とある休日の三人
「ふぁ……ぁぁ……」
朝日の射し込みが顔に当たり、私は目を覚ます。
だいたい6時半ぐらいだろうかと思いながら身体を起こしかけると、両腕が少し重い。
「むにゃむにゃ……」
「おねえさま……」
どうやら、サリアとルナは私の両腕に抱きついたまま寝ていたらしい。
普段は一緒に起きるはずなんだけど、昨日の夜に私の世界の物語を聞かせてあげたので、興奮して少し寝不足なのかも。
「起きて、眠り姫様」
私は二人の手をゆっくりと離すと、まずはサリアの顔に近づく。
そして、眠り姫を起こすように、軽く唇を塞ぐ。
「んっ……? あー……おねえちゃ……」
まだ頭が睡眠モードなのか、目を半開きにしながら私の方を見る。
しかし、ちゃんと起きようとしているのか、目を擦りながら身体を起き上がらせようとしている。
それなら次は、とルナにも同じように口付けをする。
「ふぁ……? お、おねえさまっ……!?」
唇に何が触れたのかすぐに理解したルナは、飛び起きて顔を真っ赤にする。
そして、唇を指で触りながら嬉しそうにほほ笑む。
「幸せですわ……と、そろそろ朝食の時間なんですね」
「そうね、だから着替えて準備をしましょう?」
「はーい……」
サリアはまだ眠いのか、もう一度ベッドに寝転がりそうになる。
そのため、ベッドの淵に座らせて、私がパジャマを脱がして着替えさせてあげることにした。
「……おねえさまに脱がされるの……羨ましいですわ。わたくしも脱がされて……そのままベッドに……」
「ルナ、そういうのは成人まではダメよ?」
「おねえさまが望むなら、わたくしはいつでも大丈夫ですのに……」
ルナは少し不服そうな顔になりながらも、てきぱきと着替え始める。
妄想は激しいけど、基本的にはちゃんとしてる子だからね。
「ところで、その知識はいったいどこから……?」
「もちろん本からですわ! たくさん本を読んで勉強しなさいってお父様に言われましたの」
「そ、そう……」
そういえばこの世界ってゾーニングっていう概念がないのよね。
この世界は平均寿命も短めだし、魔物がいるからいつ命を落とすか分からない。
そんな世界だからこそ、命に関わらないことなら年齢制限をなくしてやりたいことをやってねって感じなのかも。
「さ、着替え終わったのでそろそろ行きましょう」
「はーい」
「今日の朝食は何でしょう? 楽しみですわ」
「ルナちゃんは卵料理が好きなんだよね?」
「ええ、身体にいいとも言いますし……何より色々な料理になるから卵って好きですの」
「そういえば、私の世界でも色々な卵料理があったなあ」
「じゃあ、今度おねーちゃんが作ったの食べたい!」
「わ、わたくしもですわ!」
「はいはい、それじゃ今度料理長さんに相談してみるね」
……そんな平和な会話をしながら、私たちは朝食へと向かったのだった。
**********
「ふむ、ルナも自分だけの魔法が欲しい、と」
「ええ、お義父様の使われる花火は規模が大きくて、わたくしにはまだ使えませんし……」
「ふふ、それならメイがいい知恵を出してくれるんじゃないかしら?」
「そうですね……お時間を頂ければ案を出せると思います」
「ぜひお願いしますわ、おねえさま」
家族で食事中、ルナが自分の魔法が欲しいと言い出した。
どうやら、ルナの結婚式でサリアが使ったダイヤモンドダストが羨ましかったらしい。
確かにあの魔法をあの時に使えたのって、サリアだけだもんね。
……今はお義母様も使えるようになったけど、サリアの前では使わないようにしている。
自分だけ、っていう特別感はサリアにとっても嬉しいだろうしね。
「それにしてもメイの知識は凄いわね。ここまで多彩な魔法を開発するなんて」
知識、というか学校で習ったことの他には日常のこと、気になって自分で調べてみたものが中心はではあるんだけど。
科学は魔法に似ているみたいなそんな言葉があるけど、この世界に来てからはそれを実感することも多々あるなあとは思う。
「ああ、あの花火は他の国でも評判で、まだ儂しか使えないから引っ張りだこでな」
「おかげで我が国は潤ってるのですけどね」
「ははは、確かに間違いない」
魔法というのは基本的に魔物との戦いに使うもので、こういった平和的な利用法は生活に使う魔法……水魔法を飲み水やお風呂に利用するとか……以外ではあまりなかったらしい。
そのため、そういう方向での模索がこの先は進んでいくのではないかと言われている。
「……さて、その新しい魔法というのも気になるが……それはルナが披露してくれるまで待つとしよう」
「ええ、『世界で初めて使った魔法』というのは勲章になりますからね。サリアのダイヤモンドダストみたいに」
「お義父様、お義母様……ありがとうございます」
ルナも結婚してしばらくは二人には遠慮しがちだったけど、最近は仲良く話せるようになっている。
こういうのを見ていると、家族としての距離が縮まったのを感じて嬉しくなってくるな。
**********
「……先生、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたの、アーティちゃん」
「ルナーリア様にお借りした本で少しわからないところがありまして……」
後日、廊下を歩いていると、アーティちゃんに声をかけられる。
ルナがアーティちゃんに貸した本。
……えっちなやつじゃないよね?
パラパラとめくりながら内容を確かめてみたけど、どうやら全年齢の普通の小説のようだ。
……ルナ、疑ってごめんね。
「アーティちゃんはこういう小説が好きなの?」
「はい、こういう物語が書ける人は尊敬します。小説から見た事のない景色や人を想像するのが楽しくて……」
「なるほど……」
そういえばこの世界の小説は本当に文字ばかりで挿絵というものがほとんどない。
マンガとまではいかなくても、少量の絵があればもっと色々と想像がしやすくなるかも。
……と、そんな商機を見出してる場合ではなくって。
「ええと、分からないのはここ? ここはこういうことで……」
「なるほど……ありがとうございます」
「いいのよ、私はアーティちゃんの先生だもの。今のところは、ね」
私がそう言うと、アーティちゃんが顔を赤くする。
そう、アーティちゃんとの結婚も今現在話が進んでいるところなのだ。
「ほ、本当にいいのかな……って、ちょっとまだドキドキしてます」
「大丈夫、サリアもルナもアーティちゃんのことが好きだし、結婚してもうまく行くよ」
「そ、そうですね……ありがとうございます。ちょっと落ち着きました」
アーティちゃんは王女の二人と違って侯爵家だから引け目を感じてるのかな。
二人はもちろん、お義父様やお義母様も気にしないと思うのだけど。
「おねえさまー! そろそろ魔法の時間ですわよー!」
と、そんなことを考えていると、ルナから声がかかる。
新しい魔法を教える準備が整ったと今日の朝食で伝えたから、早く試したいのだろう。
「アーティちゃん、それじゃまたね」
「はい、よろしければまたお願いします、先生」
こうして、私はアーティちゃんと別れてルナの魔法の授業に入るのだった。
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そして、数日後の夜。
「それではわたくしの新しい魔法を披露させて頂きますわ」
「わーっ、ルナちゃんすごーい!」
確かに、教え始めて数日で完全に習得……どころか、アレンジまでしちゃうんだもの。
教えた私すらびっくりしたもん。
「それでは……いきますわ」
ルナはそっと手を前にかざし、意識を集中させる。
すると、五本の指の先から、それぞれ色の違う細長くて短い火が放たれる。
火は時間が経つにつれ、色を変化させながら儚く散っていく。
「ほう、まるで小さな花火のようだな……」
「とても綺麗ですね……」
「うん、いろんな色があってきれーい!」
花火みたいな大きなものは無理でも、小さいものならと思いついたのが線香花火。
手に持ってじーっと眺めるのが好きだったなあ……と思いながらそれを絵にしてルナに教えた。
最初は炎の色が赤以外にあるのがイメージしづらかったせいかなかなかうまくいかなかったけど、炎色反応のことを思い出して、炎色反応が起こるものを探して実際に見せてあげたらすぐにできるようになったのだ。
「ふふ……これがわたくしの魔法、『閃光花火』ですわ」
この世界には線香がないから閃光ってことにしておいたのはここだけの話。
「今はまだこんな小さな花火ですけど……いつか、お義父様のような綺麗な花を、夜空に咲かせてみせますわ!」
「ああ、楽しみにしているぞ」
「ふふふ、長生きしないといけませんわね、あなた」
こうして、ルナも新しい魔法を身につけたのだった。




