第七十話 事件解決の裏側5
追跡装置で路地裏を覗くが、誰もいなかった。そこの先は抜け道となっており、細く複雑な迷路のようだ。課長と服部はこの奥へと姿を消したのか、どこか建物内に入ってしまったのか。それとも、服部の能力だったのか。
追跡装置が特定されぬように、路地裏まで入っていかなかったのが仇となったようだ。椿は内心舌打ちをついた。だが、いまは悔やんでいる暇などない、あとにしようと素早く切り替え、追跡装置を操作する。
「一体、どこまで行くノダ?」
困惑した表情で椿は呟くが、目を泳がせることなく平静を取り繕い、前の画面に集中する。
追跡装置のズーム機能を使用し、なるべく遠くから黒塗りのセンチュリーを追う。課長と服部の行方は気になるものの、椿は優先順位を士郎に切り替えた。
追跡からおよそ五十分が経過した。何かがおかしいと椿は眉を潜める。それもそのはず、追跡対象の車はどこかに止まることもなく、都内をぐるぐるとまわっているだけのようなのだ。それは、人物か場所を探すための行動なのか───?
それからしばらくして、車が建物内に入っていった。廃墟でもなく、工場でもなく、マンションやホテルでもなかった。意外な場所に椿は目を見開く。
「タワー……パーキング………?」
士郎の運転する車が入っていったのは、普通のタワーパーキングだった。
『ジジジジ……ザザザザザーー……』
「そんナ⁉︎」
モニターが灰色の砂嵐に覆われ、椿が焦って立ち上がる。画面を叩くが、景色を映さない。パソコン画面にはErrorの赤い点滅文字。発信器の赤い点の消滅が確認された。
椿は力が抜け、倒れるように椅子にもたれかかった。
「また、駄目だっタ……」
項垂れた椿の膝を濡らすのは、大粒の涙だった。
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全身黒ずくめで鬼のような黒のお面をつけた高身長の人物が、雑居ビルの屋上に立つ。片手には銃が握られている。
構えて狙いを定める。狙うは鳥の後頭部。パンッとクラッカーのような気の抜けた音が一度空に響く。弾を貫通した鳥は広げた羽を折りたたんで、落ちてゆく。お面の人物はスコープで下を覗き込み、鳥がコンクリートにあるのを確認する。
ふぅーと息を吐いて手の甲で汗を拭う素振りをすると、お面の人物は、携帯電話を取り出した。
「追跡装置、処理完了ッス!」
「有難う。助かるよ」
電話の相手は、透だった。




