第四十二話 ツインソウル ─魂の片割れ─
「そういえバ、服部みたいに自身の肉体を手放す能力者の場合はどうなるんですカ? 肉体の崩壊で死に至ることはないんですカネ?#/$€%」
「超能力者は時として肉体の超越者にもなると私は考えているわ。
人の魂が超能力の開花を原因として進化することによって、肉体もそれに対応して進化しているのだと思うの。だから肉体から魂が離れたとしても直ぐに崩壊することはない。
個人差はあるし、得た能力によって身体にもたらされる変化は様々だと思うし、もちろん変化の無い人もいる。
私は霊能力者で霊視のみで、服部のように魂と肉体を切り離すような能力はない。だから、仮にもし肉体から魂が離れるようなことがあれば、そのまま死に至る可能性だってあるわ。
自分自身を霊視できないから実際どうなのか分かんないけどねー」
「……随分と詳しいんだな」
「そりゃあ、服部の能力と似たような系統の能力を持った人の魂を視ると共通点がありましたからねー」
「共通点?#/$€%」
「さっき、肉体とは魂を閉じ込める檻のことって話したでしょ? 本当にその通りなの。
魂が肉体から離れることがないように蜘蛛の巣状に白い糸が張り巡らされ魂が肉体に固定されているの。でも服部のような能力者の場合、その巣に緩みがある。恐らく直ぐに離れられるようにだと思うわ」
「へぇ~」と理解を示したように彼等は数度頷いた。
「じゃあ後輩が同色の魂を二つ持っていたにも関わらズ、今の今までピンピンしていたのは何故ですカ? この三か月間は至って普通でしたヨ?#/$€%」
「……それが……全くわからないのよ……。元々、そういう体質だったとしか。片割れ……なわけないわよね」
ソフィアの"片割れ"と言ったところからは空気に溶け込むように言葉が消え入ってしまったため、誰も聞き取ることはできなかった。
「やっぱり疲れ知らずの脳き……ん゛ん゛ポジティブ思考だからじゃない?」
またもや脳筋と言いかけた透にメンバーはジト目を向ける。しかし、暗くなりかけた雰囲気を明るくしようと図ったのが僅かながらに透から窺える。
「ソフィア、心理的影響で身体的異常は誤魔化せるものなのか?」
意図を察した士郎が透の言葉に乗っかり悪戯っぽい笑みを浮かべながらソフィアに問う。
緊張から解けたようにふっと息を吐きソフィアは肩の力を抜く。そして、左手を腰に当て楽な姿勢をとると、もう片方の掌を天井へ向け首を横へ振りながら答える。
「よっぽどのアレじゃないと無理ですよー」
「後輩は、アレじゃないから違うナ#/$€%」
正人が同色の魂を二つ持っていたにもかかわらず今まで異常をきたしていなかった理由は、結局、誰にもわからなかった。
しかし、正人の同色の魂、ソフィアには一つ心当たりがあった。それは、ツインレイとツインソウル。それらは、魂の片割れのことである。
ツインレイとは、その人にとって唯一無二の、つまりこの世にたった一人しかいない究極の相手のことであり、惹かれ合うのは必ず男女である。
ツインソウルとは、この世に数十人いるとされている。つまり、この世にたった一人しかいない唯一無二という点ではツインレイとは異なり、また、同性の組み合わせもある。
ツインソウルは究極の相手というよりは自分と似通った他人と言った方が正しいだろう。
ツインレイ、ツインソウルというだけあって、魂は同色である。
ツインレイとツインソウル、それらは元々、一つの魂であったただけに、例えどんな状況であってもまた一つの魂に戻ろうと惹かれ合う。
しかし、魂が互いに惹かれ合うだけで、一つの肉体に取り込まれてしまうということは決してない。
だからこそ、その可能性と思考をソフィアは放棄したのだった。
───ツインソウルは双子に存在しやすいと云われている。
だが、ツインソウルが存在すること自体が稀であり、双子であっても必ずしも存在するというわけではなく非常に似た別々の魂を肉体に宿すことが多い。
しかし、稀であるというだけで可能性が皆無というわけではない。
正人と正人の実の弟がその証明である。
魂が同色であったのは、彼等はツインソウルであったからだ。
正人の肉体に入っていたのは感覚置換で干渉していた弟の魂である。
今まで正人が異常をきたさなかったのは、二つの魂は同色であったものの一方だけ弟自身のものであったこと、そして悪霊のように外部から他人の魂が無理矢理肉体に侵入したというわけではなく、合意の上での干渉だったため拒絶反応が起こらなかったというのが理由だ。更に言えば、弟の超能力の絶妙なコントロールと彼等が兄弟でありまたツインソウルであったことが幸いしたのだろう。
偶然に偶然を重ねた結果、彼等は通常の超能力者たちよりもより最大限に能力を発揮することが可能となった。それは、ある種の才能とも言えよう。
ただ、その分負担が大きいのは致し方ないが──。
しかし、その真実を知る者は今のところ誰一人としていないのだった。




