第六十六話 事件解決の裏側1
殺人、傷害といった凶悪犯罪を扱うのが刑事部捜査第一課である。
その刑事部の刑事総務課長である上善忠彦は捜査資料をテーブルに広げて両手をつき、頭を悩ませていた。
「総務課長! 思ったより早く終わりそうですね! って総務課長、どうされましたか?」
ノックもせずに満面の笑みで部屋に入ってきたのは、捜査第一課の部下たちである。そんな部下たちは上善の眉間に皺を寄せた顔を不思議そうに見つめていた。
「どうもおかしい……」
事件が起こってすぐに犯人は逮捕されたが、その犯人の動機がさっぱり見えてこない。動機があるのは服部の方であり、服部は加藤を一方的に嫌っている。手を組むとは到底思えない。それが上善の頭を悩ませていた。
「おかしいのはわかりますけど、実行犯はどう見ても加藤なんですから、証拠もありますし……」
「ん……」
監視カメラ映像や指紋のついた刃物……確かに証拠はあるが、納得のいかない上善は部下に対して不満気に口をへの字にして捜査資料から一向に目を逸らそうとしない。
コンコンコンと三度のノックの後に入ってきたのは、雑務課総務課長の四月一日透だ。
「やぁ! 調子はどうだい?」
四月一日は、笑顔の仮面を貼り付けた顔で友人に話しかけるかのように上善に歩み寄った。
上善は部下に部屋を出るよう指示を出して、室内に上善と四月一日の二人きりになった。
「何の……用だ」
上善は警戒するように眉を吊り上げて問う。
「いやだなぁ~、いつものことってわかってるでしょ? ほら、資料頂戴、忠彦君」
四月一日はおどけてみせると、指を折り曲げして催促した。
上善は、四月一日が嫌いだ。嫌悪感を抱くほどに。四月一日という男は、必ず事件を解決へと導くが、そのやり方があまりにも汚く残虐であるからだ。
だが、捜査第一課ではこの事件は解決できないと踏んでいた。これは、能力者が関わっているのではないかと。
上善は奥歯をぎりりと噛み締めると、テーブルについた両手で拳をつくる。
「クソッ‼︎」
上善の悔しげな声と共に拳がテーブルを打ち付けた。今にも四月一日に噛みつきそうな表情で四月一日を一度睨みつけると、上善は雑にテーブルに広げられた資料を掻き集めて四月一日に渡した。
「ありがとね~」
黒い笑みを上善に向けて背を向けようとする四月一日に上善が飛び蹴りした。
「ぐはッ⁉︎」
「二度と来んな、不愉快だ」
ガチャリと大きな音を立てて、部屋の鍵が閉まった。
顔面に蹴りをくらった四月一日は、廊下の壁に背を預け、顔面にはくっきりと靴跡が残っていた。
「まったく、痛いなぁ~」
ひとりごとのように呟いた四月一日は笑っていた。本当に痛みを感じているかも怪しい。
「さて、と」
四月一日はゆらりと立ち上がると、その場を去った。




