジタバタさせ、手首の拘束具をガシャガシャ鳴らす。そんなことはお構いなしにお面の二人は服部の真横両側に立って体幹を抑えつけ、もう一人は服部の背後に立ち頭部を固定すると服部の口にタオルを押し込んだ。
「う゛ん゛ん゛⁉︎」
白衣を纏ったお面の人物が医療用ステンレスプレートに入った注射器を手に取ると、無言でそれを服部の頸動脈に刺した。すると、服部の限界までに剥いた目は、ショックによるものか、ゆっくりと閉ざされた。服部が意識を飛ばしたと確認したお面の者達は、服部を抑えつけていた手を緩め離した。
「あれ? 随分と静かになったなって思ったら……あちゃぁ、ひょっとして、寝ちゃったの?」
すると、先ほど退出した男が戻って部屋に入る。
「どうやら、ショックが大きかったようで……」
「まぁ、仕方がないね。とりあえず、薬が切れないように投与は続けておいてね。目を覚ましてすぐ、騒がれたら面倒くさいしさ。目覚めて安定していたら、呼びにきてね。士郎君」
「わかりました。課長」
透は礼をした士郎の肩をぽんと叩いて退出した。
十五分ほど経過し、服部は目を開けた。その目は虚ろで、もはや人など映しておらず廃人を彷彿とさせた。先ほどとは異なり、叫び声も抵抗もせずじっとしていた。
「名前は?」
お面を付けた士郎が服部に問うた。
「服部……和毅……」
ゆっくりではあるが正確に服部は応える。それを確認した士郎は、透を呼びに行った。透は再度入室すると、すでに用意されていたパイプ椅子に腰掛け口を開く。
「さて、君に質問だ。君は人を殺したことがあるかな?」
「は、い」
「誰を殺した?」
「妻、を殺し、まし、た……」
透と士郎を含めた集団が行っていたのは、自白剤を用いた事情聴取──違法捜査だった。事情聴取は二時間にも及んだ。
「最後の質問だ。君は⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎を知っているかい?」
「いいえ……」
「はぁ、コイツもはずれ、か」
やれやれと透が額に手を当てて首を横に振った。
「じゃ、もう聞きたいことはないから、いつも通り後処理しておいてね~」
「「「了解です」」」
それから程なくして、新人である高良正人を含めた捜査が開始され、服部和毅が逮捕された。服部が逮捕されてすぐ、刑事部の刑事総務課長である上善忠彦の元に、慌てて息を切らした部下が尋ねてきた。
「課長! 服部の頸部と上腕部に注射器の跡を発見致しました!」
上善はその報告に舌打ちをし、苛立ちを露わにした。
「またか……。能力者事件がある度に、これだ。全く、アイツは何してんだ……」




