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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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185.大公殿下

 さて。

 どたばたぶっこいた翌朝に睡眠不足プラス手首や腕に縄の痕が残ってるタクトとグレンさんを伴って宿舎を出て、更に1日と半分くらい。要するに、翌々日の昼過ぎに俺たちはシノーヨの都に到着した。少し速度が落ちたのは、ムラクモが変に力を入れたんでグレンさんが調子悪かったから、らしい。駄目だろ、それ。

 それはともかくとして、だ。


「ようこそ。シノーヨ公国の都、ギヤへ」


 さすがにあんまり持ち場離れてるわけにもいかないスオウさんの代わりに道案内とタクトの足を買って出てくれたネネさんが、にやりと笑う。コーリマ王都とはまた違った大きな街が、そこにあった。

 シノーヨの国土は、コーリマやユウゼと比べるとちょいと乾燥気味である。だから、自然も森というよりは……あれだ、アフリカのサバンナみたいな感じ。高い木はあまりなくて、低めの木がばらばら生えてる草原ってとこ。ちょっと離れたところには、岩山も見えるんだよな。

 そのサバンナの中に、かなり高い石積みの塀を巡らせた街。塀の中は緑がいっぱいで、だから中には水も大量にあるんだろうなと思った。建物自体は……ここまで木々が少ないとあれなんで、やっぱり石でできてた。ただ、見慣れたような石というよりはもっと白っぽくて、まるで砂の色。


「元々はオアシスっていうか、湧き水の周りに人が住んでいたそうだよ。そこを囲むように塀を作って、都にしたと聞いている」

「ああ、それで内側は緑が多いんですね」


 なるほど。水が最初にあって、人が集まって、街になったと。そりゃまあ、水ないと人間生きてけないもんなあ。

 なお、今の説明は例によって俺を一緒に乗せているカイルさんのものである。……何か開き直る出来事でもあったのか、昨日から馬の上ではしっかり片手で支えられてたり。

 するりと着地した馬の上から降ろしてもらって、大地に立つ。草が多いけど、全体的に乾燥してるようでさくっとした感覚がした。草も水少なくて乾いてんだな。


「うー……まだ痛いぜ、ムラクモ……」

「覗きを止めなかった罰だ。何なら、永久に忘れないようにしてやってもいいぞ?」

「はいすいませんでした」


 ……グレンさんとムラクモ、漫才コンビかお前ら。つーか、まだ痛むんかい。ムラクモのやつ、どういう力の入れ方したんだろう。


「す、すいません……」

「いいんだよ。痛みを知ることも重要さねー」


 タクトはなんでか、ネネさんに肩に担がれて降ろされてやんの。足さすってたから、そっちにも例の痕残ってるんだろうか。服の上からじゃ見えないしなあ。

 で、地面の上に全員が降りて振り返ったところに、男の子がいた。


「やあ」

「や、やあ」


 ひょい、と手を上げてあっかるく挨拶されたので、釣られて同じように手を上げた。って、いや、お前さんいつそこに現れたよ? 目を離して戻したらいた、って感じだぞ。

 というかネネさん、あちゃーって顔しないで。グレンさんもうわあ、って顔しないでくれって。俺やカイルさん、ムラクモとタクトがわけ分からない組らしいんだが、これ誰よ。

 この、赤というよりはピンクに近いショートヘアの、砂漠民族っぽいフード付きのマントつけたタクトより年下に見える男の子は。


『まま、すごいまりょくー』

『はい、すさまじいまりょくをかんじます』

「魔力? ってことは、魔術師?」


 ひょっこり顔を出したタケダくんとソーダくんの言葉に、慌てて男の子を確認する。つまり、転移の魔術でひょいっとやってきたってこと?

 と、伝書蛇を見て何か気がついたのか、その子は俺のところへとことことやってきた。


「おお、あなたが白の魔女様か。ようこそ、ギヤへ」

「あ、は、はあ……」


 あの、いきなり両手で握手されても困るんだけど。まあ、白の魔女ってのはタケダくんで判断したんだろうけれどなあ……つーか、マジ誰。


「大公殿下。いきなり話しかけられても驚くだけだと、何度申し上げれば分かるんですかね」

「ぶー。いいではないか、ちょっとくらい」


 その答えを出してくれたのは、ネネさんだった。彼女の言葉に男の子は、ぷうと頬を膨らませてすねてみせる。

 ……って、えー。


「……大公?」

「マジすか?」

「……噂には聞いたことがあるんだが、さすがに初対面だ……」


 タクトがぽかんとしてるのは分かるし、カイルさんが頭抱えるのも分かる。というか、マジえー。

 俺たちの視線が集中する中、俺の手を放した男の子改め大公さんは、腰に手を当ててえっへんという感じで名乗ってみせた。


「うむ。わしが現在シノーヨ公国を治めておる、クシマ・ヒョウノシンじゃ。ヒョウちゃん、と呼んでね」

「無茶言わんでくださいさすがにそれは無理です!」

「ツッコミ早っ!」


 突っ込んだのは俺で、そこに更に突っ込んだのはタクトである。

 いやだって、そうだろ? クシマさん、とかヒョウノシンさん、ならともかく、いくら何でもちゃん付けは無理だっつーの。

 というか、外見これなのに妙に言動がおっさんくさいけど、もしかしてもしかしてもしかするのかこの大公殿下は。


「えー。でも、アキラっちはヒョウちゃんと良う呼んでくれたもんじゃが」

「アキラっち……あの、もしかしてネコタ・アキラさんですか」

「おお、そうじゃそうじゃ。幼なじみなんじゃよ、あやつ。どうやらまだ存命のようじゃのう」


 かっかっか、と笑った大公殿下に、俺はカイルさんと同じように頭を抱えることにした。

 もしかして、の参考例。そう、ロリババア魔術師にして魔術道具屋店主様のアキラさんである。

 てか、その名前が出てきたってことは、シノーヨの大公殿下はショタジジイだったのか。世の中どうなってんだ、一体。

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