第四十話 正人の魂
「ほら、よくテレビとかで観るでしょ? 幽霊に取り憑かれると身体を乗っ取られるとか身体が怠くなるとかさぁ。正人君って脳き……ん゛ん゛ポジティブ思考だから普段疲れ知らずだけど、今回は初めての事件ってこともあったし、いつも以上に疲労がたたって幽霊に影響されやすかったんじゃないかなぁ~って、ことはないかな?」
「課長、後輩のこと脳筋って言おうとしたナ?#/$€%」
椿は透の誤魔化したのを聞き逃すはずがなかった。
しかし、正人のことを脳筋だと認識しているのは透だけではない。その中に椿自身も含まれていたということも直ぐに指摘できた理由であろう。
「な、んのことかな?」
わざとらしく透はとぼける。
「正人くんが目覚めたら今のこと言ってしまおうかしらぁ?」
ここぞとばかりに歩も参戦した。
「あー聞こえなーい! ああああと、そうだ! 魂が二つっていうのも乗っ取られかけられてたりってことはないかなーなんて。どうかなソフィア君、一回見てくれない?」
わかりやすく大袈裟に掻き消して、ソフィアに助け舟を求める。
「はいはーい、今回だけは流されてあげる」
何もせずただ見守っているるよりは何か彼のために行動していた方が楽だとソフィアは思った。これで何かわかるかもしれないという期待よりも、何か彼のために行動を起こすことで自身の落ち着きを取り戻したいという気持ちの方が優に上回っていたのが窺えた。
眠る正人の正面に仁王立ちする。
正人に意識を集中させれば、『キイィィン!』と耳鳴りのような振動が眼球に響きソフィアに能力の発動を知らせた。直後、薄汚れた染みが浮かび上がるように普段視えない者たちの姿を映し出す。
「え、どういうこと?」
正人の面影を残した顔の女性の霊は相変わらず正人の側にいた。
しかし、驚いたのはそんなことではない。
「何で……魂が一つなの」
アイル・トーン・ブルーとパウダー・ブルーの色が混ざり合った球体、それが正人の魂。
その魂は二つあった筈であるのに今は一つしかなかった。
さらに、
「ヒビが……入ってる……」
ガラス玉のように透き通った正人の魂にはピシリと稲妻状のヒビが入っていた。




