第十一話 服部和毅の動向1
加藤が妻を殺して一週間程経った。
俺は変わらずパソコンと向き合って仕事をしている。目障りな加藤がいなくなってくれたおかげで、仕事がしやすい。
妻もいなくなったから、今は恋人の愛理と堂々と過ごせている。
流石に妻の死体が転がっていた家で寝んのは気味が悪いし、というか自宅は警察の立ち入り禁止テープが張られているから、今は愛理の家で寝泊まりしている。
邪魔な奴は綺麗さっぱり消えて清々しい気分だ。
「服部さん、警察の方がお見えです」
と女性職員が俺に声をかけてきた。
胸はイイが、顔は愛理かな? とセクハラまがいなことを考えながら、席を立った。
「こんにちは。服部和毅と申します。何かご用でしょうか?」
あ~あ、面倒くせぇなぁ。加藤が犯人でいいじゃねぇーか。まぁ、まだ一週間くらいしか経ってねーし、しゃーねーか。
内心そう悪態を吐きながら、表情には出さず営業スマイルで対応する。
「警視庁特殊捜査官の高良正人と申します。事前連絡も入れず申し訳ありません。今回の事件の裏付けを取るために貴方のパソコンを十分程度お借りできないかと思いまして……すみませんが、ご協力頂けませんでしょうか?」
「いいですよ」
──加藤に殺人犯になってもらうためにな、と続く言葉を心の中で吐いた。
職員の集まる場を離れ、個室に案内しパソコンを手渡した。
「すみません。奥さんを亡くされたばかりでお辛いでしょうに……証拠は揃ってはいるんですが、念のため共犯者がいないかも調べないといけないもので……」
と申し訳なさそうに眉を下げながら若い男──高良が言った。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。妻とは離婚協議中でしたし、仲も冷え切っていましたから思ったよりはダメージないんですよね。それに、警察は疑うのが仕事でしょう」
女取っ替え引っ替えしてたし、逆に円満を装った方が不自然だと思って、妻とは上手く行ってなかったことを前の取り調べでも話していた。
「そうですか、ご協力感謝致します」
高良はパソコンを立ち上げ、USBを差し込んでいた。
「ところで、加藤はどうしてますか? 同僚なので心配で」
そう簡単に話すわけねーよなぁ、と俺は思っていたんだが……
「捜査中で守秘義務もあるのであまり話しちゃいけないんですが、結構憔悴していますね。はじめて人を殺したということもあって、恐らくまだ混乱してるんでしょう。でも、それも時間の問題だと思います。証拠は十分に揃っていますし、加藤が犯人だと確信しています」
「そうですか、残念です。アイツ、凄く真面目で上司からも高く評価されてたのに」
マジかよ、ウケる! やっぱ若いだけあって経験浅いんだなコイツ。守秘義務って分かっててベラベラ喋りやがった。バカだねぇ、おまえの目の前にいるのが本当の殺人犯とも知らずに。
でもコイツがバカで助かったわ。
だって、俺が犯人だって疑われてないってことだよな?
警察が判断したんだ。
"加藤が犯人だと確信してる"って。
「傷が癒えるには時間が解決してくれるのを待つしかないでしょう。大変でしょうが、貴方が立ち直れることを祈っています。気の利いた言葉をかけられなくて申し訳ありません。ご協力、有難う御座いました」
作業が終わり、パソコンを閉じて俺に頭を下げながら返した。
「いえいえ、お気遣い頂き有難う御座います」
───おまえのおかげで安心したよ。
そう述べながら、内心俺はほそく笑み喜んだ。




