第五十六話 車内にて
───課長に家まで送ってもらっている途中。
俺は課長と二人の車内で真実の目を発動していた。
「そういえば正人くん、服部のことなんだけど実はね、その、取り調べ室で自白してもらおうと思ったんだけど、結構興奮しててね……」
は? え、なん、で?
能力を発動してからまもなく、俺は課長に話しかけられ、顔を運転席へ向けていた。
「三人がかりで暴れる服部を取り押さえてたら」
課長の身体から泡蛇が放出しており、規則的に動いて、心臓部にブラックホールのような渦をつくっている。
「突然身体が縮んで赤ちゃんになってしまったんだよ」
「え……?」
俺の口から零れ落ちた間抜けな声は、タイミングとしては絶妙だった。あと一歩ずれてしまっていれば、課長に違和感を与えることになっていたかもしれないから。
服部が赤ちゃんになったという発言にも驚いていだが、それは二の次の真実だった。
俺が最も驚いていたのは、課長がてだれの能力者だったことに対してだ。
駄目だ、今は弟がいない。
俺がしっかりしないと。
今は、服部の件だ。
俺はそう自分に言い聞かせる。
「赤ちゃん……ですか? それも服部の能力ということでしょうか?」
「いや、そうでもなさそうなんだ。赤ちゃんになってから、ミルクも飲ませているし、おしめもかえているし、夜泣きまでするんだよ」
それじゃあまるで──
「退行化……」
「うん、そのようだね。今回のケースは初めてで、何でこんなことになってるのかさっぱりだよ」




