第二十五話 逮捕の裏側8 対峙
現在十九時四十八分。
「正人君、服部が建物内に入ったよ」
左耳に付けた受令機から課長の声が聞こえた。
正人は真っ暗なプラネタリウムの中、一つ深呼吸をし、解説席に近づいた。
「頑張りなさいよぉ! 私はここにいるからぁ」
解説席に潜む歩さんの小声に正人は「はい」と安心した声をこぼした。
ガタン───。
プラネタリウムの重い扉の開く音がした方に正人が視線を動かす。
いよいよ来たな……。
ゴクリと喉を鳴らす。
頭脳戦は得意じゃないってのに……。
まぁそっちの分野はおまえに任せるからな? 俺は知らん。
正人は怪訝な顔で内心悪態を吐くが、それが彼の思い浮かべる人物に伝わっているかは正人自身はわからない。
暗闇に順応した正人の瞳が服部と思われる人物のシルエットを捉えた。
シルエットの人物は携帯に搭載されているライトで辺りを照らしながら恐る恐る足を進めていた。シルエットが中央に設置してある投影機に差し掛かったところで、正人は解説席付近の壁に設置してある一つのボタンを押した。
瞬間、バンッという音とともに黒いシルエットに色が付き、人物を映し出した。
その姿を確認した正人は服部であることに安堵する。
服部の立つ場所のみにスポットライトが当たり、服部が驚きでビクリと身体を震わせていた。
正人は解説席を離れてプラネタリウムの中央に向かい歩みを進める。
光の輪を潜り、正人は服部の前に立つ。
「お、おまえは……」
服部和毅は引きつった声を出しながら数歩後退り、正人から距離をとる。
マジで頼むぞ? 兄ちゃん頭脳戦は専門外だ。
正人はシリコンマスク内に冷や汗を一筋流した。
「服部和毅……だよな? 初めまして、俺は殺人犯に仕立てあげられた加藤大輔の弟、加藤春樹だ」
正人の話し方は、本来の彼らしさを失っていた。
まるで何かに取り憑かれたかのように。




