第三十九話 背後の女性
───服部和毅逮捕三日前のリハーサル
チェリーブロッサムプラネタリウムの関係者以外立ち入り禁止の一室には、透、士郎、ソフィア、歩、椿の五人がいた。
部屋にはスケールシートと繋いだパソコンがズラリと並べられており、三百六十度どの方向からも撮影できるようになっている。
正人はリハーサルのため、関係者以外立ち入り禁止の部屋を後にし、プラネタリウムへ向かっていた。
タッタッタッタと正人の足音が小さくなり音が消失したのを確認するとソフィアが口を開く。
「あのーさぁ? ほら、正人くんが入ってきたのってまだ最近じゃん? だから、本人に直接言うのはもうちょっと先がイイなーと思ってて、今回の展開を予想できなかったわけで……」
「もぉ、何訳分かんないこと言ってんのよぉ? 一体、何慌ててんの?」
ソフィアが悪いことを誤魔化すかのように吃り早口で話す様子に他の四人が首を傾げたり顔を顰めたりしている。
「あー、つまりね? スケールシートって霊体やオーブが視えるわけで、今回の事件だけじゃなくて視えるってことは誰にどんな霊が取り憑いているかわかっちゃうってことじゃん?」
「もしかして、正人君とソフィア君が初めて話していたときのアレかい? 魂が二つとかっていう……そのこと?」
「そういえば、そんなこともあったなぁー……」
「まぁ、それはまだ未解決なんだけど、そっちじゃない方なんだけど」
透が回りくどいソフィアに対し核心を突いて話を進めようと試みたがソフィアが話そうとしていた事とはずれていたようだ。
「もぉ~早く言ってよじれったいわねぇ」
「正人くんに取り憑いてる霊がいて、それが……」
「それガ?#/$€%」
「首吊り自殺した女の霊、なんだよねー? 容姿似てるから多分、血縁関係者だと思う」
「「「「え……(#/$€%)」」」」
「正人くんが殺人犯だから取り憑いてるとかじゃなくて、大切な人を見守れずに死んでいった未練のある霊なんだけど、それをどのタイミングで言おうかなー? って、思ってるうちに今ってカンジで、まだ本人に言うのはもっと先にした方がいいかなーってさ」
「ようハ、知らないフリをしろってことですネ?#/$€%」
「そういうこと」
「それってはっきり映るもんか? 今はオーブしかないだろ?」
「亡くなった人の想いの強さによるわね……心霊写真くらい薄ければいいんだけどねー?」
「それはそれで怖いよソフィア君……」
「あ、後輩きたゾ!#/$€%」
プラネタリウムのドアが開いて直ぐ、正人は真上のドームシアターに向かって満面の笑みを浮かべながら両手をぶんぶん音がなりそうなくらいに振っていた。
ソフィアは手に持っていた受令機のスイッチをONに切り替え、「オッケーよ、正人くん。じゃあ、端から端まで歩いたり走ったりしてくれる? 死角がないか確認したいの」と指示を出してからOFFに切り替えた。
正人は両手で丸をつくり、ソフィアの指示に従い行動を開始する。
「あー、これよねぇ?」
「あぁ、俺もそれだと思う」
「うわァ~#/$€%」
「ははは……幽霊なんてはじめて見たよ……」
歩がパソコンの画面を指差して聞けば、やや引き気味で同調する。
ふわふわ漂うオーブの中に一際存在感のある物が一つ。物ではなく紛れもなく人なのだが──。それは、正人が歩こうが走ろうがピッタリくっついている。
「イヤ、コレ隠し通すの無理ですヨ、証拠として出すんですかラ、加工したらだめなやつですヨ……#/$€%」
「録画したやつは後輩にも観てもらうことになるだろうからな、今回の事件が終わってすぐに話すことになるだろうな」
「やっぱりそうなるよねー……」
パソコン越しに終始、正人の走る姿を観ていた透は無言のまま、掌を天井へ向け第二関節を二度曲げ伸ばししソフィアに手招きをすると察したソフィアが透へ受令機を手渡した。
透はそれを受け取りONにする。
「問題ないよ、正人君」
「別の問題はありますけどね……」
透が受令機をOFFにしたことを確認すると、士郎は遠い目をしてそう呟いた。




