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第三十四話 逮捕の裏側17 焦燥、安堵、そして逮捕


「うるせぇ! 黙れ黙れ!」


服部は声を荒げながら、視線を床に彷徨わせ何かを見つけたようにニヤッとした。


弟には服部の考えていることが手に取るようにわかっていた。




写真か───。




直後、服部が正人に背を向け走った。


「おい! 待て!」


服部が逃走を試みたと思い、焦った正人は無意識に弟の思考を呑みこみ、服部を追いかける。


弟も焦っていたからこそ、あっさりと正人に呑まれてしまった。別の意味で──。



一日に二回も弾き飛ばした場合って吐血だけで済むのか──?



服部和毅の能力の正体は、写真に写る人物に触れることで霊体化した状態で対象の側まで瞬間移動し身体を乗っ取ることの出来る能力だった。フィルムに向かって走る服部を目前にし、弟は確信した。


服部が床に手を伸ばす。手の先にあるのは、春樹の姿をした正人が写る一枚のフィルム。


フィルムに指先が触れるその瞬間、





バンバン!





プラネタリウムに響くのは、

 




───銃声。






銃弾が射抜いたのは、服部が手を伸ばしていた春樹の姿をした正人の写る一枚のフィルム。それは、見事にフィルムに写る正人の頭部を撃ち抜いていた。


「な!」



残念だなぁ? 



射抜いた人物が解説席に潜む歩であることを即座に理解し、弟は内心にやりとする。


フィルムを取ることに夢中になっていた服部には銃弾がどこから来たのか全くわからない様子で、口をハクハクさせていた。


その表情は服部の斜め後方少し離れた距離に佇む正人からよく見えていた。


服部は恐る恐るといった様子でじりじりと振り返り後方の正人を見た。


正人がゆったりとした足取りで服部との距離を詰めていく。

 

無言で感情のない正人の顔に服部は恐怖したのだろう、服部は足をガクガクと震わせ、膝を両手をつき、額を床についた。


「な、なんでもする。なんでもするから──か、金か? 金いくらかかっても準備するから、このことは黙っててくれ! 見逃してくれ! 俺、おれを殺さないでくれ! 頼む!」


先程、フィルムに手を伸ばした服部が正人に背を向けた状態だったことが幸いした。正人が銃を持っていると勘違いしたのである。銃弾は別の方向からであったのに──。正人が銃など持っていないことは一目瞭然であったが、服部はもはや正常に判断する思考は持ち合わせていなかったようだ。


それを今の服部の言葉で弟は悟った。


「認めるんだな?」


汗と涙でぐしょぐしょになった服部が顔を上げ、目の前まで来ていた正人の顔を見上げ、正人の足に縋り付いた。


「あぁ! 俺が加藤を殺した。俺が加藤の体を乗っ取って殺したんだ。なぁ、頼む警察には言わないでくれ!」


「自白、して下さって有り難う御座います」


正人がセールスマンのような笑みを浮かべる。この口調は弟のものだ。


「……は?」


服部は言われた意味が分からず、唖然とする。


正人はキャップを取り、頭部を剥がした。


「な、お、まえ、は!」


驚きで尻餅をついて後退し、服部が声を震わせた。

 

「四日ぶりですね、服部和毅さん」


「ぐあっ!」


能力の使えない訓練を受けていない服部はただ正人にされるがまま床にねじ伏せられる。


「十六日午後二十時三十分。現行犯で逮捕します」


その言葉とともにガチャリと服部の両手首に手錠がかけられた。


「は?」


服部が一瞬何が起こったのかわからず、思考を放棄したように呆然とした。

しかし、服部が状況を理解するのにそう時間はかからなかった。



「だ、騙したな! 俺を騙したのか! クソ、クソーーー‼︎ う゛あ゛ーーーーーー‼︎」




その叫び声には、悲しみ、悔しさ、絶望が入り混じっていた。


服部は捻じ伏せられたまま、大粒の涙を流し床を濡らした。



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