『転生メイドと幼女姫』
「ねーメイ、見て見て! おっきくなったでしょー?」
お風呂でサリアが突然そんなことを言い始めた。
そうそう、サリアももう10才になるんだから身長も充分……と言おうとしたけど、身体をのけぞらせて胸を強調するポーズだから、これはたぶん違う意味でのおっきくなっただ。
第二次性徴が始まったのか、確かに少しばかり胸が膨らみ始めている。母親のスィーズさんもかなり大きいから、きっとサリアも大きくなるだろう。
「そうだね、きっともっと大きくなるよ」
「そうなの? やったー! きっとお野菜をたくさん食べたからだよね!」
そういえば昔そんなこと言ってたなあ……懐かしい。
昔はサリアは野菜が嫌いだったんだけど、私が野菜をたくさん食べたから胸が大きくなったと勘違いして、野菜を食べ始めるようになったのだ。
でも、栄養バランスがよくなったから成長した、というのも少なからずあるかもしれないけど。
「ぐぬぬ……わたくしは全然大きくならないのに……ズルいですわ……」
そんなサリアを羨ましそうに見つめるのはルナ。
ルナは本当に出会った時から体型が変わらず、身長も微妙にしか伸びていない。
小さくてかわいらしいんだけど、本人は胸もお尻も大きくて、引き締まったウェストのいわゆるモデル体型が理想なのだとか。
「ルナお姉さま、私に案があります」
「アーティ、本当?」
「はい。とある本に『胸は揉まれたら大きくなる』と書かれていました。つまり先生……メイに揉んでもらうと良いと思います」
「ぶふっ!?」
思わず吹き出してしまった。
確かに前世ではそういう迷信があったけど、こっちにも同じ迷信があったなんて。
胸の大きさの悩みはどこの世界でも共通の悩みなんだなと思っていたら……。
「おねえさま、どうかわたくしの胸を揉んで大きくしてくださいませ……」
「あ、あの……その後は私のもお願いします、先生……」
「むー……ルナとアーティだけズルい! サリアも揉んでー!」
三者三様の胸が私にじりじりとにじり寄ってくる。
あ、逃げられないなコレ。
みんなが成人するまではそういうことはしないって決めてたけど、正直、こうやって迫られたらちょっと限界かもしれない。
「ほらほらみんな。メイを困らせちゃダメよ?」
三人の後ろで手をパンパンと叩く音がする。
それでみんなが正気に戻ったのか、浴槽におとなしく座り始めた。
「胸は20歳ぐらいまでは成長するから、そう焦っちゃダメよ?」
「ご、ごめんなさいお義母様……わたくし、早くおねえさまのように大きくなりたくて……」
「ふふ、メイなら大きくても小さくても変わらず愛してくれるわよ。そうでしょ?」
「そうですね、私がみんなと結婚したのは、外面だけで決めたわけではないですから」
「それに、揉んだら大きくなるっていうのは迷信よ。だって、本当なら大きい子ばかりになっちゃうでしょ?」
なるほど確かに、とみんなが頷く。
どうやら納得してくれたようで、これなら後からこっそりと頼まれることはないだろう。
「胸が小さくてもおねえさまが愛してくれるなら……安心しましたわ」
「ねーねー、そろそろお風呂出てメイが作ってくれた新しいゲームしよー?」
「ボードゲームですね。昨日の説明でルールは把握しましたので進行は私がしましょう」
「それじゃメイ、サリアたち先にあがるねー」
「あっ、ちゃんと身体は充分に拭いてねー!?」
……行っちゃった。
ホント、まだまだこどもだなぁ。でもそこがかわいいんだけどね。
「ふふふ、毎日あの子たちの相手をするのはなかなか大変でしょう? 教師としての仕事もあるし、身体を壊さないようにね。そんなことになったらあの子たちが悲しんでしまうわ」
「そうですね……ただ、学校は卒業生たちの協力もありますし、初期に比べて仕事量は減っていると思います」
「でも今度、農業とか工業も取り入れようとしてるじゃない? 調整役としても動いてるのだし、もっと他の人を頼ってもいいのよ?」
「助言ありがとうございます、お義母様。いずれ、私がいなくても回るぐらいにしていかないとですね」
「そうよ、今はあなたしかできないことでも、教えてあげればいずれ他の人もできるようになる。そして、それがどんどん広がっていけば、世界はもっと豊かになるでしょうね」
……そうだ、私が元いた世界も、今の世界も、誰かが誰かに教えたことの積み重ねによってできた世界なんだ。
私は転生した身だからこの世界には無いちょっと進んだ知識を持っているけど……それも珍しくない世界になれば、きっと幸せになれる人が増えるはず。
「ありがとうございます、お義母様。やはりお義母様には敵いませんね」
「ふふふ、貴女よりも少しだけ長く生きているからね。さ、そろそろサリアたちがメイを待ちわびてると思うわ。行ってあげなさい」
「はい、それではお先に失礼します」
私はお風呂を出るとバスタオルで身体を拭き、みんなの待っている部屋へと駆け足で進み始めた。
**********
「おねーちゃん遅いー」
「もう2回ほどやってみましたわ」
「結構楽しいですね、このボードゲーム」
部屋に到着するなり、皆から声がかかる。
この短時間で2回かあ……確かに1プレイ短めにしてたけど早いなあ。
「どこか修正が必要そうなところはあった?」
「うーん……このサイコロ? の出る数が偏ってるかもー」
「と言ってもそればかりは運ですわね……わたくしもよく1が連続で出て遅れてしまいましたし」
「それで、一度遅れてしまうと、なかなか前の人を追い越すのが難しいですね」
「なるほどなるほど」
サイコロは手作りだから、出目が偏ってしまうのかも。職人さんにお願いしてみた方がいいのかな。
あと、こういうゲームだと最下位になるとストレス溜まっちゃうこともあるから、逆転要素はあった方がいいかな……?
「サイコロは職人さんにお願いして作ってもらってみるね。追いつけない問題は……どうしたらいいと思う?」
「うーん……」
「最下位になったらサイコロを2回振って、合計の数だけ進めるとかどうですの?」
「それだと、6が2回出たら一気に12も進むから、条件があるといいかもしれませんね」
「前の人と6マス以上離れたら、っていうのはどうー?」
「確かにそれなら離されても希望が持てますわね……」
ふふ、これが三人寄れば文殊の知恵って言うのかな。どんどん意見が出てる。
こうやって改良していって、ある程度完成したら学校の皆にもやってもらおうかな。
「あ、そうだ。メイ先生」
「アーティ、どうしたの?」
「修正と言えば、あの……私の小説も見て欲しいんです」
「サリアとルナちゃんで見たんだけど、メイにも見て欲しいの」
「何せ、おねえさまのための小説ですものね」
そう、今アーティが書いている小説は私を題材としたもの。
転生した異世界人が、とある国の小さいお姫様に気に入られて、仲を深めていく物語。
「じゃあ、ちょっと読ませてもらうね」
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「あー、確かにこういうことあったなあ、懐かしい……」
「私は当時いなかったので、お二人にお話してもらったのを、ちょっと脚色した感じになりますが……」
「いいと思うよ。あまりにも現実的だと物足りないって思う人もいるかもだし」
「ねーねー、おねえちゃん。ここ、ここ」
サリアが数ページめくって指し示すのは、さらわれたお姫様をお姫様のメイドになった異世界人が救出に行く話だった。
「これは確かあの時の…………って、メイドが単身で救出したことになってる……?」
「その方が面白そうだと思いましたの」
「おねえちゃんすごい! って思ってもらいたいのー」
あくまでこのメイドと私は別人なんだけど……ま、いっか。
「それで、このあと結ばれて終わり、と」
「はい、ここまでが一巻の範囲です」
「つまり、二巻も予定しているということ?」
「ええ、次はわたくしがおねえさまと結婚するまでのお話になりますわ!」
「なるほど、その次はアーティちゃんと……」
「それでその……メイ先生。よろしければ、この物語のタイトルを付けて欲しいんです」
タイトルかあ。
名は体を表すって言うし、どうしようかな……。
暫く考え込んだ後、私は口を開く。
転生者のメイドと、小さいお姫様の物語なのだから……。
「……この物語のタイトルはね──」




