174.門番控室
さすがに脳内えろえろなままのメイドさんをハクヨウさんに押し付けっぱなしにするわけにも行かないので、コクヨウさん辺りにでも交代してもらうようにとカイルさんが部屋から追い出してくれた。部屋出て行く時ホッとした顔してたのは、俺の見間違いじゃないよな。
何てーかこう、精神的にものすごく疲れた。黒の気追っ払ってもさ、脳内どピンクになっちまってたらもう台無しっていうかね。ま、気絶してるせいか今は彼女、穏やかに寝てるんだけど。
とりあえず、そこにあった椅子にへたり込んでると、ムラクモが心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫か? ジョウ」
「……どうにか……さすがに、アレはないわー」
「うむ。もっとしっかり縛るべきだな」
「……」
いや多分そこじゃねえ、と突っ込む気力もなかったりして。つか、ムラクモの縛り方だと1つ間違ったらもぞもぞ自分で動いて勝手にやばい方向に行くんでないの?
『まま、だいじょぶ?』
『じょうさま、しっかりしてください』
「な、なんとか……ありがとな」
それに比べて、膝の上でぱたぱた翼はためかせる伝書蛇たちの和むことよ。あー、もう慣れに慣れまくったな、こいつらには。いや、可愛いし気使ってくれるし可愛いし。……マジで考え方がムラクモに近づいてきた気がする。やべえ。
にしても。
発情した女の子ってどんだけ怖えんだよ、全く。ってか、俺もひとつ間違ったらこうなってたわけか。マジ冗談じゃねえな、黒の過激派連中と……それから、シオン。
なんて事考えてたところで、ものすごーく心配そうに遠目で俺のこと見てるらしいカイルさんと目が合った。まったくもう、この人さっきから気にしすぎだってえの。
「……えーと。カイルさん、俺もう大丈夫ですから」
「あ、そ、そうか。なら良かったんだが」
「カイル様。ジョウが心配なら、ちゃんと口に出しておっしゃってください」
「っ」
何でムラクモにんなこと言われて言葉に詰まるんだか。部下としてこっちが心配だっつーの、このイケメン天然王子め。
そんな感じでついつい睨んでたら、カイルさんは髪を軽くかき回しながらこんなことを言ってきた。
「……その、悪いな、ジョウ。君にばかり、面倒なことをやらせるはめになってしまって」
「面倒……あー」
そっちか。俺が触らないと、黒の気が抜けないってことだろうな。確かに面倒っつーか、そのせいでもう殴ったり蹴ったりなんて事になってるわけだし。
「なら、ユウゼに帰ったら対策考えてください。俺、いい加減手も足も痛くなってきましたし」
「確かに」
「そうだな」
俺がそう答えたら、ムラクモとカイルさんは顔を見合わせて頷いた。だろだろ? それに、シオンの眼があのままだと今後も被害者山ほど出そうだし、そうしたら俺1人じゃとてもじゃないが間に合わん。その対策、マジで考えてくれ。
「ラセンや、魔術道具屋の店主殿に頼んでみるか」
「お願いします」
というわけで、マジで頼むよカイルさん。ラセンさんもアキラさんも、って俺も協力しないと、かな。
唐突に、扉がノックされた。すぐに開いた向こうから、赤い髪がひょいと飛び出してくる。
「隊長ー。あ、いたいた」
「グレン。どうした?」
「1人、まともそうなのがいました。多分イコンです」
「そうか。すぐ行く」
グレンさんの報告に、カイルさんはすぐに動いて……それから、俺の方を振り返った。ああ、念のため来て欲しいんだな。はいはい。
「確認もありますし、俺も行きます」
「済まない、頼む。ムラクモはここで待機」
「お任せを。あ、縛り直して構いませんよね?」
「……任せる」
任せるのかよ、カイルさん。まあ、ムラクモだし何とかするだろう。
「こっちっす。門番の待機部屋なんですが、割と綺麗だったんでここに」
グレンさんに案内されてきたのは、城の出入り口に近い小部屋だった。
……あれ、フウキさんに会いに来た時に通ったような。ここからもうちょい奥に行ったところに、確かフウキさんの書斎があったんだよなあ。後で許可が出れば、ソーダくん連れて行ってあげよう。うん。
で、その部屋に入ると奥の隅っこに、黒いローブを着た人がうずくまっていた。ユウゼで何度か会ったことのある黒の過激派とよく似た服装だったんで、思わず身構えたんだけど。
『あれ? くろいけど、こわくない』
『いこんのくにのかたですね。だいじょうぶだとおもいますよ、じょうさま』
「……そ、そっか。大丈夫みたいです」
「分かった」
肩に乗っているタケダくんとソーダくんの言葉に、のろのろと警戒を解く。横のカイルさんをちらっと見たら、剣に手をかけていた。まあ、これが普通の反応、なんだよな。イコンの人には悪いけど。
で、その気配に気がついたのか、ローブの人が顔を上げた。フードの中から見えたのは肌の白い、でもおとなしい感じのお兄さん。カイルさんより年上……ミラノ殿下あたりと同じくらいかな。
「……もしや、白の魔女様、でいらっしゃいますか」
「あ、は、はい」
呼ばれたのが俺のことだとすぐに気がついて、頷いた。タケダくんが肩の上にいるから、それで気がついたんだろうか。
ともかくその人は俺を確認して、安心したように笑った。ああ、割と普通に普通の笑顔だ。マジほっとした。
「よかった……わたくし、イコンより派遣されております特使の、シッコクと申します……」
「シッコクさん、ですね。大丈夫だったんですか」
「はい、どうにか。もとより黒の信者でございます故、黒の魔女の魔眼には耐性がございましたようです」
あ、そういうもんなのか。というか、慣れてるとかそういうことなのかね。シッコクさん、というこの人は元々が黒の神の信者だったから、そっちの魔力には俺たちより慣れてたと。
で、カイルさんが困った顔の割には正面から、質問ぶつけた。
「その……こういう質問をするのは何なんだが、シッコク殿。その……女と交わったり、とかはなかったのか?」
「……数度ほど……使用人の女性たちに求められ応じました。ですが、ほんの僅か理性が残っておりましたようで、生気まで削るには至らなかったようです」
「はあ……」
ああ。シッコクさんはまともでも、周囲の女の人がまともじゃなかったらそうなるか。
……まあ、やることやらなかったら今頃どうなってたか分からなかったかもな。どうにかこうにか正気で生きてただけ、まだマシか。




