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第五十四話 情報共有1 ─吐血の原因─

弟の無事を知り、俺は弟の身体をぐわっと覆いかぶさるように抱きしめる。


「よかったぁ~、し──ブフッ⁉︎」


ホッとして、名前を呼ぼうとしたら弟は焦ったように密着させた身体を強引に勢いよく剥がし、そして顔面─主に口へバシッと弟の掌が続く俺の言葉を防いだ。


そのまま、弟は俺の耳に顔を寄せた。


「名前は呼ぶなっつったよなぁ? 心の中でもぜってー呼ぶなよ?」


口から弟の掌が離れたかと思えば、今度は両側の頬骨をギュッと鷲掴みされ、目だけを弟に向ける。


「すまん……つい……」


ようやく弟の手の拘束から解放された。


「ってか呼んでねーよな?」


ギロリと鋭い目つきを向けられる。


「だ、大丈夫だって、呼んでない! 『弟』としか呼んでないって……」


身体の前で両手を振って全力否定した。



どこぞのヤクザだよ、おまえは……。



「今更だけど、それも微妙だけどな? 俺たち一人っ子ってことになってんのに……まぁ、俺も人のこと言えねーか……」


そう言って弟は片手を頭を持っていき後頭部の髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。



"え? おまえも『お兄ちゃん』って呼んでくれてんの?"



とは言わない。俺も日々学習している。


そんなこと言おうものなら、次は何が飛んでくるのかわからないからな。




***



一悶着終えたところで、弟は俺の家の中を弄りはじめた。右手に何か持っている。


「何してんだ?」


「この部屋調べんだよ。アンタ大雑把だし、不安だからな」


そう言って、弟が右手の中に収めたものを摘んで俺に掲げて見せる──盗聴盗撮発見機だ。俺がもってるのと同じやつ。因みに、ヤンドアも弟の家にある。


「俺だってちゃんと調べたのに……信用ねぇなぁ……お兄ちゃん悲しい」


「あ゛ぁ゛⁉︎ 何か言ったか?」


「イエ、ナンデモアリマセン……」


学習したはずなのに、またやってしまった。次こそは気をつけよう。



***



弟が満足し調べ終わったのは三十分後のことだった。それは、俺が調べた時間の倍に相当する。



俺が大雑把すぎるのか、それとも弟が慎重すぎるのか、さっぱりわからない……。



「で、おまえ身体、大丈夫なのか? 途中で共有から置換に切り替えただろ?」


「まぁ、今は大丈夫かな。

俺もあの件で意識なくなってて、目が覚めたらあの日から大分時間が経ってることに気づいてマジで焦った。でも、そん時は別になんともなくて、倦怠感ぐらいだったな。

んで、俺が意識なくなってたってことは、もしかしたらって焦って共有発動したところだっけ? そしたらアンタが目ぇ覚ました後ぐらいに、段々胸の辺りが気持ち悪くなってきて、血ぃ吐いた」


「ハァ⁉︎」


「チッ、うっせーな……一々声でけーんだよ」


「やっぱ能力の使いすぎか?」


弟は不機嫌そうに眉間に皺を寄せたが、俺は気にせず話を続けた。


「それもあると思うけど、俺、ソフィアさんのあの言葉気になってんだよな」 



「「魂の修復」」



「……珍しく頭まわるな」


「ほんと失礼だよな、おまえは……」


「ただ単に、元々、アンタの魂の修復速度が早いってのも考えられるけど、ソフィアさんのあの驚く声を聞くに、通常はあり得ないらしいな。だから、俺が共有してからアンタが回復したことを考えれば」


「共有による作用で、おまえが俺を無意識のうちにに治していたってことか」


「あぁ、そしてその反動で俺がダメージを負うことになったっていうことも可能性として考えられる」






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