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第三十七話 焦り祈る弟

「オイオイオイオイ! マジかよ⁉︎」


慌ただしく寝室を出てリビングのローテブルに置いてある充電したままになった携帯電話を手にとり日付けを、更にテレビをつけて確認する。


そして三日も経過していたという事実を静かに受け止めた。


「嘘だろ……」


無意識に零れ落ちたようなその言葉はテレビの音によって掻き消された。



通りで怠いわけだ……。



徐々に冷静さを取り戻し、意識消失した時を思い出してハッとする。


「兄貴はどうなった⁉︎」



俺は三日で、兄貴は────?



俺が昏睡状態にあったは三日間だったが、兄貴は今昏睡状態にあるのかそれとも既に目覚めているのか──。


俺は台所の冷蔵庫の側に置いてある一.五リットルのスポーツドリンクが入った一ケースをテレビ前のローテブルに置いて一本取り出す。そして、ソファーに腰掛けローテブルの果物籠のバナナを一本千切って頬張り、スポーツドリンクで押し流すと、髪を緩く縛っていたヘアゴムを外して後ろでくくり直した。



兄貴の無事を祈り、俺は心で叫んだ。



『兄貴ッ!』



視界にマッチのような小さな火がぼうっと現れそれが徐々に大きくなり、アラゴン・オレンジの色で塗りつぶす。直後、パンッと弾け飛び視界を占めた火が消失し、能力の発動を知らせる。発動は"代わりたい"という強い意思さえあれば、言葉は何でもかまわない。



クソ────‼︎



服部和毅と対峙し体力を消耗し過ぎたのが原因か発動に時間を費やした。


発動したのは感覚共有。


感覚置換を選択しなかったのは、感覚置換は相手の感覚と自分の感覚を置換するものであり、仮にもし兄貴が昏睡状態であったなら、確実に回復していないにも関わらず、一方的に身体を乗っ取ってしまうからだ。


今も病院にいるとすれば、治療を優先するべきだと俺は考えた。それ優先しなければならないのは重々承知していたが、兄貴の容態を一早く確認し安心したいという気持ちが強くあった。


そのために、一瞬だけ感覚置換で入れ替わって外傷だけでも確認しようと思ったがそうもいかない。


兄貴の怪我や容態等把握できていない状況のままそれを実行してしまえば、病室にいるかもしれない雑務課のメンバーやその他の警視庁職員と鉢合わせした場合に俺自身の存在がバレてしまう可能性があった。


怪我や容態等が芳しくないにも関わらず、兄貴が突然動き出したなら誰だって不自然に思うに違いない。


兄貴以外の警視庁職員を何人か浮かべ共有または置換しようかと一度考えたが、共有と置換の能力は通常された側は気付いてしまうものであることを思い出しやめた。




だから兄貴の身体を感覚共有し、昏睡状態にあるか否かを確認することにしたのだ。



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