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第六十八話 事件解決の裏側3

衝突して潰れ、二つの銃弾が一つになってコンクリート上に落ちて転がり、動きを止めた。


音もなく忍び寄る死神の気配を素早く察知した歩は、反射的に身体が動いて懐の小型機関銃(マシンガン)を手にしていた。頭よりも先に動いたのは身体の方であり、理解は後からついてきた。


歩は目前に佇むその人物の姿を視界にはっきりと捉える。



カラスみたいねぇ。



それが歩の印象であったが、この格好は夜に溶け込みやすいからなのだろうと簡単に分析する。


黒のシューズ、黒のパンツ、黒のパーカー、黒の革手袋に鬼のような黒のお面の人物。片手には銃。性別はおそらく男であろう。一見して細く小柄ではあるが身体つきはよく、女のようなしなやかさはない。


「うちの透課長と、一体どういう関係なのかしらぁ?」


歩が聞いて探ろうとするが返答はなく、男は銃口を歩に向けて構えた。


「話すつもりはないってことなのかし───⁉︎」


歩が言い終わる前に男が引き金をひくが、歩の頭部真横を通り過ぎて銃弾は夜の闇に消えた。歩がすれすれのところで避けたのである。ここは屋上、身体を隠せる場所はほぼない。歩は走って壁に身を寄せた。



まずい、わね。



歩は眉間に皺を寄せ、上がった息を整える。壁に背をあずけ、銃を構える。壁からそろりと顔を出せば。パンパンパンパン!と歩の目の前を銃弾が通り過ぎ、歩は顔面に風を浴びる。覚悟を決めた歩は、お面の男がいるであろう場所に飛び出し、銃弾を避けては構えて撃つのを繰り返す。一体、どれくらいの間それを繰り返していたのだろうか。今のところ、お面の男も歩も無傷だ。しかし、歩が避けられる弾の数は限られている。集中力がどこまでもつか──。早く決着をつけなければと歩は焦る。


歩と男は互いに銃を構えて対峙しながらゆっくりと円を描く。瞬間、椅子取りゲームの音が止んだ時のように二人は中心に向かって走り出す。


銃に適している場面というのは遠隔戦だ。距離を詰められれば、構えにくくなるのは一度でも銃撃戦の経験があれば誰にでもわかることである。


歩は引き金をくるりと回して銃を逆さにすると、軽く跳んでバレルを男の首めがけて腕を真上から振り落とした。


しかし、男は腰を低くし足を広げて支持基定面を確保すると同時に頭部を下げて両腕をクロスし、歩の攻撃を受け止めた。ドスッという鈍い音と共に衝撃でズズッと男の足が下がる。お面のせいで男の表情はわからないが、刹那、呻きが聞こえる。ダメージはあったようだ。


男はダメージが大きかったのかそのまましゃがむように腰を更に低くした。歩がコンクリートに足をつく瞬間、男の蹴りが歩の太腿に一発入った。


「ぐっ────⁉︎」


歩が痛みに顔を歪め唇を噛みしめる。男の足を目で追っていたが空中で避ける(すべ)を歩は知らない。バランスを崩した歩は両足がコンクリートにつくことはなく、派手に転ぶ。


視界が男から外れて灰色のコンクリートを占めたとき、歩は焦る。



しまった───⁉︎



「甘いな、小僧」


そう歩の耳に届き、首にちくりとした痛みを感じたときには遅かった。


「ゔぁ……」


歩は意識を失った。


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