第四十一話 同色の魂
霊視することができるのは霊能力を持ったソフィアだけであり、ここにはスケールシートもないため、周囲にはソフィアには何が視えているのかさっぱりだった。
「ソフィア君……どうだい?」
正人の顔を凝視し凍りついたように固まったソフィアに透が声をかけた。
「二つあったはずの魂が一つしかなくて、正人くんの魂にヒビが入ってる……」
「元々人間って魂は一つだろ。一つになって良かった……んじゃないか? 二つないと駄目なのか?」
「ヒビって……どういうことぉ?」
理解が追いつかないメンバーが口々に言う。
ソフィアの曇った表情を悟るにあまり良い事ではないことを彼等は察した。
「一般的には魂は一つだけど、複数あってもおかしいってわけじゃないの。魂が複数あることで魂の数だけ才能を開花させる人だっているし、普通に生活だってできてるらしいわ。
でもその場合、魂の色は同色であってはならないの。例えば魂が二つあるとして、一つが青色であればもう一つは赤色。二つとも同色の青ってことが異常になる。正人くんの魂もアイル・トーン・ブルーとパウダー・ブルーの色が混ざり合ったもの。それが以前は二つあったの」
「何故、同色の魂が二つあると異常になるんですカ?#/$€%」
「同色の魂が二つある場合、身体に多大な負担がかかり酷い倦怠感に襲われる等の身体的異常をきたしたり、場合によっては肉体が崩壊し死に至ることもあるわ」
ソフィアが初めて正人を霊視した時、驚愕していたのは魂を二つ持っていたことに対してではなく、同色の魂を二つもっていたことに対してであった。
「今までよく生きてきたな……後輩」
「ええ。でも今まで魂が二つあっても正人くんに何もなかったってことは、今回の事件で服部が正人くんの身体を乗っ取ったことによって、正人くんの二つの魂が一つになろうと同化したのか、もしくは反発した結果片方が追い出されて一つになったことでヒビが入って眠ったままになったのかもしれない」
服部の能力は相手の身体を乗っ取る能力であるが、本来、魂を傷つけることはない。ソフィアが加藤大輔の取り調べを見に行った際に異常がなかったことを確認していた。
よって、今回正人が昏睡状態となったのは元々正人が魂を二つ持っていたことで、服部の能力に触発されてしまったことが原因ではないかとソフィアは考えたのだ。
「魂とは本来人間の生命の原動力となる核のことで、肉体とは魂を閉じ込めるための檻。
肉体が病気や外傷、加齢等で身体機能が大幅に低下した時、肉体が檻としての役目を果たすことが出来ず、魂が外へ解き放たれてしまうことで死に至る。また、逆に肉体に異常はなくても魂が崩壊することで原動力となっていた核がなくなれば死に至るの。だから、今の正人くんの状態が今より酷くなれば後者になるってことねー……」
"死"そのソフィアの言葉が重く彼等にのしかかる。
「じゃあ、ヒビをなんとか……しないと。方法は……あるのか?」
「ヒビを治す方法は自然治癒を待つしかないわ。だって魂は薬では治せないもの」
「そのヒビって……そんなに酷いのぉ?」
「ううん、薄らって感じねー。どんなにヒビが薄くても直ぐに治るものじゃないわ。けれど酷い訳じゃないから普通であれば時間をかければ治ると思うけど」
そのソフィアの言葉に彼等は安堵しほっと息を吐いた。
「そう。なら彼が目を覚ますまで皆んなで見守ろう」
透のその言葉に、彼等は一度ゆっくり頷いたのだった。




