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第五十話 兄は弟のために必死になって足らない頭で考える



確か、病棟面会ロビーに通話可能な場所があったはず……。



俺は足早にその場所へ向かったが、既に入院患者が使用していたようだ。


ある意味都合が良かったかもしれない。これで屋上へ行く理由ができたということだ。


俺は階段を駆け上がって屋上へ出た。患者はあまり、屋上へ出ないのかそれとも危ないから出さないようにしているのかはわからなかったが、誰もいなかった。


携帯電話を使って弟に連絡をすることはできない。

だから、俺がいま弟にしてやれることは一つしかない。



携帯電話を使うフリをして、聴覚置換を通じてどうにか弟に伝えることはできないだろうか?



万が一、聞かれてしまって電話の相手が弟だとバレたら不味い。



どうするどうするどうするどうするどうするどうする考えろ考えろ考えろ考えろ!



ふと昔のことを思い出した。毎月定期購入していた月刊ウルフという漫画の巻頭に謎なぞがあったことを──。そして、それをいつも俺よりも先に弟が解いてしまうのは言うまでもない。



で、どうやって文章化するかが問題なんだが。


メモだと残るしなぁ。


できれば身近なものだと暗記しやすいから助かるんだけど、なんかないか?



最初は、「着」か……着払いでいいか。俺、ネットショッピングはクレジットだけど。

で、「新」は「新しい」か? いや、「新宿」の方が文章になりやすそうな気がする。「家」って言うのは気がひけるな、あ、「内村さん」にしよう。大分前に通ってたスポーツジムによく来てたおじさんが内村さんだったような。「来」はそのままにして、「能」は「NO」いきなり英語はおかしいよなぁ〜。あ!「能天気」だ。たまに、俺能天気って言われるし。まぁほぼ弟相手にだけど。「力」はそのままで、「切」は「切れ切れな筋肉」にしよう! 筋肉普段、バキバキとはいうけど切れ切れとは言わないよなぁ。まぁ、筋肉に関連づけると覚えやすいからいいか。


着払いと新宿、どうしようか。そういえば、荷物の受け取りってコンビニでもできるんだっけ?


じゃあ、「着払いじゃなくて新宿のコンビニで受け取り」にしよう。


「内村さんと来い」「能天気」「力」「切れ切れな筋肉」だから、内村さんと合流して来いってさ。能天気な人だけど力があって切れ切れな筋肉なんだよ。


あとは、区切るところを間違えないようにしないとな。



俺は携帯電話のアドレス帳を開いて、自分の電話番号を選択し、携帯電話を耳に近づけてすぐに通話終了ボタンを押した。


どんなに安全そうな場所であっても、気を抜くわけにはいかない。


「もしもし………着払いじゃなくて……新宿のコンビニで受け取り……あと……内村さんと合流して……来……いってさ……能天気な人だけど……力があって……切……れ切れな筋肉なんだよ、わかったな?」



聞こえてるかな? 大丈夫だろうか?



「あー電波悪いかな? 病院だからかな? もう一回だけ言うぞ。着払いじゃなくて……新宿のコンビニで受け取り……あと……内村さんと合流して……来……いってさ……能天気な人だけど……力があって……切……れ切れな筋肉なんだよ、わかったな?」


その後、俺の左耳にがさごそと紙を弄るような音がしたかと思えば、弟の笑い声が聞こえ、消えた。


いま、俺の聴覚に左右差はない。

賢い弟のことだ、俺の言いたいことがしっかり伝わったんだろう。


俺がいま唯一、弟にしてやれること。



"能力切れ"



弟に大きな負担をかけないことだ。


つまり、超能力の解除を示す。


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