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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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116.王都の事情

 地方によって、水の事情はものすごく違う。

 昨夜はそれを話で聞いただけだったけど、さすがにリアルで見せられると違うなあ、と俺は飛んでる馬の背中で思った。もちろん、昨日と同じように鞍の前んとこにしがみつきながらだけどさ。


「うわ、これが王都、ですか?」

「そうだよ、王都コーリマ。湖からその名を取って付けられた、コーリマ王国の都だ」


 いや、確かに湖のそばにあるってムラクモ言ってたけどさ。そばって言うよりは中って言ったほうが正確じゃないか? これ。

 空から見てるから分かるんだけど、湖の岸んとこに大きな島がくっついてるような形になっててさ、そこがまるごと王都。真ん中より少し湖側にどーん、と分かりやすくヨーロッパっぽい感じのお城が建っていて、その周囲にたくさんの建物とその間に広い道が見える。

 王都の島の向こうに小さな島がもうひとつ見えるんだけど、島ひとつ街になっちまってる王都と違ってあっちは綺麗な緑。まあ、王都に続く大通りを除くとココらへんはほとんどが森だったりたまに草原だったりするみたいで、目には優しいなーと思わんでもない。


『まま、あれがみずうみ? おっきなみずたまりー』

「おう、そうだぞタケダくん。あれが湖だ」

「コーリマ湖。王国内では最大、世界でも上位に入るだろう大きな湖、だな」


 わあ、そんなにでかいのか。でもまあ、あれだけでっかけりゃ確かに水の心配は無えわな。




 さすがに王都の直前まで空飛ぶのは禁止されてるそうで、馬はちょっと離れた広めの草原に降りた。さっき下に見えた大通りのすぐ脇で、ある意味空港みたいな使われ方されてるみたいだ。

 燃料補給の代わりに、馬がもしゅもしゅと草食っている。鳥頭でも草食なのは、変わらないんだよね。まあ、葉っぱより実の方が食いやすかったりするらしいけど。

 で、空港ってのはお出迎えや見送りもするところなわけで。


「カイル様! お越しをお待ちしておりました!」


 降りてきたロクロウタとオトマルを目ざとく見つけて、初老くらいのおっさんが駆け寄ってきた。青っぽい髪をオールバックに固め、かちっとした軍服っぽい制服を着ている。背中にマントついてるから偉いさんだな、こりゃ。


「ゲキ隊長? わざわざあなたがお迎えに?」

「何をおっしゃいますやら。カイル様が久々に王都に戻られると聞いてサクラ・ゲキ、黙って待ってはおられませぬ!」


 カイルさんが全力で引いてるっつーのにも構わず、ゲキさんとやらはがしっとカイルさんの両手を握りしめた。分かりやすく知り合いなのは分かるけど、おっさん落ち着け。


「……どちらさま?」

「アオイ副隊長とノゾムの親父さん。王都の警備隊長さんだよ」

「ゲキ殿は昔から、カイル様びいきだったから」


 ハクヨウさんも、ムラクモですら顔ひきつってる。とはいえ、説明されて何か納得したっていうか、うん。

 そうか、それでサクラさんか。髪の色、言われてみればアオイさんたちとよく似てるし。

 というか、警備隊長がいくら目の前とは言え王都離れていいのか。いや、副隊長とかいるんだろうけどさ、なんて考えてるとゲキさんは、にこにことめちゃくちゃ上機嫌に笑いながら言葉を続けてくれた。


「わしで驚かれても困りますな。ほら」

「カイル! ジョウ! 待っていたぞー!」

「わあ!」


 もっと王都離れちゃやばいんじゃないか、って人が来ていた。いやもう、全力で抱きつかれて俺、どう反応していいか分からん。柔らかいおっぱいでもふられるのはラッキーだけど。あとカイルさん、避けたな。

 その人、つまり王姫様ことセージュ殿下は、青メインで要所に白と、あと銀でアクセントつけたドレススタイルであった。その、おとなしくしてりゃ綺麗な姫様な格好でいきなりはっちゃけられても困る。というか、この人こんなキャラだったっけ?


「ハクヨウとムラクモも、久しぶりだな!」

「お久しぶりです殿下。化けの皮ぶん投げてきましたね」

「いやだって、他に人いないし」


 呆れた顔して溜息つくハクヨウさんに、俺からしぶしぶ離れながら王姫様はぶーと頬を膨らませた。あー、つまりこれが王姫様の本性ってことかもしかして。


「……あれ、化けの皮かぶってたんですか」

「王族でそんなもの必要ないのは、カイル様くらいだ」


 ムラクモが、彼女には珍しく迫力に圧倒されながらぶっちゃけた。まあ、確かにカイルさんは裏表ないというか作れなさそうな性格してるけどさ。


「セージュ殿下、一応公の場なのですから態度をわきまえていただけませんか」

「いいではないか、私の弟と友人が来てくれたのだぞ?」

「相手が誰でも、民の目くらい気にしてください……」


 ほら、ゲキさんと一緒に王姫様たしなめてるし。つかゲキさん、結構苦労してるのかな。仕えてる相手、この王姫様だし。

 あ、そのゲキさんがこっち向いた。俺のことを見て、それから目の前にやってきて、ぴしっとかかとを揃える。つい俺も、背筋を伸ばした。


「……カサイ・ラセン殿のお弟子様でございますな? 自分は王都の警備隊長を務めております、サクラ・ゲキであります」

「スメラギ・ジョウです。ラセンさんの弟子としてはまだ半年ほどなんで、あまり気にしないでください。よろしくお願いします」


 名乗られたので、ちゃんと答えて頭を下げる。戻ると、何かゲキさんが目を丸くしてた。あれ、俺変なこと言ったかね。


『げきおじちゃん? よろしくー』


 変なことじゃなくて、変なやつか。白の伝書蛇、タケダくんが楽しそうに翼広げてご挨拶してたらまあ、こっちの人は驚くよな。どがつくレアなわけだし。


「この子は、俺の使い魔のタケダくんです。よろしく、だそうですよ」

「タケダくん、ですか。ようこそ、王都コーリマへ」


 俺が紹介したのでほっとしたのか、ゲキさんはここでやっと、アオイさんによく似たほんわりとした笑顔を見せてくれた。

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