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第三十一話 逮捕の裏側14 命懸けの証拠集め


"証拠がない以上、追い詰めて能力を使わせる他ないからな"


正人は事前に士郎からそう聞かされていたので、わかっていた。他のメンバーも今回の煽り役の危険性は十分理解していたからこそ、乗っ取られた時のことを考え正人に一切の武器を所持させず、イトメラにより服部の私物を確認し武器を所持していないことを何度も確認していた。


効果があるかどうかは不明であったが、服部と対峙する直前に正人はソフィアと椿が共同開発した"弾き札"を持たされた。弾き札は、霊に取り憑かれた瞬間に霊魂を弾き出すものである。



"能力を目に見えるものにし、証拠としてカメラに収める"



現時点でそれは達成しているものの、正人の言葉に煽られ霊体化した服部が素直に自身の身体へ戻る可能性は零に等しい。


肉体を手放し、霊体化した服部は重力をもろともせず、座席を次々とすり抜けていく。


身体能力が高く、いくら正人が接近戦に長けていても、肉体という重りを抱え更に重力に逆らいながら座席を飛び越え服部から逃げ続けるのは困難を極めた。


服部は驚異的な速さで正人との距離を詰めていく。


正人の能力である真実の目は、超能力の有無を見定めるものであり、また超能力者の力の流れを目視することの出来る能力であるが、その能力は戦闘能力には一切影響を及ぼすことはない。ソフィアの霊能力と同様、視えるだけである。


つまり、正人には視えていても対処できる力までは持ち合わせていなかった。


「─────クソ!」


喉から絞り出したような悔しげな声は弟のものである。冷静さをかいたその言動は計算されたものだ。



"服部に追い詰められ、身体が乗っ取られるまでの瞬間を確実なものとするための演出"



そのための演技を弟が実行したのだ。


乗っ取られることに対しての恐怖心が一ミリもないといえば嘘になるが、今やるべきことがはっきりしているのならばそれを全うするべきだと二つの思考は割り切っていた。


正人自身の思い切りの良さが窮地の場面で難なく発揮されたのは、正人自身の思考だけではなく正人が弟と呼ぶ思考が支えとなっていたことも理由の一つとしてあるのだろう。


『避けて────‼︎』


ソフィアの声と同時に、シュルッと正人の後頭部から服部の手が入り込む。



「────ッ⁉︎」



侵食されていくような気持ち悪さに息が詰まり、走る足が減速し、やがて停止した。


片手に持った茶封筒がガサリと音を立て床に落ちた。


弾き札の効果が発揮されることはなかった。






しかし、正人の瞳に絶望の色はない。






彼はひとりではない。


彼等は二人で一つなのだから───。




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